『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』最終章 魅力的なリーダーが備えているもの(1/2) | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』最終章 魅力的なリーダーが備えているもの(1/2)

2018.07.06
text by:編集部コルク
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リーダーとして先頭を走っているわけではないのに、自然と周囲の人々に影響を与え、協力者が集まってくる六太の魅力を改めて考察。特別な能力でも心理テクニックでもない、シンプルだけど私たちにも確実に実践できる、重要なメッセージが詰まっています!

失敗しても 許される人・許されない人

「失敗覚悟でやってみませんか」

これは、月面ミッションのアサインをジョーカーズが獲得するため、六太がプログラムマネージャーであるゲイツに1億ドルの経費削減案をプレゼンテーションした際に発したセリフです。
六太が出したアイデアの是非に関係なく、僕はこの言葉を言えることの素晴らしさを感じました。
六太は決して、「自分がやりたいから」という理由で無責任に訴えたわけではありません。
失敗は誰でも怖いものです。
ましてや自分が発した「Want」であれば、その責任は自分に跳ね返ってくるわけですから、なおさらでしょう。

ではなぜ、六太は失敗を恐れずにいられたのでしょうか?
その答えは、これもまた六太のかつてのセリフに込められていました。

「本気の失敗は価値がある」

六太は、失敗にも価値があるものと、そうでないものに分かれることを、ちゃんと理解しているのです。

なんとなく挑戦してみて、なんとなく失敗で終わったミッションに価値はありません。
ですが全力で取り組んで、あと少しで成功に手が届かなかった失敗には価値があります。
事実、六太は1億ドルの経費削減のアイデアを得るため、JAXAやNASAの技術者、学者、同僚の宇宙飛行士たちに何回も相談し、知恵を集め、突破口を見つけ出そうとしています。月面ミッションに対してこれほどの熱量と覚悟があったからこそ、「地上での100の試験より、月での一度の失敗から得られるもののほうが、私たちが求める答えに近いはずだ」と言い切れたのです。

失敗やリスクを何よりも嫌うゲイツは、「ミスをしない男」として上司から認められ、NASAのプログラムマネージャーの地位を獲得しました。
しかし、そんなゲイツ本人も「仕事を一度も楽しんだことがない」と認めています。 そして、「部下から信頼されるような上司にはなれていない」とも……。

「ミスはしない。挑戦もしない。だが仕事はつまらない」
「ミスをすることもある。それでも仕事が楽しい!」
あなたなら、どちらのスタイルに共感しますか?

失敗を恐れ、その場に留まろうとする人は、誰かの心を揺さぶって「リード」する ことはできないと、僕は思います。
「でも、失敗しても責任が取れない……。辞める覚悟を持てばいいの?」

そう考えて踏み出せない人もいるかもしれませんが、「責任を取ること」は「辞めること」ではありません。
最後まで諦めず、周囲の仲間の力を借りながらやり遂げようとチャレンジし続けることこそが、挑んだ者の責任なのです。
「敗北多き挑戦者」にはきっと、自然と人が集まるようになるはずです。

〜心のノート〜
失敗を覚悟できるということは、 それだけの準備と努力をしていた証。

協力者が集まってくる リーダーの特徴とは

六太はどんなときでも、自分がリーダーとして先頭に立っているという自覚はあり ません。それにもかかわらず、どうしてみんな、六太の言葉に耳を傾け、共感し、強制ではなく自分の意思として行動(協力)するのでしょうか。
それは、六太が口先だけでなく実際に誰よりも知恵を絞り、誰よりも多く動いて物事の「流れ」を作り、そこに周囲を巻き込んでいるからなのです。

「リーダーシップを発揮する」と言っても、その手段はさまざま。やろうと思えばアイデアや指示だけを出して、実働は別のメンバーに任せるということも可能です。
現実にも、そういったシステムで回っている組織は数多く存在します。
「上の人間は簡単に言うけどさ、実際に動くほうは、やってらんないよ!」「〇〇部長はいつも軽いノリで“やろう”なんて提案するけど、現場のことを全然理解していないよね」といったセリフ、職場のあちこちで聞かれますよね。

しかし六太は、絶対にそれをやりません。
たとえ自分に直接関係のないことでも、周囲に呼びかけた以上は、それを達成すべく自らが奔走します。
もちろん、そこには必ず自分なりの「Want」が存在しています。だから頑張れるし、自分の行動に納得もしています。
こうして言語化してしまうと当たり前のことのように感じますが、実際に続けるのはとても難しいこと。
ちょっとした言葉遊びのようですが、「自ら」は「自ず」を引き寄せます。
六太が「自ら」考え、行動しているからこそ、その姿を見て共感した人たちが、「自ず」と協力やアドバイスを申し出てくれているのです。

誰かを動かそうと考えるのではなく、まず自分が動いてみる。
そうすれば自ずと、協力者が現れるはずです。

また、これは信頼関係においても同様です。
「チームのメンバーから、信頼してもらえていない気がする……」
「どうしてもっと、私を信じて(頼りにして)くれないんだろう?」
そんなふうに感じることがあるのなら、まず自分が相手に対して心から信頼しているかを振り返ってみてください。……どうですか?

心理学では「好意の返報性」と言われていますが、自分が好意を伝えると相手からも好意を持って接してもらえるという考え方があります。「先払いの法則」などと表現する人もいますね。
相手に自分を信じてほしいのなら、まずはあなたが相手を信じてみましょう。

六太と同期の宇宙飛行士・新田との信頼関係も、六太がまず新田を信じたことから大きく変化し始めていきました。
共に参加したサバイバル訓練で、ほかのチームと順位を争っているにもかかわらず、 落とした携帯電話を探しに戻ると言い出した新田を、六太は理由も聞かないまま信じたのです。
常にクールで感情を出さない新田は、六太にとって最初から打ち解け合えるような関係ではありませんでした。でもそんな六太の態度に、新田は自分にはひきこもりの弟がいること、その日、彼からかかってくるはずの電話を絶対に逃したくないことを打ち明けてくれました。片や六太も、「優秀すぎる弟を持つ兄」というコンプレックスを、新田に打ち明けます。

さらに別のエピソードでは、念願だったISSでのミッションにアサインされていたせりかが、ISS廃止の署名活動に六太も参加しているという噂を耳にし、本人に事実を聞こうかと悩むシーンが登場します。
このとき、せりかはもし六太が署名活動に参加していなかった場合、自分の行為によって「JAXAの仲間に疑われた——っていう、嫌な気持ちにさせちゃうよね」と考えました。そして六太という人間を改めて思い返し、「疑うのはやめよう。私の方 こそ信じないと」と、決意します。
せりかは、これまで共に過ごしてきた年月の中で、六太が自分のISSに懸ける思いを信じ、「Why」に共感してくれているという確信があったからこそ、自分も六太を信じるべきだと思えたのです。

信頼関係も、協力してくれる仲間の存在も、求めているだけ・待っているだけでは 手に入りません。
まずは自分から。
それが「リード」へとつながります。

〜心のノート〜
「自ら」は「自ず」を引き寄せる。協力者が欲しいなら、誰よりも考え、誰よりも行動しよう。

(つづく)

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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。

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<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。

企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。

文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。