宇宙掃除 第十三回 宇宙飛行士が一番恐れる微小デブリ | 『宇宙兄弟』公式サイト

宇宙掃除 第十三回 宇宙飛行士が一番恐れる微小デブリ

2016.06.04
text by:編集部コルク
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第13回 宇宙飛行士が一番恐れる微小デブリ

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

自宅で掃除をするとき、燃えるゴミ・燃えないゴミを集めて捨てるだけではなく、掃除機をかけるはずだ。目に見えない小さなチリを掃除するために。

燃えるゴミ、燃えないゴミは手でつまむことができるので、数えることができる。でも、細かいチリは数え切れない。何百万?何十億?桁数すらわからない。

チリは厄介だ。目に見えないうえに、喘息やアレルギー、時には致命的な病気をもたらすこともある。チリにはいつ襲われるか分からない。だからみんな、普段から掃除機をかけてチリを集める。

実は、まったく同じことが宇宙で起きている。宇宙ゴミ(=スペース・デブリ)にも色んな大きさがあって、大きいゴミを処理するだけではもはや意味がないのだ。

いつ襲ってくるか分からない宇宙ゴミ。それが微小デブリである。

この写真を見て頂きたい。

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© ESA/NASA

2016年4月に国際宇宙ステーション(ISS)の窓に微小デブリが当たってできたヒビだ。

※このコラムは2016年5月に書いています

1mm以下の微小な宇宙ゴミが窓ガラスにあたり、7mmほどのヒビが入った。もしもう少し大きい宇宙ゴミだったら、窓ガラスを貫通して、ISSの中の空気が漏れだしたかもしれない。

直径10cm以上の大きい宇宙ゴミは地上の望遠鏡やレーダーで捕捉することができるので、数とおおよその軌道(通り道)が分かっている。その数は今日現在約23,000個。

そして、大きい宇宙ゴミと人工衛星が衝突しないか、24時間体制で分析しており、衝突予測が行われている。衝突しそうだと判断すれば、人工衛星側に警告が発せられる仕組みだ。警告を受けた人工衛星は、もし推進系(エンジン)を持っていれば、衝突を避けるために、エンジンを吹かして軌道を少し変更する。

しかし微小デブリは厄介だ。何しろ小さすぎて地上から捕捉できない。しかも、数が膨大だと思われる。衝突予測もたてられないので、当たらないように祈るか、当たっても大丈夫だと祈るしかない。

ISSに行った宇宙飛行士数名とお話したことがあるが、彼らが一番恐れるのは、打上げ時でも着陸時でもなく、ISS滞在中に宇宙ゴミに当たることだ。

スペース・シャトルが現役だったころにも、窓ガラスにヒビが入ったり、ラジエーターを微小デブリが貫通したりした。一歩間違うと人命を失うところだった。

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© NASA

宇宙飛行士が一番怖れているもの、それはいつ襲ってくるか分からない微小デブリだったのだ!

スペースシャトルは高度400km付近という、比較的地球に近い場所を飛んでいたし、ISSも同じような高度で飛んでいる。実はその高度は、相対的には宇宙ゴミが少なくて、比較的キレイな場所である。

人工衛星が一番好む高度600~1,000km(地球からほどよく遠く、ほどよく近い)というのは、高度400km付近よりも、もっともっと宇宙ゴミで溢れている!

下の図はあくまで大きい宇宙ゴミの分布だけれども、おそらく微小デブリの分布の形もこれに近いと考えられる。

高度600~1,000kmはひどい。

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© NASA

地上のチリは、あたっても痛くないが、宇宙のチリは秒速7~8kmで飛んでおり、当たるだけで衛星は壊れる可能性がある。

地上の場合、チリ対策として、部屋の中は掃除機かけるが、外出するときはほこりから守るためにマスクをする。決して外のほこりを全部掃除しようとは思わない。範囲が広すぎて掃除しきれないからだ。

宇宙も同じで、宇宙の微小デブリは吸い取るのではなく、当たることを前提にしてちゃんと設計上防御できるようにしておかなければならない。そのために、どれくらいの大きさのものがどういう風に分布しているのかを正しく把握すること、それを人工衛星やロケットの防御設計に反映 することが必要だ。

大きい宇宙ゴミの把握のみでは不十分で、微小デブリの計測を継続的に続けないと、本当の宇宙環境の変化を把握することができない。まず、世界は現時点での正しい微小デブリの分布図を手に入れないといけない。でも残念ながらそれが世界にはまだない。

どうしてこのような「基礎的な」情報を今まで宇宙機関が得ることができなかったのか。それは、今この2010年代後半にしか、この情報を得るためにうまく諸条件が揃わなかったからだ。 諸条件とは、

1. 宇宙空間で微小デブリを感度良く計測できるセンサーの出現
2. 超小型衛星の出現
3. お金の出し手の出現

である。

微小デブリを計測するためのセンサーの開発は世界各地で長年行われてきた。問題はどうやってノイズが少なくて、シンプルで、多くの情報を取れるセンサーを開発できるか、だった。僕たちがやろうと思ったタイミングで、本当にノイズが少ないであろうと思われるJAXAのセンサーが開発・製造された!だからそれを活用させて頂くことにした。

次に、微小デブリを計測するための人工衛星が必要なのだが、大型衛星を使うと数百億円もかかってしまう。費用対効果が悪い。なるべく小型の人工衛星が必要だった。人工衛星は実はよりよい性能を求めて15年前まで大型化する一方だった。そこから、小型化の波が出てきて、小型な衛星でもそれなりの性能を持つようになったのは、この3−4年のことだ。

Astroscaleでは最先端の超小型衛星(一辺の長さが50~70cm)である「ほどよし」の開発チームが入ってくれていたので、超小型衛星開発には慣れていた。だから、Astroscaleが開発する人工衛星は微小デブリ計測衛星開発に最適だった!

こうして、センサーと超小型衛星という2つの条件がタイミングとしてマッチした。

そして最後に、3つ目の条件であるお金の出し手との出会いが必要だった。

このような宇宙環境を把握するための科学的ミッションは、ビジネスになりにくい。本来的には国や宇宙機関がやるべきだ。

だけど、なるべく早くやるべきだと考えていた。大型デブリ除去も重要だが真っ先に取り組むべきは微小デブリだと思っていた。ISSの窓ガラスにヒビが入ったように、これは「今の問題」なのだ。

国に提案して予算獲得することも考えた。でもそれは2つの意味で良くなかった。一つは、自由な啓蒙活動ができないことだが、もう一つはものすごく時間がかかることだった。宇宙ゴミ問題に対する政府の感度は決して高くない。世間の認知がまだまだ低く、政治的な課題順位が低いからだ。

超小型衛星を使って軌道上で微小デブリを計測しようというミッションを発想した九州大学の花田教授の意見も踏まえ、僕たちは国ではなく、自分たちでお金を探すことにした。きっとその方が、僕たちっぽい!と思ったからだ。早く動けるし、この問題を正しく世の中に伝えていけると思ったからだ。

お金探しは簡単じゃない。また、お金が出てくればいいものでもない。いくつかの会社を回り始めた。

僕たちは世界で初めての微小デブリの分布データをとってやろうと、このミッションに前のめりになっていた。お金の目処が立つ前に、ロケットの打上げ契約を結んでいた。

ロケットというのはものすごく値段が高い。そして恐ろしいことに前払いなのだ!分割払い制度はあるけど、やっぱり打上げ前に払い切らないといけない!だから、打上げ契約はサインすると同時に大きなお金がかかる。それを承知で僕たちは契約にサインしてした。

その後、ラッキーなことに、この微小デブリの問題に心底共感してくれる、素晴らしい会社に出会えた。資金面と技術面で大きなサポートを頂くことになった。

ただ、想定外だったのは、その会社のパッションが僕たちを越えるほどだったことだ。OSG社。愛知県豊川市に本社を構えるこの会社の歴史に裏打ちされた熱さに僕たちの心が震えることになる。

次回は、微小デブリ計測衛星 IDEA 1 がOSG社と出会い、IDEA OSG 1になった出会いについて書きたい。

「第14回 IDEA OSG 1」に続く

***

〈著者プロフィール〉
岡田 光信(おかだ みつのぶ)
1973年生まれ。兵庫県出身。シンガポール在住。東京大学農学部卒業。Purdue University MBA修了。宇宙ゴミ(スペース・デブリ)を除去することを目的とした宇宙ベンチャー、ASTROSCALE PTE. LTD. のCEO。大蔵省(現財務省)主計局に勤めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。自身で経営を行いたいとの思いが募り、IT会社ターボリナックス社を皮切りに、SUGAO PTE. LTD. CEO等、IT業界で10年間、日本、中国、インド、シンガポール等に拠点を持ちグローバル経営者として活躍する。幼少より宇宙好きで高校1年生時にNASAで宇宙飛行士訓練の体験をして以来、宇宙産業への思いが強く、現在は宇宙産業でシンガポールを拠点として世界を飛び回っている。

夢を夢物語で終わらせないための考え方が記されている著書『宇宙起業家 軌道上に溢れるビジネスチャンス』を刊行。

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