『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』第3章 自分らしいリーダーシップを発揮するコツ(2/3)
チームの成績や成果を大きく左右する、メンバーたちのパフォーマンス。このパフォーマンスが落ちてしまったとき、どうすれば個々が疲弊せずに回復できるのか? また、それをどうやって維持していくのか? 全員が無理なく頑張れる「1.1」思考と、心がくじけそうなときに効く魔法の言葉も紹介!
「あとちょっとだけ頑張る」のすごいパワー
チームの原動力は、そこに属するメンバーから生まれます。
それぞれがどれだけパフォーマンスを発揮できるかでチームの推進力も変わってくるので、目標値をどこに置くかは重要なポイントですよね。
わざわざ低く設定することはないと思いますが、やたら高すぎるのも考えもの。
「今の2倍、頑張って!」
いきなりそう言われたら、多くの人が「そんなの無理!」と思うはずです。抵抗な く受け止められるのは、自分の能力にかなりの自信がある人でしょう。
では、目標値はどこに設定すべきなのでしょうか?
僕が提案したいのは、こちら。
みんなでちょっとずつ頑張る、「1.1」という考え方です。
人は、常に「1.0」のパフォーマンスを発揮できるわけではありません。 仕事の難易度や得意・不得意、コンディション、作業時間、チームワーク、テンションなど、さまざまな要因によって変動しています。その上で、
「1割増し」の状態を「1.1」
「1割減」の状態を「0.9」
としたときに、各自が「1割増し」になる努力をする。
これが、「1.1」を目指すということなのです。「1.1」で得られるパフォーマンスは微々たるものに感じるかもしれませんが、毎日を「1.1」の状態で過ごすのと「0.9」の状態で過ごすのでは、 日後にはどれ程の差が出るのでしょうか。 「1.1」の 乗は、約 。 「0.9」の 乗は、約0.042。
その差はなんと、約405倍にもなります。
もちろんこれは、あくまで数式上での話。 日間ずっと「1.1」を繰り返し成長することも、「0・9」を繰り返すことも実際にはないと思います。
ですが、メンバー全員が「1.1」を目指しているチームと、「0.9」でいること に慣れてしまっているチームでは、推進力に差が生まれるのは明らかですよね。
『宇宙兄弟』の六太は、自分を「1.1」な状態にするのがとても上手なタイプ。
「2.0」になれることはほとんどないし、ときには「0.9」や「0.6」にまで下 がることもあるけれど、なんだかんだで「1.1」を達成しています。また、自分が「1.1」だと認識しているので、周囲に「2.0」を求めるようなことはしません。
読者が六太に共感したり、安心感を抱いたりするのは、この「1.1」感による部分も大きいと思います。
カリスマ性の高い優秀なリーダーは「2.0」以上であることが多いので、周囲にも同じパフォーマンスを望みます。
たとえ相手が「0.9」の状態でも容赦なし!ましてや「5.0」くらいの鉄人リーダーになると、“せめて「2.0」くらいはできるだろう?”と妥協しているつもりなので、ハードルの高さにも気づかないのです。いわゆる「無茶ぶり」というやつです。
確かに、「2.0」のパフォーマンスはチームにとって大きな力になります。鉄人の彼らが3人で回せるものを、「1.1」のメンバーならば6人必要ですから。
でも、「2.0」って続きません。それに周囲もしんどい。
ブースターにはなるので、ここぞというときに「2.0」を目指すのは、とても効果的だと思います。そこからチームを継続的に走らせたいのなら、「1.1」モードに シフトチェンジをするのがいいでしょう。
すぐに結果は出ないかもしれませんが、仲間の数が増えれば「1.1」のままスピ ードアップすることも可能です。
「2.0」や「5.0」といった魔法のような力を求めるより、「1.1」の状態であり続けること。
これを実行しているチームは、安定した速度で、安定したパフォーマンスを生み出すことができるようになります。
「2.0」を目指すのは厳しいけれど、「1.1」なら頑張れそう!
まずは、メンバー全員がこの意識を持つことから始めてみましょう。
「1.1」を繰り返しクリアしていくことで、その人のパフォーマンスが底上げされ、 結果的に当初の「2.0」のラインを上回ることだってできるはずです。
〜心のノート〜
自分も「1・1」、チームも「1・1」を目指せば、 メンバー全員がずっと心地よく頑張れる!
心がくじけそうなときに浮上できる、魔法の言葉
仕事でミスをした!
企画会議でダメ出しされた。
上司から厳しい叱責を受けた。
ノルマが達成できそうにない……。
僕たちに降りかかる、日々のこうした出来事。気分が落ち込んだり、自信をなくしてしまったり……。誰だって、「0.9」になってしまいますよね。
でも大丈夫。
「0・9」のときにパワーが湧いてくる、魔法の言葉があります。ポジティブな人は自然と唱えて実践している、その言葉とは ——。
「それはちょうどいい」です。
先輩や上司に聞かれたら「ふざけているのか!」と怒られてしまいそうですが、重要なポイントは、このあとに「じゃあ、〇〇をしよう」と付け加えること。
どんな「0.9」の出来事も、いったん事態を受け入れてから、解決の方法を考える。 できれば声に出して言うことで、「ちょうどいいんだ」と考えることも受容しやすくなります。
仕事でミスをした!
「それはちょうどいい。この機会に、自分の仕事のやり方を見直してみよう」
企画会議でダメ出しされた。
「それはちょうどいい。懸念材料をなくして、企画をより魅力的なものにしよう」
上司から厳しい叱責を受けた。
「それはちょうどいい。同じようなトラブルを起こさないよう、上司や仲間とのコミュニケーション量を増やして、指示の意図をつかめるようにしておこう」
単純過ぎて信じられないかもしれませんが、ちゃんと効果はあります。トラブル時の対処がうまい人というのは、口に出していないだけで、同じような思考を持っていることが多いのです。 ちなみに、『宇宙兄弟』のエピソードの中でも、「それはちょうどいい」と同じような魔法の力を持った、とても素敵な言葉が登場しています。
「It’s a piece of cake」
これは、シャロンがかつて六太に教えた言葉で、「楽勝だよ!」を意味します。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に侵され、言葉や体の自由を失いながらも、六太や日々人を見守っているシャロン。彼女の悲願である月面天文台の建設を自らの手で叶えるため、六太はハードな飛行訓練も「 It’s a piece of cake」と声に出して挑みました。
「0.9」になってはいけない。ならないようにしよう。
そんなふうに考える必要はありませんし、避けられるものでもないですよね。
「0.9」になったときに、気持ちを切り替えるための方法を知っていれば、恐れることもなくなります。 しんどいときこそ、「それはちょうどいい」と、声に出してみましょう!
〜心のノート〜
自分やチームを浮上させる方法を知っていれば、どんなトラブルでも冷静に対処できる。
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宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。
カリスマ的な存在感もなく、リーダーとは無縁のタイプ。でもなぜか“彼”がいると、物事がうまくいく……。累計2000万部を誇る人気コミック『宇宙兄弟』に登場するキャラクターや数々のエピソードを、「リーダー」という視点から考察した書籍『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない』。目まぐるしく変化し先が見えない現代で、「正解」を模索する人たちへの生き方・働き方のヒントとなる話題の本書を、『宇宙兄弟』公式サイトにて全文公開!
<著者プロフィール>
長尾彰・ながお あきら
組織開発ファシリテーター。日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科(心理臨床カウンセリングコース)卒業後、東京学芸大学大学院にて野外教育学を研究。
企業、団体、教育現場など、20年以上にわたって3,000回を超えるチームビルディングをファシリテーションする。
文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動している。