家電のようにロボットを普及させるため、”めずらしい”や”楽しい”ではなく、”便利なロボット”を目指すPatin。ありふれた日常の生活に溶け込むような、便利なものとして、Patinのサービス・ユニットに採用された機能とは…?
トライアンドエラーを繰り返しながら、一歩ずつ進んでいくロボット開発裏のストーリー。最新話もどうぞお楽しみください☆
日常生活に必要な機能を持ち、それがなかった頃より日々が便利になる。
これは私たちフラワー・ロボティクスが家庭用ロボットの開発で重視しているポイントである。
ここ2,3年は、人型ロボットやコミュニケーションを目的としたロボット、製品が増え、話題を集めていたが、「珍しい」「楽しい」というだけでは使い続ける動機にはなりづらい。
私たちは、テレビや冷蔵庫などの家電のようにロボットが普及するためには、
「ロボットを家庭に入れる理由」
が必要だと考えている。
では、どんなロボットが日々を便利にするのだろうか?
そして、どうやってそれをカタチにしようか?
「便利なロボット」を目指すPatinの、機能を提供する部分、「サービス・ユニット」の開発について2回に渡ってお話したいと思う。
可愛いロボットは3日で飽きる?
ちょうど1年前の今頃、私たちはラスベガスで開催されているCESという展示会に開発中のロボットを出展していた。
CESは、世界各国のメーカーがその年に出す新製品を発表する場である。
かつては電化製品が主力だったものの、最近はドローンやVR、IoTなどこれからのテクノロジー製品の存在感が大きくなっている。
昨年に引き続き、今年もロボット製品が数多く発表されたそうだが、
現地から届けられるニュースの中で、ルンバのような「すでにある家電を自動化する」製品が更に増えてきたという話題を目にした。
Pepperなどコミュニケーションロボットを中心に、ロボットへの親しみが増す中で、
「ロボットを使う目的」がより重視されつつあるのではないかと感じる。
植栽(プランター)のサービス・ユニットを載せたPatin(パタン)
私たちのつくっている家庭用ロボットPatin(パタン)は、本体部分と上に載せるアプリケーションをセットで利用する。
タイヤの付いたPatin本体は自分で考えながら空間を動くことができる。
逆に言えば「動く」以外に目に見えて機能のわかる点は少ない。
スマートフォンを思い浮かべて欲しい。
電話やSNSでコミュニケーションしたり、音楽を聞いたり、ゲームなどアプリケーションで遊んだりすることができるが、本体は機能を利用するための「箱」でしかない。
賢い箱に様々な機能を載せられるから、数年前まで私たちが使っていた「ガラケー」よりも遥かに便利になったのだ。
Patinもスマートフォンと同じで、本体によって与えられる機能は限られている。
「動く」以外に、音楽を鳴らしたり、ユーザーの声に反応したりすることができるが、それはスマートフォンでもできるので驚きは少ないだろう。
そこで、スマートフォンではなく、あえて「動く」ロボットにする意味を持たせるために、
私たちはPatinの上に機能を持ったアプリケーションを載せることにした。
それをサービス・ユニットと呼んでいる。
コンセプト時点のCG。上部に機能を載せた台車のイメージは共通している
最初の「機能提案」は照明と植栽(プランター)
ロボットにしてもらいたいことを、SF的な機能ではなく日常の生活に溶け込むようなもの、あると便利なもの、という視点で考えるとけっこう難しい。
私たちの身の回りには家電など道具が充分揃っているからだ。
少なくとも、高い金額を支払ったり、スペースを取るものを日常生活に追加したいと思うほどのものはあまりない。
これまで、ユーザーインタビューや学校の授業、ワークショップなどを通して様々な「欲しい家庭用ロボット」のアイデアを聞いてきたが、あえてロボットの形にこだわらなくていいだろう、と思うモノが多かった。
私たちがコンセプトビデオで採用したサービス・ユニットは「照明」と「植栽(ITプランター)」である。
それ自体がすでに身の回りにあるので機能が想像できて、動くとより便利に使えるモノだからだ。
ただ、あまりに地に足が着きすぎていて、パッとしないという意見もある。
照明のサービス・ユニットを載せたPatin
「新しい照明」の開発
上の写真はコンセプトビデオの一部だが、この照明のサービス・ユニットはモックアップ(模型)である。植栽も同様に、外観は完成品のようだが実際はただのプラスチックの塊である。
私たちはPatin本体の開発に並行して、サービス・ユニットの開発もおこなっている。
まず着手したのが照明だ。
一般的に、照明器具がどのように開発されるのかはわからないが、私たちは
- デザイン
- 光らせ方
の大きく2工程に分けて開発を進めた。
ごく普通に、オン/オフができるだけでは面白くない。
そこで、音声で操作でき、ユーザーの好みの色を覚えるという、
音声認識と学習システムを取り入れることにした。
通常照明の色は1種類、というイメージがあるが、このサービス・ユニットに使用したLEDはCPUが内蔵されているので、自由に色を変えることができる。
テープ状のLED照明を巻いて実験
最初に開発したタイプは、音声認識をPatin本体が行ない、サービス・ユニットの照明に命令を出して色を変化させる。
ユーザーは自分の声で、オン/オフの他、色の好みをフィードバックすることができ、それを照明のサービス・ユニット自身が学習する仕組みを取り入れた。
割れ続けるカバーにものづくりの大変さを痛感
サービス・ユニットは、私たちが想像しているような機能を提供できるのか、実験・検証の目的で開発をおこなった。
同時に、なかなかイメージの付かない「家庭用ロボット」の機能を、ユーザーや、事業パートナーに具体的に示すという目的もある。
そして私たち自身には「ものづくり」の大変さを実感する機会となった。
「こんなプロダクトにしよう」とデザインし、そこに必要な機能を盛り込もうとするのだが、
その箱と中身の両立が難しい。
デザインはこっちがいいけど、それではセンサーが働かないということがよくある。
植栽の開発では、このデザインイメージとものづくりの間で想定外の時間と費用がかかった。
いちごの苗を育てるITプランター
ドーム状の本体の中にいちごの苗を入れ育てるのだが、このカバーが大問題だった。
まず、思ったような透明な色が出ない。
クリアにするために、カバーを薄くしたらすぐ割れた。
試行錯誤の結果、なんとか完成しお披露目もできたのだが、ほどなくして倒して割ってしまった。
今はカバーを外して剣山のように花を活けるしかない。
ただの皿になってしまった植栽サービス・ユニット
これは機能開発以前に、製品として第一歩も踏み出せない段階である。
見たくない現実に直面することになるが、
やはり、自分たちで「つくってみる」ことは重要なのだというのが日々の気付きである。
<<次回予告>>
私たちが最初につくった2つのサービス・ユニットについて紹介した。
次回は引き続き私たちが開発したサービス・ユニットを紹介すると共に、
実際に「つくってみる」なかで気づいたこと、改良していった点なども紹介したいと思う。
〈著者プロフィール〉
村上美里
熊本県出身。2009年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。市場調査会社(リサーチャー)、広告代理店(マーケティング/プロモーション)、ベンチャーキャピタル(アクセラレーター)を経て2015年1月よりフラワー・ロボティクス株式会社に入社。