『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第1章 どんな人でも必ずリーダーになれる(4/4) | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第1章 どんな人でも必ずリーダーになれる(4/4)

2018.06.14
text by:編集部コルク
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「人々に共感されるリーダーシップには、何があるのか」をテーマにした第4回。プレゼンテーション番組『TED』でサイモン・シネックが提唱した「ゴールデンサークル」を参照に、六太がピンチの際、なぜ自然と協力者が集まるのかといった秘密を解明!

人々に共感される リーダーシップの秘密

共感を呼ぶリーダーシップを発揮している人には、必ず「なぜ」がある。

マーケティングコンサルタントのサイモン・シネック氏が『TED』で発表した「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」というプレゼンテーションは、大変反響を 呼びました。彼はこの中で、優れたリーダーたちには共通する思考や行動があり、その方式を「ゴールデンサークル」として提唱しています。
このプレゼンテーションは『TED』で閲覧できますので、ぜひみなさんにもご覧 いただきたいのですが、「ゴールデンサークル」とは、物事を左記の順番で考えて、 伝えることで、人々から共感を得られるというものです。

①Why(なぜ・なんのために)
②How(どうやって)
③What(何を)

多くの場合はこの順番が逆になっており、③の「What」から入って、②の「How」で完結。①の「Why」の部分は、重要視されていないことがほとんどです。 発信している本人でさえ、「Why」を忘れていることもあります。
でも「What」や「How」は、理解はできても共感はできません。
サイモン氏も、「人は“何”にではなく、“なぜ”に動かされる」と発言しています。 プレゼンでは、1から3の順番でメッセージを発信している事例として、アップル社が紹介されました。

①なぜ?
我々のすることはすべて、世界を変えるという信念で行っています。違う考え方に価値があると信じています。

②どうやって?
私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて親しみやすい製品です。

③何を?
こうして、すばらしいコンピューターができあがりました。

アップル社から新製品が出るたびに徹夜で店の前に並ぶ人たちは、デザインや商品そのものに共感しているのではなく、「Why」の信念に共感しているのだと、サイモン氏は語ります。もちろん、アップル社の発信するメッセージすべてに「Why」 がわかりやすく込められているわけではないですが、「Why」を通して生まれた言葉だからこそ、人々はその潜在的なメッセージを受け取っているのだと思います。
一方、日本の携帯電話メーカーは、表現の趣向こそ違うものの、デザインやスペック、料金などをこぞってアピールしていますね。これは「What」や「How」 なので、人々は共感するのではなく、比較・差別化という視点でジャッジをしています。
どちらが正解、というものではありませんが、共感されるリーダーシップを発揮するためには、「Why」をしっかりと認識しておくことが大切です。
プロジェクトであれば、「なぜ、私たちはこの企画(案件)をやるのか」という視点です。ちなみに「利益のため」は結果であって、「Why」にはなりませんのでご注意を。また、プロジェクトに限らず日々のアクションでも「Why」を伝えることで共感が生まれ、行動に変化が起きていきます。
「この資料、クライアントごとにまとめておいて」
これは、「What」と「How」だけのメッセージ。もしここに、
「そうすれば、クライアントごとの傾向が明確になって、私たちの営業戦略が立てやすくなると思うんだ」
と、「Why」を入れたとします。頼まれた人はそこで初めて、依頼した人に共感することができるのです。
「なるほど、それはいいアイデアだ。だったら、比較しやすい構成にしよう」
そう考え、ただまとめるだけの資料よりも有益なものを仕上げてくれるでしょう。

人の心を動かすのは、「支配」ではなく「共感」です。
いくら「Want」を発信してみても、その人自身が「Why」を自覚していなければ、周囲から共感してもらうことはできません。物事を考える・行動する際は、まず「Why」を明確に。そうすれば、あなたの信念を信じてくれる人が必ず現れます。

『宇宙兄弟』に登場する、月面基地プログラムのマネージャーであるウォルター・ゲ イツは、リスクや失敗を徹底的に排除しようとする合理主義者。六太の前に何度も壁として立ち塞がります。ゲイツの宇宙開発に対する姿勢や、そのやり方に抵抗感を抱いた六太は、ある日、ゲイツにこう問いかけました。

「ゲイツさんは、宇宙の何が好きですか?」

その場では「NASAで働く者が、誰しも宇宙好きだと思うな」と切り捨てたゲイツですが、六太の言葉はやがて、「そもそも、なぜ(Why)自分はこの仕事に関わっているのか?」という、動機を思い返すきっかけとなったのです。六太は、ゲイツ の「Why」を明確にしようとしたのですね。
この動機とは、すなわちモチベーションのこと。
「Why」に対する答えが、モチベーションなのです。

ゲイツは六太の問いかけによって、かつて自分が月面基地のモジュールを何度失敗しても黙々と作り直していたことに気づきます。そう、忘れていた自らのモチベーションを思い出したのです。(余談ですが、よく「モチベーションが下がる」といった 表現をしますが、動機は下がったりしません。上がったり下がったりするのは「テン ション(緊張感)」で、モチベーションは「忘れている」が適切な表現でしょう。)

チームにおいても、「Why」を共有しておくことは大切です。
「私たちはなぜ、このプロジェクトを行うのか」
この認識がずれていると、「How」で大きな差が出てくることもあります。
そんなときは、「私たちの“Why”ってなんだっけ?」と、立ち返ってみましょう。

〜心のノート〜
「Why」こそが、人の心を引き寄せる。 自分とチームが迷子のときは「Why」に立ち返ろう

 

敵は「倒す」よりも「消し去る」ほうがいい

僕には、ライバルがいません。
なぜなら僕は、「無敵」だからです!

……このように書いてしまうと、完全に自意識過剰な人ですね。
理由を説明しますと、この「無敵」とは、一般的な意味とされている、あらゆる敵を蹴散らす天下無双の「無敵」ではありません。
「そもそも、最初から敵などいないのだ」という考え方です。

ライバルや敵を作り上げることで、やる気や闘争心を引き出すという手法は、現代社会において頻繁に行われています。
学校で成績優秀者を上位から発表するのもそうですし、会社内で営業部の1課と2 課が売り上げの成績を競うというのも、このパターン。
クライアントも案件の内容も違うし、同じルールで戦っていないのだから競争してもしかたがないのですが、こうした競争心が日本の経済を成長させてきたと考えている人は少なくありません。
「競合他社」という言葉がありますが、これも勝手に競合にしているだけで、相手から頼まれたわけでも、宣戦布告されたわけでもありませんよね。たとえ相手がライバル宣言してきたとしても、こちらがそれに合わせる必要も義理もないのです。
それに、一見すると競争しているように見えますが、実際は差別化しているだけ。
携帯電話会社も、コンビニエンスストアも、牛丼チェーン店も、みんな他社との違 いを一生懸命に見つけてアピールしているに過ぎません。

『宇宙兄弟』でも、六太とNASAの宇宙飛行士であるビンセント・ボールドが「敵」 について語り合うエピソードがあります。
ビンス(ビンセント)は元軍人で、無駄を徹底的に排除する、超・効率重視型の人間です。
その信念は、「アスキャン(宇宙飛行士候補生)を加速度的に成長させるためには、〝競争〟させるのが一番手っ取り早い」と断言するほど。
ドライなようでいて、じつは人間味のある魅力的なキャラクターなのですが、ビンスは六太に、「私にとっての〝敵〟は、成果ばかりを追求し、宇宙飛行士の存在を否定 するマスコミ、無人機のみの宇宙開発を提唱する科学者や技術者、天文学者——。人が宇宙に行ってこその宇宙開発であり、我々の邪魔をする者はすべて敵です」。そう告げます。続けて「君にとっての敵は誰ですか?」と質問すると、六太は戸惑いながらもこう答えました。

「俺の敵は、だいたい俺です」

ビンスが敵だと指摘した人々も、六太にとっては「みんな宇宙が好きでやっている人々だから、いいんじゃないですかね〝仲間〟ってことで」となります。
とにかく六太は、どんなときでも一貫して敵を作りません。相手が六太を敵(ライバル)と認識して挑んでくることはあっても、当の六太自身は、その人をまったく「敵」 と見なしていないのです。まさに「無敵」です。これは、六太のすばらしい部分だと思いますし、六太を敵視していた人間が、やがて彼を認めてしまうのも理解できます。

僕たちは、何かうまくいかないことがあると、つい誰かのせいにしたり、環境や時代のせいにしたりしがち。これも一種の「敵」を作り上げる行為です。
敵と競い合うのは誰だって疲れるし、楽しくありません。もしあなたが、競争によ ってストレスを感じることがあったなら、「無敵」を思い出してください。きっと、 目の前の敵なんていなくなります。
競争という呪縛から解き放たれることで、グッとラクになれるはず。

〜心のノート〜
本物の「無敵」になれば競争というストレスから解き放たれる。

(つづく)

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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。

カリスマ的な存在感もなく、リーダーとは無縁のタイプ。でもなぜか“彼”がいると、物事がうまくいく……。累計2000万部を誇る人気コミック『宇宙兄弟』に登場するキャラクターや数々のエピソードを、「リーダー」という視点から考察した書籍『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』。目まぐるしく変化し先が見えない現代で、「正解」を模索する人たちへの生き方・働き方のヒントとなる話題の本書を、『宇宙兄弟』公式サイトにて全文公開!

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<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。

企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。

文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。