あの宇宙飛行士はなぜすごい? FFS理論・古野俊幸×選抜試験ファイナリスト内山崇 特別対談【前編】 | 『宇宙兄弟』公式サイト

あの宇宙飛行士はなぜすごい? FFS理論・古野俊幸×選抜試験ファイナリスト内山崇 特別対談【前編】

2025.01.24
text by:編集部コルク
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「なんで指示通りに動かないんだ」「なんでこんな理不尽な判断をするんだ」

上司と部下の関係に悩むビジネスパーソンに読んでほしい『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる』シリーズの第三弾『あなたを伸ばす部下、つぶす部下』が発売されました。

発売を記念し、著者の古野俊幸さんと、宇宙飛行士選抜試験のファイナリストに選抜された経験を持ち、宇宙領域で活躍を続ける内山崇さんの対談を実施。宇宙飛行士たちはなぜ優秀なのか?宇宙開発の現場ではどんな悩みがあるのか?内山さんの経験を、古野さんがFFS理論の視点から分析します。

<プロフィール>

古野俊幸:株式会社ヒューマンロジック社 代表取締役。『宇宙兄弟』とFFS理論を組み合わせた書籍『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる』シリーズの著者。(写真右)

内山崇:宇宙船の開発・運用に20年以上従事。2008年のJAXA宇宙飛行士選抜試験ファイナリスト。著書に『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』。(写真左)

FFS理論で「生きやすくなった」

── 第三弾の発売記念対談ということで、内山さんにも早速読んでいただきました。

古野:ありがとうございます。どうでしたか?

内山:グサグサ刺さりました。このタイプの人には、こういうコミュニケーションが合うという実例がたくさん書かれていて、ものすごく腹落ちしましたね。以前からFFS理論にはポテンシャルを感じていましたが、今回の本はさらに納得感がありました。

── FFS理論は、その人の特性を5つの因子(凝縮・受容・弁別・拡散・保全)で分析します。以前、内山さんも診断したんですよね。

内山:はい、弁別・凝縮・拡散でした。日本人になかなかいないタイプと言われました。

古野:内山さんは弁別がすごく高いですよね。白黒はっきりさせたい人で、宇宙兄弟で言えばビンセントですよ。周囲の人は、最初はやりづらく感じるんじゃないですか(笑)。

内山:そうなんですよね。やりづらくさせてしまうから、いかに自分を抑えながら進めるかという葛藤は感じてきました。診断してからは、自分の思考の癖も、相手の思考や反応も客観的に理解できるようになって、生きやすくなったと思います。人とうまく合わなかった理由がわかったというか。

優秀なのに、なぜかマネジメントが下手な上司

古野:僕は、拡散・凝縮・弁別・受容・保全の順に高いんです。保全性はないけど、保全の人の特徴はわかるから、その人が理解できるように配慮できます。

でも、昔はできなかったですね。「なんでわかんないんだろう」と思っていた。みんな、自分が普通だと思いやすいんですよ。だから、自分が言ったことがわからない人に対して「あいつ馬鹿だな」と評価してしまう。部下から見れば「このおっさん、全然わかってないな」ってね。

内山:問題が起きやすいのはやっぱり上司と部下ですよね。世代も違うし、最近はコンプラが強化されて、オンラインの業務も多くて、コミュニケーションを阻害する要因が色々ある。

私は、上司に対して思うことがたびたびあって、すごく優秀なのに、人のマネジメントをしないというか、軽視するんだろうとか。そんな人たちが人の上に立つこの会社大丈夫かしらと悩むほどでした。

古野:わかります。僕は新卒から4年間は新聞社にいましたが、その時に「みなさん記者としては優秀でも、マネジメントは下手だよね」と思いましたね。

内山:マネジメントの指導をされないまま、現場の実績で上がっていくことは多いですよね。

私は、民間企業に新卒から8年間いて、その後JAXAに転職しました。ずっとエンジニアです。宇宙関係はステークホルダーが多いので、本来はうまく立ち回る力が重要だと思うんですよ。複雑な総合システムを、1人1人に役割を細分化し、その中で閉じて仕事をする。当時はナレッジ・マネジメントとか、誰でも同じ業務ができるようにする手法が流行っていたこともありますが、全体の歯車の中で仕事をするのが嫌で転職をしたというのもありました。

古野:ナレッジ・マネジメントの限界を見たんですね。今はAIの発達もあって、個人の発想やメンバーのシナジーが重視されてきていると思います。いい意味で戻ってきてる感じはします。

内山:そうですね。個人を活かす方向に考えられるのは、FFSのポイントだと思っています。宇宙関係は優秀な人が多いですけど、優秀な人同士でそりが合わず、衝突することで全体のパフォーマンスを落とす事例を見たことがあります。ちょっとしたことでうまくやれるはずなのに、もったいないなと。そこにも、FFSは活かせるんじゃないかと思います。

FFSでズバリ言い当てられ、衝撃を受けた

── お二人はそもそもどう知り合ったんですか?

内山:宇宙飛行士を目指す人たちのコミュニティを運営していて、そこで古野さんにワークショップをしていただいたんです。メンバーのFFSの診断をして、お題に対して5人チームでオープンディスカッションする形式でした。

古野:月面と雪山での遭難を想定したお題ですよね。与えられた道具で、生き延びるための方針を決定してくださいと。

内山:古野さんは、そのチームがどんな議論をするのか予想していたんですよ。それが、ずばり当たっていた。衝撃を受けました。私に関しては「前提条件の曖昧さに、ものすごくストレスを感じながら議論する」と予想されてたんです。まさにその通りで(笑)。

それまで、人には多面性があって、カテゴライズできないという考え方でした。それが、FFSにはずばり当てられてしまった。科学的な理論なんだな、すごいなと身に染みて感じました。

古野:僕もFFS理論を開発した小林惠智博士から初めて聞いた時は、眉唾だと思いました。日本企業に広めたいんだと聞いて、興味本位で手伝ってみた。そしたら、クライアントの反応がすごい。分析結果をレポートした途端、目の色が変わるんです。「当たってる」って。

── FFSは、なにがすごいんですかね?

古野:従来の性格診断でも、その人がどういう人なのかはある程度わかるんですよ。FFSは、さらに人間関係までわかるのが特徴ですね。

FFSはストレス理論ですから、どんな環境が嫌なのかに着目する。内山さんの場合は、曖昧な前提条件はやりづらいから、はっきりさせたい。でも、因子によっては、はっきりさせたら制約条件が増えて、面白いアイデアが出ないと思う人もいるわけです。

それなら、曖昧なままブレストできる人を集めた方がスパークするかもしれない。逆に、意思決定するときは、はっきり前提条件を整理できる人たちがいい。そういうことがFFSはできる。

あの宇宙飛行士はどんな因子?

── 宇宙飛行士や選抜試験の受験生は、みなさん優秀ですよね。FFS理論において共通点はあるんでしょうか?

古野:この因子なら優秀ということはないです。「洗練度」と呼んでいるものが近いですかね。例えば、弁別は、曖昧さや理不尽がストレスになるけど、視座を高く持って「世の中は理不尽なこともある」と、清濁併せ呑める人は洗練度が高い。

内山:宇宙飛行士も、この因子の人が多いっていうのはあんまりないと思いますね。チームスキルはみなさん高いと思いますが。

古野:優秀な人は自分の強み・弱みを徹底的にわかっていますよね。だから、自分の強みを活かすリーダーシップをとりながら、弱みを補完してくれる人をうまく巻き込める。保全なら拡散の人を巻き込むとか。

内山:そうですね。ただ、それだけじゃない気がしていて。例えば、選抜試験の最中で、油井亀美也飛行士はグイグイ引っ張るリーダーシップではないけど、チームに対してプラスになる動きを常にしているんですよね。そして、油井さんがいるチームは、大体勝つ。チーム全体でいい動きにするためには、何かがあると思うんですが、未だにわからなくて。

古野:チーム全体のメカニズムがわかっているんでしょうね。このメンバーなら、この人が引っ張って、俺はこれをやった方がいいと目利きが効く。あとは、コーチングもできるんじゃないですか。誰々さんはこの強みを発揮するといいよと伝えられるとか。

内山:そうかもしれないです。油井さんは、さりげないんですよ。今チームに必要なことをスッと助言してスッと引く。

古野:宇宙兄弟ならエディが近いですかね。エディが前面に出たのは「ミッションを取り戻す」って言った時だけですよ。それ以外は、投げかける程度で、メンバーが気づくのを待つ。受容・弁別・保全のバランスがいい人です。全体を俯瞰しながら、合理的にジャッジしている。

ブライアンのように凝縮や拡散が高いと、もっと前に出るんです。控えめにしていても、みんながオーラを感じるんですよ。

── 宇宙飛行士では、若田光一さんは凝縮でしょうか?オーラを感じます。

古野:若田さんはオーラ出てる感じありますよね。バランス良さそうですけど。

内山:自分から前に出る感じではないですよ。それでも、誰もが優秀さを知っているからリーダーに推される。本当にいつも腰が低くて、著書を献本した時も「初心に気づかされました」とわざわざしたためてくださって。

古野:人としてできてる(笑)。

内山:できてますね(笑)。

古野:理想的なリーダー像かもしれないですね。謙虚だけど、意思は強い。受容・弁別・保全のバランスの中にいる気がします。

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>>後編では、内山さんの上司×部下の悩みをFFS理論で分析!

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