星を撮りたい僕は、地球を駆ける。

星を撮りたい僕は、地球を駆ける。

プラネタリウム映像作家、CGクリエイター、星景写真家と幅広く活動しているKAGAYAさんの、まだ見ぬ美しい風景を探して旅を続ける連載エッセイ。

第五回 パタゴニアの雲から、オリオン座の超新星爆発まで、僕はこの空の決定的瞬間に、ずっと夢中だ。

第五回 パタゴニアの雲から、オリオン座の超新星爆発まで、僕はこの空の決定的瞬間に、ずっと夢中だ。

パタゴニアは強風で、空を埋め尽くすレンズ雲群に圧倒されました。(昨日撮影)
(1/8/16 17:21 のツイートより )

星景写真ファンをはじめ、宇宙好きにとって、真っ先にフォローしたくなるTwitterアカウントがあります。プラネタリウム映像クリエイターにしてCG作家、そして星景写真家のKAGAYAさんです。
世界のいろんな場所から撮られた星景写真の数々には「宝石箱をひっくり返したような星空」、「私もオリオンを追って赤道を越え、南の果てへと旅したい」、「KAGAYAさんが伝えてくれる星はいつだってはっきりと迷いがなくて強い」といったコメントが寄せられ、そのフォロワー数は約18万人です。子どもの頃から、星空を見上げては絵に描くのが好きだったというKAGAYAさん。彼は自分の思い描いた想像の世界に、カメラを持って出かけてゆきます。
富士山から南極に至るまで、星空を追いかけるKAGAYAさんのさまざまなエピソードを、小山宙哉公式サイトでは毎月コラムでお届けします!

いつもは夜空の下にいる私ですが、今回は青空のお話から始めたいと思います。
私は地球を宇宙の中の惑星として感じられる風景に強く惹かれます。そうした風景は、人工の光とものに溢れている現代の都会では出会うことが難しい。だから私は、私たちのずっと祖先がまだ森の中に住み、動物を追いかけていた頃に頭上に広がっていた空のある場所へと、出かけて行くのです。

パタゴニアの強風がつくる雲の造形美を追う

2015年の年末から始まった星をめぐる旅の中で、2016年の年越しを南極で迎えた私は、ウユニ塩湖に向かうまでの4日間を、南米のパタゴニア・パイネ国立公園の湖のほとりで過ごしました。氷河に削られた尖った山の下には、時間と水の流れに侵食された地形とともに美しいターコイズブルーの氷河湖が広がります。この氷河湖の神秘的なな色彩は、氷河によって削られた岩石の微粒子が湖に溶け出したことで生まれているといいます。

kagayaパタゴニアの氷河湖は美しいターコイズブルーに彩られている。

kagaya3これまで見た中で最強の彩雲に遭遇しました。(昨日パタゴニアにて撮影)
(1/8/16 17:33 のツイートより)

パタゴニアは風が強いことで有名です。周囲を見渡すと、生えている木々が少し斜めに傾いています。ずっと強風に吹かれる中で育つので、木々はまっすぐ生えることができないのです。
そんな強風のおかげで、パタゴニアは空を見るのがとても楽しい場所です。高く尖った山々に強風が当たり、不思議な形の雲がどんどん沸き出てきます。風が山に当たったときに生まれる「レンズ雲」で空が埋め尽くされる青空や鮮やかな彩雲は、この地独特の風景です。強い風は空の表情を一瞬で変えていくため、一時も空から目が離せません。私はカメラを持ってパタゴニアの空の下を走り回り、雲を追いかけて決定的瞬間を捉えていきました。

kagaya長い夕暮れ。残照に染まるレンズ雲の上、待ちきれない星々が輝き始めます。
(1/11/16 17:34 のツイートより)

夕暮れ時の中でも雲を追いかけます。レンズ雲は夕暮れ時には特に美しい表情を見せてくれます。夏には白夜(極地付近で起こる、太陽が沈まない現象)となる南極付近では夕暮れ時が長く続くため、シャッターチャンスも長くなります。
夜のとばりが降り、北の空に冬の大三角が輝き始めたとき、私は「ああ、ほんとうに地球の裏までやってきたんだ」と実感しました。北半球の日本から見れば、南半球の南米は地球の裏側です。星空は、日本のある北半球で見るのと逆さまになります。数日前の日本では南東に見えていた、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、そしてオリオン座のベテルギウスから成る冬の大三角もパタゴニアでは逆さになり、北の空に輝くのです。
長い残照に照らされる夕暮れから夜が明けるまで、私は日本では見えない星空の表情に夢中でシャッターを切りました。

 

オリオン座のベテルギウスは、爆発する

agaya5風が強いパタゴニア。未明になって突然風が止み、荒れていた湖面が星々を映しました。
写真上の明るい星はシリウス。逆さの冬の大三角。(一昨日撮影)
(1/11/16 22:51 のツイートより)
※上部でもっとも明るく強く輝いているのがおおいぬ座のシリウス、
そこから右下へ向かったところに輝く白い星が気こいぬ座のプロキオン、
その左に赤く輝くのがオリオン座のベテルギウス。

星の輝きを見つめていると、宇宙という時間と空間の壮大さを感じます。私たちは今、星の最後をこの目で見ることができるかもしれないチャンスを迎えているのです。

夜空には様々な色の星があります。星の色を決めているのは、表面の温度です。青く輝く「恒星」ほど温度が高く、1万度に達します。赤く輝く恒星は比較的温度が低く、その温度は3千度から4千度ほどです。
そして青く輝く星はとてつもなく重い。太陽よりも重くて、激しく燃えているので明るく輝き、とても温度が高いのです。たとえばオリオン座のリゲル(写真では左上に位置する、オリオン座で最も明るい青い星)は、太陽の20倍近い重さだといわれています。

恒星が歳を取り、寿命が近づくと赤く巨大化し、「赤色巨星」となります。写真の中央部で赤く光り輝くオリオン座のベテルギウスが赤色巨星です。こうしてみると、オリオン座は若い星と年老いた星の両方で形づくられていることが分かります。

年老いた重い恒星は寿命をむかえる時に「超新星爆発」という大爆発を起こし、激しく一生を終えます。オリオン座のベテルギウスは、すでに星の一生のうち90%以上を経過しているとされ、おそらく1万年以内に超新星爆発を起こすといわれています。
いつ爆発するか、正確には分かりません。明日かもしれないし、1万年後かもしれない。私たち人間の時間からすれば、ずいぶん開きがあると感じられますが、今見えている明るい星の中で1万年以内に超新星爆発を起こす星は非常に珍しく、人類がその決定的瞬間を見ることができる確率の高い星のひとつです。
爆発した瞬間は、おそらく昼間でも肉眼で見えるほどに輝きます。きっと凝視すれば目を痛めてしまうほどの輝きが、オリオン座の一角を照らします。その後、徐々に暗くなり、2〜3年で見えなくなるでしょう。

kagaya星々の色彩。ピントをずらして撮影すると、星の色の違いがよくわかります。
青い星は表面の温度が比較的高い星。赤い星は温度が低い星です。
(2/14/16 20:46 のツイートより)

宇宙の決定的瞬間を教えてくれた『2001年宇宙の旅』

オリオン座の星のひとつが欠けてしまうのは寂しい気もしますが、そんな瞬間にもし巡り会えるのであれば、ぜひとも目の前で起こってほしいし、見逃したくない。宇宙の中で偶然起こる決定的瞬間は、私にとって、この世界でもっとも鮮やかな夢なのです。

私の悪夢は、そうした決定的な瞬間を撮り逃がすこと。またとない現象を目の前にしているのにカメラが動かない、バッテリーがなくなった、レンズが違う、さらにはカメラを持っていなかった…そんな悪夢にうなされて、私は今でも夜中に目が覚めることがあります。

私が宇宙の決定的瞬間に強く惹かれるきっかけになったのは、子どもの頃に見たスタンリー・キューブリックのSF映画『2001年宇宙の旅』がきっかけだったのかもしれません。
『2001年宇宙の旅』がアメリカで公開された1968年4月6日、その前日に私はこの世に生まれました。私が同作と出会うのは、小学4年生になった頃、再上映の機会でした。当時の日本はSFブームのまっただ中。『スターウォーズ』が公開され、SF映画が日本でもつくられ、SF映画の過去作の再上映がたくさんあった頃です。
私は父親に頼んで『2001年宇宙の旅』を見るために映画館へ連れて行ってもらいました。今の映画館とはまったく異なる、古びた、小さなスクリーンの映画館の暗闇の中で、私はその決定的瞬間に出会いました。映画の最初、月と地球、太陽が一直線に並ぶ「天体直列」のシーンでした。真っ暗で静かな宇宙空間、月の向こうに見える地球から眩しい太陽の光がもれる、その美しい構図を見た瞬間に、私は「これを見るために生きてきたんだ」というほどの衝撃に揺さぶられました。
この光景はどうしたら見られるのだろう? 天体がぴたりとならぶ瞬間、長い宇宙の時間では無数に起こる現象なのだろうけれど、一人の人間の寿命の間にはどうしたら出会えるのだろう? そんなことに胸がいっぱいになり、頭が真っ白になりました。

そんな決定的瞬間を、自分の目で見てみたい。宇宙規模の奇跡の瞬間に立ち会うことができれば、この宇宙のことを少しでも理解できるかもしれない。自分はそのために生まれてきたのかもしれない、とすら私は思います。
宇宙はいつも悠々と静かに存在しているけれど、時に心が震えるような奇跡の瞬間を見せるはず。私はそこに立ち会うチャンスを逃さないよう、自分のアンテナを空に向け、行動します。そのひとつが、私の星をめぐる旅なのです。世界中のいろいろなところで奇跡を受け止める網を広げ、宇宙の決定的瞬間を待ちたいのです。

オリオン座のベテルギウスに超新星爆発が起こるのならば、未来の私はきっと、その瞬間に、この空にカメラを向けているのだと思います。

(つづく)

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第一回:星空を追いかけて
第二回:ウユニ塩湖で「星の野原」に立つ
第三回:ペンギンにアザラシ、南極の虹。0℃の真夏に、徹夜で夢を見た。
第四回:南極で、宇宙の一部になる。