宇宙掃除ベンチャー、有人か?無人か?-宇宙兄弟

宇宙掃除 第三回 ~有人か無人か~

2015.06.15
text by:編集部コルク
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第三回 有人か無人か

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

宇宙ゴミを除去する方法は、専門家の間で意見が割れている。
まだ誰も答えを持っていない。
だからこそ面白い。

絶対に優れた方法論を見つけ出してやる。
僕はそう思っていた。

まず、決めなきゃいけないのは、「有人でやるか、無人でやるか」だった。

実は人類は、過去に宇宙ゴミの除去をしたことがある。
しかも、有人でだ。

なら、そのマネをしたらいいんじゃないか。
僕はそう思っていた。

1992年。

軌道投入に失敗した衛星を、スペースシャトルが取りに行った。最初は大型のロボットアームで回収しようとしたができなかった。ゴミは回転している。ロボットアームで捕まえるのは困難だ。

最後は、宇宙飛行士3人が船外に出て「素手」で捕まえた。

これがその時の写真
スクリーンショット 2015-06-10 20.47.52
“Three Crew Members Capture Intelsat VI – GPN-2000-001035” by NASA

ゴミをとるときは、どうにかして捕まえないといけない。その捕まえ方を無人のロボットでやるのか、人の手でつかまえるのかを悩んだ。

スペースシャトル1機を飛ばす平均費用は15億ドル。だから1個のゴミを回収するのに1800億円かかったことになる。

衛星を1機打ち上げるのにかかる費用は数億円〜数百億円だ。ゴミを回収するのにその何倍、何十倍ものお金をかけるなんてなんともバカらしい。

スペースシャトル案は、コストがかかりすぎる…

回転しているゴミを捕まえるのは至難の技だ。ロボットvs人間。宇宙ではどちらが有能か。これは難しい問題だ。

ロボットは腕の自由度が低い。宇宙の CPUの能力は限られているので、常に地上と通信しなければならない。しかし人間は腕や指の自由度が高い。おまけに脳という素晴らしいCPUが頭の中にあるから、その場で見て対応ができる。

有人でやるとするなら、僕にはアイデアがあった。

僕のいるシンガポールの、アジア各国からの労働者に声をかけることだ。彼らは厳しい労働環境で最高のチームワークを発揮する。
「宇宙飛行士にならないか?」と聞くと喜んでなってくれるんじゃないか?

よし、最新の有人宇宙船を作ろうとしている会社に相談してみよう――。

僕は早速アポを入れて、アメリカに飛んだ。宇宙業界に次々と革命を起こしている企業だ。彼らなら安くて安全な有人宇宙船を打ち上げてくれるに違いない。

24時間のフライトを経て、真っ青な空の西海岸についた。すぐにミーティングが始まった。

僕「高度800kmの太陽同期軌道に有人で行きたい。6人乗り。あなた方の有人船に大型デブリを出し入れするハッチを作って欲しい。6人は帰還する。作れるか」

相手「Yes」

僕「いつぐらいに可能?」

相手「最速なら2〜3年ちょっとでいけるかも」

僕「いくら?」

相手「わからない。エンジニアを巻き込んで設計を詰めないと。ただ、half a billion(600億円程度)くらいだと思う。」

スペースシャトルの1/3の費用だ。それでも、衛星を打ち上げる費用よりずっと大きい。100億円くらいを期待していたが、難しいようだ。あの彼らでも 。

有人と無人では宇宙船の設計が根本から異なる。安全基準も異なるし、有人船は与圧といって船中を気体で満たさないといけない。テスト工数も断然多い。

絶対に人命を失ってはいけない。そのコストがどれだけ大きいのか改めて知った。

いかに安く、回数を多く、ゴミを回収していきたい…
どうするか…

悩んでいた僕は、その会社の工場を見せてもらった。

…驚いた。とにかくカッコ良かった。ファンキーな奴らがロケットを作っていた。しかし工場自体は自動車工場のように整理整頓されている。

そして何より、エンジニアたちが本当に楽しそうに仕事をしている。

ソフトウェア業で10年近く生きてきた僕は、実は心の中にハードウェア業へのあこがれがあった。「ものづくり」。言い古された言葉だけど、ちょっとうらやましかった。

震えてきた。

僕は、そもそも間違っていたのだと知った。一番面白いことは、つくることなんだ!サービスだけ考えて、それを他の人に任せ、つくってもらうのはもったいない。

だったら、僕がエンジニアをもって工場をつくろう——

有人じゃなくてもいい、無人でゴミを回収しよう。
全ての問題が解決できるよう僕がつくればいいんだ!

「無人」という答えに辿り着いたことに自分自身驚いたが、それ以上にこの訪問は僕には衝撃的な出来事になった。

その場で案件をガシガシ詰めるスピード感。速い。日本企業なら半年かかるような議論を彼らは5分でする。

西海岸の企業への訪問は、これからの僕に大きな影響を与えることになった。

有人でなく無人で 除去することを決めた。
エンジニアを集め工場を持つことを決めた。

2013年5月8日。会社設立から5日目のことだった。

僕の技術論は、すべてここから始まる。仮説を作っては専門家の元に飛んでいき、意見を乞い、修正する。そんな生活が始まった。

「第3回 論文300本ノック」に続く

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〈著者プロフィール〉
岡田 光信(おかだ みつのぶ)
1973年生まれ。兵庫県出身。シンガポール在住。東京大学農学部卒業。Purdue University MBA修了。宇宙ゴミ(スペース・デブリ)を除去することを目的とした宇宙ベンチャー、ASTROSCALE PTE. LTD. のCEO。大蔵省(現財務省)主計局に勤めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。自身で経営を行いたいとの思いが募り、IT会社ターボリナックス社を皮切りに、SUGAO PTE. LTD. CEO等、IT業界で10年間、日本、中国、インド、シンガポール等に拠点を持ちグローバル経営者として活躍する。幼少より宇宙好きで高校1年生時にNASAで宇宙飛行士訓練の体験をして以来、宇宙産業への思いが強く、現在は宇宙産業でシンガポールを拠点として世界を飛び回っている。

夢を夢物語で終わらせないための考え方が記されている著書『宇宙起業家 軌道上に溢れるビジネスチャンス』を刊行。

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