<せりか基金通信インタビュー>体内環境と同じ神経モデルを開発 ALS研究を前に進める「Jiksak」とは | 『宇宙兄弟』公式サイト

<せりか基金通信インタビュー>体内環境と同じ神経モデルを開発 ALS研究を前に進める「Jiksak」とは

2019.07.05
text by:編集部コルク
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宇宙兄弟は「せりか基金」を立ち上げます。
シャロンが患って闘っているALS、せりかのお父さんが患って亡くなった病気であるALS。未だに十分な原因解明や根本的治療法がなく、徐々に体の運動機能を失っていく恐怖や、知力、痛み、かゆみ、寒さなどの体の感覚が保たれたまま意志を伝えることができなくなる恐怖、自分の命の意味と闘うALS患者の方の、希望を叶える支援をしたいという想いがあります。せりかの夢の実現を現実のものに。

ALSは体内の運動神経が支障を来たして、徐々に身体の自由が奪われていく病気。発症と進行のメカニズムがなかなか解明されないため、予防・抑制・治療が困難な状態にとどまっています。
体内の運動神経とそっくりのモデルが人為的に再現できれば、それを使って研究・実験を進めることができるのですが、神経を再現するのはとても難しく、現在の技術水準ではなかなかそうもいかないのが現状です。
そのあたりに鋭く斬り込む人たちがいます!

「軸索」を生む技術に秀でているから、会社名も「Jiksak」に

会社名の読み方にある通り、神経細胞の「軸索」についてのオリジナルな技術を持つ、バイオエンジニアリングベンチャー企業「Jiksak」。代表取締役の川田治良さんと、最高執行責任者の徳永慎治さんが、取り組みについて話してくれました。

川田「ナーブオルガノイドというものを開発・販売しています。ナーブオルガノイドを日本語にするのが難しいのですが、ナーブ=神経、オーガン=臓器、オルガノイドで人工的に作った臓器のこと。つまり人工的な神経組織のことです。iPS細胞から体内環境を再現した神経組織をつくり、マイクロチップのかたちにして提供するのです」

体内にあるのと同等の人の神経組織を、研究・実験に使いやすいかたちで生み出せるのなら、これはALS研究にも大いに役立ちそうです。

徳永「その際に、他にはない私たちの特殊な技術が活きてきます。人の運動神経というのは、細胞体凝集部と軸索束というふたつの部分に分かれたかたちをしています。一つひとつの運動神経細胞は、細胞体から長い尾のような軸索が伸びており、軸索が束になっていわゆる運動神経をかたちづくっているわけですね。この軸索を長く伸ばし、束ねる技術がこれまでなかったものなんです」

マイクロチップ内で培養されている神経組織Nerve organoid

川田「そう、まずつくった細胞の1個ずつをバラバラにしてから、それらを合わせておにぎりのようなかたまりに凝集させます。そのかたまりを細い流路のあるデバイスに入れると、そこに軸索が伸びていって束になる。すると体内の運動神経と同じ状態の神経をつくり出せるのです」

ナーブオルガノイドを用いれば体内に近い組織の状態をしっかり観察できるので、神経の病理学的な解析がしやすいのだそう。それですでに、国内外を問わず製薬企業、医療施設、研究機関から多くの引き合いがきているとのこと。

川田「神経関連の病気はいま、新しい薬がなかなか出づらくなっています。動物実験と人間による治験が、かけ離れてしまっていることがひとつの要因です。動物実験ではよく効いたのに、人間の治験になるとうまく効果が出ないパターンがままあるんですよ。
それならばと、人のさまざまな種類の細胞をつくり出せるiPS細胞から神経モデルをつくっても、実際の人体のものとはかけ離れたものになってしまう。そのギャップをどう埋めていくかが、医療の世界における現在のグローバルな課題です。
そこで、ナーブオルガノイドがギャップを埋める存在になり得るんじゃないかと、各方面から期待をかけてもらっています」

ALS創薬はビジネスにならないとは思わない

Jiksak では持ち前の技術力を生かして、ALS治療にさまざまな方向からアプローチしています。

徳永「まず私たち自身が、人体内に近い神経モデルを使って、ALS発症のメカニズムを追えないか実験・研究を繰り返しています。もちろん世界中の企業や研究者と連携していますから、私たちの技術がみなさんの研究進展の弾みになってくれたらうれしい。
いま課題として取り組んでいるのは、ALSにかかった状態の神経モデルを、なんとかつくり出せないかということ。ALS患者さんの運動神経は消えていってしまうので、実態を調べることすらなかなかできない。『ALSの状態にある神経組織』をうまくつくれたら、かなり大きく研究に寄与できるはずです」

左から:川田治良さん、徳永慎治さん

川田「さらにはJiksakでは創薬もやっています。いま取り組んでいるのは、NMJの不良を解消するというアプローチです。
NMJとは、神経筋接合部(Neuromuscular junction)のこと。体内で運動神経と筋肉をつなぐ組織で、人の基本的動作を制御しています。ALSは運動神経が何らかの理由で死滅してしまうわけですが、その初期段階からNMJの異常が広く認められます。初期段階というとつまりまだ運動神経が生きている可能性があって、NMJ部分での運動神経と筋肉のつながりを促進・強化できれば、ALSを治せるとは言わずとも、病状の進展は抑えられるんじゃないかと思うのです。そうした仮説のもと、創薬研究を進めています。
これは対症療法的にはなってしまいますが、まだ神経細胞が死んでいない状態なのであれば、NMJのところをしっかりつなぎ止めることで、運動機能の維持・回復ができるんじゃないかと考えています。このアプローチはALSだけでなく、初期の運動失調疾患にも広く当てはめることができそうです」

『宇宙兄弟』#258

川田「私たちが事業を始めるときには、けっこう言われたものです。ALSのような希少疾患を扱っていてはビジネスにならないんじゃないかと。僕はそう思わなかったので、『いや、なりますよもちろん』と返していたし、いまもその気持ちは変わりません。
筋肉が動かなくなる病気はほかにもありますし、老化によっても筋肉は衰える。高齢化社会を迎える日本にとってはとりわけ、ALS創薬が運動神経、筋肉系の疾患治療に道筋を与えてくれるはずです。NMJの研究なんかは、これから大いに広がりのある分野だと思っていますしね。
一企業としてはビジネスのことも真剣に考えねばならないわけですが、ALS創薬とは『火星を探査します』といったことと同等のインパクトがあるものであると、僕の目には映っています。商業的な大きな成功も含めて、じぶんたちはすばらしい発展が見込めることに取り組んでいると信じていますよ」

ALS研究を飛躍的に発展してくれそうな「タネ」が、ここにもひとつ確実にあります。研究が前進することを心から願っています!

株式会社Jiksak Bioengineering

ライター:山内宏泰(@reading_photo)


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