【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜南極皆既日食(2/3)憧れの氷の世界〜 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【KAGAYAフォトエッセイ『一瞬の宇宙』】第一章 宇宙の中の小さな自分に出会う 〜南極皆既日食(2/3)憧れの氷の世界〜

2018.09.03
text by:編集部コルク
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『宇宙兄弟』の公式サイト連載がきっかけで出版されたKAGAYAさん初のフォトエッセイ、『一瞬の宇宙』。

忙しかったりつらかったり、悩んでいたり、ひたむきにがんばっている方にこそ、ほんのひと時でいいから空を見上げてほしいーー

宇宙兄弟公式サイトでは、世界中で星空を撮り続けるKAGAYAさんのこのフォトエッセイを大公開します。

憧れの氷の世界

約4200キロメートルをおよそ6時間かけて飛行し、イリューシン76は南極に到着しました。南極には空港がないため、飛行機はブルドーザーで平らにならしただけの氷の滑走路へと着陸しました。

機外の温度は氷点下。外に出る前に防寒装備に着替えておく必要があります。防寒ブーツに防寒ジャケット、氷雪の照り返しも強いので顔には日焼け止めを塗りサングラスをかけました。

ドアを開け、飛行機から降りると、そこは真っ白な光に包まれた世界でした。厚さが数百メートルもある南極の氷床の上にわたしは降り立ちました。足元の氷をひとかけらとってみると、中にたくさんの泡粒が入っているのが見えました。何万年も前に氷と一緒に封じ込められた、当時の地球の空気です。わたしにはこの氷を使ってやってみたいことがありました。

わたしは足につけていたアイゼン(登山道具。氷上の滑り止めとして使う。金属製の鋭い爪がついている)を使って氷を削りました。細かく砕いた氷をカップに盛り、このために日本から持ってきたメロン味のシロップをかけ、かき氷を作りました。

南極の氷で作ったかき氷を食べる。

これがわたしの子どもの頃からの夢でした。

南極の寒さの中、気づけばおかわりをして6杯も食べてしまいました。南極の氷は特に味がするわけではなく無味無臭。だからまあ、ただのメロンシロップ味のかき氷なのですが、想いは特別です。その氷は大昔に降った雪やダイヤモンドダストがわたしが食べるまで気の遠くなるような時間凍り続けた氷なのです。その氷には、地球の時間が当時の空気とともに閉じ込められていたのです!

とはいえ、南極で6杯もかき氷を食べるとさすがに寒くて震え上がりました(氷菓子が好きで日頃から食べているのでお腹はこわしませんでした)。

日食が起こるまでの短い時間に、大陸内移動用の小型複葉プロペラ機アントノフに乗って白夜の南極大陸を飛行し、空から見ることになりました。アントノフは脚に取り付けられたスキーで氷の上を滑走し、ベースキャンプを飛び立ちました。

南極大陸は氷床で覆われています。氷床は、何万年もかけて降り積もったダイヤモンドダストや雪が圧縮されてできた氷。大陸の中央で2000メートル以上の厚みがあり、沿岸に向けてゆっくり動いています。ベースキャンプがあるノボラザレフスカヤ基地周辺は海に近く、長い時を経て運ばれてきた氷床は数百メートルの厚みがあります。

澄んだ空気。遠く見渡す限りが氷床で埋め尽くされています。ところどころに岩でできた山が顔をのぞかせています。これは氷床に埋もれた大きな山の頂が突き出ているのです。山は氷床によって削られ、するどくえぐられています。氷は大海原か河の流れの一瞬のように見え、大きくうねり、巨大な岩をまるで砂をさらうように長い年月をかけて削っているのです。

時刻は夜の10時を過ぎました。低く黄色い白夜の太陽が氷の大地を照らし、尖った山の影が平らな氷原に長く長く伸びています。大きなエネルギーが一瞬で凍ったような地形を、アントノフが日食の観測地に降り立つまで窓に張り付いて眺めていました。

(つづく)

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KAGAYAプロフィール
1968年、埼玉県生まれ。
絵画制作をコンピューター上で行う、デジタルペインティングの世界的先駆者。
星景写真家としても人気を博し、天空と地球が織りなす作品は、ファンを魅了し続け、Twitterフォロワー数は60万人にのぼる。画集・画本
『ステラ メモリーズ』
『画集 銀河鉄道の夜』
『聖なる星世紀の旅』
写真集
『星月夜への招待』
『天空讃歌』
『悠久の宙』など