第6章 2020年,宇宙への絆は消えない② | 『宇宙兄弟』公式サイト

第6章 2020年,宇宙への絆は消えない②

2020.11.10
text by:編集部コルク
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宇宙飛行士候補から宇宙飛行士へ

2011年7月、新人宇宙飛行士候補3名は、NASAの基礎訓練を修了し、晴れて宇宙飛行士の認定を受けた。

これからはより実践的な訓練を積み重ねていくこと中で、宇宙ステーション長期滞在ミッションのアサイン(任命)、つまり、『宇宙行きの切符』を勝ち取っていかなければならない。3人は、ミッションアサインに向け、宇宙飛行士人生の新たなフェーズへ進んだ。

金井さんは、このときの気持ちをメールにしたためて送ってくれた。

「ジョンソン宇宙センターの宇宙飛行士室でのミッションサポート業務を開始しました。まだ実際に宇宙に行くわけでもないのですが、リザーブ・アストロノートとしてのアサインを受け、すでにミッションにアサインされている宇宙飛行士と同じような待遇で、ISS参加各極をめぐる1年間の訓練を行うことになりました。 正式な宇宙飛行士認定を受け、いよいよ真の宇宙飛行士修業が始まったと、襟を正すような心境です。」

この新世代宇宙飛行士3人の宇宙飛行士認定を祝し、49ersでTシャツを作った。

油井さんと同じ航空自衛隊で、選抜試験後に高校教師に転身された舘さんが、自分の生徒と一緒にデザインしたものだ。東日本大震災から立ち直ろうとしていた時期に、日本中に希望を与えてくれるようなデザインだなと、ぼくは胸が熱くなった。

49ers 新世代宇宙飛行士認定記念Tシャツデザイン
(月や火星に加え、「こうのとり」まで描いてくれている)

ミッションアサインに向けて

本格的な宇宙ミッションに向けた実践的訓練NEEMOに最初に抜擢されたのは大西君だった。

NASAは宇宙ミッションを模した訓練設備をなんと海底に保有している。

NEEMOとは、フロリダ州フロリダ半島の南端キーラーゴの沖合いにある海中施設「アクエリアス」を拠点して行うNASAが2001年にスタートさせた訓練プログラム、その名も、NASA極限環境ミッション運用(NASA Extreme Environment Mission Operations: NEEMO)訓練のことだ。2001年以降、定期的に行われている実践的な極限環境模擬訓練だ。第15回を数えるNEEMO15に、2011年10月、新人宇宙飛行士トップバッターとして大西君がアサインされた。

この訓練は、ミッションに向けた準備からミッション後に至るまで、実際の宇宙ミッションにとても近い。最終選抜試験での泳力試験や閉鎖環境試験の要素に加えて、2週間という期間海底施設に隔離され、海底で惑星探査ミッションを行ったりする。この訓練を行う宇宙飛行士は、「アクアノート(Aquanaut)」と呼ばれる。

さらに、このNEEMO15のテーマは小惑星探査ミッションのシミュレーションだった。

*参考 大西飛行士のNEEMO日記

このときぼくは、「いよいよ宇宙飛行士として本格的な一歩を踏み出したな!」というワクワクした気持ち以外にも複雑な感情を抱いていた。純粋に、将来ミッションに向けた訓練に参加することを羨ましく思う気持ちと、ぼくの手が届かないところにどんどん離れて行ってしまう寂しい気持ちが混ざった感情だ。こういう気持ちになったのはとりわけ同級生の大西君だからというのもあったと思う。なので、ぼくは意識的に、その感情を自分のエネルギーに変えてやろうと気持ちを切り替えた。

ぼくに与えられた使命をしっかりとこなし、ぼくの道を歩んでいくことが、お互いが目指す『有人宇宙開発の未来を作る』ことに、両輪で前に進んでいくことにつながると信じ、自分を奮い立たせた。

NEEMO訓練では訓練中の海中施設内の様子がWebカメラで全世界に配信されているのだが、ぼくはそんな複雑な気持ちを抱えながら、時折のぞいていた。


2012年10月7日は、第5期受験組のぼくたち全員とっての嬉しい記念日となった。

ぼくが初めてリードフライトディレクタを務めた「こうのとり」3号機ミッションを無事に終えてすぐのことだった。新世代宇宙飛行士1番乗りで、油井さんのISS長期滞在ミッションへのアサインが正式に決まった。

ミッションは2015年中頃。

即戦力として宇宙飛行士候補に選ばれた油井さんの実力が、JAXAの見立てどおりに発揮され、JAXAが想定していた最短でのミッションアサインだ。

選抜受験仲間は大いに沸いた。そんなぼくたちに油井さんは以下のメッセージをくれた。

「飛行士の選抜試験ほど友人の幅が広がる経験は、人生の中でもそれほどありません。皆さんに負けないよう頑張りますので、応援をよろしくお願いします。」

順調に宇宙飛行士人生の歩みを進める油井さんに、“同期”としての誇らしい気持ちと、第5期選抜組の代表として、油井さんの実力を世界に見せつけて欲しいと思った。

2009年1月、閉鎖環境試験の最後に、ぼくたちの中から選ばれ最初に宇宙に行くまだ知らぬ仲間に向けて送ったメッセージ。あのとき、ぼくは、誰になるか分からない中で、「みんなの夢をのせて、とにかく無事に帰ってきてね」とそのときに最大限イメージできた気持ちを綴った。

その一番手として宇宙に行く仲間が、油井さんに決まった。

油井さんが宇宙に行くとき、ぼくはどんな気持ちでそれを見守るのだろう?

若田飛行士の偉業

2013年11月7日、若田飛行士は2度目のISS長期滞在に向け、ソユーズで飛び立った。宇宙ミッションとしては4度目、大ベテランだ。そして、今回のミッションでは、もうひとつ大仕事があった。

若田飛行士は、ISS長期ミッションの前半戦が終わった2014年3月9日、第38次長期滞在クルーのコマンダー(船長)であるロシアのオレッグ・コトフ飛行士からISSの指揮権が渡され、ISSのコマンダーに就任した。これは、日本の宇宙開発、日本の宇宙飛行士の歴史に刻まれる大きな偉業だ。

2008年の宇宙飛行士選抜のひとつのテーマになっていた、「日本人からコマンダーを」という悲願がついに達成された。アジア人として初、米ロを除く非軍人出身の宇宙飛行士として初という大快挙だ。日本人宇宙飛行士としての金字塔を打ち立てた。日本人的リーダーシップを発揮した若田飛行士が、世界から認められた証だ。

コマンダーを勝ち取るには、並々ならぬ本人の努力以外にも、緻密な戦略に基づいた布石があった。2008年のISS長期ミッション後、2010年3月からNASAの管理職であるISS運用部長という職に1年半就任した。経験、技術でのプレイヤーとしての実力は申し分なかった若田飛行士が、さらにNASA宇宙飛行士をマネージメントする経験を積むことが必要と考えての計画的戦略だ。日本人が「ソフトパワー」でも世界トップクラスになれることを示す、大きな実績となった。

奇しくも若田飛行士が船長を務めているとき、地上ではウクライナ危機が起き、欧米とロシアの間の緊張が高まった。そんなとき、若田船長は必ず6人全員で一緒に食事をとって話し合った。そして、このISSが目指す国際協調の方向性が間違っていないことを確認できたという。

また、輸送船の計画変更により、仲間のボーナス食が届かなったとき、若田飛行士は船長権限をフル活用し、滞在中にボーナス食が届くように他の輸送船に手配したという。ボーナス食というのは、宇宙飛行士自らが好きに選んで持っていく宇宙食のことだ。なくても我慢できるが、楽しみの少ないISSでの生活に潤いを与えるものであることは間違いない。日頃から仲間の気遣いができる若田飛行士らしいエピソードだ。

決して、強権発動をしてぐいぐいと引っ張るだけではない、意見を言い合いながら協調してくプロセスを大事にする「和」のリーダーシップ。軍人出身ではない若田飛行士だからこそ体現できたことなのかもしれない。

日本の宇宙飛行士の実績もISSコマンダーを務められるところまで来た。2人目のISSコマンダーとして、星出飛行士も内定している。ISSコマンダーになれる人材として選抜された油井さんも、あくまで個人的推測だが、いずれ務めることになるだろう。

ここまで築き上げた日本人宇宙飛行士の歴史を途絶えさせてはいけない。宇宙におけるソフト分野でも日本が世界と対等に渡り合えるレベルに達した。この日本人宇宙飛行士の輝かしい歴史を守っていなければならないと強く思う。

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※注:このものがたりで書かれていることは、あくまで個人見解であり、JAXAの見解ではありません

 


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<著者紹介>

内山 崇

1975年新潟生まれ、埼玉育ち。2000年東京大学大学院修士課程修了、同年IHI(株)入社。2008年からJAXA。2008(~9)年第5期JAXA宇宙飛行士選抜試験ファイナリスト。宇宙船「こうのとり」初号機よりフライトディレクタを務めつつ、新型宇宙船開発に携わる。趣味は、バドミントン、ゴルフ、虫採り(カブクワ)。コントロールの効かない2児を相手に、子育て奮闘中。

Twitter:@HTVFD_Uchiyama