宇宙掃除

宇宙掃除

宇宙規模のゴミ拾いに挑戦する岡田さんのエッセイ

宇宙掃除 第十一回 〜チームと工場と資金を作る〜

宇宙掃除 第十一回 〜チームと工場と資金を作る〜

第11回 チームと工場と資金を作る

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

宇宙人材ってどこにいるんだろう――

2014年9月末。会社設立から1年5ヶ月たっていた。

宇宙ゴミを除去すると決め、方法論を考え、ようやくその具体的な方法と具体的な人工衛星のイメージができてきた。協力頂ける大学や部品メーカーも少しずつそろってきた。

いよいよ、開発チームを作るタイミングだ。必要なエンジニアを雇ったら、製造拠点を作らなければいけない。そして、雇用維持と製造拠点づくりにお金も必要だ。

チームづくり、工場づくり、資金づくり。それを同時に短期に行わなければならない。これが10月からの僕のテーマだった。ゴールは6ヶ月後、2015年4月1日から日本に製造拠点をオープンすること。

資金的にも必要なスケジュールだった。狭い道だけどやるしかない。

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チーム作り

僕はまずエンジニアを探すことから始めた。そもそも宇宙業界は人材難だ。そもそも宇宙を研究する学生数が少ない上に、優秀な人材の大半はJAXAや大手宇宙企業に就職する。まだ吹いては飛ぶような、福利厚生もままならない会社に来てくれと言っても来てくれるはずもない。

だから、僕はいくつかの方法を同時に行ってみた。

まず、JAXAや大手企業の方々数人に声をかけてみたが、最初から断られ続けていた。

「何かあれば相談にのりますよ」
「いつでも言ってください」

こう言って頂けても、その実は断られていた。

一番、感謝しているのは、技術面で相談していた大学の先生方だ。「この人とこの人は興味あるかもしれないよ」などと教えて頂き、一本電話をいれて頂いたりした。

これは効果てきめんで、二人の若いエンジニアの名前を教えていただいた。 早速アポを取り、日本に飛んで、銀座の中華料理屋さんで食事をした。

僕は最初からオファーレターを持っていた。もし自分が、この人の下で働いてもいいと思えたらその時点でオファーレターを出そうと決めていた。

人を雇うというのは責任を伴うことである。万が一資金調達ができなくても、少なくとも2年は自分の貯金で雇おうと思っていた。

男女ひとりずつ。どうか一緒に宇宙環境を改善しましょうと、本気度だけは伝わったと思う。

「やりましょう!」

この二人と始めることになった。そしたら数珠つなぎに色んな方と出会い、ご一緒させていただくことになった。本当に宇宙の環境改善を行いたいと思う人だけが集まった。

他にも、学会に乗り込んで、人の発表を見て、いいなと思った人に声をかけるということも行った。これはあまりうまくいかなかったけれども。

こんな経過を経ながら、そして一人ひとりとの出会いはそれぞれにドラマチックで、結局若者エンジニア4人、宇宙OB5人、政策担当1人、総務・経理1人の体制でスタートすることになった。シニアと若者の混成チームで、30代後半から60歳までの25年分に誰もいない。

若者は大学や研究機関のメンバー、シニアはJAXAや大手宇宙企業のOBから来て頂いた。この若者エンジニアを数年で鍛えて頂き、次のリーダーが生まれるようにお願いした。

技術度高く、熱い、最初のチームが12月末ごろには揃ってきた。欲を言えばまだまだ欲しい人材はあったけど、素晴らしいスタートが切れそうだ。

工場を作る

工場を作ったこともない私がどうやって工場を作るというのか。下手に作ってあとで取り返しの付かないことになりかねない。

人工衛星の工場の作り方は完全に耳学問だった。チームにも過去の経験を聞いたし、海外の衛星メーカーに恥ずかしげもなく「工場のデザインの仕方を教えて下さい」と聞いていた。

多角的に意見をもらったので、少しずつ必要な条件が分かってきた。実は条件は沢山あった。

• 天井の高さ(人工衛星の3〜4倍以上の高さが必要)
• 非常に大きな出入り口(屋内で人工衛星を搬入するため4トントラックをバックで入れる)
• 道幅4m以上(4トントラックのため)
• やや高台(水害に弱い)
• 振動が少ない(鉄道や大通りそばはダメ)
• 一棟(セキュリティ上、他社との同居、同じ入口からの出入り禁止)

などなど。まだまだある。

利便性も鍵だ。神奈川県や千葉県、埼玉県のやや都心から離れた場所ならば候補地はいっぱいあった。ただ人材採用面でも利便性は外せなかった。

目をつけたのが、23区内の印刷工場だった。折からの業界不況で、どんどん潰れていた。都心に印刷工場跡地が多数あった。

ただ、どうしても条件が完全には合わない。

昔ながらの印刷工場は、密集した住宅街のど真ん中にあったり、オーナー住居とつながっていてセキュリティを担保できなかったり。何より、古くからある印刷工場は広さも天井高もゆったりしているが、古い機械や配電が所狭しと置かれており、壁もペンキ痕だらけ。リノベーションだけで5000万円はかかりそうだった。

1月中旬、もう4月1日のオープンは間に合わないかもと思っていたとき、錦糸町に非常によい物件が見つかった。歩き疲れてもう今日は探すのやめようと思っていた夕方、頑張ってもう1件見に行こうと言ってたどり着いた物件だった。

なんと、条件がぴったりだった。広さも含めて。

錦糸町という場所は穴場だった。羽田からも成田からも近い。東京駅まで3駅。秋葉原駅までも3駅。大手町、渋谷、新宿、横浜、すべて直通だ。駅近なのに、中小の工場が多数ある。

僕たちはスカイツリーがドーーーンと見えるこの場所にのろしをあげることにした!

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(建設中の製造拠点)

1月末、僕らはその土地のオーナーとサインした。そして知り合いの業者にお願いして、なんとか4月1日オープンできるようにお願いした!無茶な願いだった!でも、日割りでスケジュールをたて、僕たちは4月1日に仮オープン、5月15日に正式オープンすることになった。

最初は居抜きを改装して工場にしようと思っていたが、期せずしてこの錦糸町の物件は新築となった。そして新築でよかった。

参画してくださる大手宇宙企業のOBの方々には心の底から感謝している。もう年金で悠々自適な生活を送ってもいいはずだ。素晴らしい施設で開発してこられた方々だ。日本の衛星開発の最前線で頑張ってこられた方々だ。

だから、最後に、このアストロスケールで働いてよかったと思っていただけるような、小さくとも素晴らしい工場にしなければならない。

時間がない中、工場を作り上げるのは作業が膨大だ。でも、階段の色、玄関の装飾、机の色やレイアウト、セキュリティの構築、クリーンルームの設置・・何もかもがとても楽しかった!!

ガレージのシャッターにアストロスケールのロゴが描かれたとき、この工場に魂が宿った。

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(日本法人の伊藤美樹社長)

資金を作る

1月末に不動産のサインをするにはお金が必要だった。前年10月から動いていた資金調達の動きが1月に佳境を迎えていた。

僕たちの目標は3〜5億円の資金調達だった。これは、難しい。だけど、その資金があれば、1年半ほどR&D(研究開発)に没頭することができる。

誰が「ゴミ掃除」にそんなにお金を払ってくれるだろうか。資金調達の方法には、銀行融資やファンドからの調達などいくつか方法がある。
資金作りについては、また熱い人との出会いがあったので、次回に書きたい。

次回「第12回 資金調達」に続く

***

〈著者プロフィール〉
岡田 光信(おかだ みつのぶ)
1973年生まれ。兵庫県出身。シンガポール在住。東京大学農学部卒業。Purdue University MBA修了。宇宙ゴミ(スペース・デブリ)を除去することを目的とした宇宙ベンチャー、ASTROSCALE PTE. LTD. のCEO。大蔵省(現財務省)主計局に勤めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。自身で経営を行いたいとの思いが募り、IT会社ターボリナックス社を皮切りに、SUGAO PTE. LTD. CEO等、IT業界で10年間、日本、中国、インド、シンガポール等に拠点を持ちグローバル経営者として活躍する。幼少より宇宙好きで高校1年生時にNASAで宇宙飛行士訓練の体験をして以来、宇宙産業への思いが強く、現在は宇宙産業でシンガポールを拠点として世界を飛び回っている。

夢を夢物語で終わらせないための考え方が記されている著書『宇宙起業家 軌道上に溢れるビジネスチャンス』を刊行。

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