「宇宙学生」はいろんな方面から「宇宙にまっすぐ」な学生を現役大学生の宇宙フリーマガジン TELSTAR 編集部が取材して、宇宙の魅力を伝えます。
いま、地球の周りにいくつの人工衛星があるかご存知でしょうか?現在(2017年11月時点)その数は 約1,700機(国連宇宙部、2017年)に上り、近年では超小型衛星という1kgほどの非常に小さな衛星も多く打ち上げれれています。今回取材した尾崎さんは学生時代に東京大学でその超小型衛星の開発・運用をされていた方で、取材当時NASAジェット推進研究所(以下、JPL)で軌道設計に関する研究をされていました。2018年4月からは、JAXA宇宙科学研究所でポスドク*1研究員として深宇宙探査機の軌道設計に関する研究を進めています。
作中では、NASAを去ったヒビトは単身ロシアへ渡り、孤独な挑戦を続け新たな仲間を得ていましたね。尾崎さんは過去にも欧州宇宙機関(ESA)でインターンシップをされており、海外に出て道を切り開いてこられました。今回はそんな尾崎さんにお話を伺いました!
*1 ポストドクターの略。博士号取得後に大学教授等のアカデミアになるための修行を積んでいる研究者、またはその役職自体を指す。
―どのような経緯で JPL でインターンシップをすることになったのですか?
学生時代から東京大学でPROCYON(プロキオン)・EQUULEUS(エクレウス)と言った超小型深宇宙探査プロジェクトに携わっていました。その頃から一緒に仕事をしていた方がJPLに移ったため、その方にお願いしてインターンシップをすることになりました。その方には研究指導をしてもらっているので、感謝の気持ちでいっぱいです。また、渡米後も現地の日本人の方々に親切にしていただいたのですが、インターンシップに来るためにも・来た後も、人のつながりは大切だと実感しました。
―JPL ではどのような研究をしていますか?
博士研究のテーマの一環として、電気推進を利用した宇宙機の軌道設計を研究しています。電気推進とは宇宙機・人工衛星が宇宙空間を飛び回るためのエンジンの1つです。化学反応のエネルギーで推進剤を加速させる(化学)ロケット・エンジンとは異なり、電気エネルギーで推進剤を加速させることで推進力を得ています。少ない燃料消費で大きく増速できるため、はやぶさや最近の深宇宙ミッションなどで注目を集めています。
一方で、化学ロケット・エンジンと比較すると、電気推進は大きな推力を得ることが難しく、十分速度を上げるために数ヶ月〜数年といった長時間動作が必要になります。1年間ずっと動作させっぱなしでも、全く故障しない(バグらない)装置を作ることが、いかに難しいか…パソコン・家電製品と照らし合わせてもよく分かると思います。 電気推進の専門家は耐久性の高いエンジンの実現に向けて、研究・開発をしています。それをサポートするためにも、僕は軌道設計の専門家の立場から、エンジンが壊れたり、一時停止してしまってもミッションが続行できるような軌道設計を研究しています。専門的な用語を使うと「ロバスト」な軌道設計を研究しています。
―研究環境や雰囲気について教えてください。
JPLの各ミッションに対する軌道設計は、専門家が少人数で検討しています。それでもミッションの数が多いので、軌道設計・軌道決定の部署でも、100人規模の専門家がいます。軌道設計の研究自体はパ ソコンさえあれば、どこでも・1人でもできますが、些細な問題が原因で頻繁に行き峿まってしまいます。そういうときに専門家から気軽にアドバイスがもらえるJPLの環境は素晴らしいと感じました。
―面白い、または大変だと思う点はなんでしょうか?
僕が研究している軌道力学は、電磁気学・熱力学などと比較するとシンプルなのですが、それでも非常に奥深いです。画期的な軌道設計方法を思いついたときは非常に胸が躍りますね。映画「オデッセイ」でもJPLの軌道設計の専門家のアイディアでミッションが救われるシーンがあります。自分が思いついたアイディアで「ミッションが救えるかもしれない」「新しいミッションが実現できるかもしれない」と想像するとワクワクします。ただし、上手くいかないようなアイディアが多いので、そこで挫けずにモチベーションを保ち続けることが大変だと思います。
―海外で研究したいと思い始めたのはいつですか?
大学入学の頃から海外で研究してみたいと思っていました 。学部・修士学生の頃は東京大学で PROCYON というプロジェクトを進めていて、国内で楽しめることがあったので留まっていました。実際に海外に出たのは、2016 年末に ESA(ドイツ)で研究をしたことが最初です。今まで「当たり前だと思っていたこと」や「知らなかったこと」が沢山あって、柔軟な思考が阻害されていたことに気付きまし た。こういう経験は何をするにも役立つと思っています。
―JPLでいちばん驚いたことは何ですか?
アメリカということもあり、職場の上下関係のフラットさは予想していたのですが…予想を超えていました。上司・部下という関係性がほとんどなく、「部下が上司に頼まれた仕事をこなす」という光景はほとんど見ませんでした。ほとんどの人が自立していて、自発的に問題発見・解決するという仕事のスタイルは、(簡単ではありませんが)見習うべきことだと思います。
―研究開発に対して日本とJPLで価値観の違いはありますか?
あるドキュメンタリー*2の中でJPLの職員の方が「(アイデア自体は古いんだけど)アイデアを飛ばすのではない。ハードウェア(宇宙探査機)を飛ばすのだ」と話していました。エアバッグで着陸するというアイデアは多くの人が思いついていましたが、実行して火星着陸を成功させたのはJPLだけです。 僕たち研究者は斬新なアイデア・研究にこだわってしまうことが多いですが、アイデアをアイデアのままで終わらせない実行力はJPLエンジニアから見習わなければいけないと思いました 。
*2 参考 URL: https://www.youtube.com/watch?v=a_9cf1-RfGU
―宇宙に対しての想いを聞かせて下さい。
系外惑星探査や地球外生命体の発見など、今後の宇宙科学での大きな発見のために何か一役買いたいと思っています。起きていることを外側から見ているのではなくて、そういうワクワクする発見の中で、 一緒にワクワクしたいです。あと、スターウォーズみたいに宇宙船をバンバン飛ばすような世界を作りたいですね。世界中で超小型衛星が流行ってきているので、それが実現できるところまで来ていると思います。そして、僕は軌道設計という分野でその流れをサポートできたら良いなと思います。
―最後に、宇宙高校生に向けてメッセージをお願いします。
まず大きな夢をもつことがとても大切だと思います。大きな夢は現実離れしすぎてやる気が無くなってしまうかもしれません。そこで、次のステップとしては大きな夢を実現するための目先の目標を明確にすることです。そして、その目先の目標に向けて努力をしていくことが重要だと思います。 僕の考えでは、夢は叶えるだけじゃなく、掲げることに意味があると思います。その理由は「(ある 一つの方向に向かって)努力すること」が本質的だと思うからです。努力しつづけていると、仮に当初の夢が叶わなくても、別の新しい夢を実現するためのチャンスがつかめるからです。 また、僕は朝から晩まで勉強し続けることだけが努力だとは思いません。友達と遊んで人間関係を築くこと、好きな映画や本を読むこと、旅行すること…そういった経験を通じて、幅広い視野や人との繋がりが培われるので、思い詰め過ぎずに楽しい高校生活を送ってください。
今回の宇宙学生記事は、大学の研究室を飛び出して海外の研究機関で研究をされている学生を直撃しました。NASAでの研究を通じて、研究の質や規模の違いだけでなく人と人とのつながりを強く感じたという尾崎さん。自分のやりたいこと、目指していることに対して思い切って一歩を踏み出す勇気があれば、新たな人との出会い、新たなチャンスへのつながりは無限に広がっているのかもしれませんね。
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第二回 宇宙開発は理系のモノ?
第三回 宇宙科学研究所の学生ってどんな人?
第四回 大学生がロケットに関わるには?
第五回 宇宙建築って何だ?
第六回 一歩踏み出すこと」の大切さ
第七回 とりあえず手を動かすことから始めよう
第八回 「作って動かす」ローバ研究は楽しい!
第九回『宇宙学生』宇宙の魅力をもっと身近に