もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?

もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?

「もし、マンガ『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら」と仮定して、小山宙哉さんが描いた原作の個性的なキャラクターの振る舞いをFFS理論に沿って分析し、彼ら彼女らと似た個性を持つ人が、就活の現場でついやってしまいがちな行動、やらかしがちな失敗を取り上げていきます。 (この連載記事は、「日経ビジネス電子版」『「一歩踏み出せない」あなたをエースにする方法』(著者:古野俊幸)より「もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?」シリーズを転載したものです。)

板挟みを「自己犠牲」で解決してはいけない理由

板挟みを「自己犠牲」で解決してはいけない理由

(前回はこちら

 「受容性」の高い人は、対立が苦手で、意見の調整、もっとはっきり言えば「論点をぼかして両方の顔を立てる」ことをやりがち、という話を前回はさせていただきました。

 思い当たる方は多いと思います。「受容性」が高い人は、日本人にとても多いからです。

 そんな人が就職活動で自分のリーダーシップを語る際に、間違えてはいけないポイントがあります。

 今回は、「受容性」が高い人がそこを意識しないまま書いたエントリーシート(ES)に対して、面接官がどこをどのように突いてくるのか、実例を使って説明していこうと思います。まだ調整が間に合うようでしたら、ぜひ参考にしてください。

27巻 #255「せりかを想う」

 「受容性」が第一因子の学生のエントリーシートを紹介したいと思い、弊社のクライアントにお願いしてお借りしました。なお、団体の活動や内容は特定できないように少しアレンジしていますが、学生本人の活動内容や所見は、そのまま引用しています。

 ダンスサークルの代表を務めた学生のエントリーシートです。

  サークルとして毎年恒例の地域イベントに参加する予定でしたが、コロナ禍のため、多少の制約条件のもとイベントが実施されることになり、計画を修正して取り組むことになりました。ところが、メンバーにやる気が感じられません。

 そこで私は、その公演に懸ける熱い想いを訴えたうえで、一人ひとりと個別面談を重ねて、「やる気のなさの原因」を突き止めました。
 根本的な原因は、2つあると思いました。①「当事者意識の低さ」と、②「技術への不安」です。それらの問題を解決するため、かつてない2つの施策を実行しました。

 ①に対しては、当事者意識を醸成するために「役割を付与した活動」をしてもらい、②に対しては、「週1回の基礎練習会を実施して、技術の底上げ」をしました。
 その結果、公演では聴衆から高評価を受けることができました。

 成功要因を自分なりに分析すると、「一人ひとりのニーズに寄り添って共通部分を見いだし、課題解決を徹底していく『調整力』」であったと思います。  

 これを読んで、就活生の皆さんはどう感じましたか?
 「リーダーとしての役割をきちんと果たしていて、さすがだ」でしょうか。それとも?
 この学生が伝えたいポイントをまとめると、次のようになるでしょう。

  • 熱い想いを語る
  • 一人ひとりと面談する(=寄り添う)
  • 共通部分を見いだす
  • 調整力

 なるほど、どれも「受容性」の高い人が得意とすることです。その点においては、この学生は自己理解、つまり「他の人から見た場合の自分の強み」がしっかり認識できていて、自分らしさを活かしたリーダーシップはこれだ、と意識もしているようです。

「賛成でまとまったけれど、盛り上がらない」

 ただ、残念なのは、「受容性」に特有の調整力を発揮した結果、それが裏目に出て、「宥和」に陥ったように思えることです。宥和とは「敵対的な態度を大目に見て許し、仲よくすること」です。

 メンバーと個別で面談し、一人ひとりの気持ちに寄り添おうとした点は、「受容性」の強みを活かした振る舞いとして評価できます。

 ただ、それによって一人ひとりの課題を特定できたのなら、わざわざ全員に共通する部分を見いだす必要はなかったのではないでしょうか。メンバーに個別の課題対策を支援するやり方のほうが、各メンバーの個性が活かされて、もっと素晴らしい公演になったかもしれません。

 もし、私が採用担当者なら、そう指摘するでしょう。

 確かに「調整」はしたのでしょうが、なんとなく丸めるような調整になってしまい、メンバー個々が持っていたであろう“尖がり”が活かされたように感じられないのです。個々の力を活かすというより、対立軸をボカすほうに注力してしまったのではないでしょうか。

 社会人の方ならば「総論賛成でなんとなく話はまとまったけれど、メンバーからさっぱり活気が出てこない企画」といえば「ははあ、あれか」と思われるかもしれません。そう、実際、企業内部でもこういう結論はありがちですよね。

 「受容性」の高い学生の方にぜひ理解していただきたいことは、「受容性」の強みである「調整力」は、論点のぼやけた「宥和」と紙一重であることです。

 そのうえで、「リーダー経験」というご自身の輝かしいガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を伝える際には、事実を客観的に整理して、うっかり墓穴を掘らないように準備していただきたいのです。

 「そう言われると、自分のガクチカは『宥和』だらけな気がする。でも、今さら事実は変えられない」と思うかもしれません。でも、それは大丈夫です。

 もし、結果的に「宥和」に陥っていたとしても、その事実を自分なりに分析し、今後に活かすための学びとしてエントリーシートにまとめれば、「この学生はちゃんと自己理解できているな」「次に同じような場面に遭遇しても、同じ失敗は繰り返さず、成果を出せそうだな」と、むしろ高く評価されるでしょう。評価しない企業ならば、行かないほうがいいと思います。

板挟みで苦しむ、お人よしの「受容性」

 もう一つ、「受容性」の高い人が陥りがちな状態が、「板挟み」です。
 他人の希望をかなえたいこのタイプが、希望が異なる人たちの間に挟まると大変です。

 例えば、サークルのメンバー同士で、意見の相違やすれ違いが起きたとします。サークルの雰囲気がギクシャクすると、「受容性」の高い人は「みんなに笑顔でいてほしい」「みんなのために役に立ちたい」と思い、仲裁役を買って出ます。

 ところが、双方の言い分を聞くと、それぞれの立場をおもんぱかってどちらにもいい顔をしてしまうため、事態は一向に収拾しません。双方が納得できる落としどころを見つけるどころか、「八方美人」な態度だと思われて、双方から疎んじられることになるのです。

 「受容性」の高い人にとって、「板挟み状態」が一番苦手なのは分かっているのに、困っている人やもめごとを放っておけず、ついつい“火中の栗”を拾ってしまう。そういう「お人よしさ」が災いすることも、このタイプにはありがちです。

 『宇宙兄弟』の登場人物で「受容性」が高いと思われるJAXAの宇宙飛行士、北村絵名にも、板挟みで苦しむシーンがありました。

 ISS(国際宇宙ステーション)のミッションでの新薬開発に向けての実験の最中に、同僚の伊東せりかに対する誹謗中傷がSNSに渦巻き、実験は中止に追い込まれます。

 絵名はせりかに対する誤解を解こうと、ブログで自分の想いを発信しようとしますが、JAXAから「この件には関わらないように」とくぎを刺されます。また、「せりかを手助けすればこの先の自分のキャリアにも響く」と忠告……というより、プレッシャーをかけられます。父の命を奪った難病を治癒する薬を作りたい、という、せりかの実験への想いを知る絵名は悩みます。まさに板挟み状態です。

27巻 #254「私しかいない!」

その場しのぎの自己犠牲は誰のためにもならない

 相手の幸せを願い、そのために自分にできることがあれば、惜しみなく分け与えたい。そういう気持ちの強い「受容性」の高い人が、板挟みの状態に陥ると、「自分を犠牲にして解決しようとする」ケースが多いようです。

 「自分さえ我慢すれば、この場は丸く収まる」
 「みんなが笑顔になるなら、少しくらい自分が犠牲になっても構わない」

 あるいは、困っている人を見ると、その人をおもんぱかって手を貸してしまう。「助けてほしい」と頼まれてもいないのに、先回りして助けてしまう。

 「そういうこと、自分にもあるなぁ」と感じた人は要注意です。
 自分では“とてもいいことをしている”ように思えるかもしれません。なので、ESや面接でも語ってしまうかもしれません。

 ですが、それはもしかしたら自己満足ではないでしょうか。そしてそれによって、自分自身に過大な負荷をかけているかもしれません。

 絵名の妹のケイが、「(宇宙飛行士という)自分の将来をどうやって決めたのか」尋ねるシーンがあります。

10巻 #89「食卓と旅立ち」

 彼女の見守り方は、「受容性」が高い人のお手本ではないかと思います。

 そもそも、誰かの犠牲の上に成り立つ解決が、本当の解決と言えるのでしょうか。その誰かが「あなた」ならば、あなたは自分で自分を苦しめ、追い詰めていることになるのです。

 問題を抱えた人に手を貸すことが、自分で問題を解決する機会を奪い、本人の自立を妨げることになるときもあります。

 「受容性」の高い人が身につけたい態度は、「見守る」ことです。
 手を貸してあげたくなっても、「それが相手のためになるのか?」を冷静に考えて、すぐ手を出す前に、まず相手のためにじっと見守ることです。

 そして、「対立を怖がらない」。

 相手のことを思うなら、相手の問題点をカバーしてあげる前に、それを指摘することが“本当の優しさ”ではないでしょうか。痛いところを突かれた相手が気分を害したり、怒り出したりするかもしれませんが、問題点を指摘して、本人が自分で問題に立ち向かうよう導くことが、長い目でみれば相手のためになるはずです。

 もし、サークルのメンバー同士で意見の対立が起きたなら、今述べたようなことを意識して、自分の取るべき行動を冷静に判断する。自分の調整力を存分に発揮するのはその後。

 受け容れることが、真の優しさではない場合もあり得るのです。

 「おもんぱかることが、相手のためにならず、逆に災いになる」ことを理解して、「このような行動を取りました」と面接官に言えたら、もしくは、それを経験を通して振り返って「その時はできませんでしたが、今ならば」と述べられたら、まさにガクチカは輝きますし、それで採らない企業は見る目がない、と言っていいと思います(ちょっと大げさかもしれませんが)。

 ここまでの私の話をちょっと補足します。
 「自己犠牲は払うべきではない」のだと誤解されたかもしれませんが、決してそういうことではありません。

 自己犠牲は貴く見えますし、事実貴いこともあるのですが、相手と、自分にとって、するべきではない自己犠牲というものもある。ということです。就活生に限らず、特に「受容性」の高い方に気がついていただきたくて、キツめの物言いをさせていただきました。

自分の気持ちと深く向き合ってこそ、あなたの犠牲が活きる

 最後に絵名の話に戻りましょう。
 絵名は、悩んだ揚げ句、「自分のキャリアよりも、せりかを支えること」を選びました。

 せりかの実験は難病に苦しむ人たちの命を救うためのものです。しかも、せりかは宇宙飛行士選抜試験の頃から支え合い、共に訓練を乗り越えてきた仲間です。

 せりかの実験は「ラストチャンス」であり、絶対に挑戦したい。自分は何をおいても、その気持ちを支えたい。
 絵名はそのように強い思いで判断して、あえてJAXAとの対立を避けず「自分を犠牲にする」ことを選択したのでしょう。

27巻 #258「使命」

 折れそうな他者を支え、正しい方向に導く。「受容性」の特徴が、その場しのぎではなく、深く考えたうえで彼女は自分のキャリアを賭けた。。

 その結果が幸せなモノであったことに、心からの喜びと感動を覚えます。

 これが「受容性」が高い人の能力であり、あなたの強みです。
 ぜひ、人に、そして企業、世の中に、本当に役に立つように使ってください!

27巻 #259「きぼうに水滴」

© Chuya Koyama/Kodansha
(構成:前田 はるみ

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「日経ビジネス電子版」2022年2月2日掲載
板挟みを「自己犠牲」で解決してはいけない理由(著者:古野俊幸)
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00077/012800032/