宇宙人生

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NASAで働く日本人技術者小野さんの日々をつづったエッセイ

《第20回》宇宙人生ー宇宙兄弟28巻 技術解説×クイズ!(ネタバレなし)

《第20回》宇宙人生ー宇宙兄弟28巻 技術解説×クイズ!(ネタバレなし)
《第20回》宇宙兄弟28巻 技術解説×クイズ!(ネタバレなし)
4月22日、『宇宙兄弟』最新28巻が発売! 舞台は月面。ムッタはシャロンとの約束である”月面望遠鏡”ミッションへ進みます!
NASAで働く日本人技術者の小野雅裕さんによるエッセイ『宇宙人生』。今回は発売に合わせて、ムッタたちジョーカーズの月面ミッションを”NASA的視点”でクイズと一緒に解説!ぜひ、28巻を読みながらお楽しみください!
解答編は4月28日に掲載予定です。

解答編を見る

【Q1】
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28巻でムッタとジョーカースが挑むミッションは、月面に「シャロン天文台」を建設すること。その方法が非常にユニークです。月の上空25 kmを周回する探査機から、天文台の部品を月面に向けてまっさかさまに落とし、地面に突き刺すのです!

荒唐無稽に思われるかもしれません。しかし、このように天体に探査機を衝突させることは、実は現実でも何度か行われてきました。

そのさきがけが、1960年代前半に行われた、NASAの「レンジャー」計画です。どうして激突させたかというと、当時はまだ月に軟着陸する技術がなかったから。探査機をわざと月に衝突させる軌道に乗せ、衝突でこっぱ微塵になる瞬間まで月の画像を撮り続けて地球に送るという、いわば自殺ミッションでした。(もちろん、探査機は無人です!)

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左:レンジャー探査機、右:レンジャー7号が衝突の直前に地球に送信した最後の画像。画像の右端は衝突前に送信できなかったため、切れている。Credit: NASA/JPL

近年に行われた衝突ミッションの代表的なものは、2005年に打ち上げられた、NASAのディープ・インパクトでしょう。ターゲットは大きさわずか14 kmの小さな星、テンペル第1彗星。母機から分離した子機を、時速3万7000キロ、つまり東京から大阪までわずか50秒で行けてしまう超スピードで、彗星に激突させたのです!衝突のエネルギーは5トンのダイナマイトに匹敵するものだったそうです。

さて問題です!ディープ・インパクトが彗星に子機を高速で衝突させた目的は何だったのでしょうか?

1. 重力がほとんどない彗星への着陸技術が、当時はまだなかったから
2. 軟着陸は可能だが、コストがかかるため
3. 地球に衝突する可能性のある彗星を破壊するための実験
4. 彗星の内部はどのような物質でできているかを知るため

【Q2】
28巻では「穴」が物語の鍵となります。ムッタが偶然に月面で穴を発見したことから、物語が急展開していきます。

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月の穴には縦と横、二種類あります。縦穴は、下の写真のように月にある縦穴は、下の写真のように、空にむけてぽっかりと口をあけた穴で、既に200個近くが発見されています。大きなものは、直径は数百メートル、深さは100メートル近くにも及ぶそうです。

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月の「マリウスの丘」で見つかった縦穴。Credit: NASA/ Goddard/ ASU

さて、問題です!月の縦穴は、いつ、何によって発見されたでしょうか?
1. 2009年に打ち上げられた、NASAのLunar Reconnaissance Orbiterによって
2. 2007年に打ち上げられた、JAXAの「かぐや」によって
3. 1972年に打ち上げられた、NASAのアポロ16号の司令船キャスパーによって
4. 19世紀に地上の望遠鏡からの観測によって

【Q3】
では横穴はというと、まだ直接は見つかっていません。理由は簡単です。月のまわりを回る探査機による上空からの観測では、地底を横に走る穴を見ることができないからです。

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ですが、横穴の存在を強く示唆する間接的証拠は多く見つかっています。月面には「リル (rellie)」と呼ばれる、細長く窪んだ地形があります。そしてリルの近辺に縦穴があるケースがあります。リルは横穴が崩壊してできた地上のくぼみで、縦穴は横穴の天井が崩落してできたものではないか、と考えられているのです。

月の横穴は、将来の月面基地の建設に適した場所だと考えられています。月の表面の環境は苛酷で、100度を超える灼熱の昼が15日続き、その後にマイナス150にもなる極寒の夜が15日続きます。その上、人体に有害な宇宙放射線を防いでくれる磁場も大気も、月にはありません。ですが穴の中は、昼も夜も温度がマイナス20度程度で安定していると考えられています。そして放射線の心配もありません。もし将来、人類が月に住むようになったら、洞窟の中に街ができるかもしれませんね!

では問題です!月の横穴は、どうしてできたと考えられているでしょうか?
1. 太古の昔、月に活発な火山活動があったころに、溶岩が流れたあと
2. 地球の鍾乳洞と同じように、石灰岩が水によって溶かされてできた
3. 昔は高温だった月が冷えた際、岩石が収縮してできた
4. ジオン軍が地下要塞にするために掘った

答えと解説は、4月28日に掲載します!

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答えと解説

【Q1】
4. 彗星の内部はどのような物質でできているかを知るため
が正解です!

星の内部が何でできているのかを知るのは、実は非常に難しいことです。上空から写真を撮っても表面しか見えません。着陸して地面を掘っても、深さ数十センチがせいぜいでしょう。

そこで考えられたのが、彗星に高速で探査機を衝突させて人工的に穴(つまりクレーター)を作ってしまえ、というアイデアです。子機が衝突する様子は母機から克明に観測されました。その結果、彗星には予想されたよりも氷が少なかったこと、そして内部の75%が空洞であることなどが分かりました。(つまり、彗星はロックアイスのように中身がつまっているわけではなく、雪やカキ氷のようにスカスカなのです。)


スクリーンショット 2016-04-15 18.27.53ディープ・インパクトが彗星に衝突したことで生じた爆発。Credit: NASA/JPL
ちなみに、彗星や小惑星の衝突から地球を守る技術の実験も、2020年代に計画されているAsteroid Redirect Missionというミッションの一部で行われる予定です!しかし、映画のように派手に核兵器で破壊するのではありません。もっともっと地味で、残念ながら映画にしても全く面白くなさそうな方法です。

どうするかというと、小惑星の近くに探査機を長い間、浮かべておくのです。たったそれだけです。破壊も、衝突も、着陸すらもする必要はありません。

どうしてプカプカと浮かんでいるだけで地球への衝突を防げるのでしょうか?ニュートンの万有引力の法則を思い出してください。ニュートンさんによると、質量のあるものは全て重力を発生させます。ですから、あなた自身もほんの僅かな重力を発生させて、まわりにあるすべての物を引っ張っているのです。その力があまりにも弱いため、目には見えないだけです。

「グラビティー・トラクター」、直訳すれば重力による牽引、と呼ばれるこの技術。探査機にも数トンの質量があります。小惑星の近くに浮かべておくと、その重力により、ほんの僅かな力ですが小惑星が引っ張られます。僅かな力でも、長い間加え続ければ、少しだけ小惑星の軌道がずれます。小惑星の速度の変化は秒速数センチといった微々たるものですが、それでも地球衝突の何年も前に僅かでも軌道を変えておけば、衝突は十分に防げるのです。

【Q2】
2. 2007年に打ち上げられた、JAXAの「かぐや」によって
が正解です。そりゃあ、わざわざ問題にするんだから、我らが日本のことに決まっているじゃないかと察しがついたでしょうか(笑)

ちなみに「かぐや」も、ミッション終了後の2009年に意図的に月に衝突させられました。将来、日本が無人月着陸を行う際に、狙った場所に探査機を誘導するための技術実証のためだそうです。


スクリーンショット 2016-04-15 18.27.22JAXAの月探査機「かぐや」。Credit: JAXA
【Q3】
ガンダムファンの方、ごめんなさい!答えは
1. 太古の昔、月に活発な火山活動があったころに、溶岩が流れたあと
です!

月は、44~45億年前、火星ほどのサイズの星が地球にドカンとぶつかり、飛び散った地球の破片が集まってできたと考えられています。できた当初は、月の表面はすべてドロドロに溶けた溶岩で覆われていました。表面が冷えて固まったあとも、30億年前くらいまでは活発な火山活動があったようです。その頃の名残が、横穴、つまり溶岩トンネルなのです。

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もちろん地球にも溶岩トンネルはあります。国内だと、富士山山麓にある風穴・氷穴がその例ですね。ハワイ島にあるThurston Lava Tubeも、観光客が気軽に訪れることのできる溶岩トンネルの一つです。

溶岩トンネルは実は火星にもあります!そして月と同じように、地下の溶岩トンネルに沿って縦穴がぽっかりと口をあけているのが見つかっています。そして、もし現在も火星に生物がいる場所があるとすれば、洞窟の中が有力なのではないかと考える科学者が多くいます。


スクリーンショット 2016-04-15 18.28.27ハワイにある溶岩洞、Thurston Lava Tube。Credit: Frank Schulenburg
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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!

書籍の特設ページはこちら!

〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。

本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。

■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
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