ウォルター・ゲイツ

うぉるたー・げいつ
ウォルター・ゲイツ
出身地

アメリカ

職業

NASAプログラムマネージャー

略歴

NASA月面基地プログラムマネージャー

初登場
#104~

言葉

「いつまでもごまかせると思ってたのか?時間切れだよ。バトラー室長」
「飲めるワインは他にもあるんだ。わざわざ毒入りを選ぶ理由がどこにある」
「NASAで働く者が 誰しも宇宙好きだと思うな」
「『勇気を出したい』。フッ…そんなメニューはないだろ」
「それなら いい店を知っている」
「ここから先は私に任せてほしい」
「私も最初はそれを心配していたんですが…科学実験や建設ミッションなどNASAの優れている部分をもっと光らせればいいんです」
「恥ずかしながら私の友人が言うには『お前はようやく昔に戻った』――と」。

プロフィール

NASAのプログラムマネージャー。喫煙者。
「ミスは許されない」「無理はしない」「“失敗のない仕事”が大前提」の男である。

本編初登場時はピコの回想の中だった。
ブライアン・Jたちの帰還時に使用されるはずだった、デンバー社のパラシュート。ピコはパラシュートの展開システムを開発・製造するサブプロジェクトの開発責任者だった。しかし、たった一度だけ想定外のミスをしてしまう。本来開くはずのパラシュートが絡まり合い墜落。数千ドルが泡と消えた。

「限界を知るための墜落であり想定内の試験」でもあったが、ゲイツは「試験手順書には“限界を知るための試験”という文字などなかった」とこの結果を受け、デンバー社より安上がりなニューエアー社に開発を任せるよう決める。
結果、ブライアンらCES-50の乗ったオリオンはパラシュートの事故で墜落した。

失敗やミスは許されないと言われるゲイツだが、事故当時ゲイツの上にはチャールズ・ダンディという男がおり、ゲイツ自身はこの事故の責任からは逃れている。ゲイツは責任をとったチャールズの後任として昇進した。

ゲイツは冷酷で無表情、宇宙開発や宇宙飛行士に興味も情もないように描かれてきた。

ヒビトが精神障害を患ったこと、ロシアでソユーズ訓練など受けていないことを突き止めたゲイツは「時間切れ」だと言い放ち、JAXAに“こちらの意見”を伝えたことを報告する。それは「南波日々人は重度のパニック障害であり、今の状態ではかなりの確率で宇宙へ飛ぶことは不可能だろう」というものだった――。

ロシアから帰国したヒビトに、ゲイツはさもヒビトが昇進したかのように「おめでとう」と声をかけ机を与える。宇宙飛行士にとってのデスクワーク。それは、ヒビトに二度と宇宙への道がないのだと暗に示しているものだった。

パニック障害克服を諦めず訓練を重ねてきたヒビトの宇宙飛行士復帰試験も興味を示さず、モニター越しに試験に参加。理事長との電話では「一人のためにわざわざ」「復帰はまあないでしょうね」「最初からありえない」など元からヒビトの復帰はないものとしていた。
訓練を見ていたゲイツはバトラーが仕掛けておいたグリーンカードに加え、更なるグリーンカードを管制室に指示、ヒビトの試験を最後まで見守ることなく部屋を後にする。
ゲイツにとってヒビトは「単なる宇宙飛行士」でしかないようだった…。

宇宙飛行士復帰試験に合格するもアサイン許可がおりないことをバトラーはゲイツに何度も詰め寄る、だがプログラムマネージャーであるゲイツはヒビトを宇宙に送る気はない。最後の会議に出席しろというバトラーに、ゲイツは了承するも冷たく言い放つ。「これが済んだら ナンバ・ヒビトのことはもう忘れろ」と。

ヒビトが克服できたのはプールの中であり、発作の確率は0ではない。
“樽一杯のワインにスプーン一杯の汚水を注ぐと それは樽一杯の汚水になる”。
ヒビトの中にあるのは汚水どころではなく“毒”である、と。飲めるワインは他にもあると。
“宇宙飛行士は他にいくらでもいる”。
暗にそう言い放つゲイツの言葉や考えは、あまりにも冷たく、残酷だった。

ヒビトがNASAを去った現実は、この時のゲイツにとっては大したことのない事実だっただろう。

NASAの日常は淡々と進み、次のミッションに向けてのクルーや内容の確認が行われていた。

目前に迫るムッタらジョーカーズのCES-66ミッション。通常のミッションに加え、フロントナビゲーションシステムの取り付けやシャロン月面天文台建設が加わる。
全会一致で決まりかけた中ゲイツは異議を唱える。

CES-66ミッションでは新型の宇宙服の発表が行われること。
マスコミヘの露出が増えるため、知名度とスピーチ力を持った者が必要であること。
また天文台建設には「月の“裏側”に初めて人類が立つ」というイベント付であり、各方面からの注目が増えていること。
失敗は許されない。

自分たちより老いぼれのベテラン飛行士エディ、初フライトが3人もおり、誰もまともにしゃべれそうな者がいないジョーカーズなど問題外。彼らは話題性の少ない目立ちにくいミッションで“使ってやれば”いい。
これらの言葉に、ゲイツにとって宇宙飛行士は「人」ではなく単なるミッションの「道具」だと思っているようにも受け取れてしまう。

結局ゲイツの言い分に押され、ムッタらジョーカーズはCES-66ミッションから外されてしまった。

「自分以外の飛行士が“シャロン天文台”を建ててくれるなら結果は同じ」。
一度は自分を納得させたムッタだったが、何度も聴いたシャロンの言葉を繰り返し、ゲイツに直談判に向かう。

シャロン天文台建設に一番ふさわしいのは自分です、というムッタの言葉を聞いて嘲笑うゲイツ。たった一人の応援で勢いだけで行けると思ったのか。
経験・実績・知名度すべてにおいてムッタを上回る2人より上回っているものが、一つでも君にあるのか?
世間一般が注目するのは舞台監督でも演出家でも原作者でもない。宇宙飛行士という俳優である、と。そこで話は終わる。

悔しく思いながら部屋を後にしようとしたムッタの耳に、電話で話すゲイツの耳を疑うような内容が飛び込む。

「だからいつも早急に廃止しろと言っているんだ。ISSなど」

ISSに人生を賭けてきたせりか、搭乗予定のせりかと絵名の顔がムッタの脳裏によぎる。変なことを言うのをやめてくれ――そう願い部屋で立ち尽くしているムッタに、ゲイツはある提案をし始めた。
それは「2ヵ月以内に一億ドルほど運営コストを削減すること」。
できるわけない――内心そう思いながら、ゲイツはこの難題をムッタに与える。

度重なるISSの故障。維持にかかるバカでかい費用にゲイツは頭を悩ませていた。ISSを廃止にし、その分の予算を月に回す――まだまだISS保持派が多いNASAではその構想は進まずにいた。
廃止に追い込むには――そんな話を電話越しに関係者としているうち、署名という提案がゲイツの耳に入る。

外で故障の連絡を受けたゲイツの視線の先にムッタたちを見つけ、ゲイツはまたも無理難題を提案する。
“ISSを完全に終わらせるために、反対派の署名を集めろ。多く集めた方をCES-66にアサインする”。

1億ドルのコスト削減、ISS廃止の署名集め。
他に道のないジョーカーズは必ず乗ってくる。例えジョーカーズがボルツより多く署名を集めたとしても、彼らを入れ替える気など初めからなかったのだが。

議員との会議で、ゲイツは月・火星開拓の足かせになっていくであろうISSを事実上廃止することを告げる。宇宙飛行士たちに自ら廃止署名を集めさせることで、ゲイツの中では既にISSの廃止は決定事項となった。

約束の期限が訪れ、コスト削減案の会議が行われる。署名さえあれば良いというゲイツだったが、「ものはついで」というエディの言葉で会議は始まった。

天文台建設に持っていく予定のパラソルアンテナ。輸送に膨大なコストがかかるそれを月面に3Dプリンターを設置して月で作ること。
材料は持って行かず月の砂で作ること。
月面天文台建設について既にジョーカーズは誰よりも理解していること。
月でアンテナを投下するための衛星「LUNA-S」の何十回も予定されている実験を、月で実践してみること。

地上での100の試験より月での一回の失敗の方が得られるもののほうが求める答えに近いはず。そして、有人ではなく無人のミッションは失敗しても人が死ぬわけではないこと。

「ゲイツさんは 宇宙の何が好きですか?」
ISSの廃止署名を集めろと伝えたとき、ムッタから問いかけられた言葉。
「あえて失敗覚悟でやってみませんか。」
会議でのムッタの言葉に、苛立つゲイツ。

失敗した際の損害額や調査費用、3Dプリンターの輸送費用や新たに増える宇宙飛行士の訓練費用も出されていないまま。
これは茶番である、ISS廃止の署名だけ出せばいい。

ところが、ジョーカーズから差し出された5812人分の署名は“ISS存続派”の署名だった。ゲイツは怒り、会議は中断する。

長年立ち入らなかった屋根裏部屋で、目の前にある大きな布のかかった何かを見つめながらゲイツは一人考え事をしていた。
ふと思い立ち、彼はある店へと出かける。
店の名はOUTPUT TAVERN(アウトプットタヴァーン)。一度は火事で消滅した、宇宙飛行士やNASAの関係者が集まり宇宙に憧れる者たちが集う店だ。

かつての面影、雰囲気、ざわめき。10年前と何も変わらない雰囲気に驚くゲイツ。
前の店主から引き継いで現在の店のオーナーをしていたのはかつての同僚オーウェン・パーカーだ。

今のゲイツがどんな仕事をしているか、パーカーの耳には届いていた。周りからみた自分の評価を知りたいか?どう尋ねるパーカーにゲイツは答える。あんたとは違う、やめてくれ、と。

パーカーは熱意のある後輩を信用し部下からの信頼が厚い男だった。
1年先輩にあたり、自分にはない大胆さと軽快さで仕事をこなすパーカーをゲイツは羨んでいた。だがパーカーが信頼して仕事を任せた部下はすべてを放棄して失踪し、巨額の損失を出してしまう。パーカーはこの責任を取らされ、NASAを去った過去を持つ。

組織が目に見えて「ミスをした人間にはもう任せられない」風潮に変わっていくのを感じたゲイツはパーカーのようにはなりたくないと思うようになり、「一度たりともミスをしてはならない」その想いだけで生きてきた。

当然だ、とパーカーは笑う。けれど自分は“宇宙”をテーマに生き宇宙飛行士の救いになる仕事がしたかった。この店もそうだと気付いた。
夢破れた敗者だと思っていたか?逆だよ、と。

肝心なのは、宇宙に憧れる者が集うこの店になぜ今日やって来たのか。

“ゲイツさんは 宇宙の何が好きですか?”。
“思い出すためだろ?本当の自分を”。

ムッタの言葉、パーカーの言葉に、ゲイツの心の奥底にあったものが沸き上がる。

宇宙モノときけば飛びついていた少年時代。家族が誘う超流行りの映画にも興味はなく、宇宙のポスターや本に囲まれた部屋でシャトルのプラモデルを削っていた。
「勇気を持って期待の新人を起用すべきなんだ」。パーカーの熱意に頷きながら磨いて飾った月面基地のジオラマ。
屋根裏にあった大きな布をめくった下には、あの頃と変わらないジオラマが輝いていた。

ゲイツの中で何かが変わる。再びOUTPUT TAVERNを訪れたゲイツは、今の気分を言えばメニューを決めてくれるというパーカーに「勇気を出したい」と告げた。

酒を飲みながら、ゲイツは堰を切ったように心情を吐露し始める。
自分は部下に信頼されるような上司にはなれていないこと。
“ミスをしない男”である自分は、上司にとって他の者と替える理由がないだけのこと。
自分は一度も仕事を楽しんだことがないこと。

パーカーは声をかける。
そのクソマジメなところは、君のいい所でもあり、君の“力”でもある。力はそれを注ぐ方向が肝心だ。
見えないような細部をいじり、材料費まできっっちりメモし、何回失敗してもクソマジメに実に楽しそうにジオラマを作っていた。
あのジオラマを再現するために、君はNASAにいると思っていた。

激辛のギャラクシースパイシーバーガーを口にする。体の中芯から湧き上がる熱い想いに、ゲイツの「勇気」が燃え上がった。

部下からの信頼、ミスを恐れないこと、仕事を楽しむこと。
それらが、あるいはゲイツが出したかった勇気なのではなかっただろうか。

後日再びジョーカーズのアサインを掛け合ったバトラーとエディに、ゲイツは首を縦に振る。ベティやカルロには今知名度があること、ジョーカーズの提案をどれも面白いと思ったことは事実であること。現状より確実にコスト削減できる見込みがあること。

バトラーから再び飲みに誘われたゲイツは今度こそ承諾し、こう告げた。
「それならいい店を知っている」。

勇気を出したゲイツ。
だがすでに議会ではISS廃止に向けて動き出していた。
ISS廃止を食い止めるためあらゆる方向を探り始める。そしてムッタらジョーカーズから更なる提案を受け、ある人物に電話をかけた。
その相手は――民間有人宇宙飛行を目指すスイングバイの福田直人だった。

ISSを守る案。ゲイツはパーカーの姿を頭に浮かべながら、この案を実践に移すべくプログラムマネージャーとして動き出す。
君たちジョーカーズは月の訓練に集中してくれ、ここから先は私に任せてくれと言葉を送って。

「ゲイツに任せる」。
エディから出たこの言葉。ゲイツが出した「勇気」は、彼が長く求めていたであろうものをとっくに運んできていた。

ISS廃止を覆すため粘り強く議会に足を運ぶゲイツ。
前向きな発言が増えよく足を運んでくれるようになったと声をかけてきた議員に、ゲイツはこう返す。
「恥ずかしながら私の友人が言うには「お前はようやく昔に戻った」――と」。

宇宙に憧れ、宇宙から遠ざかっていた男ゲイツは、再び宇宙への熱い想いで仕事にのぞむ。
OUTPUT TAVERNで噂になる彼の仕事ぶりは、もうとっくに塗り替わっているに違いない。