〈宇宙兄弟リアル〉私の『宇宙兄弟』的、瞬間  ~木平清人 研究開発員編~ | 『宇宙兄弟』公式サイト

〈宇宙兄弟リアル〉私の『宇宙兄弟』的、瞬間  ~木平清人 研究開発員編~

2018.05.01
text by:編集部コルク
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Credit:JAXA
『宇宙兄弟』ではムッタを始めとする宇宙飛行士たち、また宇宙開発に従事する人々が、宇宙への夢と情熱を胸に、さまざまな困難に直面しながらも仲間と共に乗り越えていく様子が感動的に描かれています。彼らが壁にぶちあたり、その壁を乗り越えた瞬間を『宇宙兄弟リアル』では、「『宇宙兄弟』的、瞬間」と呼び、実在の人物が実際にどんな壁に遭遇し、そのとき何を考え、どう乗り越えたのか?また壁を乗り越える糸口となった人との出会いや言葉などを、具体的なエピソードを交えて紹介します。今回はきぼう利用センターで研究開発員を務める木平清人さんの「『宇宙兄弟』的、瞬間」を伺いました。

木平さんのインタビューはこちらから!

違いがあることに怯まない

私が大学勤務の研究者からJAXAへ転職した時にまず感じたのは、「文化が全く違う」ということだった。これには非常に面食らった覚えがある。

例えば、大学でしていたようなプレゼンの内容がJAXAでは全く通じなかったことがある。その原因はお互いが「この業界にいれば当然把握してるでしょ」と思っていたことが、こっちにあってもあっちにないとか、その逆もあり、同じ言葉を使ってコミュニケーションしていても全然捉え方が違ってしまうのだ。「ここまで日本語って通じないのか」と、一種の衝撃というか、大きなカルチャーショックを受けた出来事だった。仕事を始めた当初、そんなすれ違いを多く経験した。

これは前提となる知識のあるなしではなく、育ち方が違うという一点に尽きると思う。こっちの常識があれば、あっちの常識もあるということだ。そのため最初はすごく苦労した。正直「何だここは!?」と思った。でも考えてみると、それはJAXA側の人間も僕を「何だコイツは!?」と思っていたに違いない。彼らから見たら、私は全く宇宙や宇宙開発の常識も事情も理解していないし、主張するばかりの話が噛み合わない奴だったのだ。

当時そんな状況に戸惑うばかりだったのだが、よくよく自分を顧みてみると、もともと研究者の立場であったことを自分の中で暗黙の理由にして、『研究者代表』という思考と言葉だけで仕事をしようとしていた自分に気付いた。それでは噛み合わないのも当然だ。もともと研究者とJAXAが噛み合わない状況があったからこそ、その間を繋ぐ人材が求められ、私がここに来たのだ。そんな気付きがあってから、私なりに勉強して、仕事の仕方を変えることにした。

つまり研究者側が言いたいことをただ伝えるだけではダメで、話のエッセンスを抽出し、上手く言い方を変え、翻訳に工夫を凝らし、研究者の立場やニーズをJAXA側に分かり易く伝えることに注力した。もともと両者は「宇宙実験を有効に活用して成果を出す」という目的は一緒で同じ方向を向いてるのだ。それがちょっとしたすれ違いで仕事が回らなくなるというのは勿体ない。JAXAから「研修者は宇宙開発や宇宙実験の実状を理解していない」と思われるのも研究者だった人間として嫌だし、研究者たちから「JAXAの宇宙実験はさっぱり使えない」と思われるのもタンパク質結晶の研究にとって損だ。

とはいえ、立場や考え方に開きがある両者を『繋ぐ』というミッションは、正直しんどいこともある。そのしんどさに胡坐を掻き出すと、つい気を抜いて言い訳したくなるのも事実だ。でもそんな時は、「意見が違って当たり前」という原点を思い返すようにしている。そして違いがあることに怯まず、目を瞑らず、まず受け止めること。そして自分の常識や、片方の常識だけを押し付けないことが大切で、きちんと両方の考えを新鮮な視点で受容してみることを意識している。

そんなバランス感覚を保つ上で役に立っていることが一つあって、私の場合は、奥さんとよく話をすることだ。彼女は私の仕事や宇宙開発にそれほど関心があるわけではない。だから私が仕事の事を話題に出すと、気兼ねも贔屓目も無く、言いたいことをズバズバ言ってくれる。そのため彼女と会話を重ねることで、自分の思い込みを意外とあっさりキャンセルすることができて、自分の考えがフラットになるのだ。

また下手に自分を取り巻く状況が順調だったりすると、イケイケの思考になりがちだ。でもこれは意外と怖かったりするもので、自分の視点でしか見ていない状況に陥りやすいものだ。でも奥さんとの会話を通じて自分の常識を一旦疑って眺めてみることで、一般の感覚からズレていないか、組織固有の固定観念に囚われていないか、再確認することができるのだ。

そうゆう意味では、仕事とは関係ない本を読んだり、仕事とは関係ない人と会って話をしてみることも、とても有効だと思う。とくに業務に忙殺されたりしていると、幅広い分野に好奇心を持つ余裕も失われるときがある。そんな時でさえ、好きな物事なら意識せずとも勝手に入ってくるものだが、日常無関心な分野や、出会わない人との交流は、あえて自分が積極的に踏み込まないと何も入ってこないものだ。

これを宇宙実験と一般世論の関係に置き換えてみると、宇宙実験に関心を持ってくれている人はいいが、無関心な人も当然多くいて、そこに向けてはこちらが積極的に情報発信していかないとそのままの状態が続くことになる。今や『宇宙兄弟』の人気、『宇宙飛行士』の活躍のお蔭で一般的な認知度は上がっているものの、それはある意味吹けば飛ぶようなものなので頼ってばかりはいられない。私も広報活動の一環で一般の方々にも講演させて頂くことがあるが、興味のない人にどう関心をもってもらえるか、説明の仕方などには気を配っている。でもまだこちらのアピールが足らず、いまいちのリアクションを受けて、「所詮、自分がやってることってまだまだそんなとこだよね」と感じることも正直あるが、逆に「常にそう思っている事が大事だな」とも感じている。

Credit:JAXA
 

『宇宙兄弟リアル』次回登場のリアルは!?

フライトディレクタ/ビル・ハガード、のリアル!

次回の『宇宙兄弟リアル』は、NASAフライトディレクタ/ビル・ハガードのリアル、佐孝大地さんと中村大地さんが登場。

奇しくも『大地』という名の同名の2人。JAXA内では『W大地』と呼ばれている(らしい)。彼らは筑波宇宙センター内の『きぼう日本実験棟 運用管制室』で、管制チームの指揮を執るフライトディレクタ『J-FLIGHT』として活躍中だ。宇宙飛行士や各国管制官と連携を取りながら、『きぼう』の円滑な運用を任されている。果たして宇宙と地上を繋ぐ管制室では、日々どんなドラマが生まれているのか!?

ご本人に質問したい事があれば、筆者ツイッター(@allroundeye)に書き込み下さい。読者の皆さんから頂いた質問内容を可能な限り反映してインタビューを進めて参ります!また連載に関して感想・希望などあれば合わせてお寄せ頂ければ幸いです。頂いたご意見を交え、さらに充実した連載にしていきます。

【宇宙兄弟リアル】が書籍になりました!
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。

 

今までの『宇宙兄弟リアル』はこちら

 

<筆者紹介>  岡田茂(オカダ シゲル)

NASAジョンソン宇宙センターのプレスルームで、宇宙飛行士が座る壇上に着席。
気持ちだけ宇宙飛行士になれました。

 

東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。

 

<連載ロゴ制作>  栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。