『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第1章 どんな人でも必ずリーダーになれる(1/4)
「リーダーとは、優秀でなければならない」。この呪縛から解き放たれることが、自分らしいリーダーシップを発揮するための第一歩。『宇宙兄弟』の主人公・南波六太が、優秀な弟に対するコンプレックスで苦しんでいたように、私たちが陥りやすい「リーダー=優秀な人」という固定観念の罠とは?
——リーダーとは、 生き方や働き方のハンドルを 自分で握っている人のこと。
はじめに
「今日から、あなたがチームのリーダーです」
職場や学校で、ある日突然そう言われたら、あなたはどうしますか?
「望むところだ!」と、気合いを入れる?
自信はなくても、「頑張ります」と 、挑戦してみる?
「私には務めあげる自信がありません」と、辞退する?
リアクションは人それぞれに違うと思いますが、「自分はリーダーに向いているのだろうか。リーダーの素質はあるのだろうか」などと、悩む必要はありません。
大丈夫、あなたはリーダーになれます。
なぜ僕がそう言い切れるのか。
じつは、リーダーに必要とされる「リーダーシップ」は、あなたがすでに持っているものだからです。
現在、会社や組織の中でリーダー的な役職・ポジションについている人はもちろん、 1度もリーダーを経験したことがないという人まで、すべての人たちに備わっているので、個々の能力や素質は関係ありません。
あるとすれば、リーダーシップを「発揮するか、しないか」の違いだけ。
僕が、 小山宙哉 こやま ちゅうや さんの描くマンガ『宇宙兄弟』を本書の題材に使わせてもらったのも、宇宙飛行士たちが日々行っている訓練は、まさにリーダーシップを活かした究極のチーム作りだと感じたからです。とくに主人公の 南波六太 なんば むった は、リーダーとして、とても魅力的なキャラクターと言えるでしょう。
「いやいや! どう見ても六太は、リーダータイプじゃないでしょ!」
『宇宙兄弟』ファンの中には、そう感じる人もいるかもしれません。
確かに、六太は一見するとリーダーとは無縁なタイプです。「何をやっても、デキのいい弟に先を越されてしまう兄」というコンプレックスに苦しみ、なかなか自分に自信を持てません。
でも、彼がいるとなぜか結果的に物事がうまくいっているというパターン、じつは多いですよね。六太がピンチのときは、彼に共感し協力する人間が自然と集まり、目的を達成しますし、逆に彼の言動がきっかけとなり、周囲の人たちが自らの夢を成しと遂げている場合もあります。これこそがまさに、「リーダーシップ」なのです。
こうしたアクションを本人はほとんど無自覚で行っているのが、六太のすごいところ。正直、羨ましいくらいです。このギャップが六太の魅力でもあるのですが、覚醒したらきっと、とてつもなく魅力的なリーダーになるでしょう。
というわけで、僕たちが『宇宙兄弟』から学べることは多々あります。
本書では『宇宙兄弟』のエピソードと重ね合わせながら、「リーダーとは何か」を 紹介していきますが、これからの時代、六太のような「リーダーっぽくない人」こそ、リーダーとしての活躍が期待できるはずだと考えています。
僕はファシリテーターとして、数多くの企業や団体、教育、スポーツなど、さまざまな分野でのチーム作りの支援・促進をしてきました。
メンバーがリーダーシップを発揮し、とてもよい状態で目標を達成したチームもあれば、残念ながら、志半ばで空中分解をしてしまったチームも存在します。
リーダーシップの見方が変われば、働き方が変わり、人生も変わります。
リーダーシップは、他者だけではなく自分に対しても発揮されるものなのです。
誰かにコントロールされる毎日と、自分でコントロールする毎日 ——。
あなたは、どちらを選びますか?
もし人生のハンドルを自分で握りたいと考えるのなら、ぜひページをめくってみてください。
僕は全力で、あなたを応援します!
牽引型の優秀なリーダーは、もういらない
「〝兄〟とは常に、弟の先を行ってなければならない」
これは、『宇宙兄弟』の第1話に登場する、 六太 の言葉です。
幼い頃に兄弟で誓い合った、宇宙飛行士への夢。弟・ 日々人 ひびと は、ブレることなくその夢を叶え、日本人初の月面着陸者に抜擢され、初のミッションを目前に控えていま した。一方、六太は勤めていた会社をクビになり実家暮らし。再就職もままならない状態で、悶々とした日々を過ごしています。冒頭のセリフは、そんな六太の心の叫びとして描かれています。おそらく六太は、「兄とは、弟を引っ張っていく存在でなければ」という思いを、常に心のどこかで抱き続けてきたのでしょう。
じつは僕たちも、こうした呪縛に囚われていることがあります。
「リーダーは先頭を走り、みんなを引っ張れる優秀な人間でなければならない」
あえて口に出すことはなくても、「リーダー」という概念に、漠然とそういったイメージを抱いている人は多いのではないでしょうか。
日本社会における組織の形は、これまではトップダウンによるヒエラルキー型が一般的でした。リーダーとは「長」という肩書きを持つ人や、組織をまとめるポジションを意味することが多く、課長・部長・社長といったマネジメント層の人たちを指している場合がほとんどです。学校ならば学級委員長・生徒会長などですね。
リーダーたるもの、行き先や行き方を迷うことなく先頭で示し続け、人々はその背 中に憧れ、尊敬しながらついていく ——。
このようなカリスマ的なリーダーが企業や組織を牽引することで、日本の経済産業とはめまぐるしい発展を遂げてきたのです。
確かに、これまでの社会はそれで安泰でした。
でも、時代は大きく変化しています。
その変化のスピードはどんどん速くなり、物事の結果がすぐに出てしまうにもかか わらず、予測の不確実性が高く、誰も「正解」がわからない……。
自信満々で有無を言わさずに「こっちへ行くぞ!」と、みんなを牽引するようなカリスマ的リーダーは減少し、個々が自分の行き先を考え、自己責任を負うようになりました。
率先垂範 (そっせんすいはん) ・不動不惑のリーダーは通用しなくなりつつあり、「総リーダー時代」に突入しているのです。
それなのに、「リーダーたるもの、優秀でなければならない」という呪縛が、未だ にどれほど多くの人たちを苦しめていることか! こうした固定観念に囚われて自信がない人ほど、「私はリーダーに向いていないの では?」と悩んだり、リーダーであることに精神的負担を感じたりしてしまうのです。 また、「正解」にこだわり、柔軟な思考や大胆な発想ができなくなる人もいます。まずはこの「リーダー=優秀で選ばれた人物」というイメージを、頭の中から取っ 払ってしまいましょう!
優秀なリーダーが悪いわけではありません。
ただ、優秀でなくてもいいのです。
たとえば、六太が「弟より優秀ではない」という理由で、兄だという事実がなくなるわけではありませんよね? リーダーだって同じです。
リーダーを、リーダーたらしめるものはただ1つ。
それは、リーダーシップを発揮することなのです。
〜心のノート〜
リーダーとは、「選ばれた優秀な人間」ではなく、
リーダーシップを発揮している人のこと
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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。
カリスマ的な存在感もなく、リーダーとは無縁のタイプ。でもなぜか“彼”がいると、物事がうまくいく……。累計2000万部を誇る人気コミック『宇宙兄弟』に登場するキャラクターや数々のエピソードを、「リーダー」という視点から考察した書籍『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』。目まぐるしく変化し先が見えない現代で、「正解」を模索する人たちへの生き方・働き方のヒントとなる話題の本書を、『宇宙兄弟』公式サイトにて全文公開!
<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。
企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。
文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。