【Brothers#3 永井姉妹】かたちのない家族の中で、自分の意志ではじめに選んだ家族が「姉妹」だった。 | 『宇宙兄弟』公式サイト

【Brothers#3 永井姉妹】かたちのない家族の中で、自分の意志ではじめに選んだ家族が「姉妹」だった。

2022.08.22
text by:編集部コルク
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    この世には、ありとあらゆる「関係性」を表す言葉がある。
    友達、恋人、ライバル、同僚──。
    「きょうだい」もまたそのひとつ。『宇宙兄弟』でも、ムッタとヒビトをはじめとした、様々な「きょうだい」たちの関係性が描かれている。

    でも、きょうだいって、果たしていったい何なのだろう?

    一般的には、同じ親から生まれたという血縁関係を指す言葉だが、どうにもこの言葉には、血の繋がりだけではない何かが潜んでいるような気がする。血が繋がっていなくても「きょうだいっぽさ」を感じることはあるし、逆に、実のきょうだいであったとしても、その実感を得られないことはあるからだ。

    いろんな「きょうだい=Brothers」を紐解いて、その関係性について考える連載。第3回は、自由すぎる家庭で育ち、あたらしい家族のかたちを模索する、永井あやかさんと未奈さんです。

    ※宇宙兄弟から取って連載名を「Brothers」としていますが、本連載では、ありとあらゆる性別における「きょうだい」を取り上げます。

    ■今回の「Brothers」
    永井あやかさん(姉)・未奈さん(妹)
    大阪府に生まれ育つ。1994年生まれの姉のあやかさんは、大学卒業後カフェ・カンパニー株式会社に入社して、食の視点から未来を考える新規事業企画の仕事に従事。今年9月からはロンドンに生活の拠点を移し、「家族」の選択肢を世界で探究して取材する企画を開始する。妹の未奈さんは1996年生まれ。専門学校卒業後、ロンドンにて美容師の道を歩み、現在は東京で美容師・アーティストとして表現活動を続けている。

    「人生」は自分のもんだ 人生は コントロールが効く


    両親へ離婚をプレゼント。とにかく「個」を大切にする家族だった

    ── あやかさんは、今年の9月からはイギリス・ロンドンに生活の拠点を移されるんですよね。「家族」の選択肢を世界で探究して取材する企画を開始するようですが、家族に興味を持つようになったのには何かきっかけがあったのでしょうか?

    あやか:私たちが育ったのが、すごく「個」を尊重する家庭で、そのことが影響していると思いますね。お父さんもお母さんも、「家族」よりも「一人の人間として自分がどう楽しむか」が第一優先な人でした。それは全然ネガティブなことではなく、「まず自分がいて、その人生をより楽しむために家族がいる」みたいな感じです。

    だから私たちも、「自分の人生は、それぞれ自分で楽しんでね!」といった感じで、幼い頃から基本的に放任主義の中を自由に生きていました。そうだったよね?

    未奈:うん。お父さんもお母さんも職業は美容師なんですけど、それぞれ自営業みたいな形だったので、とにかく自由でしたね。

    家族それぞれが自由すぎて、幼い頃の写真がまったくないそう

    あやか:「それぞれの人生を自分で楽しんでね」ということに加え、「やりたいことは全部一緒に叶えよう」といったスタンスも家族の前提にありました。「家族は夢を叶え合うチーム。あやかとみい(未奈さんのあだ名)がやりたいことは、なるべく全部叶えるように努力するから、あやかとみいも、お父さんとお母さんがやりたいことを一緒に叶えてね」といったような。

    だからお母さんは、私が大学1年生でみいが高校生の時に、マルタに突然留学に行ったりしてましたね。

    未奈:いきなりおらんくなったよな。

    あやか:そうそう(笑)。相談とか全然ないんですよ。「私は決めたので行ってきます!」みたいに、自分の意思決定が最優先。私たちも、お母さんの夢がそれなんだったら家族全員で叶えよう、という感じです。逆に私たちも、習いごとなど「やりたい」と言ったことは、一度はすべてやらせてもらいました。

    未奈:とにかく自分たちが想像していないことが日々起きる家庭でしたね。小さなことで言えば、「かあちゃんたち今日忙しすぎて夜ご飯準備できひんから、誰かの家に食べに行ってきてください」みたいなことを、夜ご飯の直前に言われたり(笑)。

    あやか:「誰の家で食べるか」というところから、自分たちで探さなきゃいけなかったよね。

    未奈:小さい街で育ち、街全体が知り合いだらけみたいな感じだったのでなんとかなりましたけどね。

    あやか:そんな家庭で育ったので、みいが専門学校を卒業した時に、両親に「離婚」を提案したんです。それぞれ大切に思い合っている関係性はあるから、もう法的な「家族」の形に縛られなくてもいいんじゃないかって。

    両親は私たち子どものために一緒にいたところもあったと思うから、いつでも自分の人生を自由に選択してほしいと思って、結果、みんなで家族の「解散」を選びました。

    離婚届を提出した日の記念写真

    幼い頃は、おたがいへの興味がなかったと思う

    ── すごい……。そういった家庭環境で、あやかさんと未奈さんは、それぞれどんな風に育ったのでしょうか。

    未奈:あやかはとにかくめっちゃまじめ。まじめだったからこそ、周りのみんなの家族と自分の家族が違うことに対して疑問に感じて、家族について考えるようになったんじゃないかな? 小さい頃から家族のことを考えていた気がします。

    あやか:たしかに私はまじめだったかも。お父さんとお母さんを見ていて、あまりにも自由だから、反骨精神でそうはなりたくない気持ちもあって(笑)。結果的に今は自由に生きているんですけど、小学校くらいの頃は、とにかく堅実な仕事に就きたくて、「将来の夢は薬剤師かお医者さん!」って言ってました。

    家族についても、みいによく話していましたね。「うちの家族についてどう思う?」って。みいは、「うちは普通の家庭じゃないねんからもう諦めよ」みたいな感じで、ちょっと達観しているというか、ラフな感じでしたけど。

    ── 全然性格が違うんですね。

    未奈:私はめっちゃ自由人。あやかが、周りが言ってくることを全部やってくれるから、誰も私に何も言ってこないんです。だから幼い頃から今に至るまで、とにかく自由に生きています。

    あやか:みいは、とにかく天真爛漫で、町中の人から愛されていました。駅員さんとか、掃除しているおばさんとか、町中の全員に挨拶して、全員に距離感が近くて。

    ── (笑)。正反対の性格をしているおふたりですが、ふたりの関係としてはどのような感じだったのでしょうか。

    あやか:幼い頃は、先ほど言った通り、家族4人がそれぞれ暮らしている感じだったので、あまり話さなかったですね。

    未奈:そんなに仲良くなかったよな。

    あやか:そうそう。私もみいも、自分の人生を生きることで精一杯だったので、大人になるまではおたがいの好きな食べ物さえも知りませんでした。

    大人になって、深まり出した仲

    ── ふたりは今はインスタグラムで姉妹アカウントを作られていたりと、ものすごく仲良さそうに見えますが、いつから距離が縮まったんですか?

    ふたりの姉妹アカウント

    未奈:あやかが就職で東京に出て、私が大阪の専門学校に通い出した頃から仲良くなったと記憶しています。思っていることや感じていることをよく話すようになって、「あ、それ私も考えてた」みたいな瞬間がよくあって。距離は離れていたけど、電話やLINEでよくコミュニケーションをとるようになりました。

    あやか:それくらいの年齢になると、自分の表現をしたり、何かを生み出したりするじゃないですか。その時に、自分の内面的な思考や感覚的なこと、まだ言葉にできないようなことを周囲の人に説明するのって難しい。でも、みいにだったら話せたんです。

    そうしたら、「同じことを感じて考えてるんだな」と思う瞬間がどんどん増えていきました。それは姉妹だから同じことを考えているというより、たまたま同じことを考えている同志みたいな人を、お母さんが同じ家に産んでくれた感覚に近くて。みいと同じ家に生まれたのは本当にラッキーでした。

    自分の感覚を理解してくれる人が一人でもいるって、それだけで「自分の表現を止めないでおこう」「すぐアウトプットできなくても大事に持っておこう」と思えるから、心を育めますよね。みいが専門学校を卒業してロンドンに行ったあとも、その関係は続きました。

    ── 仲が深まったからこそ、みいさんがロンドンから帰国される際に一緒に住もうという話になったんですね。

    未奈:あやかと一緒に住むために帰国した、という方が正しいかもしれません。しばらくはロンドンにいようと思っていたんですが、一緒に住むなら今のタイミングしかないかなと思って帰国しました。それが2020年の9月のことです。

    あやか:自分たちが実家を出てみて、やっぱり「家」という、絶対的な「帰る場所」があったからこそのびのび生きれたんだなということをすごく感じていました。

    お母さんが作ってくれていたような家の空気感とか、自分がゼロに戻れる場所を作りたいと考えた時に、東京でひとりでつくれるとは思えなくて。自分が自分として生きられる場所としての「家」を、自分のためにも、まわりのみんなのためにも、みいと一緒に作りたいと思ったんです。

    ずっと、「家族」みたいに思える人を探してきた

    ── 血縁関係じゃなくてもおふたりのような関係を築けると理想だなと思うのですが、おふたりはおたがい以外にも「家族だな」「きょうだいだな」と思える人っているのでしょうか?

    未奈:いますいます。何人も。

    あやか:ずっと、家族のように思える人を、お父さんお母さん以外の人でも探して生きてきたので。幼い頃から人よりも「個」で生きることを意識していたから、生き延びるために探さなきゃいけなかった、という本能的な感覚に近いかもしれません。

    だから逆に、お父さんやお母さんは特別な位置にはいないんです。人生を通して出会った「家族」と思える関係の人たちは、本当に両親と同じくらい並列な関係として考えています。お父さんとお母さんは、産んでくれた人ではあるけど、「家族」としてつながってるうちの一人。

    未奈:たしかに別に特別な感情はないね。

    ── なるほど。おふたりにとって、「家族」と思えるために必要なことには、どんなものがあるのでしょう。

    未奈:私が家族だなと思えるのは、「離れていてもつながっている」と思える人。遠くに住んでいても、どういう状態であっても、一緒にいてくれるし、いる人ですね。

    あやか:家族だと思える人たちは、私が9月からロンドンに行くからって何かが変わるわけじゃない。離れていてもどんな状態の自分でも、ずっと関係が変わることがないですね。お父さんとかお母さんも、離婚したにも関わらず、ずっと自分の人生にいる人だし。

    ── そういう関係を築きたいと思いつつも、特に大人になればなるほど難しいんじゃないかな、とも感じます。どうやって、そのような関係は生まれていくのでしょうか?

    あやか:私は人をすぐに信じるタイプではないのですが、高校生くらいの頃から、一緒に生きると決めた人に対しては、その人を絶対的に信じ、自分が愛の起点、愛する側になるという覚悟を持っていました。何があっても絶対に自分が助ける、一緒にずっといる。どんな時でも自分から愛を伝える。

    自分がそういう気持ちで接すると、相手も返してくれることがあります。その愛情が伝わった時に、おたがいの信頼関係が生まれていく。そして一緒に過ごす時間や行動を繰り返していく中で、さらに信頼関係や愛情が深くなっていきます。それは「母親」としてのお母さんと自分の関係でもそうだったのかもしれません。

    だからこそ、私は大人になればなるほど、時間と行動が積み重なって、家族みたいな人は増えていくと思っています。より深くなって、より安心感も増えていくんじゃないかな。

    未奈:私は初対面が家だった人を「家族」と思う感覚はあるのかも。家で出会う人って、あんまりいないじゃないですか。そこで深く出会う人には、さらけ出せるものが多い気がします。

    あやか:家という場所はすごく大事だよね。家は関係性を育む場所だと思うから。外向きの自分っていうよりも、どちらかといえば内面性というか、感情や感覚が出やすいので、そこで出会うことも「家族」の関係を育むひとつの要素なのかもしれません。

    自分たちなりの家族を、自分たちの意思で

    ── 最後に、これからおふたりはどんな関係でいたいですか?

    あやか:私はこれからの人生を考えた時に、ぜんぶみいがいる前提で考えています。結婚したり、おうちを作ったり子どもを産んだり、ライフステージが変化した時も。

    未奈:あやかは私のことが好きすぎるんですよ(笑)。でも私も、あやかといれば何も困ることはないなって思っています。死なない限り、とにかく「いる」感じ。

    あやか:うん。だから、私が一緒にいたいと思う人にも、みいが一緒にいるという感覚を受け入れてほしいし、受け入れてくれる人じゃないと難しいかもしれないですね。

    きっと、わたしにとって一番はじめに自分の意志で選んだ家族が「妹のみい」だったんだろうなと思います。

    わたしの場合は、結婚より前に、みいや周りの家族のような人たちとの関係性が「家族」としてある感覚です。だから、みいと住むことを前提にいろんなことを考えているんだと思う。これからもそうやって、自分たちなりの家族を、自分たちの意志で作っていけたらいいな。

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