＜せりか基金通信レポート＞それでもなんとか製作を進め、TDP-43の凝集が運動神経だけに現れるマウスが数匹生まれました。

＜せりか基金通信レポート＞それでもなんとか製作を進め、TDP-43の凝集が運動神経だけに現れるマウスが数匹生まれました。

2022.01.28

text by：編集部コルク

宇宙兄弟は「せりか基金」を立ち上げます。
シャロンが患って闘っているALS、せりかのお父さんが患って亡くなった病気であるALS。未だに十分な原因解明や根本的治療法がなく、徐々に体の運動機能を失っていく恐怖や、知力、痛み、かゆみ、寒さなどの体の感覚が保たれたまま意志を伝えることができなくなる恐怖、自分の命の意味と闘うALS患者の方の、希望を叶える支援をしたいという想いがあります。せりかの夢の実現を現実のものに。

「第二回せりか基金賞」受賞

福岡大学薬学部免疫・分子治療学研究室准教授
元公益財団法人東京都医学総合研究所認知症・高次脳機能研究分野認知症プロジェクト主席研究員
細川雅人（ほそかわまさと）先生

ALSにはいまのところ有効な治療薬がありませんが、発症の原因遺伝子や原因タンパク質については、わかるようになってきました。
その一つであるTDP-43というタンパク質について、研究をしています。

ALS患者の脊髄神経細胞内には、このTDP-43が異常蓄積します。正常な脊髄の細胞では、TDP-43は細胞内の核の中にあって働きます。ところがALSになると、理由はまだ明らかになっていませんが、細胞質のほうにTDP-43が出てきて、凝集してしまうのです。

これを解消する方法を見つけることが、治療法の確立や治療薬の開発につながると考えられています。その研究を進めるには、TDP-43が凝集する状態を正確に再現できるモデルマウスが必要です。

世界中で色々なタイプのモデルマウスが製作されましたが、なかなかこれ！　というモデルは作出されていません

理由はさまざまありますが、一つには、運動神経にだけTDP-43の凝集を発現させるのが難しいことが挙げられます。病態の忠実なモデルをつくるのが困難なのです。
また、マウスでモデルを作っているので、やはりヒトとは条件・状態が違ってくるという面もあります。
それでもなんとか、私たちなりの方法でマウス製作を進め、先般TDP-43の凝集が運動神経にだけ現れるマウスが数匹生まれました。

これをもとに、モデルマウスの数を増やしていきたいです。基金から助成していただいた資金は、マウスを増やす費用として活用させていただいています。

TDP-43というALSの原因タンパク質が見つかったのは2006年のこと。それから10年以上が経ち、さまざまな角度から研究が進められていますが、このタンパク質に対してどうアプローチすれば治療につながるかは、まだなかなか見えてきません。
ここに資金が投入され、研究する人材も増えれば、進展具合も変わってくるだろうと思います。せりか基金によるサポートを、たいへん心強く感じています。