宇宙学生第4回は、大学生がロケットを開発して打ち上げを行う団体の運営・管理を行い、現在はロケットエンジンの研究を行っている学生さんにインタビューをしてきました。
学生団体の「作る」から、研究の「現象を知る」に方向転換されたその理由とは?
大学生になったらロケットをやりたいと思っているそこのあなた!このインタビューを通してどんな関わり方があるのか知ってみましょう!
「面白そう」が原動力に
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PM1年目、TSRPの海打ち(2012年)
記者:大学生がロケットに関わる方法を大きく分けると、学生ロケット団体に入る方法と、研究室でロケットについて研究する方法があります。坂野さんは、これから研究をメインにされていくとのことですが、何か理由があるのでしょうか。大学院生でも学生ロケットに関わることはできますよね?
坂野: 今までは学生ロケットに関わっていたので、ロケットが飛ぶ姿やロケットエンジンの燃焼実験などを目の前で見る機会がたくさんありました。そして、それらを見れば見るほど、ロケットエンジン内で何が起こっているのか、という興味が止められなくなっていました。だから、その答えを知るための道として研究を選んだわけです。「作る」と「現象を知る」は全く違うと思っています。
また、2016年4月からスタートする研究室ということもあり、自分の手を動かして準備できることが魅力的に思えました。「面白そう」が、この道を選んだ一番の理由ですね。私にとって、そこが全ての原動力みたいです。
※坂野さんは4月に新しく立ち上がった「千葉工業大学 工学研究科 機械サイエンス専攻 和田研究室」に所属。

燃焼実験の装置を準備する坂野さん
記者:宇宙に興味を持ったきっかけは?
坂野:小さい頃から、雲を見てるのが好きでした。今でも好きです。お馴染みの入道雲も好きなんですけど、雲の端っこの乱れてる感じも凄く好みですね。「あ、渦が出てる…!」とか(笑)。
高校生のとき、世の中にある現象には法則や共通点があって、数式で表せるらしいことを知りました。身の回りの「物が落ちる」や「雲の形」もそうですし、とてつもなく大きな宇宙でさえも数式で表すことができることにすごく驚いて、そこから宇宙に惹かれましたね。
学生ロケット団体をまとめあげて
記者:坂野さんは、前に在学していた東海大学にあるロケットプロジェクト「TSRP」で、ロケット打上げの全体を管理するプロジェクトマネージャ(以下PM)を務められていました。学部2年生からPMをやられていたとのことですが、苦労などはありましたか?
坂野: PMを務めた2年間のうち、計4回、ロケットの打上げを行いました。ものづくりの流れさえも全然わかっていなかった1年目は、会議の仕方、目標や評価方法の決定、進捗やトラブルの把握、打上げ場所の交渉や調整、広報など、とにかく、前任の先輩から引き継いだタスクをこなすだけでせいいっぱいでしたね。
プロジェクトには学部1年から修士2年までが関わっています。経験豊富な先輩たちから色々なアドバイスをもらいすぎて、自分でもどうしたらいいのかわからなくなっていました(笑)
その1年目の終わり、2年生の3月に東海大で開いたハイブリッドロケット教室が、私の転機となりました。
※東海大学ロケットプロジェクト「TSRP」:大学生が主体となってロケット開発、打ち上げを行っている学生団体。秋田県能代市や北海道大樹町などでロケットの打上げを行っている。
記者:なぜそれが転機になったのですか?
坂野:ロケット教室では、高校生を対象に、ロケット各部の紹介はもちろん、実験手順や解析の方法に加えてマネジメントついても講義しました。このときまで人前でマネジメントについて喋る機会はありませんでしたが、講義の後に高校生やその先生からたくさんの質問や感想が出て驚いたことをよく覚えています。
「こんなにも真剣に聞いてもらえるとは思わなかった。」これが当時の正直な感想です。実を言うと、その講義内容は先輩から引き継いだものをそれっぽくまとめただけのものだったんです。そのことからわかるように、私がするべきことは決められたやり方やタスクをただひたすら処理することだと、私自身が勘違いしていたのかもしれないですね。
この出来事がきっかけとなり、「見ている人はちゃんと見てくれているのだから、自分たちで作り上げた方法でもやってみたい。残りの1年間でやろう。」と決意しました。
記者:PM2年目からマネジメントで工夫した点はありますか?
坂野:まずはプロジェクトの中の問題点を見つけるところから始めました。当時、プロジェクトの進め方が個人の能力に頼っていたことを問題視しましたね。学生団体の大きな特徴のひとつである「人の入れ替わりが激しい」ことを念頭に置いていました。
特にTSRPのような年々の積み重ねでロケット開発を行う団体の場合は、メンバーは毎年少しずつ変わるのにプロジェクトの進め方を同じやり方にしたままではまずいのではないか、と気付きました。例えば、何年もロケット開発に関わり、設計不備の発見やトラブルの原因究明に長けたメンバーたちが卒業で一斉に抜けたら、その次の代は同じように開発を続けることができるのだろうか、とか。このままでは、いずれプロジェクトが成り立たなくなるのではないかと思ったのです。
そこで、プロジェクトでこれまで行われていたイベントや進め方を洗い出しました。これは、目的や押さえるべきポイントなどを当時のメンバーに合わせて調整するためです。経験の差に関係なく、同じミスを繰り返さないようにするため、物を作るときや運用するときに発生するトラブルなどをまとめることもしましたね。
これまでの人が築いた良いものはどんどん取り入れた方がいいと思います。ただマネをするだけではいけません。その時々に合わせて、自分たちの状況を理解して考えることが必要だと思います。
記者:学生団体のロケットだからこそ出来ることはありますか?
坂野:日本にはロケットの学生団体が沢山あり、団体毎に様々な活動目的があります。しかし、前の代がやっていたことを、その次の代も続けるように強制することはできません。柔軟性があって自由に出来るということは、学生団体ならではの面白さでもありますね。
記者:団体内のチームで同じ目的を共有し、それを実行に移すことは難しいことのように感じます。
坂野:それで苦労したことはありましたね。
TSRPはロケット各部品の担当割りのため、大きく分けて3班に分かれています。やっぱり、人や班によってそれぞれやりたいことってあるんですよ。お互いにある程度理解出来ていないと、団体として作りたいロケットを打ち上げる、というのは凄く難しいです。意見の食い違いを見つけて解決できるように調整するのは、PMの腕の見せ所かもしれません。
記者:もしも宇宙兄弟に自分が登場したらどんなポジションでどんなことをしていると思いますか?
坂野:ロケットエンジンを「作る」っていうのを支える、基礎となる研究をしている人かな。燃焼実験をやって、流体が流れるのを見てにやにやしているような。
記者:最後にこのコラムを読んでくださっている読者さんにメッセージをお願いします。
坂野:「好き」とか「面白い」と思う気持ちを大切にしてください。その気持ちや取り組む姿勢に、優劣とか絶対の形はないと思っています。なぜなら私自身が、「昔から宇宙やロケットが好きで」というより「気づいたらここにいた」タイプだからです(笑)
一見、関係のなさそうなことでも、ある日突然、それらが自分のやりたいことと面白い具合につながるときがあります。この瞬間に気づくためのアンテナがあるとしたら、それは好奇心なのかなって思います。
「面白そう」が全ての原動力、と語って下さった坂野さん。その時々で自分が一番やりたいことに全力で取り組む姿勢は、とても清々しく、かっこよく思えました。
いつでも自由に自分の進む道を選択できることは、学生の強みです。今、高校生・大学生の方はこの強みを生かして、やりたいことに挑戦してはいかかでしょうか?
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