『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第3章 自分らしいリーダーシップを発揮するコツ(1/3) | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第3章 自分らしいリーダーシップを発揮するコツ(1/3)

2018.07.06
text by:編集部コルク
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ピラミッドのような階層構造により、トップダウンで物事が決まるヒエラルキー型と、複数の自律したチームが網の目のようにつながるネットワーク型。それぞれの組織の形によって、リーダーシップはどう変わるのか。また、「競争」をせずに「共創」を目指す六太がチームにもたらす効果とは?

リーダーシップは、 組織の形によって変化する

さて、ここまでは「リーダーとは・リーダーシップとは」という視点で述べてきま したが、第3章では「組織の中で、自分らしいリーダーシップを発揮するコツ」につ いて考えていきたいと思います。
リーダーとチーム。
この2つは、切っても切れない重要な関係です。
リーダーシップはチームの目的を達成するためだけでなく、チーム作りそのものにも影響します。どのようなチームになるかは、メンバーがどのようなリーダーシップ を発揮しているかによって大きく変わっていくからです。
とくに賢者風リーダーシップや愚者風リーダーシップには、それぞれが発揮しやすい組織の形というものがあり、うまく嚙み合うことで相乗効果が生まれます。
その組織の形とは、次の2つ。

賢者風リーダーシップには、「ヒエラルキー型」。
愚者風リーダーシップには、「ネットワーク型」。

ヒエラルキー型とは階層構造になっていて、ピラミッドのように下にいけばいくほどメンバーの数が多くなり、上にいけばいくほどメンバーの数は少なくなります。
1番上は、CEOや代表取締役などの役職が一般的。トップによって物事が決められ、トップダウンにより下が動いていくイメージです。
ネットワーク型は、複数の自律したチームが同じ階層上で網の目のようにつながっている形態です。
情報や物事が上から下に流れるのではなく、それぞれのチーム内で決めた指針に沿って進んでいきます。またヒエラルキー型の縦割り社会に比べて、ネットワーク型は他チームとの連動や情報交換が活発に行われます。
その構造上、ヒエラルキー型は、「みんなが同じことを同じようにできる」「1を100に増やす」ことが得意。したがって、牽引力・統率力のある賢者風リーダーシ ップとの相性は抜群です。
溝口は学生時代から優秀な成績で、常にトップであり続けました。 それは本人の意思だけでなく、周囲からの要望でもあったのです。

 

一方、ネットワーク型は、「みんなが違うことを違うレベルでできる」「0から1を生み出す」ことを得意としているので、メンバ ーの個性や得意分野での活躍を促す愚者風リーダーシップを活かすことができます。

六太はゲイツから、月面ミッションにアサインする条件として、 1億ドルの経費削減の立案を提示されましたが、NASAの下請け会社の技術職員であるピコ・ノートンをはじめとして地質学者や科学者、技術者などあらゆる人脈を活用してこの課題に取り組みます。
ピコから言われた「使える脳みそは全部使っとけ」とは、まさにネットワーク型の組織だからこそ成せるワザなのです。

ちなみに特性の1つとして、僕はヒエラルキー型は「愛情と信頼で機能する」のに対し、ネットワーク型は「規律と秩序で機能する」と考えているのですが、よく「この説明って逆じゃないの?」と聞かれます。どうやら賢者風・愚者風リーダーシップ のイメージと合わないようです。
これは、ヒエラルキー型は人間関係がトップダウン&ボトムアップだからこそ、そこに愛情や信頼がなければ正常に機能しないということ。
逆に、個性の自由や自己判断が求められるネットワーク型では、規律や秩序があることで、安心して自らの強みを活かすことができます。
僕が、「自立したチーム」ではなくあえて「自律したチーム」と書いているのは、 こうした理由からなのです。
また、チームのミッションをどの程度のスパンで達成したいのかもポイント。
アフリカのことわざで、「速く行きたいなら1人で行け。遠くへ行きたいならみん なで行け」という言葉がありますが、これは組織にも置き換えられることで、
・ヒエラルキー型の組織や賢者風リーダーシップは、短期的な成功をもたらすことができる。
・ネットワーク型の組織や愚者風リーダーシップは、長期的な成長をもたらすことができる。
このような特性が考えられます。

戦後、人口の増えた日本が生産能力を加速度的に上げるには、ヒエラルキー型の会社組織と賢者風リーダーシップが不可欠でした。わずか20年足らずのうちに猛スピー ドで発展した高度経済成長期を支えた一因は、こうした大量生産のシステムです。
しかし、これから人口は確実に減っていき、かつてのようなマンパワーによる生産 性の向上は期待できそうにありません。
であれば、自律した個人を増やし、「個」にフォーカスした、ネットワーク型の組織への移行が大切だと僕は思います。 個人の強みを活かすネットワーク型の組織は、 愚者風リーダーシップを発揮できる最高の場。


〜心のノート〜
個人の強みを活かすネットワーク型の組織は、愚者風リーダーシップを発揮できる最高の場。

リーダーは「嫌われる勇気」 も必要ありません

「組織の中で、嫌われないように努力することは必要ですか?」
この質問、あなたなら、どう答えますか?

じつはこれ、僕がワークショップの参加者から受けた質問です。
「それでチームがうまくいくのなら、努力したほうがいい」
「嫌われて陰で何か言われるくらいなら、多少気疲れしてもみんなに合わせる」
そう考える人もいるでしょう。
一方で「嫌われ役を買って出る」という言葉があるくらいですから、部下を持つ立場の人からすると、「ときには嫌われることも必要だ!」と答えるかもしれません。

ちなみに僕は、「嫌われることへの是非を問うこと自体に疑問を抱く」派です。
なぜかと言うと、どんなに「嫌われないように」と配慮をしても、限界があるから。立場が違えば厳しい言葉を投げてくる人は当然いるし、こちらの配慮など関係なしに一方的に嫌われる場合だってありますよね。
「嫌われたくない」
「みんなから頼られる人間でいたい」
こうした欲求が動機として働いているリーダーシップは、相手の感情に振り回されて、ブレてしまう危険だってあります。 嫌われないために今の仕事をしているわけじゃありませんよね? 「Why」を忘れていませんか?
そもそも、誰かに嫌われたからと言って、自分もその人のことを嫌いになる必要もありません。

ですから、先の質問に対する僕の返答はこちら。
「嫌われないようにすることで疲弊してしまうくらいなら、“自分の物語(人生)に は最初から敵などいないのだ”と考えるようにしてみたら?」

第1章でも述べたとおり『宇宙兄弟』において、六太は「敵などいない」という「無敵」思考を、自然と実践しています。六太自身は誰に対しても敵意を抱くことはないですが、だからと言って周囲の人すべてが六太に好意的かと言うと、そんなことはありませんでした。
NASAの宇宙飛行士や職員の中には、六太を弟の日々人と比較して軽くあしらい、 その能力を認めようとしなかった者もいます。
でも六太は、そんな相手に怒ることも、不満をぶつけることもせず、「無敵」思考 で接していきます。

なぜ六太は、こんなにもフラットでいられるのでしょうか?
それは「事実」と「解釈」を、きちんと分けて認識しているからなのです。

たとえば、
「この書類、ミスが多すぎて上司に提出できないよ。もっとしっかりしてくれよ」
というセリフで説明しましょう。
「書類にミスが多く、上司に提出できない」は、事実(実際に起きていること)。
「しっかりしてくれ」は、解釈です(事実かどうかは別として、そう思ったこと)。

六太の場合、事実に対しては真摯に向き合い、なんとかしようと奮闘します。このシチュエーションなら、「書類のミスが多い」ことと、「上司に提出できない」という問題ですね。
でも相手から「しっかりしていない」と思われたことに対しては固執しない。
もちろんそれなりのダメージは受けているでしょうが、「自分は、ちゃんとやっているつもりです!」と反論したり、不満をぶつけたりすることに労力を使いません。 相手の解釈を変えさせようとする行為の無意味さを心のどこかで理解していて、問題 の本質だけに力を注ぐので、結果的にうまくいくことが多いのだと思います。
事実と解釈を分けて考える習慣は、すぐに身につくものでもないので、日頃の会話からトレーニングしていくことをオススメします。
相手の言葉の、どの部分が事実でどれが解釈かを分けて受け止めるようにすれば、感情に振り回される機会がグッと減るはず。
こうした「聞く力」が身につくと、やがて自分自身の発言でも事実と解釈を上手に分けて伝えようとする習慣が生まれます。
事実に意識を向け、解釈に対しては必要以上にナーバスにならない。
周囲からの評価や態度で言動が委縮してしまう人は、これを実践していくだけでも、 チームの中で伸び伸びとリーダーシップを発揮できるようになります。

〜心のノート〜
「事実」には真摯に向き合い、対処する。 相手の「解釈」には固執せずに受け流すことも必要。

「競争」が苦手なリーダーは、「共創」に強い

そんな「無敵」の六太ですが、「無敵」であるが故に苦手なのが、「競い合う」ということ。よりによってその競争相手が大切な仲間だったりすると、さすがに冷静ではいられなくなるようです。
自分の意思とは関係なく競争することを突きつけられたとき、六太はそれをどのように受け止めたのか。そして、チーム内に何が起こったのか ——。
次のエピソードから読み解いていきましょう。

月面基地を想定し、水深メートルの海底に作られた居住施設『アクエリアス』。 六太はここで、「NEEMO」と呼ばれる2週間の訓練を受けることになります。候補として選ばれた宇宙飛行士は12名、その中にはケンジや新田も含まれていました。
3つに分けられたチームにはそれぞれ、ベテラン宇宙飛行士が2名、新人が2名という組み合わせで、六太は先輩宇宙飛行士のジョージ・ラブとアンディ・タイラー、 そして六太と同じ新人枠のケンジと組むことに。
チームに与えられた課題は、月面基地と周辺設備のモデルを海底に建設すること。「最強の味方」であるケンジの存在を心強く感じていた六太ですが、コマンダーのラブから明かされた内容に激しく動揺します。それは、この訓練の評価により「お前ら2人のうち、月に行けるのはどちらか1人だけだ」というものでした——。
JAXAの試験会場で出会って以来、お互いを認め合いながらここまできた六太とケンジ。どちらかが選ばれるというシチュエーションはこれまでにも何度かありまし たが、「2人が直接何かを競う」という環境ではありませんでした。
NEEMO訓練の責任者・NASA宇宙飛行士室長のジェーソン・バトラーいわく、「彼らはパートナーに見えて実は…一番の敵です」という状況を知ったときの動揺は、かなり大きなものだったと思います。
たとえるなら、いきなりボクシンググローブをはめた状態で両者ともリングに上げられ、試合開始のゴングを鳴らされた感じでしょうか。

しかし、賢者風タイプのケンジはわりとすぐに気持ちの切り替えをしています。
ヒエラルキー型の「リーダー=優秀な者」という観念があるため、競争するということにあまり抵抗はないのかもしれません。
「僕らは仲良く同じ方向を向きすぎていた。互いの意見に対しても叩き合わせもせず、すべて肯定し合っていた」と振り返り、「“二人三脚”をしてちゃダメなんだ。僕らは……縄をほどかなきゃならない」と、吹っ切りました。
「1人で走る」ことを選んだわけですね。
その直後、課題である月面基地の設備について、余裕を持って作業をするためには 大容量通信アンテナと月面望遠鏡は省くべきだと提案したのです。
自らのアイデアである大容量通信アンテナを無理矢理にでも残そうとしないところ は、さすが優等生のケンジ。ですが、海底作業を終えて居住施設に戻る際、水中から 上がるケンジを引き上げようと差し出した六太の手を、拒否してしまいました。
一方、六太は、そんなケンジとの関係に苦悩しながらも、最終的には、「競争」ではなく「共創」することを選びます。
このとき、六太が頼りにしたのは、同じチームメンバーのアンディと、誰も「戦力」とは見なしていなかった技術支援のダイバー、ハミルトンでした。
そして、一度は諦めた大容量通信アンテナを建設するために、とても彼らしいアイデアで作業効率を劇的にアップさせ、見事に実現したのです。
結果的に六太は、NEEMO訓練での設備案を高く評価されて、月面ミッション参加の切符を手に入れることができました。

ケンジと六太、一体何が違ったのでしょうか。
NEEMO訓練が始まる前、バトラー室長は「リーダーシップ、知識量、行動力、 判断力のすべてにおいて、まだまだケンジのほうが評価は高いようだ」という認識でいました。「どちらが優秀な人間か」という視点でジャッジされていたら、ケンジのほうが選ばれていたかもしれません。
このときの六太が評価された大きなポイントは、NASAのスタッフに「実際に月面基地で過ごした宇宙飛行士が気づいたようなアイデア」と言わせるほどの設備を完成させたこと。
発想の柔軟さは六太が以前から持つ能力ですが、それを限られた時間の中で成果として形にできたのは、「共創」したからこその成せる技だと思います。

「1人で走る」ことを選んだケンジは、設備案を縮小することで負担を軽減し、課題をクリアしようとしました。追い込まれれば追い込まれるほど、自分の力で何とかしようとするケンジの習性が、ここでも出てしまったようです。
六太は、ピンチに陥れば陥るほど、誰かの手を借りようとします。それは他人任せという意味ではなく、自分にはない能力や技術、知識を持っている仲間を求めているのです。このエピソードで言えば、アンディの並はずれたパワーと、ハミルトンの海中ローバーの操作技術です。
ケンジとの関係性が修復できてからは、ケンジの時間短縮・効率化に関する解決力も大いに役立ちました。

メンバーそれぞれの得意分野を活かすことで、チームのポテンシャルを上げる。
六太の発揮するリーダーシップには、これがあるのです!

「競争する」ということは、個々の能力だけで勝負するということ。
それが「個人の成長につながる」場合もあれば、「自分のキャパシティー内でしか解決できない(しようとしない)」場合もあります。
コマンダーのラブは、2人に危機感を抱かせることによって前者の効果を狙っていたのかもしれませんが、自発的に危機感を持つならともかく、対立を煽るようなやり方は、賭けとも言えるでしょう。個人が成長せず、人間関係が悪化し、それによって チームの生産性も低下するという最悪のパターンも起こり得るわけですから……。
僕としては、チームとして達成すべき目的がある以上、チーム内に「競争」という状況を作り上げることで得られるメリットはそう多くないと思っています。
たとえば、営業職が多い会社では、個人の売り上げ成績が評価され、数字を競い合うことで業績を維持している場合もあります。
しかし、こうした世界で活躍する人たちの多くは、独立やヘッドハンティングによる転職を見据えているので、チーム(組織)の成長を目的にはしていません。チームであっても、短期間で結果を求められるが故に、ワンマンなリーダーの圧倒的なパワ ーで牽引することで、かろうじて組織形態を維持している場合すらあります。
チームとしての成果・成長を求めるのであれば、「競争」ではなく「共創」による 相乗効果を活かしたほうが、目指す場所へ、より近づけるはずです。

〜心のノート〜
「競争」から生まれるポテンシャルには限界がある

(つづく)

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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。

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<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。

企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。

文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。