宇宙兄弟リアル

宇宙兄弟リアル

『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたち!そのモデルとなったリアル(実在)な人々を宇宙開発最前線の現場『JAXA』の中で探し出しリアルな話を聞く!

〈宇宙兄弟リアル〉上垣内茂樹/宇宙飛行士・運用管制ユニット長 ~宇宙飛行士の支援業務と『きぼう』管制を統括する責任者~(後半)

〈宇宙兄弟リアル〉上垣内茂樹/宇宙飛行士・運用管制ユニット長 ~宇宙飛行士の支援業務と『きぼう』管制を統括する責任者~(後半)
Credit:JAXA

日本の有人宇宙開発の生き字引
宇宙飛行士の支援業務に注ぐ情熱

大学院で機械工学を修めてから、JAXAの前身であるNASDA(日本宇宙開発事業団)に入社。長年に渡って有人宇宙開発の現場一筋に歩んできた上垣内茂樹。

その間、宇宙飛行士の訓練担当、実験管制、ISS計画の国際調整、宇宙利用推進室長、宇宙飛行士支援室長、宇宙飛行士・運用管制ユニット長など、肩書は変われど、有人宇宙開発を推進していく仕事には変わりなく、数多くの宇宙飛行士と共に仕事をし、また有形無形問わず、さまざまな形で宇宙飛行士たちの活動を支援することに情熱を注いできた。

その情熱の裏には、宇宙開発とは『人類の進化』という熱い想いがあるのだ。

Credit:JAXA
ISS長期滞在ミッションを終えた大西宇宙飛行士のリハビリテーションの概要について説明する上垣内さん。

 

Comic Character

星加正

「俺の心はずっと躍りっぱなしなんだ!」

【職業】   有人宇宙技術部副部長

【出身地】  日本

【略歴】
宇宙センターに足繁く通う幼き頃の六太と日々人の兄弟を密かに見守り続けていた星加正。「あーいう奴が将来、宇宙飛行士になる」との予感は的中。過去、自身も宇宙飛行士選抜試験を受けたが夢は果たせず、その夢を若い宇宙飛行士に託してサポートを続けている。宇宙飛行士を想い、情と冷静さで常により良い道を探る。

Real Character

Credit:JAXA

上垣内茂樹

「何でもそうですけど、大切なのは結局『想像力』です」

【職業】   宇宙飛行士・運用管制ユニット長
(現在、きぼう利用センター特任担当役)

【生年月日】 1957年

【出身地】  日本 広島県

【略歴】
1980年3月 東京大学大学院機械工学専門課程修士課程修了
1982年4月 NASDA(宇宙開発事業団、現在のJAXA)入社。東京本社および宮城県角田ロケット開発センターにてロケットエンジンや人工衛星のスラスタの開発等を担当
1985年4月 毛利・向井・土井宇宙飛行士の計画訓練、健康管理計画、宇宙実験の手順書を作成し、日本人初の宇宙飛行士たちの訓練を担当
1992年 毛利宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトルでの「ふわっと92」ミッションにおいて、地上管制官としてNASA管制室から宇宙実験を指揮。この貢献を評価され、NASA宇宙飛行士室より「シルバー・スヌーピー・アワード」を受賞
1994年 向井宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトルでの「第2回国際微小重力実験室(IML‐2」ミッションにおいて、宇宙飛行士の訓練と宇宙実験を指揮
1998年 向井宇宙飛行士の2度目のフライトとなったSTS‐95において、宇宙飛行士の訓練と宇宙実験を指揮。当時77歳で最年長の宇宙飛行を行ったジョン・グレンの訓練も担当。そのミッション後は、国際宇宙ステーション計画の実験準備や計画の国際調整を担当。その間、文部科学省に宇宙利用推進室長としても出向。NASDAにおいては宇宙飛行士支援室長として宇宙飛行士の活動の支援も行う
2009年 宇宙飛行士候補者選抜において審査員を務める
2014年 JAXA広報部長を務める
2016年 宇宙飛行士・運用管制ユニット長として、宇宙飛行士の訓練、健康管理、宇宙医学研究の実施、および「きぼう」の地上管制官活動の責任者を務める
2018年 きぼう利用センター特任担当役として「きぼう」での宇宙実験の推進に従事

Credit:JAXA

〈宇宙兄弟リアル〉上垣内茂樹/宇宙飛行士・運用管制ユニット長 ~宇宙飛行士の支援業務と『きぼう』管制を統括する責任者~(前半)

選抜試験、リアル

●宇宙飛行士候補者の選抜についてお聞きしたいんですが

上垣内「それはNASDA(JAXAの前身)で宇宙飛行士支援室長を務め終わり、JAXAとして改組(2003年~)になってからですね。選抜に直接絡んだのは今の油井・大西・金井さんの3名が選ばれた2009年に行われた選抜です。審査員を務めまして。まぁ実際には50人に絞り込んだ段階のところから面接に参加して、最終選抜テストの閉鎖環境施設の審査と、最終選抜者10人の面接官を務めました。50人から絞る時はいろいろありましたけど、最後の10人は本当に誰が宇宙飛行士になってもいいなというくらい、能力的にも性格的にも素晴らしい人ばかりでしたね」

●閉鎖環境施設の審査は実際どんな感じなんですか?

上垣内「あの時は、私が審査を担当したのは2チームに分かれてレゴでロボットを作り、その完成度を競うという作業のタイミングでした」

●それぞれの審査員で審査するシチュエーションは分担してたんですか?

上垣内「そうですね。彼らは1週間の缶詰生活の中、朝から晩まで課題を出されて作業してますから、それを一人が全部見るわけにはいかないので。審査員は課題ごとに分かれて審査しました。私が見たロボットを作る課題というのは、当然チームワークが大切で、リーダーシップやフォロワーシップなどが重要になっています」

Credit:JAXA
筑波宇宙センターの宇宙飛行士養成棟にある、閉鎖環境適応訓練設備。

 

Credit:JAXA
設備内の食堂区画。シンプル過ぎて落ち着かないので、絵を飾りたくなる。

 

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寝室区画。カプセルホテルのうようで、何となくワクワクしなくもないが…。ここに1週間は辛い。

 

Credit:JAXA
シャワールーム。一般的なホテルのそれとあまり変わらないので、ちょっと安心か。

●加点法ですか、減点法ですか?

上垣内「評価ポイントを設定して、項目ごとに数字に置き換えてやっていきますけどね。まぁ総合的な判断です。こちらからいろいろプレッシャーを与えて、それに対してどう対応するかというのも見ていましたね」

●どんなプレッシャーを与えたんですか?

上垣内「最終選抜者の10人は本当に優秀ですから、チームの調和を上手に保ちながら淡々とやるわけです。それでこのままじゃ評価にならないのでプレッシャーを与えなきゃいけない。1週間の最終日にロボットを完成させてプレゼンテーションさせる予定だったのを、『やっぱり前倒して2日前に中間評価するから』と完成を早めさせたんです」

●慌てますよね

上垣内「それでこちらは中間評価でとにかくボロクソ言うわけですよ。『こんなもん宇宙で使えるわけねぇ』とかね(笑)。でも実はそのロボットは審査員の中では『これは面白い!と非常に評価が高かったりするわけです。それを作ったチームも自信満々で『これは絶対に面白いしウケる』とドヤ顔でプレゼンテーションをしたわけです」

●ドヤ顔だったんですか!

上垣内「自信に溢れてましたね(笑)。『これでどうだ!』という顔の彼らに、これは私じゃなかったんですが、最初にコメントした審査員が一言、『これ、面白くないね』と。そこから審査員みんなで、とにかく否定的なことを言い続けたわけです。一所懸命作ったのをダメ出しする、そんな風にプレッシャーを与えて反応を見ました」

●閉鎖環境でストレスも溜まってきた中で、精神的にもなかなか厳しいものがありますね

上垣内「後で彼らに面接をした時、この話題が出まして、『あの時は全人格を否定されたような気がしました』と言っていました。相当ショックだったみたいですけど」

●NHKスペシャルで選抜の模様がドキュメンタリーになって放送されたのを観たのですが、ゼッケンの番号を逆さに付けてしまった方がいました。実際あれが評価を左右してしまったりしてたんですか?

上垣内「それだけどうこうはないですね。あれはこちらもモニターで見ていて当然気が付いていたんです。掛け間違えているなと。誰が気付いて教えてあげるのかな、というのは見てましたけど。まぁ最後の10人はそれくらいの事で動揺する人達ではなかったですけどね」

その時、椅子のネジは緩んでいたのか!?

●『宇宙兄弟』の中で、星加さんが面接室の椅子のネジをわざと緩めておいて、それに六太と何人かの候補者が気付いた、という描写があるんですが、ああゆうことやったんですか?

上垣内「そんな酷なことはしないです(笑)。あの漫画は選抜試験の前に出てましたよね。だからもしかしたら面接時に椅子が壊れているんじゃないかって、候補者の中で冗談で話していたとは聞きましたが」

●当時選抜に応募した963名の中で、椅子のネジが緩んでいた時のシミュレーションをしていた人が何人かいたと思いますね。その時こうゆうリアクションしたら印象イイんじゃないかと入念に考え抜いてた人が、絶対いたはずです(笑)

上垣内「まぁ先ほども話したように、何か状態が拮抗して評価がしずらい時などは、プレッシャーを与えて反応を見るというのはありますけどね」

●でも「選ぶ」というのはどんな心持ちなんでしょうか。みんな情熱を持って宇宙飛行士として働きたいという人たちを振るいに掛けなきゃいけないという状況で、自分の選球眼にも自信を持っていなくてはならないですし…。何か気を付けていることはありますか?

上垣内「うーん。これ、何でもそうですけど、大切なのは結局『想像力』ですよね。この人を選んで訓練をして宇宙へ飛ぶってなった時に、その人はどうなっているだろうか?その人とどういうチームワークが作れているだろうか?という事を想像しながら選ぶ。これしかないですね」

●のびしろも含めながら?

上垣内「そうです。当然、候補者は宇宙が専門じゃない人がほとんどですから。宇宙開発と宇宙飛行士の現実を知って、訓練をしていった時にどう成長するかなというのを想像しながら選ぶ。それが、当たるか当たらないかというのはありますけどね。あとはちょっと違う面ですが、宇宙飛行士という立場になれば、ある日突然有名人になるわけですから、それに耐えられるかどうかというのは見ますね。候補者本人にもそのことは聞いて確認しましたし」

Credit:JAXA
金井さんの訓練開講式にて(前列右端に上垣内さん)。背筋を伸ばし『入社式に出席した新卒社員』のような初々しい金井さんと、油井さんと大西さんとは半年遅れて宇宙飛行士候補者となった金井さんを迎え入れたJAXA職員の顔ぶれ。何だかほのぼのとした温かい写真。

情をはさむか、はさまぬべきか?

●これも漫画の中ですが、選抜試験の審査員の会議で、星加さんが六太を推薦するんですが、他の審査員が「私情をはさまないで下さい」と言うんです。そしたら星加さんが「情を挟はさむなってんなら、パソコンにでも決めさせりゃいい。人を選ぶのは結局人の情の部分でしょう」と返すんです。一緒に仕事をしたいと思ったから推すんだと訴える名シーンなんですけど、これについてどう思われますか

上垣内「それはあると思いますよ。宇宙飛行士に何が求められるかというと、協調性が大事なんです。要するに我々は、『誰と一緒に仕事をしたいと思うか?』というのは常に考えます。この人を宇宙飛行士にして、一緒に仕事をして支えていきたいと思えるかどうかというのは、色んなポイントを総合した時に出てくるものだと思いますね。宇宙飛行士が注目されるのは心・技・体が揃っているからです。健康な体で頭が良くて器用でという。でも知識や技術や体は後で訓練でも磨いていけます。そこで世界の宇宙機関でも宇宙飛行士を選ぶ時に何を一番重要視しているか?それはもうはっきりしていて、『心』ですね。要するに協調性なんですけど。どんな局面においても仲間と仲良く穏やかに、落ち着いた気持ちでミッションを遂行できる心を持っているかどうか、これが非常に重要です」

●心って、今までの生き方の積み重ねで形成される部分が大きいですし、そう簡単には磨けないですもんね

上垣内「今までの宇宙開発の歴史の中で、宇宙飛行士が原因で彼らの生命に関わるような事態になったというのは、心技体の中では『心』しかないんですよ」

●心が原因で危機的な事態になったケースがあるんですか?

上垣内「例えばチャレンジャーやコロンビアの事故、その他にも旧ソ連時代に死亡事故がありましたけど、これは宇宙飛行士が原因じゃないんです。あくまで宇宙船の技術的な問題です。それに今はテクノロジーが進化していますから、たとえ宇宙飛行士がミスオペレーションをしたとしても、すぐに生命の危機が来るわけじゃない。コンピューターで安全にリカバリーできるようにコントロールされていますからね。また体という面においても、今のソユーズは少々キツいんですけど、スペースシャトルでは77歳のジョン・グレンが飛べるくらい負担が軽かった。打ち上げも3Gくらいしか掛からなかったので、絶叫マシンより簡単なんです。今後も宇宙船が進化して宇宙飛行士の肉体的な負荷も軽減していくはずです」

●宇宙飛行士の「技」と「体」の面では、テクノロジーの進歩がカバーしてくれるわけですね

上垣内「ところが『心』、つまり協調性ですね。もっと大きく言うと人間性という部分になりますが、これは機械はカバーしてくれないわけです。実際に旧ソ連時代、ミール宇宙ステーションでトラブルが発生しました。ある宇宙飛行士が仲間の宇宙飛行士と喧嘩して口をきかなくなったんです。地上管制官の言うことも聞かなくなった。コミュニケーションをシャットアウトしたわけです。宇宙滞在のストレスが原因でもありますが、精神的に追い詰められてしまったんですね。このままでは彼の生命だけではなく、仲間の生命も含め、宇宙ステーション全体に危機が及ぶことになります。ですから急遽地上へ帰還させることになったわけです。これは宇宙飛行士の『心』が原因で、本当に危機的な事態になった実例として有名なケースです。そのため我々が宇宙飛行士を選ぶにあたっては、どんな状況にあってもチームワークを築いて保っていける『心』があるかという部分を重視するわけです」

日本人宇宙飛行士のセールスポイント

●日本人の宇宙飛行士は協調性という意味でも、みんな優秀な方ばかりだと思うんですけど

上垣内「そうですね。ただアメリカ人やロシア人の宇宙飛行士も、日本人より日本人らしい人もいますけどね。もちろん西洋的な自己主張が強い人もいますが。両方いますよね。ただ若田さんがISSのコマンダーになった時に『和を以て貴しとなす』を実行したように、日本人の場合は特にそういう精神が一番強く流れているんでしょうね」

Credit:JAXA
ロシアの管制所で金井さんのISS到着を喜ぶ(油井さん、大西さん、若田さん、上垣内さん)

Credit:JAXA/NASA
カラガンダ空港にて帰還のセレモニーに参加するソユーズ宇宙船のクルー(前列右に大西さん、後列右端が上垣内さん)

Credit:JAXA
国際宇宙ステーション(ISS)第62次/第63次長期滞在ミッションに関する記者会見を行う野口さんと上垣内さん。

●世界的に共通する宇宙飛行士の特徴は何かありますか

上垣内「これは誉め言葉になっていないかもしれないけれど、みんな働き者ですよね(笑)。自分がやった方がいいと思ったことは一生懸命やろうとしてくれている。ただあんまり張り切り過ぎると逆に問題でね。宇宙飛行士というのは宇宙では常にベストコンディションでなくてはいけないから、セルフコントロールは大事なんです。日本人はどちらかというと、期待に応えようと一生懸命やり続ける傾向はあります。まぁそれは日本人らしくていい事だと思うんですけどね」

●数少ない宇宙飛行のタイミングで、そのためにずっと訓練してきたわけですから、張り切るのも無理はないですよね

上垣内「アメリカの宇宙飛行士なんかハッキリしている人はハッキリしてますよ。これ以上はやらないと決めたら、やりません。地上での訓練中の話ですが、毛利さんの最初のシャトルミッションの時、一緒に訓練していたNASAの宇宙飛行士が、『あまりにも日本があれもこれも訓練しろって言うから大変だ。これ以上は訓練したくないから、宇宙飛行士の労働組合を作る』って半分冗談半分本気で言ってきた人がいましたけど。もうここまでという線引きはピシッと引こうとするのはアメリカ人にいますね。それはそれでまた、いいことではあるんですけど」

仕事は楽しくやるもの

上垣内「広報部長を務めてからその後2年間は、宇宙飛行士・運用管制ユニット長として、宇宙飛行士やその訓練、健康管理、宇宙医学研究の実施、『きぼう』の地上管制官活動の責任者を務めました。そういう意味では、私が最初に苦労した原点の世界に最後は戻ってきたわけです。今は『きぼう』での宇宙実験の推進に携わっていますが」

●日々、仕事をする中で心掛けてきたことは何でしょうか?

上垣内「諦めないということですね。この仕事は諦めないことが重要なのかなと。あとは仕事は楽しくやろうということです。宇宙開発というのは、もともと人間の好奇心や夢、要は新しい世界に人間が出ていこうとする精神の発露としてやっていることですから、それをやっている私たちが楽しく仕事をしなければ意味がないと思ってます。もちろん大変な苦労もありますけど。諦めないというのは、いくら用意周到に準備や計画しても、必ず予想外の事が起こるわけです。それが起きた時には、決して立ち止まるのではなくて、一歩でも半歩でも前に進むために、いろいろ考えて挑戦を続けることが大事だということですね」

顔を見て話す

●仕事上、この方法論だけは譲れないということは?

上垣内「そんな大袈裟なものはないんですが、何か複雑な話をする時は必ず相手と会って、または最低限でも電話で直接話すというのはしますね。近年は簡単なことはメールで済まして当たり前の時代ですけど、結構ややこしいこともメールで済ませるような仕事の仕方も出てきているような気もするんです」

●確かにメールが重宝されてますよね。そんなの電話で話し方が早いと思うことでも、メールだと記録に残るからということもあって…。複雑な要件であれば尚更その傾向は強いですよね

上垣内「まぁケースバイケースですけどね。ただ仕事では情報の共有が一番大事です。たとえば米国に長く勤務している宇宙飛行士と筑波にいる私との間に、メールはおろか電話やビデオ会議だけでは伝わらないことがあったりします。じっくり話をして意思疎通をしないと、簡単な指示も誤解されることがありますね。やはり顔を合わして話すと、話しながらでも相手のいろいろなことが読み取れるし、より強く気持ちと気持ちで伝え合えるような気がします。仕事って結局、気持ちを合わせることなんで」

新しい事をするのが当たり前

●NASDA、そしてJAXAという宇宙機関に長年身を置いた中で学んだ、一番のことは何ですか?

上垣内「新しい事をするのは当たり前ということを、この組織では学んだんだろうなと思いますね。宇宙開発は初めて挑戦する事があり過ぎる分野です。だって開発ですから。未開の分野を切り拓くのが開発です。毎年毎年新しいことをやっていかなくちゃいけない。それに状況も何も去年と今年は同じじゃない。当然どんどん変わっていく。新しいものをどんどん見つけて取り入れ、新しい価値観を掘り出し、新しいやり方、新しい何かを意識しながらやっていかなくてはなりません。今やひと昔前なら、こんなことできないと思っているようなことが、気付いたらできるようになっている時代です。次に何をやるかと考えた時に、『こんなのできるわけないでしょ』と考えるのではなく、『できたらいいな、どうやったらできるんだろう』と考えていく。そんな気概や気持ちを、この組織で植え付けられたような気がします」

進化する人類

●宇宙開発は今後の人類にどんな意義がありますか?

上垣内「『宇宙兄弟』の中で印象に残った場面というのがあって、3次元蟻の話が出てきますよね」

●最終選抜試験の描写ですね。候補者たちが閉鎖環境施設に滞在中、宇宙開発に否定的なテレビキャスターに送る抗議文を考えろという課題が出されます。あの時、六太は野口さんがモデルの野淵宇宙飛行士が講演で話した、3次元蟻の例え話を思い出します

上垣内「あれね、実は私も昔から似たような事を考えていたんです。これ話すとややこしいんだけど…」

●どんな蟻の話でしょう!?

上垣内「似たようなことだけど、私なりの言葉で説明すると、宇宙に人間が行くって、人間が進化することなんですよ。まず1次元の世界は前と後ろしかない。もし世の中に1次元でしか生きていない生物がいたら、そいつらは『前』という言葉と『後ろ』という言葉しか知らないわけです。2次元の世界に生きている生物がいたら、それにプラスして、『右』と『左』という言葉が生まれるわけです。そして3次元に生きている私たちは高さも感じていて『上』と『下』という言葉もあるわけです」

●確かに、前後、左右、上下の3次元の世界に生きて、それを感じているのが人間ですよね

上垣内「でも実は私たちは、3次元の世界の生物なのに、宇宙的に見たら実はまだまだ2次元の世界の生物なんです」

●え、そうなんですか!?

上垣内「宇宙から地球を見た時、地球がサッカーボールだとすると、私たちの活動領域はそのボールの表面に過ぎません。飛行機で高く飛んでいるつもりでも、たぶんボールの表面から0.1ミリくらいしか離れていないような世界なわけです。これって宇宙的な広さで俯瞰すると、私たちは3次元で生きてるような顔をしているだけで、実際は地球の表面のうす~い空間の中でしか生きてないんです。まだまだ地球の薄い皮の上にへばりついて生活しているだけ。そういう閉ざされた窮屈な世界の言葉しか知らないわけです」

●…何か人類の一人として自信を失くしてしまいました

上垣内「ところが宇宙飛行士は宇宙ステーションに行くと、そこからまた少し離れることができて、ボールを1センチ離れることができる。月に行った人はそこから10メートル離れていく。宇宙的に見て本当の意味で3次元の世界を知っているのは宇宙飛行士なんですよ。これがどんどん宇宙に行く人が増えて、宇宙旅行に行く人なんかがたくさん出てくると、本当の意味で人間は宇宙的な感覚で3次元を生きている自覚を持っていく。そして新しい世界観ができる。そうするとね、進化するんです。人類は」

Credit:JAXA
ISSから撮影した地球。

Credit:JAXA/NHK
月周回衛星『かぐや』が撮影した満地球の出。

●どう進化するんですか!?

上垣内「今、宇宙飛行士が宇宙に行くとね、『宇宙から地球を見ると国境はない』とか『綺麗な地球を守らなきゃいけない』とか言うじゃないですか。でも実際に自分たちが行って見て、肌感覚で感じているわけじゃないですから、宇宙飛行士の言葉が自分の感覚と一体化しないんですよね。でもこれから宇宙開発が進み、もっと多くの人間が地球を出て宇宙空間に足を踏み入れれば、それが世界共通の感覚になると思うんです。『新婚旅行で宇宙ホテル泊まってきました」」とか『町内会で月に旅行してきました』みたいな話になってくると、宇宙から地球を見るのが当たり前の世界になるわけじゃないですか」

●どちらも羨ましい旅行ですね

上垣内「そうなると本当の意味で、私たちは宇宙的な3次元の奥行きを認識して、地球という星を改めて新鮮に見つめ直すこともできると思うんです。引いてはもっと真剣に平和や環境問題を考える世界になるんじゃないかと。ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、宇宙開発は科学的な意義はもちろん大きいのだけど、一番大事なのは人類の視点や価値観が進化することだと考えています。宇宙開発=人類進化ですね」

宇宙開発のスケール感を広げる

●月や火星に水の存在が確認され、太陽系外にはハビタブルゾーン(太陽とちょうどいい距離で、水が液体として存在する温度を保ち、生命が誕生するのに適した領域)が発見され、その領域にある惑星もいくつか発見されています。観測が進めば、もしかしたら生命を育む地球型惑星が発見され、実は宇宙には案外たくさん生命が存在していた、という可能性が広がるのではと思うのですが、上垣内さんはどう思われますか?

上垣内「宇宙に生命が溢れているかというと、それは僕は当然溢れていると思いますよ。地球に人類という生命が存在しているわけで、他の星にいないって考える方が不思議だと思うんで。私たちと同じような、またはもっと進化をした生命体が、この宇宙は広いですから、必ずいると思うんですよ。そしてもうひとつ。これは宇宙開発と違うんだけど、テクノロジーが進歩すれば、私たちはそういう人たちと…、まぁ地球外知的生命体が人かどうかわからないですけど、必ず交信できると思いますよ」

●できますかね、交信!?

上垣内「例えば何万光年か離れている星に文明があったとします。でも今の我々の宇宙船の技術では、何万光年も離れている星に人間が直接行くことは不可能です。ただ情報だけは伝えられるかもしれない。情報を伝えるのも光の速さでしか伝わらないかというと、今はそうじゃないんです。量子論の通信技術を使えば、光のスピードを超えて情報伝達ができるようになる。そうすると何万光年も離れているところと通信ができるようになるかもしれない」

●凄いですね。是非、僕が生きているうちにそんな発見がされればと

上垣内「でもね、今もSETI計画で宇宙から届く電波を解析してるじゃないですか。あんなもん明日の朝のニュースで、『宇宙から知的生命体からの意味のある信号を受け取りました』という報道が出たって全く不思議じゃないですからね。皆さんね、私たちは広大な宇宙の中で生きているということをもっと認識すべきだと思うんですよ。2013年にロシアのチェリャビンスクで隕石が落ちたでしょ。あんなもんも普通なんです。あのくらいの大きさなら、ある日突然バーンと落ちてくるわけです。今後もいつ起こるかわからないんですよ誰も。月と地球の間を直径が何百メートルもあるような小惑星が通過しましたなんて、通り過ぎた後でニュースで報道されたりしますが、通過した後に初めてわかるものですからああゆうの。6500万年前にはそれで恐竜が滅んでいるわけですよ。我々はそうゆう宇宙の中に浮かぶ地球に住んでいるんだということをまず感じることが大切です。そしてその中で生き残ろうとしたら、ある程度の技術が必要なんです。地球を守る技術も必要だし、地球を出ていく技術も必要。そんなスケール感で宇宙開発を考えていくと、面白いですよ」

※SETI計画
地球外知的生命体探査(Search for extraterrestrial intelligence)。地球外知的生命体による宇宙文明を発見するプロジェクトの総称。頭文字を取ってSETI(セティ)と呼ばれる。 電波望遠鏡で宇宙から受信した電波を解析して、地球外知的生命から発せられる可能性の高い規則性のある電波を探す方法が主流となっている。

 

Credit:JAXA
宇宙飛行士養成棟の1Fフロアに飾られた、宇宙飛行士の写真パネルの前で。

 

【宇宙飛行士・運用管制ユニット長、リアル】

想像を越えて

毛利・向井・土井さんたちの3人が日本初の宇宙飛行士に選ばれたのは1985年。それが日本の有人宇宙開発の歴史がスタートした時だった。以来、その歴史を開拓してきたとも言える上垣内さんの半生。当時、宇宙飛行士の訓練なんて何をしていいのか誰もよくわからなかった中、宇宙飛行士たち共に試行錯誤し、検証と改良を重ね、一つひとつ積み上げてきたノウハウが、現代の効率的な訓練内容や実験手順の礎となっている。

「想像力が大切だ」という上垣内さん。先が読めない宇宙開発の事業において、何をするにも手探りで進むしかない現場に立ってきたからこその言葉だ。

日本人が宇宙に行くことが珍しくもなくなった近年。上垣内さんは「これほど頻繁に日本人が宇宙に行くとは想像していなかった」という。日本の有人宇宙開発は、良い意味で上垣内さんの『想像』を越えた場所にいる。これから何が起きるのか、ワクワクしかしない。

12人目の宇宙飛行士としてファインダーに収まるべく跳躍するが、ジャンプ力が足らず断念。

 

宇宙飛行士・運用管制ユニット長のスキル5

<1> リーダーシップ
上垣内「フライトアサインは私の一存では決まりませんが、どの宇宙飛行士に何の仕事をしてもらうか、日頃の業務の指示はすることになります。リーダーシップを発揮して、一つでない答えから一つを選ぶ決断をし、いろいろな計画を推進していきます」

<2> 先見性
上垣内「将来の発展は大事です。国際宇宙ステーション計画が始まるまでは、こんなに高い頻度で日本人宇宙飛行士が宇宙に行くことは想像できていませんでした。これからはどんなことが起こるのでしょうか!?先見性があれば、いいですね」

<3> 調整力
上垣内「関係者が多いですから、調整力は重要です。宇宙飛行士の訓練などで新しいことを始めるような場合、その予算を獲得し、関係部署の協力を得るための調整をする必要があります。調整には上司を説得したり、プレゼンテーション力も大事ですね」

<4> 忍耐力
上垣内「とにかく、何が起こるかわからない。何を言われるかわからない。それでも、計画を変更してでも、やり通す忍耐力は大切です。予定通り物事を進めることより、思わぬことが起こっても対処できる計画を立て、忍耐も持って進めることが重要です」

<5> 誠実さと誠意
上垣内「仕事に誠実に取り組んでいれば、必ず報われると思います。そして誠意があれば、自分が考えていることや、自分がやりたいことが、必ず相手に伝わります。そして、人類が新しい活動の場に飛び出すための仕事を、楽しんでできないといけませんね」

 

『宇宙兄弟リアル』次回登場のリアルは!?

スイングバイ技術社員/福田直人、のリアル!

次回の『宇宙兄弟リアル』は、スイングバイ技術社員/福田直人のリアル、植松洋彦さんが登場。

六太と同じ宇宙飛行士選抜試験に最年長54歳で受験。3次試験まで残るも、遂には夢を果たせなかったロケット開発技術者の福田直人。日本初の有人ロケットを作り、それに乗って宇宙に行くことが子供の頃からの夢だった。一方、JAXAでHTV技術センター長兼チーフエンジニアを務める植松洋彦さんも、宇宙船の開発に見果てぬ夢と熱い情熱を注ぐ男だ。宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)は、改良次第では有人宇宙船と成り得る潜在能力を秘めている。「こうのとり」初号機の打ち上げの日、出勤する植松さんは玄関口で見送る奥様に、「歴史を変えてくる」と言い放った。次回は、そんな熱い男の熱い話がほとばしる!乞うご期待!!

【宇宙兄弟リアル】が書籍になりました!
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。

 

<筆者紹介> 岡田茂(オカダ シゲル)

NASAジョンソン宇宙センターのプレスルームで、宇宙飛行士が座る壇上に着席。
気持ちだけ宇宙飛行士になれました。

 

東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。

 

<連載ロゴ制作> 栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。

過去の「宇宙兄弟リアル」はこちらから!