1日前の1月20日、衝撃的な天文ニュースが発表されたのです。それは…
太陽系には第9惑星が存在する可能性が浮上!?実際に最新の宇宙開発に携わる小野さんより、解説していただきましょう!
「太陽系第9惑星が存在する証拠をつかんだ。」
そんな衝撃的なニュースが、1月20日、世界を駆け巡った。かつては冥王星が第9惑星だったが、10年前に準惑星に「降格」させられた。しかし今度の第9惑星は冥王星よりもはるかに大きい。それどころか、地球の約10倍もの重さがあるそうだ。太陽からの平均距離は数百天文単位。冥王星でさえ40天文単位だから、まさに太陽系の果ての果てである。公転周期は1万年から2万年におよぶそうだ。

プラネット・ナインの想像図。
Image credit: Caltech/R. Hurt (IPAC)
今回の号外では、その謎とは何か、そしてどのような推理が成されたかを、惑星の発見の歴史をひもときながら、分かりやすく説明したいと思う。
6→9:天王星、海王星、冥王星の発見
話は235年前まで遡る。古代より人類が知っていた惑星は、水星、金星、火星、木星、土星の5つだけだ。天王星より遠い惑星は望遠鏡を使わなくては見えなかったからである。1週間が7日なのも、太陽(日)、月と5つの惑星の名が曜日に割り当てられたからだ。(フランス語、スペイン語、イタリア語、ヒンディー語などでも、曜日の名前は惑星や惑星を表す神の名と対応している。)
地球の他に惑星は5つしかない。この何千年にもわたって信じられてきた常識は、1781年にハーシェルが天王星を発見したことで覆された。しかし、天王星の軌道をよく調べたところ、不可解なことが分かった。計算された軌道からのずれ(摂動)が見つかったのである。天文学者たちは、摂動の原因は、未発見の惑星の重力の影響によるものだろう、と予想した。
そして1846年、予想通りに海王星が見つかる。ならばさらに遠くにも惑星があるに違いないと人々は考え、「Planet X」と仮称されたその惑星を探すのに躍起になった。そうして1930年、冥王星が発見された。「水金地火木土天海冥」という、僕の世代には馴染み深い太陽系観は、こうして完成されたのである。
9→8:カイパーベルト天体の発見と、冥王星の降格
1992年、常識は再び覆された。冥王星のさらに外側に、(15760) 1992 QB1という小惑星が発見されたのである。これは以前から存在が予想された「カイパーベルト天体(KBO)」の最初の発見だった。それ以降、太陽系の果てにKBOが山のように見つかるようになった。現在までに見つかったKBOは千を超える。未発見のものも含めると、直径100kmを超えるKBOが10万個程度存在すると予想されている。
発見はさらに続いた。2004年に見つかったハウメア、2005年に見つかったマケマケとエリスは、冥王星に匹敵する大きさを持っていたのだ。それまで冥王星は例外的に小さな惑星だと思われていた。しかしこれらの発見により、「大き目のKBO」と考える方がすっきりと分類できることが分かった。
こうして2006年、冥王星は太陽系第9惑星の地位を追われたのである。
8→9?プラネット・ナインは実在するのか?
さらに興味深い発見もあった。2003年に発見されたセドナは、太陽から90天文単位、冥王星の2倍以上遠くで見つかったのである。しかも軌道を計算してみると、極端にいびつな楕円で、太陽から最も離れるときの距離は900天文単位にもなることが分かったのである。遠いから公転もゆっくりだ。セドナの1年は、地球の11,400年にもなる。
セドナのように極端に遠くにあるKBOは他にも見つかった。そして、発見を重ねるうち、ある奇妙な現象が見つかったのである。
軌道が、偶然では説明できないほどに似ていたのだ。
ざっくり言うと、とりわけ遠くにある複数のKBOの軌道の楕円形が、ばらばらの方向を向いていてもいいはずなのに、なぜかほぼ同じ方向を向いていたのである。
もう少し詳しく説明しよう。1月20日に発表されたBatyginとBrownの論文によると、太陽に最も近づく距離が30天文単位以上、太陽から最も遠い距離が150天文単位以上あるKBOのうち、海王星の重力の影響を受けていないと考えられるKBOは、セドナを含めて6つある。それらの楕円軌道の向き(近点引数と昇交点黄経)が、すべて非常に近い値だったのだ。
たった6個が似ているだけなら偶然かもしれない。しかし、他のさまざまな軌道の類似点を考慮すると、偶然にここまで似る確率は0.007%と計算された。これは何か隠れた理由があるに違いない。BatyginとBrownはそう考えたのである。
そこで彼らはこう考えた。まだ発見されていない巨大惑星が存在して、その重力の影響でこれらのKBOの軌道が揃ったのだろう、と。
たとえば、草原に羊の群れがいることを想像してほしい。羊さんたちが好き勝手に動くと、すぐに彼らは散り散りになってしまう。そこでシェパード(牧羊犬)が登場する。きっとテレビなどで、賢いシェパードが羊の群れをうまく囲い込んでまとめる様子を見たことがあるだろう。宇宙にも似たような現象がある。たとえば、軌道周期が海王星のちょうど1.5倍のKBOが多く存在するのだが(冥王星もそのひとつである)、それらは海王星の重力によって軌道が揃えられた結果だ。土星の輪は無数の塵でできているのだが、プロメテウスという土星の惑星が、輪の塵を集めて安定させていることが知られている。これらの星はシェパードと呼ばれている。だから、6つの最遠のKBOの軌道が不自然に揃っているのも、未発見のシェパードがいるからではないか、というのが今回の推理なのだ。
では、この未発見のシェパードはどこにあり、どのくらいの大きさなのか。BatyginとBrownがN体シミュレーションという手法を使って調べたところ、地球の約10倍の重さの惑星が、太陽から最も遠い距離が700天文単位、離心率0.6の楕円軌道を回っていると仮定すると、謎がきれいに解決することを発見したのである。
これが、今回の「プラネット・ナイン」の報道の本質である。全ては間接証拠に支えられた仮説にすぎないのだ。
もしかしたら海王星のときのように、近いうちに予想通りにプラネット・ナインが発見されるかもしれない。だが、もしかしたら、プラネット・ナインの存在を仮定しなくても、謎をきれいに説明する方法があるかもしれない。何が真実か。それはいずれ、観測と理論の進歩により解き明かされることになるだろう。
プラネット・ナインに行ってみたい!
もし本当にプラネット・ナインが存在するなら、宇宙船を送り込んでその姿を間近にみたいというのが、僕のような技術者が考えることである。それは本当に可能なのか。
昨年に冥王星に接近し大ニュースとなったニュー・ホライズンズは、冥王星到着までに9年を要した。その10倍の距離を飛行する必要があるので、同じ方法では100年単位の時間がかかってしまう。
どうすればもっと現実的な時間でプラネット・ナインに到達できるか。考えられる一つの方法は、ソーラー・セールと呼ばれる、宇宙に巨大な帆を広げ、太陽の光を風のように利用して加速する方法である。日本の実証機IKAROSが、2010年に世界ではじめて惑星間軌道においてソーラー・セールによる航行実験を成功させた。
どうすればソーラー・セールで太陽系の果てまでいけるのか。ざっくり言うと、まずソーラー・セールを太陽系の内側に向けて打ち上げる。そして太陽のぎりぎり近くまで行く。すると、強力な太陽光を帆に受けることで、莫大な加速を得られるのである。
しかし無人探査機だけではなく、いづれ人間がプラネット・ナインを訪れる日は来るのだろうか。それは、みなさんの想像にお任せしたい。
参考文献:
Evidence for a Distant Giant Planet in the Solar System, Konstantin Batygin and Michael E. Brown, 2016 Astron. J. 151 22
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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!
〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。
2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。
本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。
さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。
■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
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第11回<前編>:宇宙でエッチ
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