宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

命の賛歌 /『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載43

命の賛歌 /『宇宙に命はあるのか 〜 人類が旅した一千億分の八 〜』特別連載43

「私」はどこからきたのか?1969年7月20日。人類がはじめて月面を歩いてから50年。宇宙の謎はどこまで解き明かされたのでしょうか。本書は、NASAの中核研究機関・JPLジェット推進研究所で火星探査ロボット開発をリードしている著者による、宇宙探査の最前線。「悪魔」に魂を売った天才技術者。アポロ計画を陰から支えた無名の女性プログラマー。太陽系探査の驚くべき発見。そして、永遠の問い「我々はどこからきたのか」への答え──。宇宙開発最前線で活躍する著者だからこそ書けたイメジネーションあふれる渾身の書き下ろし!

『宇宙兄弟』の公式HPで連載をもち、監修協力を務め、NASAジェット推進研究所で技術開発に従事する研究者 小野雅裕さんがひも解く、宇宙への旅。 小野雅裕さんの書籍『宇宙に命はあるのか ─ 人類が旅した一千億分の八 ─』を特別公開します。

書籍の特設ページはこちら!

命。命とは何だろう?

命は感じる。命は蠢く。命は育つ。命は咲く。命は歌う。命は踊る。命は命に恋する。命は命を生む。命は命を愛する。

神を信じる者にとって命とは神の神聖なる創造物。科学を極める者にとって命は自然の精緻なる最高傑作。命を産み落としし母にとってそれは星よりも重い唯一無二の宝石。命を殺めしものにとってすら、自ら手にかけし亡骸の虚しさは命の神秘を訴えるだろう。

もし宇宙に命がなかったら? そうだとしても、星々は粛々と水素を核融合させながら燃え、そのまわりを惑星は重力の法則に従い黙々と回り続け、その空には光学の法則に従って美しい虹が映し出されるだろう。誰のために?

震える心がなくとも夜空には天の川がかかる。感じる魂がなくとも夕焼けは赤く燃える。何のために?

なぜ観客がいないのにバレリーナは踊る?

なぜ人のいない舞踏会に音楽は鳴る?

ときどき、僕はこんな空想をする。命とは宇宙に穿たれた穴ではないか。大きな黒い箱の中にとびきり美しい物が入っているらしい。その箱には小さな穴がいくつかあいていて、人々が交代でそこから中を覗いている。その美しさは評判で、穴を覗くために長い列ができている。百三十八億年待ってやっと僕の順番が回ってきて、穴に目を当てる。美しさに魂が震え、楽しさに心が躍る。ずっと眺めていたいが次の人が待っているので譲る。それが僕の命だ。

では、その大きく黒い箱はなぜあるのか? 中の美しいものはなぜ存在するのか? もしそれを造った存在がいるならば、なぜ造ったのか?

覗いてもらうためではなかろうか? 知ってもらうためではなかろうか?

命は宇宙の結果であると同時に、その理由なのではあるまいか? 宇宙は、自然は、命に知られることを必要としているのではなかろうか?

野に咲く花よ。地を這う虫よ。子よ。母よ。父よ。愛を誓う恋人よ。野心に燃える若者よ。何かを悔いる老人よ。水を漂う者よ。風に舞う者よ。遠い世界に生まれ、遠い世界を夢見る異形の者たちよ。赤い砂の下に逃れ、氷の下に身を隠し、灼熱の風に耐え、凍てつく川に眠りながら、命の火を健気に守っている者たちよ。138億光年の宇宙に生きとし生けるものすべての命よ。宇宙は汝のためにある。宇宙は汝の中にある。

(つづく)

 

<以前の特別連載はこちら>


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【第15回】〈一千億分の八〉人類の火星観を覆したのは一枚の「ぬり絵」だった
【第16回】〈一千億分の八〉火星の生命を探せ!人類の存在理由を求める旅
【第17回】〈一千億分の八〉火星ローバーと僕〜赤い大地の夢の轍
【第18回】〈一千億分の八〉火星植民に潜む生物汚染のリスク

〈著者プロフィール〉

小野雅裕(おの まさひろ)

NASA の中核研究機関であるJPL(Jet Propulsion Laboratory=ジェット推進研究所)で、火星探査ロボットの開発をリードしている気鋭の日本人。1982 年大阪生まれ、東京育ち。2005 年東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業し、同年9 月よりマサチューセッツ工科大学(MIT) に留学。2012 年に同航空宇宙工学科博士課程および技術政策プログラム修士課程修了。2012 年4 月より2013 年3 月まで、慶応義塾大学理工学部の助教として、学生を指導する傍ら、航空宇宙とスマートグリッドの制御を研究。2013 年5 月よりアメリカ航空宇宙局 (NASA) ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)で勤務。2016年よりミーちゃんのパパ。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。現在は2020 年打ち上げ予定のNASA 火星探査計画『マーズ2020 ローバー』の自動運転ソフトウェアの開発に携わる他、将来の探査機の自律化に向けた様々な研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。