『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第4章チームの成長とリーダーシップ(2/2) | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第4章チームの成長とリーダーシップ(2/2)

2018.07.06
text by:編集部コルク
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チームワークとは無縁と思われた「ジョーカーズ」のキャプテンに任命されたのは、やたらと温厚なベテラン宇宙飛行士・エディ。一瞬にしてバラバラだったメンバーの意識を変えてしまう、エディの凄腕リーダーシップを分析しながら、チームが目指す最終ステージまでを解説。

“群れ”を”チーム”に変えた、ベテランリーダーの手腕

宇宙飛行士の訓練は、まさに究極のチームビルディング。
チームワークの善し悪しがミッションの遂行や宇宙飛行士の生死にまで直結するの で、当然と言えば当然ですよね。
また、チームにとっての「Why」も、「宇宙に行ってタスクをこなし、全員が無事に帰還する」と明確なので、基本的にブレることがありません。

六太のクルー・ジョーカーズも、さまざまなトラブルや課題を乗り越えながら、成長していきました。あれほどバラバラで嚙み合わないように思えたメンバーの個性も、 チームとして機能するようになると「強み」として発揮されていきます。
そこで、ジョーカーズ結成当時から月面でのミッションまでの経緯を「チームの発達段階」に照らし合わせながら、メンバーがどのような行動を起こし、その結果どのようにチームが発達していったのかを見てみることにしましょう。
まずは、チームが結成されたものの、お互いのことがよくわからない状態である【形成期】から。

◉【形成期】
月面ミッションのバックアップクルー(正規クルーの控えとなるチーム)として結成された、ジョーカーズ。
六太は、アリゾナ州で行われた月面ミッションを想定したキャンプに、同じメンバーであるアンディ、ベティ、カルロ、フィリップと共に参加します。
しかしそのチームワークは、バトラー室長が懸念していたとおりのもので、朝のジョギング1つとっても、自分のペースで男性陣よりも速く走るベティ、半分踊りながら走るフィリップ、二日酔いでまともに走れていないカルロ、みんなが走り出しても入念なストレッチを続けているアンディと、見事なまでにバラバラでした。
キャンプをサポートするNASAのスタッフからも、「ここまでそれぞれが自分勝手なクルーは稀」「まとまりのなさはピカ1」と評されてしまうほど

​自由奔放に振る舞う仲間の様子に「このクルーにはリーダーがいない」と感じ、自分がリーダーとしての役割を果たそうとする六太ですが、誰からも相手にされず、あえなく撃沈。
とはいえ、チームは必ずしも最初から一体感があるほうがいいとは限りません。むしろ、このバラバラ感こそが【形成期】における自然な姿だと思います。
そんな中、バトラー室長の説得により月面ミッションへの参加を決意したベテラン宇宙飛行士のエディが、ジョーカーズのキャプテンとしてキャンプに合流します。
エディの挨拶代わりのスピーチは、一瞬にしてクルーやスタッフの心を惹きつけま した。もちろん、リーダーの不在に不安を抱いていた六太もその1人です。
「リーダーというのはやはり、安心と興奮を同時にくれる。この人は、俺たちのリーダーだ」
六太がエディに対してこのような感情を抱いたのは、まさに彼の姿が理想とするリ ーダー像だったからでしょう。

僕はチームビルディングのワークショップなどで、「チームとグループの違い」という話をすることがあります。
グループとは「群れ」であって、誰かに与えられた目的や役割に従って進んでいる未発達な状態です。一般的にも「仲良しグループ」という表現はあるけれど、企業内の組織のことを「仲良しチーム」とは言いませんよね。チームは「団」であり、自分たちで目標やルールを作り、役割で動くことができます。
こうした意味では、第1ステージの【形成期】から第2ステージの【混乱期】は、 実質的にはまだグループの段階だと考えられるでしょう。組織の多くは「グループ(群れ)」として生まれ、成長することで「チーム」へと変容していきます。

アリゾナキャンプでのジョーカーズも、まさにチームというよりはグループ。個性の強い一匹狼だったメンバーが群れを形成した段階です。
そこでエディがとった行動はと言うと——。
チームにとっての課題を明確にすることでした。

彼は、キャンプの周囲をグルグルと回るだけの朝のランニングを、「もっとワクワクする走り方がある」と、6人全員が車で数キロ離れた場所へ移動し、キャンプ地を目指して走るというスタイルに変更します。
ここでメンバーに出したお題は、決められた時刻に到着すること。
「目標時刻より早すぎても遅すぎてもダメ。ちなみに時計を持っていいのは俺だけ」
笑顔でそう宣言をしてランニングがスタート。

メンバーは必然的にエディと並んで走ることになり、バラバラだったランニングから一歩前進することができました。ただの「群れ」から、同じ目的を持ち行動を共にする「団」へと進化を始めたのです。
エディが「決められた時刻に到着する」という課題を出したことで、メンバーは自己流のランニングをするという意識がなくなり、「そのためには何をするべきか?」 を考えるようになります。
結果、全員の頭の中で一致した解決方法が「みんなで揃って走る」だったわけです。 ではなぜ、エディはキャプテンであるにもかかわらず、「今日からみんなで一緒に走ろうぜ」と、率直に指示しなかったのでしょうか? バトラー室長にも一目置かれ、 多くの人から尊敬されている彼ほどの人格者ならば、さすがのカルロやベティたちも 素直に従ったはずですよね?僕が思うに、指示や命令にしてしまうと強制することになり、エディはそれを善しとしないと考えていたのではないでしょうか。あくまでメンバーが自分で考え、自主的に選択することにこだわったのだと思います。

また、エディはキャンプに合流した初日の挨拶スピーチで、「俺を信じて付いてきてくれ!」でも「俺がみんなを月に連れて行く」でもなく、「ともに月に立とう」と呼びかけました。
上に立つのではなく、メンバーと同じ位置に立とうとするそのリーダーシップの在り方は、エディが揃ってやっと、ジョーカーズのメンバー全員が並んで1歩を踏み出した、ランニングのエピソードに象徴されているのかもしれません。

さらにエディは、【形成期】のチームの成長に不可欠な、「コミュニケーションの量を増やす」ことも実践しています。
メンバーが順番に手料理を作ろうと提案したり、夜、たき火を囲んでメンバーそれぞれのバックボーンについて語らせたり……。
六太はこのとき、ベティが宇宙飛行士だった夫を、地球への帰還船の墜落事故で亡くしていて、息子のために夫に代わって月へ行く決心をしたことを知ります。
そのきっかけを作ったのもエディでした。彼女に向かって「まだベティのことでムッタだけが知らないことがあるだろ」と、促したのです。

無論、エディは単なる興味本位でベティの個人的な事情に踏み込んだわけではないですよ。
宇宙飛行士という職業は、長い期間ミッションを共にする仲間たちと深い部分の価値観を共有しておかないと、さまざまなリスクにさらされます。エディはその重要性を理解しているからこそ、メンバー個人の「Why」も共有しておこうとしたのだと思います。
おそらく、六太がなぜ月面ミッションや月面天文台の建設にこだわるのか、その背景に人生の恩師であり、今もなお難病と闘うシャロンの存在があることも、ジョーカ ーズのメンバーたちは知っていることでしょう。

さて、話はガラリと変わりますが、僕は「岡ちゃん」の愛称で親しまれ、サッカー日本代表チームをワールドカップへと導いた岡田武史・元日本代表監督と、チームビ ルディングのイベントでご一緒させていただいたことがあります。

このイベントで岡田さんには、ハンドボールの日本代表選手たちと一緒に課題解決ゲームを体験してもらったのですが、とてもおもしろい現象が起こりました。
まず、ハンドボール日本代表(※2010年当時)として活躍していた宮崎大輔選手を含む選手たちと岡田さんにチームを組んでもらい、簡単なゲームに挑戦してもらいます。その際に、どうすれば効率よく課題をクリアできるかを、みんなで話し合ってもらいました。いわゆる作戦会議ですね。
僕はあえてこの時点では口を一切挟まずに彼らの様子を観察していたのですが、試合でもないのに具体的な意見や指示のほとんどは岡田さんが出していて、ハンドボールの選手たちは「わかりました」「それが一番いいと思います」と、全面的にそれを受け入れているのです。選手サイドから「もっとこうしてみましょうよ」という意見は出てきません。
まさに、「監督と選手」という光景です。
彼らにとって岡田さんは「元サッカー日本代表の監督」ですから、無意識のうちに「選手は監督の言うことを聞く」という、上下関係を作り上げてしまっていたようです。岡田さん自身も、チーム内で自分だけが意見を出していることに気づいていません。同じように、「指示を出さなければ」という意識が働いていたのだと思います。

1回目のゲームが終了した時点で、まずは自分たちの行動を振り返ってもらったのですが、そこで僕がタネ明かしをすると、みなさん一様にハッとされるのです。
「気づかないうちに、意見やアイデアを出すメンバーと、ただ従うだけのメンバーに 分かれてしまっていた……」と。
そうなんです。
スポーツの世界独特のヒエラルキー型の組織に慣れてしまっているため、サッカーでもハンドボールの試合でもない遊びでさえ、上下関係によって動こうとしていたのです。
このことに気づくと、2回目の作戦会議では上下関係など意識することなく、それぞれがアイデアや意見を出そうとするようになります。岡田さんも、「どんな方法があると思う?」と、選手たちに発言を促していました。
その結果、彼らのチームは見事、1回目よりも短時間で結果を出したのです。

じつはこの数年後、僕は岡田さんと再会を果たし、岡田さんがオーナーを務めるFC今治のチームビルディングのお手伝いをさせていただくことになりました。
ある日突然、僕の携帯電話に見知らぬ番号からの着信があり、出てみると「お久しぶりです、岡田です」と言われたのです。僕は思わず、「すみません、どちらの岡田さんでしょうか?」と聞き返してしまったのを覚えています。
FC今治は愛媛県今治市をホームとするサッカーチームで、2014年に岡田さん がオーナーとなり、アマチュアクラブからJリーグ参入を見据えた長期戦略とビジョンを掲げました。
現在は、 3クラブライセンスの交付を受け、 3昇格に向けて戦っています。

〜心のノート〜
形成期のチームは、コミュニケーションの量を増やすことで「群れ」から「団」へと成長していく。

混乱しているチームには 何が足りない?

話を再び、『宇宙兄弟』へと戻しましょう。
エディのリーダーシップによって、【形成期】の課題でもあるコミュニケーション の量を飛躍的に増やすことができたジョーカーズ。
互いを知ることでメンバー同士での折り合いも自然とつくようになりますが、「チ ーム一丸」と言えるほど強固な信頼関係を築くには、まだまだ遠い状態です。
そんな中、カルロが突如、訓練に顔を出さない日が何日も続き、ジョーカーズは第2ステージである【混乱期】を迎えます。 

◉【混乱期】
打ち上げまであと50日という段階になって、カルロが6日間も連続で訓練に顔を出さないという異例の事態!
彼は、やむを得ない複雑な事情で故郷であるイタリアに帰っていたのですが、その理由をメンバーそれぞれが違う内容でカルロから説明されていたことが判明します。日頃から冗談とも本気とも取れない発言をするカルロの性格を知っているメンバーたちは、こんなときでも本当のことを話そうとしないカルロに、不満と苛立ちを抱くようになっていました。

一方のカルロは、真実を話せば自分は宇宙飛行士ではいられなくなるという思いから、エディにだけは事前に帰郷する理由を打ち明けていました。
エディが本当の理由を知っていることに気づいていた六太は彼を問い詰めますが、エディからは明らかに噓だとわかるような返答でごまかされてしまいます。それでも 六太はカルロには何か事情があるのではと、彼を信じようとしていました。

ここで、カルロの不在を埋めるため、バックアップクルーのモッシュ・ベルマーが訓練に参加するようになりますが、これによってチームはさらなる混乱へと陥ります。
モッシュのあまりの生真面目さにペースを狂わされるメンバーと同様、モッシュ自身も、「バックアップクルーのメンバーとの訓練ではこんなミスをしたことはなかっ た」と、明らかに戸惑いを感じていました。

【形成期】におけるチームの成長には、コミュニケーションの「量」が求められたのに対し、【混乱期】におけるチームの成長には、コミュニケーションの「質」が求められます。

カルロがメンバーに真実を告げないまま訓練から離脱したことによって、メンバーとのあいだに亀裂が生まれていますね。
とくにベティやフィリップは、カルロに対する苛立ちを露わにしていますが、カルロが失踪したことに対してではなく、自分たちに本当のことを告げようとしなかったという不信感に由来するものだと思います。 まさに、コミュニケーションの「質」が問われたわけです。
ちなみにモッシュは、ジョーカーズの中では浮きまくりでしたが、本来所属していたバックアップのチーム「パーフェクツ」では、仲間から大変頼りにされていたようです。
ジョーカーズへの加入が正式に決まった際に、かつてのチームメイトから「モッシュのいないパーフェクツなんて、全然パーフェクトじゃないよ!」と嘆かれているくらいなので、本来のパフォーマンスが発揮できていなかっただけなのでしょう。
ジョーカーズではチームワークや訓練のペースを乱す要因となってしまった生真面目さも、パーフェクツでなら、「強み」になっていたのだと思われます。

カルロがチームから抜け、【混乱期】の真っただ中のジョーカーズ。
イタリアから戻ってきたカルロは、モッシュと入れ替わりでパーフェクツのメンバ ーとなり、バックアップクルーとして六太たちと同じように訓練に参加していました。
六太らに再会した際に、カルロはマフィアだと思っていた自分の父親が、じつはイタリアの極秘潜入捜査官だったことをメンバーに報告します。相変わらずのノリなのでメンバーも半信半疑ではあるものの、関係性は一歩前進していますね。

さてジョーカーズは、このままモッシュをクルーに加えて月へと向かうのかと思いきや、まさかのハプニングが!

なんとマスコミ会見の前日にモッシュが腕を骨折し、全治3ヶ月の重傷と診断されます。
月面ミッションへの参加が絶望的となり、控えに回っていたカルロが、再び正式メンバーに復帰したのです!
会見の場に突然現れたカルロを、驚きながらも受け入れる六太たち。
「やっぱりジョーカーズのパイロットはカルロだよね」という共通の思いが生まれたこの瞬間に、ジョーカーズは【規範期】へと突入しました。

◉【規範期】
物語は、六太たちを乗せたロケットの打ち上げ、月面への着陸、シャロン月面天文台の建設と、数々のドラマチックなエピソードが続きます。
月面着陸の際には船体が倒れそうになったり、シャロン月面天文台のパーツが行方不明になったりと、想定外の出来事が次々と起こりますが、【混乱期】を乗り越え【規範期】を迎えたチームは、各自がチーム内での役割を考え、率先して動けるようになっているので、見事にクリアしていきます。

とくにそれを象徴しているエピソードが、大型の太陽フレアによる放射線からスーパーコンピューター『SHARON』を守るため、リスクの高い予定外のミッション が発生したときでしょう。
彼らは、ヒューストンからの指示を待つのではなく、チームとして自ら迅速に行動へと移しています。
船外活動の準備をする六太とエディ、その2人を乗せるバギーの整備を担当したアンディとフィリップ、ヒューストンとの交渉を進めたベティとカルロ。
管制室とのやりとりはあるとはいえ、誰からの指示を待つでもなく、自分たちで役割を考え、迅速に行動しているのです。その結果、短時間でヒューストンと交渉をまとめ、船外活動の許可を得ることができました。
また、太陽から放出されたプラズマの影響でヒューストンとの交信が遮断された際には、管制室からの情報すらない状態で、エディを含めたクルーの判断だけで月面基地の停電を解決しています。
このとき、六太が「自分が月にいるあいだにシャロン月面天文台を完成させたい」 と思っていることを知ったフィリップは、「OK!手伝うよヤァマン!六太の夢を俺の次の夢にしよっ!」と発言しています。フィリップを突き動かしたものは、ま さに六太の「Why(なぜ)」に対する共感でした。

各自がリーダーシップを発揮し、それがチームとしてのパフォーマンスになる。
これぞ見事なチームワーク!
アリゾナのキャンプで、バラバラに走っていたメンバーからは想像できない姿です。 ここまでくると、チームは誰からの干渉も必要とせずに成長していきます。
ジョーカーズはまさに、「無敵」の状態に突入したと言えるでしょう。
では、ジョーカーズにとっての【達成期】はどのタイミングでしょうか?

◉【達成期】
これはどこに焦点をあてるかで大きく変わってきますが、僕の考える【達成期】は、 誰1人欠けることなく、地球に帰還した瞬間です。
と同時に、このチームは解散へと向かうのです。

「せっかく苦労して達成期まで到達したのに、同時に解散なの!?」
なんて悲鳴も聞こえてきそうですが、たとえこのメンバーで新たなミッションが与えられたとしても、チームとしての「Why」が違うものになるので、また始めからチームを作っていく必要があるのです。

このように、【規範期】にまで進むことのできたチームは、何もしなくても自然と 【達成期】へと向かいます。 だからこそ大切なのは、多くのチームが乗り越えられずに解散を迎えてしまう【形成期】や【混乱期】において、どうリーダーシップを発揮し、チームを成長させるかということ。

逆にこのステージを乗り越えることができれば、人生に影響を与えるほどの「チー ムで何かを成し遂げることのおもしろさや感動」を、知ることができるはずです


〜心のノート〜
混乱期のチームはコミュニケーションの質を重視。これを乗り越えると、チームは自然と成長できるようになる。

(つづく)

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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。

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<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。

企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。

文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。