宇宙掃除ベンチャーの仲間現る-小山宙哉の宇宙兄弟公式

宇宙掃除 第五回 ~同志あらわれ、ものづくりを学ぶ~

2015.08.17
text by:編集部コルク
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第五回 同志あらわれ、ものづくりを学ぶ

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

プラモデルすらまともに作れないのに、本当に人工衛星の「製造」ができるのだろうか。

机上の勉強だけではダメだ。
僕は「ものづくり」の相談相手を探していた。

周囲では、「メイカーズ・ムーブメント」が起きていた。3Dプリンターや小型で安価な工作機械が多数出てきて、机2つもあれば、何かを作れる時代が確かに来ていた。

  誰もが「ものづくり」をできる時代だ!
  誰もが製造業の起業家になれる時代だ!
  製造業の民主化だ!

メディアが騒ぎ、IT時代の知り合いの多くもそっちに向かっていた。90年代から続く長いネットブームも2巡3巡し、ソフトウェアに飽きてきた人々がハードウェアの世界に足を踏み入れようとしていた。

だけど、僕は、相談すべき人々は、そっちの方向の人たちじゃないって思っていた。3Dプリンターも使ってみたし、面白かった。でも、なんだろう、画期的なんだけど、グッとこない。僕の「ものづくり」じゃない。

そんなとき、ある小さなニュースを見た。

「全日本製造業コマ大戦で優勝したコマ」。
動画がYouTubeにあがっていた。
小さいのにずっと回り続ける。

スクリーンショット 2015-08-14 15.01.27

早速その会社を調べた。茅ヶ崎にある小さな部品工場だった 。

その会社の「セイミツ・コマ」なるものをウェブで買った。
すぐに届いた。
指先ほどの大きさだ。小さい。

回した。ずっと回る。
永遠を感じるくらい回る。

美しい。
感動する。
机の上で止まっているかのうようだ。

僕はピンときた。

これを作った人に相談しよう!
「ものづくり」の根幹は感動だ!

さっそくその会社のウェブサイトにアツいコメントを送った。

『初めまして。岡田光信と申します。御社のコマをすでにウェブで50個購入して、全部、友達にプレゼントしました。(以下省略)』

すぐに返事が来た。

『岡田様 由紀精密、常務取締役の大坪です!メールありがとうございます!大変嬉しく思います。(以下省略)』

メールにビックリマークをつけてくる人に悪い人なんていない!
アポを入れて、由紀精密本社を訪問した。

大坪さんは当時若干37歳。小さなネジをロクロで作るところから始まった町工場。3代目だった。何十年も使われている工作機械が所狭しと並んでいた。

会社説明を聞きながら僕は目を丸くしていた。ネジ屋から始まって、公衆電話部品の量産をしていたが仕事のほとんどがなくなって、彼は事業モデルを変更するために航空宇宙分野を開拓していた。

小型衛星の部品製造も行っていた。
JAXAとも組んでいた。
航空宇宙の品質規格の認証ももっていた。

「えーーー!僕は、本当はコマじゃなくて、宇宙のゴミを除去したいんです!」

すぐに話が盛り上がった。
夜遅くまで語り合った。

僕の考える宇宙ゴミの除去方法仮説の問題点はなんなのか。
単品生産と量産の違い、どうやって製造に再現性を実現するか。
切削加工中に起きる誤差の原因は何で、どうやって修正するのか。

誤差が生まれる要因を7つにわけ、その修正方法を丁寧に教えてくれた。
「ものづくり」って属人的な職人技ではない。科学だった。

ぼくたちには共通の友人が7人もいた。
偶然にしては出来過ぎている。

大坪さんは、僕よりアツかった。「宇宙掃除、ぜひ、一緒にやりましょう!!!」

大坪さんから提案があった。

「(2013年)6月にパリで航空ショーがあるので来ませんか。世界の航空宇宙関係2000社が集まります。由紀精密は独自ブースを構えているので見に来て下さい。」

僕はパリに飛んだ。

そびえたつロケット。
衛星を売る会社がいっぱい。
戦闘機や航空機のショー。

華々しかった。

僕は決めた。

パリ航空ショーは2年に1度の祭典。
2年後は必ず僕がデブリ除去機を出展しよう!

まだ創業して1ヶ月だった。
でもそう決めた!

僕のスケジュールはここから逆算することになる。
スケジュールを決めるって楽しい。

いつまでに設計を決めるか
いつまでにチームをつくるか
いつまでに工場をつくるか
いつまでに資金をあつめるか

僕のワクワクは増大していた。
最高の相談相手が見つかって、スケジュールの目標も出来たから!

その後、由紀精密とASTROSCALEは、業務提携・資本提携をした。そして、今年6月のパリ航空ショーに共同でブースを出し、デブリ除去機を展示した。

創業して1ヶ月で決めた、デブリ除去機を展示する夢が叶ったのだ!

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大坪さんとの出会いは、宇宙ゴミとは別に、もう一つの人生を賭けたプロジェクトにつながることになる。

NASAが月面探査を民間に解放するらしい。僕にはどうしても宇宙掃除の前にやっておきたいプロジェクトがあった。僕たちは、民間初の月面到達を目指すことになる。

以下、第6回「ルナ・ドリームカプセル・プロジェクト」につづく。

***

〈著者プロフィール〉
岡田 光信(おかだ みつのぶ)
1973年生まれ。兵庫県出身。シンガポール在住。東京大学農学部卒業。Purdue University MBA修了。宇宙ゴミ(スペース・デブリ)を除去することを目的とした宇宙ベンチャー、ASTROSCALE PTE. LTD. のCEO。大蔵省(現財務省)主計局に勤めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。自身で経営を行いたいとの思いが募り、IT会社ターボリナックス社を皮切りに、SUGAO PTE. LTD. CEO等、IT業界で10年間、日本、中国、インド、シンガポール等に拠点を持ちグローバル経営者として活躍する。幼少より宇宙好きで高校1年生時にNASAで宇宙飛行士訓練の体験をして以来、宇宙産業への思いが強く、現在は宇宙産業でシンガポールを拠点として世界を飛び回っている。

夢を夢物語で終わらせないための考え方が記されている著書『宇宙起業家 軌道上に溢れるビジネスチャンス』を刊行。

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