『宇宙学生』 小さな人工衛星に詰まっている宇宙開発の本質 | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙学生』 小さな人工衛星に詰まっている宇宙開発の本質

2017.06.13
text by:編集部コルク
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宇宙学生
小さな人工衛星に詰まっている宇宙開発の本質

「宇宙学生」はいろんな方面から「宇宙にまっすぐ」な学生を現役大学生の宇宙フリーマガ ジンTELSTAR編集部が取材して、宇宙の魅力を伝えます。宇宙兄弟11~12巻でムッタ達も参加した模擬人工衛星・缶サット(『宇宙兄弟』作中では“キャンサット”と表現)。缶ジュースサイズといえどこれには通信や観測機器など宇宙開発に必要なエッセンスが詰め込まれています。 アメリカの乾燥地帯で行われる缶サットの大会「ARLISS」へと出場した麻野さん、西井さんへお話を伺ってきました。小さな缶サットにもムッタのチームと同じく大変な苦労があったようです。

缶ジュースサイズの人工衛星

―首都大学東京の研究室で缶サットを製作し、缶サットの大会「ARLISS」へ出場したとお聞きしました。簡単な自己紹介と合わせて担当した部分を教えてください。

麻野さん:首都大学東京の修士2年で、航空宇宙工学を学んでいます。僕は研究室に入るまでほとんど知識がなかったので、電装系とプログラムを勉強しつつ担当しました。

西井さん:同じく首都大学東京の学部4年生です。ARLISSのときはプロジェクトマネージャーを担当しました。スケジュールの管理などがメインでしたが、回路を作ったりとかプログラムをかいたりもしましたね。

―そもそも缶サットとは何ですか?

西井さん:缶ジュースサイズの模擬人工衛星のことです。アメリカのある先生が宇宙関連のシンポジウムで「この缶サイズで人工衛星を作ろう」と言い出したのがきっかけです。最初はアメリカで行われていましたが、今ではフィリピンなどの宇宙新興国でも行われているようですね。
この缶サットは学習用、教育用の人工衛星の先駆けになったものでもあるので、宇宙の教育をしたい人を日本に呼んで、教育者を教育するという試みもあります。最近はこのおかげで10cm立方の人工衛星「キューブサット」を大学が打ち上げるなど衛星づくりも盛んになってきました。

―缶サットは模擬「人工衛星」だけど本当は宇宙には行かないですよね?
麻野さん:実際には宇宙にはいきませんが、本物と同じように作るのが缶サットです。もちろん規模や性能は違いますが、必要な電源系統やコンピューターなどの構成は一緒なんです。

―お二人はどんな缶サットをつくられたのでしょうか?
麻野さん:ARLISS(A Rocket Launch for International Student Satelites)というアメリカの砂漠で行われる缶サットの大会の「ランバックコンペティション」という目標地点にどれだけ近づけるのかというのを競う競技に出場しました。ロケットで打ち上げて、パラシュートを開いて降りてきて、車輪で目標地点までバーっと走るような感じですね。

小さな人工衛星・缶サット。両側についた車輪でアメリカの砂漠を走る。

―ロケットで打ち上げるんですね
西井さん:大会をアメリカの社会人アマチュアロケットファンたちと共同で開催していて、僕らはそのロケットに載せてもらっています。彼らは仕事でなく趣味としてロケットを作っていて、キャンピングカーで砂漠に乗り付けてそのまま泊まり込んでロケットを打ち上げています。無線の関係や缶サットの大きさなど、その人たちのロケットを邪魔しないようにつくるというのがひとつのルールとして決まっていて、そこの調整も大変ですね。

アメリカのアマチュアロケットファンの一人とメンバーたち

宇宙開発のほとんどは泥臭い作業ばかり

―ムッタのチームは前日に雨の降った路面で苦労をしていましたが、そのような苦労はされましたか?

麻野さん:ARLISSに関しては砂漠で行われるので地面がボコボコしていて、車のわだちにはまってしまうということが考えられました。その対策として、センサーの情報などで缶サットがわだちにはまったと判断したら、左右の 車輪を逆回転させて、その場をグルグル回って、スタビライザーと呼ばれる機体についてい るしっぽのような部分で周りの土を壊してわだちを抜けるということも考えましたね。ソフト的な対策だと、距離を測るセンサを機体の下側につけて、わだちやボコボコしているところに入りそうになったら、向きを変えて回避するということも考えていました。

轍を乗り越える缶サット。機体後部の棒のような部分がスタビライザー。

 

―ムッタのチームをみてどう思われますか?

西井さん:ムッタは優秀なエンジニアだったという過去があるので、うまくやるなあと思い ますね。尊敬しなくちゃいけないところも多いと思います。あとは課題発見能力が優れているなあと思います。課題を見つけて、それを修正して、もう 一度挑戦して、というのが伝わってきて、やっぱりエンジニアだなあと思いますね。 漫画と同じように二機分作ることを考えてお金を使うということも先生から言われていて、 失敗を見据えてやっていたというのは一緒かもしれません。

―なにか印象に残っているアクシデントはありますか?

西井さん:漫画では、雨で地面が濡れていて直前にバタバタ対応をするというシーンがありましたが、実際に日本では何回やっても起こらなかった問題がアメリカに行ったら起こってしまうということもあります。 缶サットを作ったら、試走をもちろんしなくちゃいけないんですが、アメリカに行く2週間 前くらいから雨が降ってしまって、出発が迫っているのになかなか試走ができないというこ とが起こりましたね。

麻野さん:あとは、ロケットで打ち上がったとき地上からみると缶サットは点くらいの大きさになるので、白いパラシュートだと見失ってしまいます。赤色などの目立つ色にするよう な工夫も必要だと気が付きましたね。

インタビューを行った西井さん

―缶サットはチームで行うものとお聞きしましたが、チームで行うなかで大変だったことは?

西井さん:僕たちは4~6人くらいでやったのですが、意思疎通やみんなが考えていた完成形がそれぞれ違っていたり、かける熱意のギャップがあったりして人間関係で苦労することがありました。何かをつくるなかで、仲が悪くなったり、もめたりするということはどんな場面でもあるし避けられないことだと思うんですが、機体が完成して、みんなで「やった!」と思う瞬間に そういうことはかき消えてしまいますね。そういう風にぶつかり合うこと自体は悪いことではなくて、その先にあるものが大事なんだと思います。

麻野さん:モノづくりというのは、はんだ付けがめんどくさかったりだとか、何を搭載するのかを決めて重さ一個一個測ったりだとか地味なことの連続なんですよね。ロケットをバーンと打ち上げるのをイメージしがちですが、そこまでの過程で挫折しちゃう人もいるのかなと思いますね。ですが、やっぱりロケットが打ちあがった瞬間はグッときますね。やってよかったなと思い ます。

インタビューを行った麻野さん

 

―今後宇宙とどう関わっていきたいですか?

麻野さん:今までの経験を通して、これから宇宙を開拓していく人、あるいは宇宙に憧れる 人を支えていくような立場になりたいなと思います。あとは宇宙にあまり関心がない人に魅 力を伝えていけるようなことができればいいかなと思いますね。

西井さん:缶サットでの経験を活かして、宇宙開発を支える一人になりたいです。宇宙工学 を学んでる人、これから学ぶ人、そうでない人含めて多くの人と協力してみんなが夢に思うような大きなことを成し遂げたいです。

―最後に読者へメッセージをお願いします。

麻野さん:缶サットに興味を持って、大会に出たいという学生も多いのですが、そういった方々は個人的には、缶サットを目標にしてほしくはないかなと思います。 缶サットは楽しいのですが、その先の本物の人工衛星を見据えてほしいです。あくまで模擬なので本物の宇宙に行く人工衛星まで挑戦してほしいなと思います。

 

派手なロケットの打ち上げや注目されがちな宇宙飛行士の影には地道な開発をしているエン ジニアの存在があります。 小さな人工衛星「缶サット」には宇宙開発の泥臭さや大変さ、そしてなによりの宇宙開発の 魅力が詰まっているようでした。 ぜひ読者のみなさんも缶サットから本物の宇宙を目指してみてはいかがでしょうか?

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第一回 宇宙を「広報する」って?
第二回 宇宙開発は理系のモノ?
第三回 宇宙科学研究所の学生ってどんな人?
第四回 大学生がロケットに関わるには?
第五回 宇宙建築って何だ?
第六回 HAKUTOメンバ 川﨑 吾 「一歩踏み出すこと」の大切さ