第8回『隣のロボット』ーー2050年、ロボットがサッカーワールドカップでチャンピオンになる? 20年目のRoboCupの現在とこれから | 『宇宙兄弟』公式サイト

第8回『隣のロボット』ーー2050年、ロボットがサッカーワールドカップでチャンピオンになる? 20年目のRoboCupの現在とこれから

2016.07.26
text by:編集部コルク
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第8回
2050年、ロボットがサッカーワールドカップでチャンピオンになる? 20年目のRoboCupの現在とこれから
国籍や人種を超えて、世界中からロボットづくりに情熱を燃やすひとたちが集まる競技会”Robocup”。ロボットのサッカー大会です。
「2050年、サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる、自律型ロボットをつくること」を大会の目標に、日本人の研究者によってはじまった競技会は、今年で20回目。
今回の「隣のロボット」は、未来のロボット業界を担う若い才能に、夢のふくらむ4日間の熱い”Robocup 2016″イベントレポートをお届けします!

これまで、フラワー・ロボティクスが開発する家庭用ロボットPatin(パタン)の開発ストーリーをお話してきたが、今回は6月30日から7月3日まで、ドイツ・ライプチヒで開催されたロボット競技会、RoboCup2016のレポートをお届けする。

ーロボットと過ごす熱い4日間:20回目を迎えるロボット競技会RoboCup

RoboCup は、世界各国のロボットエンジニアが参加するロボット競技会である。

日本人を含むロボット研究者がスタートした小さな競技会は、先日20回目の世界大会を終えた。

「2050年までに、サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる、自律型ロボットのチームを作る」ことがRoboCupの目指す夢である。人と対戦して勝てるロボットをつくろうとしているのだ。

RoboCupはサッカーワールドカップと同じく、地区予選を勝ち抜いたチームが世界大会に出場し優勝を目指す。世界大会の開催される場所は毎年変わる。しかもオリンピックのように、開催を希望する都市の立候補制だ。ちなみに、来年、RoboCup2017は、第1回大会が開かれた名古屋で開催される予定である。

もうひとつ、開催地についてユニークな点がある。

サッカー競技と聞いてピンと来た人もいるのでは?

実は、4年に1度、サッカーワールドカップの年には、その開催地でRoboCupも開催するのだ。ワールドカップのチャンピオンチームに勝つという目標を改めて意識する機会でもある。

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ライプチヒ中央駅。街全体でRoboCupを盛り上げる

ーロボットがサッカーを上手になると、世界は便利になる

RoboCupがサッカーという目標を掲げたのは、発起人がサッカー好きだから、というわけではない。

「ロボットにサッカーをさせる」ためには、あらゆる技術が必要で、「ロボットが上手にサッカーをできるようになる」ことにより、ロボット技術自体が進歩するのだ。

たとえば、二足歩行やスムーズにハードウェアを動かす技術。ボールを追いかけ、ゴールに入れるハードウェアとソフトウェアの開発・制御。また、味方や敵の動きを把握し、次の動きを予測するのはデータの取得と処理が鍵になる。

その他にも数多くの要素でロボットはサッカーが上手になる。

つまり、RoboCupで勝つためにはハードウェア、ソフトウェア両方の開発が必要で、参加者が勝利のために開発を進めることで、ロボット技術が高まるのである。そしてその技術は、私たちの身の回りの製品やサービスに活かされる。

大会を重ねるに連れ、サッカー以外の競技も誕生している。

大規模災害へのロボットの応用としてロボカップレスキュー、家庭、職場など身近な環境でのロボットの活用を目指すロボカップ@ホーム、工場でのロボットの動きをシミュレーションするロジスティクスなどだ。

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ガラス張りの会場で競技をおこなう初の試み

技術の進歩にあわせ、競技のルールが年々変化するのも特徴だ。

例えば、競技に使うボールが、ロボットの認識しやすいオレンジ色から、難しいサッカーボール(白黒)になったり、引っ掛かりの少ない地面が人工芝になったりなど、ハードルが高くなっている。

とうとう今年は屋外に近い環境でのチャレンジも始まった。

RoboCupとして、「サッカー・ワールドカップのチャンピオンに勝つ」ロボットチームをつくらなくてはいけないのだから、常に進化を続けなくてはいけないのだ。


毎年恒例、中型リーグ優勝チームとのエキシビジョンマッチ

ーRoboCupはロボット開発者にとっての「ワールドカップ」

RoboCupに出場するためには、論文を提出しなくてはいけないのも大きな特徴だ。そのため、参加者は基本的に世界各国の大学生で、研究室単位で参加している大学も多い。

日本からも、様々な競技に複数の大学が参加し、優勝するなど高い成績をあげている。

国によってRoboCupの知名度・注目度はまだ差があるものの、国費で参加するチームがあったり、各チームが企業や自治体の支援を受けるなど、活動の輪が広がっている。

また、企業の関心も高まりつつある。

RoboCup出場チームであるKiva Systemsは、物流を自動化するシステムを評価され、2012年にAmazonに7億7500万ドルで買収された。更に、今大会ではKiva Systems などから組成されたAmazon Roboticsが「Amazon Picking Challenge」という競技をおこなった。

また、来年以降、ロボカップ@ホームで使われる標準機はトヨタ自動車が手掛けることが決まっている。

大学時代にRoboCupに出場したという人にたまに出会うが、多くはロボットから離れた仕事についている。

今後、RoboCupが青春の思い出から、就職やあるいは起業への道が開かれる場へ変わるのもそう遠くはないのではないだろうか。

テロや国同士の対立など、暗い話題も多いが、ここでは国籍や人種を超えて、同じ目標に向かって切磋琢磨する仲間のフレンドリーでオープンな空気が溢れている。

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競技前に調整中。銀行などでも活躍するNaoを利用して競技をおこなう

ー第3次ロボットブームを追い風に、成長期を迎えたRoboCup

小さな競技会から始まったRoboCupは、競技の数も増えてきたが、参加対象を広げ、小学生から高校生が参加するRoboCup Juniorも同時開催されている。

RoboCup Juniorでは、ロボットサッカー、レスキュー以外にも、ダンスコンテストなど楽しい競技もある。

子どもたちはロボットの開発、大会を通して、普段はできない経験を積むことと、たくさんの国の友達ができる。

長時間の開発や競技での成果はもちろんのこと、英語を使って大人と対等にコミュニケーションをする子どもたちの姿はとても頼もしい。

RoboCupは時代が移り変わる中でも地道に活動を続けてきた。

ロボットがまだ研究対象にとどまっていたり、産業用の活用が中心だった頃からはじまり、第2次ロボットブームやその後の冬眠期間、そして近年、ロボットやAIに再び大きな関心が集まる第3次ロボットブームの到来という、ロボット業界の浮き沈みを経験してきたのである。

最初はロボットがちゃんと動かず、試合を成立させることも精一杯の状況だったというRoboCup。20年の間に幾多の課題を乗り越えてきた。まだまだ大会自体も手作り感があるのだが、競技に出場するロボットと同じく、RoboCup自体も着々と進歩を遂げている。

Amazon Roboticsのように、RoboCupで注目され買収された企業がスポンサーとして戻ってきたり、RoboCup Juniorの参加者が大学生になってRoboCupに出場したり、RoboCup参加者の子供がRoboCup Juniorに参加するなど、20年間毎年開催を続けてきたからこその成果が現れている。

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ダンスコンテストではスター・ウォーズが人気

ーロボットへの期待を改めて感じた4日間

技術革新とものづくりの両面から進化していくプロダクトであるロボットは、新たな産業として大きな可能性を秘めている。

だが産業化のためには情熱を持ち、優れたエンジニアだけでなく、成熟した他業界からもヒト、モノ、カネが流れてくる必要がある。

学生時代からロボットに打ち込んできたエンジニアを抱えるフラワー・ロボティクスとしては、RoboCup出身の優秀なエンジニアが、ロボットを中心に据えた事業にエンジニアとして、あるいは経営者として取り組んでくれることを期待している。

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多くの観客が詰めかけ、声援を送る。ヨーロッパは特にサッカーへの関心が高い

ーロボットの未来を担う若者を応援したい

フラワー・ロボティクスは、ロボカップのGlobal Partnerとして2015年の中国大会からスポンサーとして支援している。

また、Global Partner就任にあわせて、「RoboCup Design Award」という、デザイン性を評価するAwardの創設を提唱した。

小さなベンチャー企業がスポンサーを行おうと決断したのはいくつか理由がある。

そもそものきっかけは、フラワー・ロボティクス代表の松井がRoboCupに出場した経験があるからだ。

その経験は現在の事業にも活かされている。

研究から産業へと転身した開発者である松井が、これからのロボット産業を担う才能をサポートする点に、意義があると考えている。

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ブース出展の他、セミナーも実施。ロボットエンジニアからは他の展示会とは違う切り口で質問が飛んで来る

スポンサーに加えて、デザイン性を評価するRoboCup Design Awardを創設した理由は、

ロボットエンジニアにデザインに対するマインドをもたせ、育てたいという思いからだ。

新しい技術が、ものづくりの会社、そしてそれを使う消費者まで浸透するためには、技術を誰でも使いこなせるようにデザインの力を使い洗練させていくことが重要である。

デザイン思想をもつチームやエンジニアが評価されるような流れが生まれ、デザインによって革新的な技術が社会に普及する流れが促進されることを期待している。

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ホームセンターで買える部材を使って出来上がったレスキューロボット

まだ試験的にはじまったばかりの、小規模なAwardであるが、応募者のマインドはとても高い。

デザインとは見栄えの美しさではなく、使いやすかったり、壊れにくかったり、あるいは壊れた時修理しやすいか、ということを評価している。

あまりに機能やコストを突き詰めデザインを軽視すると、まわりまわって製品のクオリティに跳ね返ってくるのは、これまで15年ロボットをつくってきたフラワー・ロボティクスはよく理解をしているつもりだ。

Design Awardの審査を通じて、改めてデザインの重要性に気づかされた。

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Junior LeagueのDesign Award受賞者。ロボットベンチャーを起業するのが夢の15歳

==次回の予告==

RoboCupではたくさんの若いエンジニアのパワーを感じた。

また、最初はトラブルも多かったRoboCupが、20年続けてきたことで大きな成果を出そうとしていることにも勇気づけられた。

次回は再びPatinの話に戻る。様々な家庭用ロボットが世に出はじめているが、Patinが形になる前、「こんなロボットを作りたい」と思った時に時間を遡ってみたい。

〈著者プロフィール〉
村上美里
熊本県出身。2009年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。市場調査会社(リサーチャー)、広告代理店(マーケティング/プロモーション)、ベンチャーキャピタル(アクセラレーター)を経て2015年1月よりフラワー・ロボティクス株式会社に入社。