隣のロボット

隣のロボット

ロボットづくりとその仕事について紹介する、ロボット開発の会社で働く村上さんのコラム。

第10回 ロボットが活躍する未来を信じて フラワー・ロボティクスの15年目(後編)

第10回 ロボットが活躍する未来を信じて フラワー・ロボティクスの15年目(後編)
いまや宇宙事業に欠かせない存在のロボットは、『宇宙兄弟』のなかでもしばしば登場しますよね。
ロボット開発会社に勤める村上美里さんがお届けする連載「隣のロボット」。第10回は、前回に続いて、今年で創業15年を迎えるフラワー・ロボティクスの歩みと、これまでに開発してきたロボット<後編>をご紹介します♪
震災をきっかけに、テクノロジーの進歩と幸せの関係について、あらためて見つめ直し、今なお向き合っているという村上さん。小さな小鳥のフォルムをした小型ロボットのPolly(ポリー)と、現在開発をすすめている家庭用ロボットのPatin(パタン)の製作にこめられた想いやいきさつを、社会背景とまじえてお話いただきました。

 

前回に引き続き、2016年9月で創業から15年を迎えたフラワー・ロボティクスについて、私たちが開発したロボットを通して振り返っていきたい。

−単純で小さく、可愛いロボット

これまでフラワー・ロボティクスでは、3歳のフラワーガールをイメージしたヒューマノイド「Posy(ポージー)」や、マネキン型のロボットPalette(パレット)などの開発、製造、販売・レンタルなどをおこなってきた。
その他にも、アイデアやプロトタイプレベルのロボットも生み出してきたが、2012年に開発した小鳥型ロボットのPolly(ポーリー)は、これまで手がけた中で最も小さいロボットである。

Pollyは機能もとてもシンプルだ。
目が光り、体を左右に揺らすという、とても単純な動きしかできない。
ロボットというと、会話をしたり、膨大な情報を処理したりするなど、高度な機能を想像する人が多いだろう。私たちも、何かしら役割を果たす、人間の役に立つことがロボットの価値であり、社会に広がる理由になると考えてきた。
あえてPollyのような、単純で、存在感が一番の価値を持つようなロボットをつくったのは理由がある。

1「伊勢せきや」でのインスタレーション(撮影:たやまりこ)

テクノロジーは私たちを幸せにしてくれるだろうか?

Pollyはポーラ美術館での展覧会をきっかけに開発をおこなった。
そのため、製品化、販売を前提としたロボットよりも、メッセージ性の強いものになったという部分もある。Pollyを開発する直前、ずっと信じてきたロボットの可能性について迷いが膨らんでいた。
その理由は東日本大震災と、それをきっかけとした原発の問題である。
2011年3月11日以降、エンジニアや研究者、企業は、それぞれに自分たちが取り組んでいる事業、研究の意味を見つめ直さなくてはいけなくなったはずだ。

新しい技術は果たして私たちを幸せにするのか?それどころか、生まなくてもいい悲劇のきっかけをつくってしまうのではないか。そんな疑念や恐怖心と、取り組んできた事業で誰も救うことができない、という無力感に襲われていた。

新しい技術は生活を飛躍的に向上させる可能性を持つが、別の問題を生むこともある。
よく例に出す、馬車から自動車への革命的な移動手段の転換によって社会は大きく前進したが、今も交通事故によって多くの命や健康が損なわれている事実がある

ロボット、人工知能についても、人の仕事を奪うことの懸念や、少々映画的ではあるけれど、ロボットが人間へ反乱を起こすような不安を口にする人もいる。
危険性をクローズアップすると進歩は停まってしまうし、かといってリスクを小さく見積もることは不誠実である。
今も「テクノロジーと幸せの関係」は向き合うべき課題なのだが、2011年からの数年は特に、このバランスを取るのに苦心した時期だった。

2伊勢神宮式年遷宮にあわせて展示(伊勢せきや)

そんなタイミングもあり、ロボットを開発する企業として提案する新しいロボットは明確なメッセージ性を持つことになる。

Pollyの単純な機能とシンプルな構造は、作りやすく、壊れにくく、修理しやすいプロダクトに必要な要素だ。
また、複雑で巨大なものをつくるのではなく、きちんと機能を果たすものを集めて全体を効果的に動かす、というのも21世紀的な座組だと考えた。
この展示で、Pollyは15羽の小鳥が同一の、あるいは全くバラバラな動きを取る。
私たちが理想とする、「自律・分散・協調」、それぞれの能力を発揮する場に必要に応じて集まり、協力するという緩やかに繋がった組織をも象徴している。

社会の変化に、事業や製品は必ず影響を受ける。
震災を契機に、現在の「社会のあり方」への疑問、最先端のテクノロジーへの崇拝を一歩引いてみる考えが出てきた。
また、2010年代にはリモーワークやノマド、ミニマリズムなど、ワークスタイル、ライフスタイルの変化も起こりつつある。

自分たちがどんなロボットをつくりたいかだけでなく、これからどんな社会になるかを予想し、常にその機能やデザインを問い直さなくてはいけない。

そしてロボットや、それに使われている技術が人の生活を便利にしたり、安全を提供することができれば、企業としての役割を果たしていると言えるだろう。

3災害現場などで活躍するロボットの開発も盛んになっている

−理想のロボットではなく、必要とされる製品をつくる

ロボット開発や、デザイン、ブランディングなどの仕事を通して、どんなロボットが社会に必要とされるかを考えてきた。
同時に、私たちはロボットを産業にするという目標を持っている。
そのためには、ロボットが車や家電のように普及する「製品」になる必要がある。
これまでに開発してきたロボットは、どうしても活躍できる場が限られていた

また、関連技術の進化や開発・ものづくりに関するコストダウンも進み、小さな会社でもできることがどんどん増えていっているという背景もあった。
そこで生まれた新しいアイデアが、家庭用ロボットのPatinである。

スマートフォンが広がっている中で、求められるものは「スマートフォンでもできること」ではないと考えた。
情報収集も人工知能との会話もスマートフォンが一台あればできる。では、スマートフォンではできないことはなにか。ロボットとして「存在感」が効果を発揮するポイントを見つける必要があるのではないか。
そう考えて私たちが新しいロボットに与えたのが、「移動する」「物を運ぶ」という役割だった。
初期のアイデアでは、まさに「車」の形をしていたり、サイズが小さかったりと試行錯誤の跡が見られる。

そしてロボットらしさとして、
「ただ動くだけでなく、Patin自体が考え成長し、データを蓄積したりできるーAIを搭載しているーと、更に活用シーンが広がるのではないか?」
というのも重要な発想だった。

その結果、自走するPatin本体(台車部分)と取り替え可能な機能部分(サービスユニット)が連結するという新しいロボットの使い方をデザインした。
スムーズな動きを実現するための車輪、フランス語で「スケート」を意味するPatinという名前通り、滑るような動きと、オムニホイールの構造から「円形」がデザインの中心となった。
真上から見るとPatinのイメージには丸が重なる。
Patinをハブとして、人が機能や情報と繋がるという意味も含む。

創業から15年、当然社会も技術も大きく変化し続けている。
テクノロジーの進歩、社会情勢を前提として、改めて必要とされるロボットは何かを考え続けて、新しい16年目を歩いて行こうと思う。

4真上から見ると「円」が浮かび上がる

 

=次回予告==

イメージが具体的になり、使用シーンを想定してて機能・デザインを決めた。
開発を進めているPatinだが、ある程度形になってみると、思わぬ課題や、実際にユーザーへの感想を聞いて、変更すべき点が見えてきた。
私たちは理想のロボットを追求しているわけではなく、あくまで「家庭にロボットが普及する」足がかりとなる製品を生み出したいと思っている。
マーケティング的に言えば、仮説として「こんなロボットが必要とされるのでは」というプロダクトアウトでスタートしたプロジェクトである。まだ世に無い物は、ユーザーは欲しいと言うことができないので、正しいアプローチだと思う。
だが、未知の存在だからこそ、あるところかは「これが受け入れられるのか?」というマーケットインの考えに変わらなくてはいけない。
機能開発や製造に向けて事業を進める中でいくつもの課題や改善ポイントが出てきた。
次回は、開発が進むにつれPatinがどう「製品」として変わって来たかをお話したい。

 

〈著者プロフィール〉
村上美里
熊本県出身。2009年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。市場調査会社(リサーチャー)、広告代理店(マーケティング/プロモーション)、ベンチャーキャピタル(アクセラレーター)を経て2015年1月よりフラワー・ロボティクス株式会社に入社。