#1「今のあなたにとって..... 1番金ピカなことは何?」 (前編) | 『宇宙兄弟』公式サイト

#1「今のあなたにとって….. 1番金ピカなことは何?」 (前編)

2022.12.22
text by:編集部コルク
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    ”この人私みたいだ”と思った。
    こういう気持ちを、漫画の人物に抱いたのは初めてだった。
    夢見て諦めて悩んで立ち止まって。
    何もかもが私だった。

    『宇宙兄弟』という漫画。
    その主人公、南波六太。
    私の人生を変える出逢いだった。

    ★★

    2020年初め、コロナが流行する前のこと。趣味のひとつである書店練り歩きをしていたとき、とある書籍を見つけた。

    “あ、これ絶対買わなきゃ“レーダーがはたらく時がある。この本も、手に取って気付けばレジの前にいた。

    それが私と宇宙兄弟との出逢いとなる一冊
    「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み」だ。

    私が人生で数えるほどしか買ったことのないビジネス書のひとつになった。

    この書籍をご存知の方も多いと思うが、FFS理論というものに基づき個性診断を行い、その結果ごとに似た特性を持つ宇宙兄弟のキャラクターを用いて自己理解を深めていく、という内容になっている。

    私はFFS診断結果はアンディで、六太と同じ受容・保全が強いタイプ。”未知の領域に踏み出すのが苦手”、”先の見えない不安にストレスを感じやすい”、”少しずつ積み上げて成功実感をもつことに喜びを感じる”……などの特性がある。

    実際の漫画のシーンを引用しながら個性ごとの行動・思考パターンを丁寧に解説してくれるので非常に分かりやすく、多くの学びがあったのだが、読み進めていくうちに、私と似た性格の六太への興味の方が強くなっていった。

    「悲劇には慣れてる」「”ドーハの悲劇生まれ”の宿命だよ」が口癖のややネガティブ思考で、最初の一歩を踏み出すのが苦手な性格と解説されている六太。彼同様、私も基本ちょっとネガティブで、すぐに「上手くいかなかったらどうしよう」と考えてしまうタイプ。新しいことにトライするのも苦手で超保守的。何にでも気軽にトライできる子を見ては、「この子怖くないのかなぁ…私にはそんな勇気ないなぁ..ダメだな私って」と肩を落とすことがしょっちゅうで、日々人に劣等感を抱き自分を卑下する六太の性格には共感の嵐だった。

    そして昔はそうじゃなかったところも同じ。「一番音が出にくい」からと複数の楽器からトランペットを選んだ少年時代の六太。私も自分のやりたい気持ちに大きな刺激を与えてくれるものに果敢に挑む子だった。「昔の自分はもっと情熱に真っ直ぐに突っ走ってたよな」と反省することもあったりするなかで、同じような気持ちで生きる六太に出逢えて、驚きながらもホッとしたのだ。

    ところがそんな親近感を抱いたのも束の間、今度は「え、なんで」という思いに出くわすこととなる。
    六太は引用で登場する度に変化を遂げていて、どうやら宇宙飛行士へとしっかり歩みを進め、時に仲間を奮い立たせ、時に上司に思いをぶつけるほどにたくましく成長してるのだ。
    さっきまで、「わかるよ六太〜、コロコロやっちゃうよね。私もさ”ムッタのトランペット”って唱えて怖気付かないように頑張るよ」と心の中で語りかけていた相手が、今の自分では到底追いつけない遥か遠くで人生を開拓している。

    一体何があって彼はこんなに強くなっていったのだろう。
    すごいなぁと感心すると同時に悔しくなった。
    ずるい。私も、私も成長したいのに。

    六太の成長の秘密をどうしても知りたくなり、読破と同時に『宇宙兄弟』本編を大人買いし、宇宙兄弟の世界に本格的に足を踏み入れたのだった。

    まさにその時コロナが世界中で流行。日本でも緊急事態宣言が発令。

    それぞれの家で恐怖と不安が消滅する日を待つ闘いが始まった。

    様々な職種の方々が大打撃を受けたであろう、この出来事。音楽業界もそのひとつで、あちこちで公演中止やリリース延期が発生し、番組収録やプロモーション活動がすべて白紙になっていった。コロナによって一体いくつのライブハウスが潰れたのだろう。

    そして例に漏れず、私のスケジュールも真っ白になった。

    先への不安にすら上手く頭が働かなくて、日々を自宅で粛々と過ごした。SNSもPopMusicもしんどかった。何を発信していいかも分からないし、かといって動画サイトなどで行われている”ステイホームリレー”などに参加する気にもなれなかった。

    仕事のことが頭をよぎるのが辛くて、自分のやっているジャンルと近い音楽は一切聴けず、JazzやWorld Musicに耳を傾けていた。リモート飲みもほとんど断った。ニュースにもLINEで回ってくる噂にも無関心。何も信じる気になれなかった。正確には信じる気力が無かった。心が疲弊していたんだなと振り返って思う。

    そういう日々のなかで、私の毎日の楽しみは、寝る前にベッドの中で『宇宙兄弟』を読むことだった。読み終わるのが怖いので、1日1巻まで、とルールを決めて。どうしても我慢出来ない時は2巻分読んでしまったりしながら。

    登場人物みんなが魅力的で憎めない奴。夢に挑戦するそれぞれの思い・背景を知る度に涙し、嬉しい展開には思わず「よかったねぇ」と部屋で独り言をもらした。彼らの頑張る姿を読んでいる時だけは、まったく希望が見えない今の現実を不思議と“大丈夫”と思えた。
    そんなふうに、日中に膨らんだ不安を『宇宙兄弟』に優しく振り払ってもらってから毎晩眠りについた。『宇宙兄弟』は、私の大事なお守りになった。

    そして、気が付いた。
    六太と私の共通点が性格だけではないことに。

    第1話からネガティブめな六太。
    その彼が言ったハンバーガー店でのセリフに私はドキッとした。

    「俺は今まで何がやりたかったんだろうか……」

    六太と同じような体勢でベッドに腰掛け、このシーンを読んでいる32歳の私は、性格だけではなく、今置かれている状況も六太と同じなんだ、と気づいたのだ。


    ムッタの言葉から、自分の「本当にやりたかったこと」を見直すきっかけを得た楓さん。楓さんの中から湧き上がってきた、予想外の気持ちとは…?

    #2へ続く


    <楓幸枝プロフィール>
    1987年 沖縄秋田ブレンドの横浜生まれ横浜育ち。
    2013年 結成したバンドAwesome city club にてドラムを担当。
    2015年 ビクターエンタテインメント<CONNECTONE>よりメジャーデビュー、2019 年秋からはエイベックス・エンタテイメント<cutting edge>にて活動する。
    2020年夏に脱退してからは楓幸枝に改名。ドラムサポート、ディレクション、レッスン、作詞提供、コラム連載などを行なっている。
    2021 年2月に創造ストア「MitsuHi」を開設。
    2022 年5月11 日1stシングル「ナンバ・ムッタ」をリリース。「楓幸枝」個人としての音楽活動を開始した。