宇宙飛行士の円滑な地上業務を支える2人
『JAXAのおかん』の異名をもつ小町ミチコ。頼りがいのある肝っ玉母さんのような強く優しい心根で、宇宙飛行士とその家族をサポートする。
一方、中山美佳は音楽教師や営業職などを経てJAXAに入社した異色の経歴の持ち主。現在7名のJAXA宇宙飛行士たちの円滑な地上業務を支えるため、奮闘の日々を送っている。
【職業:宇宙飛行士のマネージャー】
JAXAの宇宙飛行士・運用管制ユニット宇宙飛行士グループに所属し、宇宙飛行士の業務支援を行っている。現在7名いる宇宙飛行士たちのスケジュール管理、他部署との調整、出張に関する支援(航空券や宿泊手配等)、広報業務(講演やイベント等)の調整・随行、宇宙飛行士の家族の支援など、そのサポート業務は多岐にわたる。
Comic Character
小町ミチコ
「『小さい町』で小町やで、よろしくやでぇー」
【職業】 宇宙飛行士マネージャー
【生年月日】 ?
【出身地】 日本・関西
【略歴】
ヒューストンに滞在するJAXA宇宙飛行士たちの頼れるオカン。ブルースーツを届けたり渡米のアテンドをしたり、スケジュールを伝えたり家探しを手伝ったりと世話をやいてくれる。値下げ交渉などもバリバリ行う。英語ペラペラだが、昔カリフォルニアに住んでいたため、本人曰くカリフォルニア訛りの英語らしい。宇宙飛行士の家族のサポートもこなす。ヒビトが月から帰ってくる際には、南波母に対し話しかけ気分を軽くさせた。今までも同じように緊張する家族の心をほぐしてきたことだろう。小柄だがたくましいは、茄子田理事長談。(宇宙兄弟official Webより)
Real Character
中山美佳
「秘書みたいな仕事ですから。私が彼らの事わからなかったらマズいですから」
【職業】 宇宙飛行士グループ マネージャー
【生年月日】 永遠の28歳
【出身地】 日本・千葉県
【略歴】
?年?月 武蔵野音楽大学を卒業
?年?月 文科省生涯学習局青少年教育課に勤務
?年?月 東京都内小学校にて音楽教諭として勤務
?年?月 某化粧品会社営業所長・メイク講師・セミナー企画運営に携わる
?年?月 日本科学未来館でボランティア活動に従事
?年?月 日本宇宙フォーラムのJAXA情報センターJAXAiの説明員として勤務
2013年4月 JAXA入社。有人宇宙技術部門 宇宙飛行士・運用技術ユニット 宇宙飛行士グループに所属し、宇宙飛行士のサポート業務を担当
花形を支える裏方の仕事の一つに『マネージャー』という存在がある。地上においても過密なスケジュールを日々こなすJAXA宇宙飛行士たちの影には、彼らの円滑な業務をサポートする裏方、中山美佳というマネージャーがいる。
現在7人の宇宙飛行士たちのサポート業務を一手に引き受ける中山。宇宙飛行士グループに所属し、他部署と宇宙飛行士たちの狭間に立ち、ときには飛行士側に立ち、ときには彼らの説得に回る。
「情熱がなければそこまでできない、という事がたくさんある」
中山の宇宙飛行士マネージャーとしての試行錯誤の日々は、『宇宙への憧れ』から一転『仕事の重責』に気付かされた悲喜交々の入社初日から始まった…。
「ビビビビッ!ときてJAXAへ」
●よろしくお願いします
中山「よろしくお願いします。あっ、取材中は携帯切っとかなきゃね(携帯電話の電源を切る)」
●切らなくても大丈夫ですよ。緊急の連絡などあったらあれですし。1時間半もお時間頂いちゃってるんで
中山「1時間半じゃ足りないかもしれない」
●ちょっと伸びても大丈夫ですか?
中山「喋っていいなら私エンドレスでOKですよ。ちなみに別の取材では3時間喋ったので。それなのに、あれだけ喋ったのに、たったの4ページにまとめられてしまって…。4ページのために3時間喋りました私、はい」
●す、すいません。この取材でも、ある程度お話は短めにまとめさせて頂くことになるかもと
中山「了解です。もう何でも聞いて下さい。上司の油井さんにも何でも喋っていいと言われてるので」
●ありがとうございます!まず最初に聞きたかったことで、頂いたプロフィールの年齢の欄に『永遠の28歳』とあるんですが、このミステリアスな表現がずっと気になってまして…
中山「あぁそれね。ぱっと思い付く年齢が28歳なのでいつもそう言っています」
●…年齢って思い付くもんなんでしょうか
中山「28歳というのは私が一生懸命ある目標に向かってがんばっていた時期なんですね。そしてそれが実って、順調に仕事をし始めたのが30代前半くらい」
●なるほど、そうゆう思い入れがあったんですね
中山「それで肝心の『宇宙兄弟』の話ですけどね、読ませてもらってますけど、今やもう凄いロングストーリーになってるじゃないですか?何巻まで出てるんでしたっけ?最初の方の話は忘れちゃってて、今回の取材があるからもう一回読み返そうと思って頑張ったんです」
●頑張って頂いてありがとうございます
中山「ただ頑張ってはみたものの、結局時間切れでね、最初の方だけ…。この漫画、私がJAXAに入社する前から連載始まっていた作品なんですよね。長い!」
●連載スタートしてから10年目に突入しました
中山「JAXAで働き出してから、この漫画がとてもリアルに描かれてるということを改めて実感しましたね。それに単にリアルなだけじゃなくて、オリジナル性を持ったストーリーが展開していくじゃないですか。素晴らしい!」
●好きなキャラクターはいますか?
中山「私、茄子田シゲオ理事長好きなんですよ。あれってどう見ても向井千秋さんのご主人の万起男さんがモデルじゃないですか!」
●あれだけ似ていると、フィクションとリアルが混同しちゃいますよね
1998年、妻である向井千秋さんの2度目の宇宙飛行を見守りにジョンソン宇宙センターに来た夫の向井万起男さん。半被を着たのは野口宇宙飛行士のアイデアだったという。このときの会見で、向井夫婦はお互いを「千秋ちゃん」「万起男ちゃん」と呼んでいることを告白。
中山「それで私、実際に万起男さんにも一度お会いしたことがあって、そのときに『茄子田理事長がいる!』と思っちゃって、一緒に写真撮ってもらったことがあるんですよ(笑)。うん、あれは嬉しかった」
中山「あとは星加さんとか好きですね。私が好きな星加さんの名シーンがあって、宇宙飛行士候補者選抜中の選考会議で、星加さんが不合格にされそうになったムッタを庇ったシーンがあるんですね。ムッタが上司への暴力で前の会社をクビになった事が問題にされて。でも星加さんはわざわざ自分で動いて、ムッタには非がないってことを調べあげるんですよ。それでムッタを改めて推薦するんですけど、ある選考委員が情をはさむなって反対するんです。そしたら星加さんが、情をはさむのがダメだったらパソコンに決めさせればいいと言うわけです。私は彼と仕事がしたいから推薦するんだって、カッコいい台詞を言うわけですよ。あれはインパクトありましたね」
●日頃から宇宙飛行士たちと共に仕事をされている中山さんだからこそ、余計に共感できた星加さんの台詞だったんじゃないですか
中山「ん~(考え込んで)、そうですねぇ、そうかもねぇ。…関係ないけど、暑くないですかこの部屋?」
●すぐ下げます!(慌ててエアコンの設定温度を下げる)
中山「とにかく茄子田理事長も星加さんも、表面は穏やかでユニークな方なんですけども、実は人として奥深くって、人を見抜く力があるじゃないですか。そうゆう上司がいたらいいなって憧れがありますね」
●そうゆう上司が今いないって言ってるわけじゃないですよね(フォロー)
中山「ん~(考え込んで)、そうですねぇ、そうかもねぇ。まぁいることはいるんですけどねぇ。…おっ、なんか涼しくなりましたね」
●良かったです!
中山「とにかくムッタとかヒビトとかの主役級よりも、脇を固める人たちに注目してしまいますね。宇宙業界にいるいろんな立場や役割の人が魅力的に描かれてますからね。愛すべき脇役たちって感じで」
●中山さんと同じ、宇宙飛行士のマネージャーを務める小町ミチコさんという方が出てきますが…
中山「『JAXAのおかん』と言われてるおばさんね」
●実は作者の小山先生は、ジャズピアニストでシンガーの綾戸智恵さんをモデルにして描かれたそうなんです。中山さんもプライベートでピアニストとして音楽活動をされてるんですよね
中山「そう、素敵な偶然なんですそれ!」
●そこで中山さんの経歴なんですが、音大を卒業されてから、文科省生涯学習局に勤務され、そこから音楽教師、そして化粧品の営業の現場など、非常にバラエティーに富んでいると思うんですが、どういった経緯でJAXAに?
中山「もともと私は宇宙や星が好きだったんですね。そこから発展して宇宙開発に興味が繋がっていったんです。それでどんどんノメり込んでいくうちに、日本科学未来館のボランティアしたり、丸の内に昔あったジャクサ・アイ(JAXAの広報施設)のスタッフになったりしたんです。そんな流れの中で、ある日JAXAの職員募集の案内をたまたま見つけたんです。見た瞬間にビビッときて。いや、ビビビビッ!ときて」
●相当強い電気が走ったんですね
中山「見た瞬間、『これは私だ!私のための募集だ!』と本当に思って。それで必要な書類をババババッと揃えて面接して合格したという、そんな流れです」
●急な流れですね
中山「それで勤務地を希望するときに、東京事務所と筑波宇宙センターがあって迷ったんですね。最初は東京事務所の方が自宅から近いからいいかなと思ってた。でもジャクサ・アイで入場者に展示物の説明してたときに、一番の得意分野は宇宙ステーションや宇宙飛行士だったんです。その話をするのが一番好きだった。だから少しでも自分の興味に近いのがいいかなと思って、当時『有人宇宙ミッション本部』があった筑波宇宙センターに希望出したんです。もちろん希望通りになるかわからなかったんですが、契約書が届いたら配属先が『宇宙飛行士運用技術部』(現在の組織名は『宇宙飛行士・運用管制ユニット』)と書いてあって、入社した日に案内された席が『宇宙飛行士グループ』。そんな流れです」
●希望とドンピシャですね!
中山「もうドンピシャ、ど真ん中。呼ばれたな!って思いましたね」
「入社初日の興奮」
●初出勤は緊張したんじゃないですか?
中山「初々しく4月1日に初出勤して、ある部屋に『あなたの席ここです』って案内されて、まだ時間が早かったから部屋には誰もいなくて、ドキドキして待ってたら、私の後ろを通り掛かった人がいて、そのまま窓際に座ったんですよ。荷物を置いてコート脱いで、すぐ私のところに来る気配がして。そしたら『中山さんですか?』って言うから振り向いたら、その顔が野口さんだったんです(笑)」
●ついに憧れの宇宙飛行士が登場ですね!
中山「え!?宇宙飛行士が私の名前呼んでるよって思って(笑)」
●それから続々と他の宇宙飛行士たちも出勤してきて
中山「野口さんだけでしたね。その頃は他の皆さんはヒューストン在勤だったんで。だからその日から上司の野口さんと私の二人三脚で仕事が始まりました。野口さんからはすぐに仕事内容の説明を受けて」
●興奮しますよね、憧れの宇宙飛行士から早速レクチャー受けて
中山「そのときは確かに興奮しましたね。宇宙飛行士の野口さんが私の傍にいて、この私だけに話し掛けてるわけだから」
●僕だったら失礼ながら、話なんか上の空になりますよ
中山「でもね、野口さんの話を聞くにつれて、憧れてましたとか言ってる場合じゃないことに気付いていくわけですよ。『この仕事大変だぞ』って。私は営業の経験は少しありましたけど、どこかの企業で秘書の経験があるわけでもないし、野口さんから業務内容について一通り話を聞いた後に、『本当に自分ができるのか』って相当不安になって。だから最初の頃はもうどうしたらいいかわからない事ばっかりで、ヘコむばっかり」
●せっかく憧れの職場に来たのに、ですか
中山「知ってます?」
●…知りません
中山「落ち込んだときには、私、部屋出て廊下出て、前見て後見て誰もいないなと思ったら、スキップするんです。スキップすると、気持ちがちょっと明るくなるんですよ。だから当時の私、スキップしまくってましたから。もうそれくらい最初は大変だった」
●でも今や、宇宙飛行士のことなら中山さんに聞け!宇宙飛行士に用があるなら中山さんを捕まえろ!みたいな感じですよね
中山「ん~(考え込んで)、そうですねぇ、そうかもねぇ。…まぁ彼らの秘書みたいな仕事ですから。私がわからなかったらマズいですから」
●具体的にどんな感じで仕事をさばくんですか?
中山「そうですね、まぁ『調整』が日々の仕事のメインなんです。まず他部署や外部から何か案件が入ってきますよね、そしたら、①日程を決める。②場所を確認する。③相手の人数を確認する。④飛行士の服装を確認する。⑤移動手段を確保する。⑥内容がどこまで決まっているかをフェーズごとに確認し、本人に伝える。⑦その時点で本人と直接やり取りに切り替えるかを見極める。⑧同じ案件にかかわっている人に共有する。⑨変更に臨機応変に対応する。⑩先方にお願い事項等をお伝えし、それが守られているかを確認する。⑪必要な内部申請などの手続きを進行させる。⑫相手の要求と飛行士の意向が一致しているかを確認する…、などなどざっと挙げると、これらが常に同時に何本も走っています。次から次へと発生して、終わりがないという感じです」
●…聞いてて、ちょっと目の前がクラッとしました。ちなみに、この業務を遂行する上ではどんなことが肝となりますか?
中山「こちらが必要な情報を的確に集めて、まとめて報告することで飛行士の手間が省けることがたくさんありますから、そこは気を付けてますね。ただその分こちらの手間が多くなり、仕事が山のように積まれることもたくさんあるんですけど…」
●その山、高そうですよね
中山「対外的な調整においても、ある程度、周りを上手く整理して御膳立てできていれば、飛行士は苦労することなく業務遂行できるので、そこも心がけています。まぁ事前にどれだけ調整しているか、そこが飛行士にイマイチ伝わらず、残念な思いをすることもありますけどね。…あれ、ちょっと待って、何かネガティブになってる私?」
●いや、そんなことないと思いますけど
中山「まぁその苦い経験もね、今の私にとってはこれからの自分の能力をさらに進化させる肥しになると感じてます、難しい課題の一つですけど」
「宇宙飛行士たちの素顔」
●今は7人の宇宙飛行士たちを全部任されて、大変じゃないですか
中山「そうですね。何せみんな出張や会議や訓練でいろんな所に動くのでね。そのスケジュール管理して、誰がどこでどう動いてるか把握してないといけないですから」
●それぞれコミュニケーションの仕方を変えたりすることはあるんですか?
中山「それはありますね。みんな能力が高くて、何でも自分でこなしちゃう凄い技量の持ち主ということは共通してるけど、個性は違うから。でも付き合い方を変えるということじゃないですよ。私そんな器用じゃありませんから」
●7人の宇宙飛行士を中山さんの印象でそれぞれ一言で表わすとしたら、どうでしょう?
中山「え!?一言?一言で言えないんですけど」
●キーワード的な表現でも構いません。失言があれば、あとでご希望通り修正しますので
中山「そうですね、はい、じゃぁやってみましょうか」
●ありがとうございます。それではまず若田さんからお願いします
ISSプログラムマネージャとして、ISSに到着直後の金井宇宙飛行士と交信する若田さん(ロシア連邦宇宙局宇宙飛行管制センターにて)
中山「…何てゆうのかな、ん~、スーパーマン。スーパーマンですね。何でもできちゃう。そして受けちゃう(爆笑)」
●受けちゃう?
中山「そう。若田さんは断れない人。もう誰とでもすぐ友達になって、何でも『いいですよ』って受けちゃう(笑)。いや、わかるんですよ。例えばどこかで知り合った人に何か依頼されたら、その場では『広報を通して下さいね』と言ってたとしても、若田さんと話した人は『あの若田さんが私の話を聞いてくれた』となって、それに尾ひれはひれ付いて勝手に話が広がって『若田さんがOKしてくれた』となっちゃう展開。でもそのあとがこっちは大変(笑)」
●つまり人がいいんですよね。人柄がいい!だから断れない!(フォロー)
中山「断らないですね(笑)」
●(さらにフォロー)それに誰に対しても丁寧で、常に同じ態度で
中山「そうそう、表裏が無い。それで全部笑顔で受ける(爆笑)」
●(最後のフォロー)若田さんの優しさ故ですよね
中山「そうですね。それに今、日本人の宇宙飛行士と言えば、多くの人がイメージするのは若田さんですから。社会的影響力がありますよね。そしてご自身も見事にそれに応えている」
●それでは野口さんは?
中山「そうですね…、コメディアン系ですね」
●ちょっと意外な表現ですけど
中山「野口さん、言葉に力があるんですよ。喋る言葉も書く文章も本当に要所を突いていて、ここぞというときにその能力を発揮しますね。喋りも文章も切れ味がいい。私はそうゆうとこが好きで、よく『野口節』って言ってるんですけどね。コメディアンの人って、周りの空気や話の流れを読みながら、ここぞというときにトークやリアクションで笑いを取れるじゃないですか。そうゆうセンスを野口さんに感じるんですね。それって頭の回転が相当回ってないとできないでしょ」
●それでコメディアン系という例えなんですね
中山「そう。別に野口さんが仕事中に笑いを取ろうとしているという意味じゃないですよ(笑)」
●個人的には笑いを常に取りにいく宇宙飛行士も見てみたいですけど
中山「ただこの雰囲気でこうゆうこと言えるのは凄い、っていうところが野口さんにありますよね」
●それでは古川さんは?
Credit:JAXA
中山「古川さんは真面目。いい意味でね。…あの、他の飛行士が真面目じゃないと言ってるんじゃないですよ」
●わかっております。みなさん真面目です
中山「古川さんは今、宇宙医学生物学研究グループ長されてるんですけど、その責任を全うしようとする真面目さと厳しさがね、凄い伝わってきますよね。でも近寄りがたいというと全然そうじゃなくて、一緒にいて安心感があるというか。あの柔和な笑顔には誰もが癒されるはずです。恵比須様というか大黒様というか(笑)。やはりコミュニケーションの基本は笑顔だと、思い知らされる方です」
●次は星出さんはいかがでしょう?
中山「星出さんは細かいんですね。…あれ、ちょっと待って、何かネガティブになってる私?違う違う、いい意味でですよ!」
●わかっております。つまり『繊細』ということですよね(フォロー)
中山「そうです!仕事に対する繊細さ、慎重さですね。JAXA職員出身の宇宙飛行士なので、その分いろんなことに気が付いて配慮ができるわけですね。危機管理に関して鋭い。つまりJAXAの職員だったというバックグランドもっているというのは、私たち宇宙飛行士グループにとっては凄く貴重なんです。いろいろ動くときに、そのリスクはどこまで考えたのか、その情報を簡単に公表して大丈夫なのか、こことあそこに、これとあれを確認したのか、とかね。私たちがスルッと見過ごしがちなリスクの管理という面に対して、JAXAを俯瞰的に対外的に広く見て判断できる頼りになる人です。あっ、それと私、『ありがとう』という言葉が好きなんですけど、星出さんが言ってくれるんですよ、『ありがとう』って。本当によく言ってくれるんです。これ、嬉しい。…あの、他の飛行士が言ってくれないと言ってるんじゃないですよ」
●わかっております。それでは油井さんは?
Credit:JAXA
中山「油井さんはね…、何でも楽しそうですね。もう自分で楽しんじゃう人。自分のこれまでの経験やJAXAの事業を、世間の皆さまに聞いてもらいたい、伝えたい、という気持ちが本当に強いんですよね。そうゆう意味では、ある意味、宣伝マンというか。だけどそうゆう気持ちが強いので、どんどん先へ行ってしまう。それで周りから『ちょっと待って油井さん!』と言われるのが油井さんです(笑)」
●元戦闘機のパイロットですから、瞬時に判断してマッハで飛んでいくみたいな
中山「それに近いかも。たぶん油井さんはテストパイロットだったので、いろいろ検証しながら飛行機を飛ばすわけじゃないですか。だから普通に飛んでるパイロット以上にやること多いわけですよ。すると瞬間的な判断力というのが優れてるんだと思うんです。なので、決めるの早い。瞬発力というか、物事を嗅ぎ分ける能力というか、スピード重視。だから宇宙飛行士グループには今、『石橋叩く』係に星出さんがいて、その正反対に油井さんの『突き進む』係がいます(笑)」
●いいバランスですね!それでは大西さんは?
Credit:JAXA
中山「大西さんは、取捨選択がハッキリしてますね。自分の基準がしっかりあって、不必要だと思った事はしっかり切れる。実は切る事って大事なんですよ。大事だけど難しい。やるべきこと、今やらなくていいことをしっかり自分で把握している人。だからこそいろんな仕事を上手にこなしていけるんですね。常に効率化のことを考えてるのかな。でもその反面、例えば何かのイベントに出席するにしても、やると決めたら『ここまでやらないと先方に申し訳ない』とか、とても気遣いしますね。そうゆうところはとっても繊細」
●それではトリは、金井さんで!
Credit:JAXA/NASA
中山「今のところJAXAで最年少の宇宙飛行士ですけど、すっごい確固たる信念を自分の中に持っていますね。筋がある。ビシッとね。ただ私から見ると、そこらへんの表現をどう出していいのか、わからない面があったと思うんですね、最初の頃は。でも今回のミッションが決まってから、どんどん自己表現が上手くなってきた。最年少だけど信念固いです。そこはもう誰も立ち入れない(笑)」
●居合道など武道をたしなんでいらっしゃることも関係してるんですかね?
中山「共通する点があるかもしれませんね。自分の美意識、美学がちゃんとあるんですね。プライベートはわからないですけど、仕事であればその美学というのは、やはり『JAXAの宇宙飛行士としてミッションを成し遂げてくる』という点なので、それ以外のものは大西さんと一緒で綺麗にバッサリ省くんですね。『それは仕事とは関係ないのでできません』と跳ね返されることもある。でもこっちは頼んでないけど、『仕事上これが必要だったら言って下さい』と逆に提案してくることもある」
●ビジネスの格言で、「仕事とは、まずやらなくていい作業を排除すること」みたいな言葉があるくらいですからね。時間と力の配分における「選択と集中」ってことですね
中山「でもね、そこにも金井さんなりの美学の枠がまたあるので。だから私、今、金井さんの美学の枠がどの辺か探ってるところです(笑)」
●いや~、宇宙飛行士と言っても、みなさんそれぞれ違う面があって面白いですね。個性と才能豊かな『七人の侍』ならぬ『七人の宇宙飛行士』!
【宇宙兄弟リアル】が書籍になりました!
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。
<筆者紹介> 岡田茂(オカダ シゲル)
東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。
<連載ロゴ制作> 栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。
過去の「宇宙兄弟リアル」はこちらから!