ヒビトが月に行くためには-小山宙哉の宇宙兄弟公式サイト

宇宙掃除 第二回 ~ヒビトが2026年に月に行くために~

2015.05.18
text by:編集部コルク
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第二回 ヒビトが2026年に月に行くために

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

 
1972年人類は月にいった。
今でも何度も再放送されるアポロの偉業は、誰もが一度は目にしたことがあるだろう。

宇宙には既にISS(国際宇宙ステーション)もあって、ロケットの打ち上げ自体は珍しいことではなくなっている。イーロン・マスクが、火星行きのロケットの打ち上げ実験をしているニュースを耳にすることもある。
一度行った月には、いつでもいけると、みんな思っている。
行かないのは、もはや敢えて行く必要がないからだろうって、勝手に推測をしている人がほとんだ。

でも、それは違う。
実は、月へは行きたくても行けないのだ。
「人類は、もう月には行けないかもしれない」
その事実を知っている人は、世の中にどれだけいるだろう?

宇宙兄弟の中で日々人も六太も、月面に行った。
それは、完全にマンガの中の出来事になってしまう可能性がある。
今、開発されているロケットが、月や火星へは行けない可能性がある。

なぜなら、宇宙にはデブリ(ゴミ)があるからだ。

2003年、コロンビア号は、大気圏に再突入した時、空中分解してしまった。打ち上げ時に耐熱タイルが損傷していたことに気づかず、再突入したことが事故の原因だ。

宇宙船のちょっとした傷は、地球に戻ってくる際の致命傷になる。
デブリがあると、宇宙船が傷ついてしまう可能性はぐっと高まるし、予測するのも難しい。

みんな、本気を出せばいつでも月にいけると思っているけど
月には、もういけないのだ。行くことはできるかもしれない。でも、安全に戻って来れないのだ。

しかし、人類はその問題を直視していない。

なぜだろう?CO2削減のために、人々は様々な活動を起こしている。なのに、デブリのために、活動を起こす人はなぜいない?

僕は、デブリ問題は、直視するのがつらすぎるからだと思う。

CO2が増えていって、地球温暖化が起こっていることは、どこまでが人類のせいで、どこまでが自然のせいか正確にはわからない。他人が起こしたトラブルを解決する方が、気は楽だ。

デブリ問題は、100%人類のせいだ。自分たちが悪いと分かっている問題に取り組むのは、精神的にしんどい。だから、みんな直視せず、いつかどうにかなるだろうと、楽天的な考えで来てしまったのではないか?

もし、1972年以降も人類がちゃんと月面開発を続けていれば、今ごろ10,000人くらい月面に住んでいてもよくないか。月面に会社があって、その会社が上場してもよくないか。そろそろ月面で 国籍を持たない「ルナリアン」が生まれてもよくないか。

デブリ問題に直視しよう。
時間は巻き戻せないけど、今からでも、「ルナリアン」が生まれる世の中にしたい!と僕は考えた。

はじめにしたことは、「デブリのせいで月へは行けない」という僕の仮説が、真実か調べることだ。

それで、軌道研究をしている九州大学の花田研究室と一緒に研究をすることにした。

「アポロと同じ軌道で月に向かってロケット打ち上げたら、ぶつかる可能性のあるデブリはあるのか。あるとすると事前にいくつ除去しないといけないのか。」ってことを調べてもらった。

答えは、驚きだった。
「24個。」

大きなデブリを24個除去してからでないと、そもそも有人ロケットを打ち上げることができない。小さなゴミに至ってはそもそも観測できていないので分からない。もっと多いだろう。

僕たちは、デブリに閉じ込められている。高度800kmのところにある赤い帯は、デブリの層だ。

高度800km前後は人工衛星とって大人気の軌道だ。その結果、多くの使い終わった衛星が残り、特に多くのスペース・デブリが散乱している。デブリ同士が衝突を繰り返し、さらにデブリが増えている。

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ISSがあって、そこへは安全に往復をしているじゃないか!と思う人がいるかもしれない。
スペース・シャトルや国際宇宙ステーションなど、人がいる宇宙船は、全部この赤い帯の内側で、地球すれすれを飛んでいる。ISSは高度400kmのところにしかない。

アポロの宇宙飛行士たちは、丸い地球をみたが、ISSの宇宙飛行士は地球の一部を宇宙からみているだけだ。

1972年以降、人類はこの赤い帯を越えていない。そして、越えられない。

僕はこの研究結果を論文にして、2014年1月にアメリカの宇宙学会で発表した。質問は多数あった。だが、みんな、研究の方法論を聞くばかりだった。

僕は拍子抜けをした。人類が犯してしまったミスを、僕と同じように恥じて、デブリを何が何でもなくさなければいけない!と考える人は、あんまりいなかった。

このスペース・デブリという宇宙の環境問題は、100%人間のせいだ。
だって1950年にはスペース・デブリは1つもなかった。下の図のように。

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100%人間のせいだったら、100%人間の力で元通りにして、もう一度、月に行きたい!

その衝動が、僕を突き動かしている。

そして、その衝動に賛同してくれるのは、宇宙関係の仕事に従事している人たちだと思っていた。

でも、予想外なことに、それはある宇宙とまったく関係のない民間企業だった。

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〈著者プロフィール〉
岡田 光信(おかだ みつのぶ)
1973年生まれ。兵庫県出身。シンガポール在住。東京大学農学部卒業。Purdue University MBA修了。宇宙ゴミ(スペース・デブリ)を除去することを目的とした宇宙ベンチャー、ASTROSCALE PTE. LTD. のCEO。大蔵省(現財務省)主計局に勤めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。自身で経営を行いたいとの思いが募り、IT会社ターボリナックス社を皮切りに、SUGAO PTE. LTD. CEO等、IT業界で10年間、日本、中国、インド、シンガポール等に拠点を持ちグローバル経営者として活躍する。幼少より宇宙好きで高校1年生時にNASAで宇宙飛行士訓練の体験をして以来、宇宙産業への思いが強く、現在は宇宙産業でシンガポールを拠点として世界を飛び回っている。

夢を夢物語で終わらせないための考え方が記されている著書『宇宙起業家 軌道上に溢れるビジネスチャンス』を刊行。

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