KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』

KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』

『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。 世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜南極皆既日食(3/3)ミッドナイト・エクリプス〜

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜南極皆既日食(3/3)ミッドナイト・エクリプス〜
『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。

忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきにがんばっている方にこそ、ほんのひと時でいいから空を見上げてほしいーー

宇宙兄弟公式サイトでは、世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

ミッドナイト・エクリプス

南極の皆既日食は真夜中に起きました。地平線に近く、低い高度にある太陽は大きく見え、大気の影響でオレンジ色に歪んでいました。

気温は氷点下18度。氷の大地を覆っている、水晶を砕いて作った粉末のような雪が、綿毛のように空中を舞い、太陽の光を受けてキラキラと輝きながら足下を流れていました。

月が太陽を徐々に覆い隠していきます。太陽のほとんどが隠れ、最後の輝きが、月の縁のでこぼこからもれて見える状態が数秒間あります。これが「ダイヤモンドリング」と呼ばれる状態です。そして太陽が完全に月に覆い隠される皆既の状態になると周囲は一気に暗くなりました。何ヶ月も続く南極の白夜に、一瞬の夜がやってきたのです。

皆既日食のとき、わたしたちは地球に落ちた月の影の中にいるわけですが、その影はあまりに巨大で、夕暮れや夜のように感じるのです。その皆既日食の一瞬の夜空には星も輝き出します。地平はどの方向も夕映えのように黄色やオレンジ色に染まっています。月に隠された太陽を見ると、周囲に広がるガスの「コロナ」が巨大な花びらを広げたように咲いていました。

それはまるで、他の惑星にいるかのような宇宙的な光景でした。

カメラのシャッターを切り、氷の向こうのコロナを見つめながら、
「わたしは今、広い宇宙の中で太陽と月と地球と一直線に並んでいるんだ」
と感じていました。まるで自分が宇宙と一体になったかのような気持ちでした。

皆既日食とかき氷の思い出を胸に帰国して間もないある日、「NASAのWebサイトに南極の皆既日食のすごい写真があるぞ!」という話を耳にしました。さっそく見てみると、NASAが選ぶ「今日の一枚の天文写真」のところに南極皆既日食の写真がありました。

撮影者はアメリカから日食観測に参加したフレッドさんという人でした。空高くに浮かぶコロナの写真はよく見かけますが、この写真は違いました。南極の氷の大地にかかるように低く大きく写されたコロナと、大気の影響でひしゃげた黒い太陽。そして何より驚くことにそこに人物が一緒に写っています。空の低いところで起こった南極皆既日食ならではのすごい構図だと思いました。コロナと人をこんなふうに写した写真をわたしは初めて見ました。

「すごいなあ!!」
その写真を見ながら、あのときの日食を思い返していると、ふとその人物のそばに写った荷物に目が留まりました。折りたたみ椅子の上にシュラフを載せたシルエット。そしてバッグ、カメラの位置、人物の背格好、そのすべてに見覚えがありました。なんとこの写真に写っているのは、他の誰でもない、わたし自身だったのです。

フレッドさんが撮影した皆既日食とKAGAYA 撮影/Fred Bruenjes

驚いたわたしはさっそく撮影者のフレッドさんに「あの写真に写っているのはわたしです」と連絡を取りました。フレッドさんもおおいに驚き、そして喜んでくださいました。彼は「KAGAYAのおかげで素晴らしい写真が撮れた。ありがとう」と写真も動画もわたしに送ってくれ、わたしはフレッドさんに心から感謝しました。

皆既日食の写真は、広い宇宙の中で太陽と月と地球が完全に一直線に並ぶ瞬間、地球上の特定の場所にいなければ撮れない写真です。このフレッドさんの写真を撮るのはさらに難しく、広い宇宙の中で、太陽と月と地球とわたしとフレッドさんが完全に一直線に並んでいなければ撮れません。

そして動画を見てみると、フレッドさんから見てわたしが太陽の真ん前に躍り出るのはわずか数秒だったのです。その数秒を逃さずフレッドさんはシャッターを切っていたのです。一直線上にたまたまいたフレッドさんの撮影技術が素晴らしく、また気さくで良い人だったのは本当に幸運でした。

子どもの頃から憧れてきた、自分の夢の中の出来事を誰かが撮影してくれていたのです。

この出来事からわたしは、「何かが起こりそうなところには、とにかく自分の足で行ってみる」ことを大切にするようになりました。

この南極での皆既日食は、あまりに太陽高度が低いため、見ることが非常に難しいと言われていました。低い空で起こる皆既日食は雲に隠れて見えない可能性が高いからです。しかし(本当はかき氷が目当てだったとはいえ)実際に自分の足で地球の果ての南極まで行ってみたら、皆既日食が見られただけでなく、その夢のような世界にいる自分の姿を写真に撮ってくれていた人がいた。帰国後はその写真を探し当てることまでできました。

想像を超えた何か素晴らしいことに逢える機会はめったにありません。ただ待っていてもなかなかそのチャンスはやってきませんが、何かが起こりそうなところに自ら足を運べば格段に出会える可能性は高くなります。アンテナを広げて自分の行くべき場所を探し、網を広げてキャッチするのです。

まず自分の足でチャンスのある場所まで行くこと。そして少しでも確率を上げるためにいろいろな工夫をすること。そうすれば、想像すらできないほどの面白いことと出会えるのではないか。それがわたしがこの世界中を飛び回っている動機です。

(つづく)

 

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KAGAYAプロフィール
1968年、埼玉県生まれ。
絵画制作をコンピューター上で行う、デジタルペインティングの世界的先駆者。
星景写真家としても人気を博し、天空と地球が織りなす作品は、ファンを魅了し続け、Twitterフォロワー数は60万人にのぼる。画集・画本
『ステラ メモリーズ』
『画集 銀河鉄道の夜』
『聖なる星世紀の旅』
写真集
『星月夜への招待』
『天空讃歌』
『悠久の宙』など