『宇宙学生』第五回ー宇宙建築って何だ?ー | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙学生』第五回ー宇宙建築って何だ?ー

2016.08.08
text by:編集部コルク
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第5回
東海大学 高橋鷹山
~宇宙建築って何だ?~
「宇宙学生」はいろんな方面から「宇宙にまっすぐ」な学生を現役大学生の宇宙フリーマガジンTELSTAR編集部が取材・インタビューして、宇宙の魅力を伝えます。宇宙フリーマガジンTELSTAR編集部が、様々な分野の「宇宙にまっすぐ」な学生をインタビュー!インタビューを通して宇宙の魅力を全6回にわたってお届けしていきます。

宇宙学生第5回は、宇宙建築を学ぶために途中で編入し、学生団体を設立した学生さんにインタビューしてきました。
聞きなれない”宇宙建築”とはどんな学問なのでしょうか、そして高橋さんが見据える宇宙開発の未来とは、、?

宇宙建築って何?

展開構造物(ソガメ折り)の開き方と、それを用いた月面住居のイメージ
展開構造物(ソガメ折り)の開き方と、それを用いた月面住居のイメージ
引用出典=十亀昭人「シェル状形態を形成する3次元展開構造物の概念と幾何特性」(東京工業大学博士学位論文、2000)

記者:宇宙建築とはどのような分野なのですか?
高橋:文字通り、宇宙の建築物全てを含む分野です。
宇宙建築というとスペースコロニーや月面基地など、大規模なものを想像する方も多いと思いますが、もっと小規模なものも研究対象です。
宇宙建築において、何が重要なのかというと、「人の暮らし」の心地よさや快適性だと思っています。確かに、安全面や機能も譲れないものです。ただ、人が暮らしていく空間を宇宙に造るには、宇宙だからといって突飛な機能を優先するのではなく、人がストレスなく暮らせるような空間を作っていかなければいけないんじゃないか、ということです。

記者:宇宙建築は地上の建築とどんなところが大きく違いますか?
高橋:地上の建築には、人類が積み重ねてきた知識や経験があります。でも、宇宙に出ると地上の常識が変わってしまうかもしれないんです。例えば、月のように地球より低い重力だと、人は高くジャンプすることができますよね。
だから、すべてが手探りなんです。「これがこうなるんじゃないか」と誰かが言っても、人の感じ方によっては全く違う意見が出てきます。そうやって議論を重ねていって、問題を解決していきます。
人が宇宙で生活を始めたら、何が最適な建築なのかわかっていくと思いますが、今は全てが推測ですね。
もちろん、宇宙建築を考える上でも地上の建築の知識は必要です。そこが基板になっています。

記者:高橋さんは何を研究されていますか?
高橋:今研究しているのは、「展開構造物」についてです。僕が所属している研究室の教授である十亀先生が考案した「ソガメ折り」というものを使います。ぺしゃんこの状態から立体に展開することができる折り方なんですよ。これを地球から月に運んで、小さくなった折り畳まれた状態から展開させて、月面の居住施設として利用する案を検討しています。

記者:月面の居住施設にソガメ折りを使うメリットは何ですか?
高橋:ソガメ折りを用いると小さく折り畳むことができるため、より多く、より大きいものをロケットに搭載することができます(上図参照)。そこが最大のメリットです。月面へ落とすときに、広がりながらゆっくりと着地するようなものができればなあ、と思っています。

記者:月を対象としているのですね。その理由は?
高橋:月を目指している理由は、単純に距離が近いからです。
いずれ、月から人類の宇宙への挑戦が始まると思っています。その場合、月面には居住施設や研究施設など、拠点となるものができるはずです。
月に拠点を作ろうとしたときに、最初に建てるのは簡易住居でよいと考えられています。宇宙空間での暮らしそのものが手探り状態であるため、いきなり大規模なものは建てられません。そこで、月面で展開するだけでいい簡易住居を利用します。一度の打ち上げで何種類もの住居を月面に運ぶことができるため、それらを実際に使ってみて、最適な建築の基準を見つけることができるのではないかと考えています。

記者:展開構造物は何か他のものにも使えるのですか?
高橋:一つはデブリシールドですね。天体の資源探査をするときに、小惑星の一部を爆発させて破片を採取するといった方法が考えられています。その際に宇宙空間に多くの鉱物などが飛び散ってしまいます。破片を外に出さないように展開構造物をシールドとして利用したいです。資源探査を行っている場所をシールドで覆って、その中を資源探査をする、というようなことを考えています。周りに太陽光パネルを貼れば、同時に発電もできます。

記者:ソガメ折りは地球でも便利に使えそうですよね。
高橋:それはありますね。テントみたいなもので、災害時の簡易住居みたいなのはできるんじゃないかな、と思ってます。

記者:十亀研究室には、他にどのような研究がありますか?
高橋:昨年までは、国際宇宙ステーション(ISS)内の防災の研究をしていました。例えば、ISSで火災や機械の衝突が起きたときに人がどのように避難するのか、について考えるための研究です。ISS内部と同じ大きさのフレームを組んで、大学のプールに沈めました。そこに人が潜り、どう動くのか、というのを実験することもありました。その時には、ISS内で動いてかかるストレスなども研究していましたね。

記者:「ストレス」という単語が出てきましたが、それも宇宙建築の分野の一つなのですか?
高橋:宇宙建築に限らず、建築を考えるうえでは、人にかかるストレスを考える必要があります。
例えば、地上には人が快適に使える階段一段の高さや奥行があります。でも、月の6分の1の重力だと、地上で感じる快適さの基準が変わるかもしれません。

「宇宙建築がやりたい!」大学3年で編入して学生団体を設立

TNLの会議風景

METAPLANETA×TNL ミーティング風景 (右端が高橋さん)
画像提供:Mizuki Onoma, Metaplaneta Japan

記者:高橋さんは宇宙建築にいつ頃興味を持ったのですか?
高橋:宇宙建築を知ったのは浪人時代でした。
高校生まで野球だけをやっていたので、それが終わったとき何もすることがありませんでした。大学受験は、自分が何をやりたいのか、というところから考えました。
そんなとき、祖父が大工だったこともあり、建築に興味をもって、建築学科を目指し始めました。建築の中でも、自分が興味を持っていたのは、特殊な建築でした。当初は、神社仏閣などに関わる、宮大工にも興味があったんですね。それから色々と特殊なものを調べていくうちに、宇宙建築を知りました。宇宙建築をやってみたいな、と心の中で思うようになったのはその時です。
ただ、宇宙建築を学ぶには基本的な建築の知識の基盤がないといけないだろうと考えました。その時は、建築学を学ぶことができて、なおかつ当時の自分が入学することができそうな大学を選びました。

記者:その大学から、途中で東海大学に編入したきっかけは?
高橋:いざ大学に入ると、建築への興味よりも宇宙への興味のほうが強くなって、やはり宇宙建築そのものを学んでみたいと思いました。正直、地上の建築そのものには、強い興味が持てませんでした。
そんな時、十亀先生に連絡を取ったところ、快く受け入れてくれて、東海大学に編入することを決めました。大学3年の春から東海大学に通っています。

記者:東海大学に入学して、高橋さんは宇宙建築の学生団体を設立しました。
高橋:宇宙建築はまだまだ知られていない分野なので、興味を持っている人は少ないです。でも、そんな人たちが集まって何かを生み出すことができる場が必要だと思い、「TNL 宇宙建築学サークル」を設立しました。模型の作製や、勉強会、高校生向けのワークショップなどが主な活動です。
また、TNLは十亀先生と一緒に「宇宙建築賞」を運営しています。未来の宇宙建築のアイディアを募集する賞です。第1回は「宇宙観光の建物」、第2回は「木星の衛星ガニメデの建物」、そして今年募集している第3回は「月面洞窟の居住施設」がテーマになっています。
第1回ですと、44点の応募がありました。この賞を通して、意外にも宇宙建築に興味を持っている人が多いということがわかりました。嬉しい発見でしたね。

記者:これからどんなことをしたいですか?
高橋:現在、宇宙建築のビジネス化を考えています。十亀先生が研究されてきたソガメ折りは、未だに、実際には利用されていません。ソガメ折りのような研究してきたものを商品にする、マネジメントする力がないと世の中に出ることが難しいのかな、と思ったんですよね。宇宙建築は新しい分野なので、まだ誰もそういったことをしようとする人がいません。だから自分が、ビジネスを学んで、月面の住居を開発するチームを作りたいです。

記者:もしも宇宙兄弟に自分が登場したらどんなポジションでどんなことをしていると思いますか?
高橋:少し悪者みたいな人かな。あとは、宇宙兄弟のデニール・ヤングみたいなやんちゃな心は持っていたいですね。昔の海賊が海を冒険したように、誰よりも自由に宇宙を目指していたいです。

記者:最後にこのコラムを読んでくださっている読者さんにメッセージをお願いします。
高橋:高校生は、とにかく“考える”ことが重要ですね。自分が何を求めて、何がやりたいのか、毎日毎日、365日考え続けてみてください。
人は、失敗と成功を繰り返す過程の中で、考え、成長していくと思います。目標を見つけ、自分がいまどこにいるのかを見極め、その道のりを考えて歩き出してみましょう。たくさんの人に出会って、たくさんのことに触れて、たくさん考えられるようになってください。
そうやって、僕も毎日考えています。いつか仲間と一緒に、月に家を建てるために。

宇宙建築に惹かれ、その想いを胸に、次々と行動に移している高橋さん。
彼が造ろうとしている、宇宙で快適に暮らすことができる世界が待ち遠しくなってきました!

次回は宇宙兄弟がアンバサダーに就任した、民間月探査計画に携わる学生にインタビューします。お楽しみに!

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