世界に伝える宇宙ゴミの問題-小山宙哉の宇宙兄弟公式サイト

宇宙掃除 第七回 ~世界に宇宙ゴミの問題を伝える~

2015.11.10
text by:編集部コルク
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第七回 世界に宇宙ゴミ問題を伝える

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

僕は宇宙ゴミの問題を早く世界に伝えなきゃ、飛び回らなきゃと思った。
全然知られていないこの問題も 、地球温暖化問題のように政治も一般人も巻き込んだムーブメントにできないかと思っていた。

僕はまず周辺の人に話し始めた。面白いと思ってくれた友人が、何人かを紹介してくれた。

会社を設立して9ヶ月ほどたったころ4つの講演の機会を頂いた。
– Asia Leaders Summit (日本とシンガポールの起業家や投資家向け)
– SSAシンポジウム(宇宙業界向け)
– Start up Asia(アジアの起業家や投資家向け)
– TED x Tokyo(世界向け)

当時の僕には十分な機会だった。問題はすべて英語だったこと。英語は話せるけどいつも500語くらいしか使っていない。

技術用語を使わずに、一般の人にも分かりやすく、そして思わず友達にも話したくなるようなスピーチってどうしたらいいだろう。イギリス人のコーチをつけて、言葉の選び方や間のとり方など、アドバイスをもらった。

練習のおかげか、僕の講演動画は何度もネット上で再生された。英語でチャレンジして良かった。世界中に伝えるいいきっかけになった。

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その後、ASTROSCALEの活動はものすごいスピードで世の中に広まっていった。英字の新聞・雑誌に掲載され、それから日本の新聞・雑誌にも派生した。

今、僕は2週間に一度は世界のどこかで話している。アメリカ、中国、フランス、ドイツ、イスラエル、ロシア、日本、シンガポール・・。ひと月に3回も4回も機内泊するのは大変だけど、エコノミークラスでの寝方もうまくなった。

人の3倍働く。技術に100%、売上と資金繰りに100%、コミュニケーションに100%。合計300%!これが僕の時間割。それでいいのだ。

鋭い指摘・非難を受けることもある。必要な専門知識は多岐に渡る。まだ隅々まで勉強し尽くせていない。凹む。でも知らないままより、話して非難を受けたほうがいい。学べるから。

肉体的・精神的なしんどさよりも感謝の気持ちが大きい。この問題に共感する人が増えることへの喜び。講演会場も、数十人から100人規模へ、1000人規模へと大きくなってきた。講演後に「私は何をしたらいいでしょうか」と聞いてきてくれる人もでてきた。人の見る目も変わってきた。

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僕は50mプールいっぱいに入った味噌汁を、爪楊枝でかき回し始めたようなものだ。1回回しても何にもおこらない。10回回すと小さな渦ができた。100回回したらなんとなく、止まらない渦ができ始めた。

1000回、10,000回にしたら?大きな渦ができるんじゃないかな。

毎回全力投入。講演の内容は毎回変える。話す相手の仕事、年齢、国籍などによって興味は違うのだから。

講演をするとき、いつも頭の片隅に思う女性がいる。

自動車のワイパーを発明したメアリー・アンダーソン。雨や雪の日に手で掻くのは危ないと考えた。1903年に特許を取った。でも、自動車メーカーはどこも相手にしなかった。むしろ、気が散るから危険だとすら言われた。

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当時は車の台数は少なく、「速い」ことこそが車の真骨頂だった。安全が謳われるようになったのは、1950年代のことで、シートベルトもその頃だ。今は車の数が多く、ワイパー設置は法律で定められている。

宇宙もまた同じだと思ってる。

地上には車の交通管制システムがある。
海には船の海上交通管制システムがある。
空には飛行機の航空交通管制システムがある。

なのに、宇宙には衛星・宇宙ゴミの交通管制システムがない!

ロケットの値段が下がっている。衛星開発コストが下がっている。より多くの国が衛星を持ちたいと思っている。インターネットも宇宙経由になる。宇宙の交通は、衛星やゴミのせいで加速度的に混雑する。

高速道路で車が事故を起こしたらもちろん撤去する。高速道路には法律も、通行料も、保険も、パトロールカーも、クレーンもある。

なのに、衛星の高速道路である「軌道」には何もない。だから僕たちASTROSCALEは宇宙のJAFになろうと思っている。

メアリー・アンダーソンは悔しかったと思う。ワイパーという少額のコストを受け入れれば格段に車の安全性があがるのに、世の中は動かなかった。それでも、彼女は活動を続けた。のちに彼女の訴えは「安全」という大きなムーブメントを生み出した。

僕たちは世界に訴え続ける。宇宙ゴミは協力して除去しなければならないと。
21世紀のメアリー・アンダーソンになれるだろうか。

宇宙ゴミの問題は地上の問題と違って、差し迫っている。

僕たちは急がなくてはならない。

これから数回に渡って、宇宙ゴミの正体とそれを除去するための技術について書いていく。

「第8回 宇宙ゴミとは一体なんなのか」につづく

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〈著者プロフィール〉
岡田 光信(おかだ みつのぶ)
1973年生まれ。兵庫県出身。シンガポール在住。東京大学農学部卒業。Purdue University MBA修了。宇宙ゴミ(スペース・デブリ)を除去することを目的とした宇宙ベンチャー、ASTROSCALE PTE. LTD. のCEO。大蔵省(現財務省)主計局に勤めたのち、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営コンサルティングに従事。自身で経営を行いたいとの思いが募り、IT会社ターボリナックス社を皮切りに、SUGAO PTE. LTD. CEO等、IT業界で10年間、日本、中国、インド、シンガポール等に拠点を持ちグローバル経営者として活躍する。幼少より宇宙好きで高校1年生時にNASAで宇宙飛行士訓練の体験をして以来、宇宙産業への思いが強く、現在は宇宙産業でシンガポールを拠点として世界を飛び回っている。

夢を夢物語で終わらせないための考え方が記されている著書『宇宙起業家 軌道上に溢れるビジネスチャンス』を刊行。

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