宇宙兄弟リアル

宇宙兄弟リアル

『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたち!そのモデルとなったリアル(実在)な人々を宇宙開発最前線の現場『JAXA』の中で探し出しリアルな話を聞く!

〈宇宙兄弟リアル〉佐孝大地・中村大地/フライトディレクタ ~宇宙飛行士をサポートする地上管制チームの指揮官~ (1/3)

〈宇宙兄弟リアル〉佐孝大地・中村大地/フライトディレクタ ~宇宙飛行士をサポートする地上管制チームの指揮官~ (1/3)
Credit:JAXA

運用管制チームを統率
宇宙飛行士の活躍を支える裏方の指揮官

NASAにおいて今や名物フライトディレクタとも言えるビル・ハガードは、その巨漢と豪快な性格で運用管制チームを指揮し、数々のミッションを成功に導いてきた。ハガードは元宇宙飛行士であり、若かりし頃は『トラブル・ビル』と異名を取るほど、ハガードのいるタイミングでトラブルが発生すると、冗談めかして言われ続けてきた過去がある。だが本人は一向に気にする素振りも見せない。実はそんなハガードほど、熱い責任感と自己犠牲の精神を持ってトラブルに向き合い、宇宙飛行士を支える姿勢を貫いてきた者はいなかった。

一方JAXAにおいて『きぼう日本実験棟』のフライトディレクタ『J-FLIGHT』として認定された佐孝大地と中村大地。奇遇にも『大地』という同じ名前で、また若くしてその能力と仕事ぶりが評価され、金井宇宙飛行士のISS滞在の前半と後半をそれぞれ担当するフライトディレクタとなった。

【職業:宇宙飛行士・運用管制ユニット J-FLIGHT】
『J-FLIGHT』とは、筑波宇宙センター内の『きぼう日本実験棟 運用管制室』で、管制チームの指揮を執るフライトディレクタである。JAXAには現在、『きぼう日本実験棟』の通信、熱、宇宙実験などの担当ごとに約120人ほどの運用管制官がおり、彼らを率いる指揮官が『J-FLIGHT』である。ISSに滞在中の宇宙飛行士や、米国、ロシア、欧州の4つの管制局にいる各国管制官と連携を取りながら、『きぼう』の円滑な運用を任されている。

Credit:JAXA
筑波宇宙センター内の『きぼう日本実験棟 運用管制室』

 

 

Comic Character

ビル・ハガード

「私が見ているのはトラブルの向こう側だ」

【職業】   NASAフライトディレクタ

【出身地】  アメリカ合衆国

【略歴】
NASAのベテラン名物フライトディレクタ。身長188センチのこの大男は、管制室では豪胆なジョークを飛ばす一方で、顔に似合わず繊細できめ細やかな気配りと冷静な判断力を持ち合わせており、仲間から絶大な信頼と評価を得ている実力者だ。実はハガード自身が元宇宙飛行士であり、数々の宇宙ミッションをこなしてきた経験をもつ。若い頃は何かしらのトラブルがあった時、なぜかハガードがその現場にいることが多いと噂され、仲間たちからは冗談半分で『トラブル・ビル』というあだ名で呼ばれていた。しかしそんな中でもハガードが貫いてきたのは、「そんな声が聞こえようと聞こえまいと、私が見ているのはトラブルの向こう側だ」という信念。誰よりも責任感を持ってトラブルと向き合う姿勢を持って事に当たってきたハガードは、結果として様々なトラブルを解決した豪快な逸話と実績をもっている、頼もしすぎるフライトディレクタなのだ。

Real Character

Credit:JAXA

佐孝大地

「各国のフライトディレクタは、交渉相手でもあり家族でもあるんです」

【職業】   JAXAフライトディレクタ

【生年月日】 1983年

【出身地】  日本 埼玉県

【略歴】
2008年3月 東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了
2008年4月 JAXA入社後、「きぼう」日本実験棟内の実験装置開発及び運用に従事
2015年 「きぼう」のフライトディレクタに認定。金井宇宙飛行士の長期滞在前半にあたるインクリメント54を担当。

 

Real Character

Credit:JAXA

中村大地

「どんな時も根拠をもった正しい判断を」

【職業】   JAXAフライトディレクタ

【生年月日】 1988年

【出身地】  日本 東京都

【略歴】
2011年3月 日本大学航空宇宙工学科卒業
2011年4月 入社後、「きぼう」日本実験棟の実験装置及び熱・環境制御担当として運用に従事
2016年 「きぼう」のフライトディレクタとして認定。金井宇宙飛行士の長期滞在後半にあたるインクリメント55を担当。

 

花形を支える裏方の現場

宇宙空間を晴れ舞台として、華々しく活躍する宇宙飛行士を花形とするならば、24時間3交替制で筑波宇宙センターにある『きぼう運用管制室』に詰め、宇宙飛行士の活動や『きぼう』の運用状態から片時も目を離すことなく見守り続ける管制官たちは、表に出ることのない裏方と言えるだろう。

宇宙飛行士の安全な宇宙生活と、効率的な仕事を手助けするため、徹底したサポート体制を敷いて、その高い情報処理能力と冷静で的確な判断力で宇宙飛行士を導き、さらには精神的な支えとなる。

しかも管制官たちを束ねる『J-FLIGHT』の立場で言えば、その役目は綺麗ごとだけでは済まされない。ISSでの活動は、参加各国においては『宇宙の資源』をめぐる駆け引きの場でもある。『宇宙の資源』とは、ISSの電力、通信、宇宙飛行士の作業時間など、限られたリソースを意味する。

その限られたリソースを少しでも自国の実験や作業に割いてもらい、有利な状況に調整すべく、各国のフライトディレクタたちは国益を掛けて交渉に次ぐ交渉を繰り返しながら、日夜調整を続けているのだ。

Credit:JAXA

JAXAには、3人の『大地』がいる!

●お忙しい中、お2人揃って頂きありがとうございます!まず早速のツッコミ所は、お名前が2人とも『大地』ということですが―

佐孝「JAXAの中では『W大地』で売り出し中です(笑)」

●名前が同じ人は世の中に数多くいますが、宇宙開発の現場で、しかもフライトディレクタで、しかも金井宇宙飛行士のISS滞在の前半と後半をそれぞれ担当するフライトディレクタという間柄は何とも奇遇ですよね!?

中村「私もそう思います」

佐孝「お互いの実家も近いですしね」

●最初の出会いではお互い意識しましたか?ビビッときました?第一印象はどんな?

佐孝「あの、単に先輩後輩の間柄で、別に付き合ってるわけじゃないんで…」

中村「私は入社してから、佐孝さんが所属されていた、きぼう日本実験棟の実験装置の開発チームに配属されたんです。でも佐孝さんは私と入れ替わりで別のチームに異動されて」

●すれ違いってありますよね、うん、恋バナでよくあります

佐孝「だから付き合ってるわけじゃないんで…」

中村「でもあの時、同じ名前の人がいたんだと認識しました。それから何回か会うこともありましたけど、ずっとご挨拶程度でした。これだけ話をするようになったのは3、4年前に管制官の訓練をするようになってからですね」

佐孝「そうだね」

●ご自分の『大地』という名前の由来は知ってますか?

佐孝「たぶん日本全国のたくさんの『大地』さんと同じだと思います。『大地のような広い心を』とか『地に足を付けて歩め』みたいな無難な意味だったと思います(笑)」

中村「私も同じような感じだったと思います。すいません、話が広がるような面白い理由がなくて」

●そんな、とんでもないです

佐孝「でも実はJAXAにはもう一人いるんですよ、その『大地』が…」

●え、そうなんですか!?

佐孝「陸域観測技術衛星『だいち2号』が、宇宙で活躍中です」

中村「あっ、巧いです、佐孝先輩」

Credit:JAXA
「だいち2号」は地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査などへの貢献を目的として開発された地球観測衛星

 

緩めるために締める

●佐孝さんは2008年にJAXA入社ですが、『宇宙兄弟』の連載が始まったくらいの年(『モーニング』にて2008年1号、2007年12月6日発売)でもあるんですよね

佐孝「そうみたいですね。それに2008年は、きぼう日本実験棟の運用がスタートした年でもあります。もちろん『宇宙兄弟』は当時から読んでました。ただ入社後は実験装置の開発チームで働き出したので、宇宙飛行士や運用管制を担うフライトディレクタの仕事などにはあまり接点がなかったんです。だからJAXAで働いていましたけど、一般の方と同じくらいの知識と感覚で『宇宙兄弟』を読んでましたね。ただフライトディレクタの仕事をするようになってからまた読み返してみると、私が管制室などでリアルに経験することが漫画ですでに詳細に描かれているので、『あぁ、このことだったんだな』って思う瞬間が結構あります」

中村「私も学生の頃から読んでいたので、JAXAに入ってからいろいろ見たり聞いたりすることが、いちいち『何かこれ宇宙兄弟っぽい』とか思ってしまいました。リアルの世界で自分はJAXAにいるのに、自分の基準が『宇宙兄弟』という漫画になっている変な感じでした」

佐孝「ちなみに私は単行本の32巻までは目を通していて――」

中村「あっ、私はまだなんで、今度買って読むの楽しみなんです」

佐孝「あれ、じゃぁ話すのやめとこうか?」

中村「少しくらいなら大丈夫ですよ」

佐孝「それじゃ。まぁ展開的には、ハガードが元宇宙飛行士だってことがわかって――」

中村「え?ちょっと待って下さい。それかなりのネタバレ感が…」

佐孝「…ごめん」

中村「……」

●…あの気分を変えて。中村さんは『宇宙兄弟』で好きなキャラクターはいますか?

中村「私はNASAの下請け企業の技術者で、ピコ・ノートンという人物が好きなんです。ピコが子供にネクタイを緩める理由を聞かれて、『仕事が無事終わったあとに緩めるため』みたいなこというやつ。あれ好きなんです」

佐孝「好きなんだ、あれ」

中村「はい、かなり」

中村「だから私もよく緩めてます」

●え?どんな場面で?

中村「管制室にいるときです。ピコは月からの帰還船のパラシュート展開・製造プロジェクトの総合責任者で、宇宙飛行士の命を左右する仕事なので、日々かなりのプレッシャーを感じながら仕事してると思うんです。一方、僕らフライトディレクタも宇宙飛行士の安全を守るという意味では共通するものがあります。だから私も運用管制室の椅子に座る時は必ずネクタイをして、交代の時間が来て自分の仕事が終わった瞬間、管制室の椅子に座りながらネクタイを緩めます。好きです緩めるの」

佐孝「緩めたその瞬間の自分が好きなんだ」

中村「こう言っては何ですが、たまらなく好きですね。管制官は8時間の交代制なんですけど、椅子に深く座って『俺は8時間の責任を全うしたぞ』という達成感と共に緩める、というような。そしてその時、ピコの言葉を心の中で呟く、そんな儀式を毎回してる自分、好きです」

佐孝「毎回?それさ、ここぞという時にやらないと、毎回やってると有難みなくなっちゃうんじゃない?」

中村「……そう言われてしまうと」

●ハガードも管制室でド派手な勝負ネクタイを締めてる描写がありますね。今更気付いたんですが、2人とも同じネクタイとジャケット着てますよね

佐孝「管制室の中では一応ドレスコード的なものがあるんです。管制室で仕事している時は、私たちはフライトディレクタ用のジャケットとネクタイをしています。まぁとはいえ、いつもってわけじゃないんですけど」

●買うんですか?

佐孝「歴代の先輩フライトディレクタから譲り受けるんです。これ使ってと渡されますね」

●ちなみに『宇宙兄弟』のオフィシャルサイトでは『ピコの勝負ネクタイ』っていうのが売ってましたよ

中村「ホントですか!?ちょっと要チェックですね、それ」

佐孝「今度からそのネクタイ締めてもいいんじゃない?それ緩めたら完全にピコになれるよ」

中村「イイですねそれ」

●(サイトをスマホでチェックして)…あれっ、もう売り切れてますね

中村「……」

「火の用心」の若田宇宙飛行士

●宇宙開発の仕事を志したきっかけは?

佐孝「私は子供の頃から宇宙開発をやりたいなと漠然と思い続けてきたんです。たぶん小学校3年生の頃に毛利衛さんのスペースシャトルの打ち上げをテレビで見たのがきっかけです。当時、夏休みの自由研究で毛利さんの新聞記事をスクラップにして一生懸命まとめたりしましたね。大学は宇宙工学科に進んで、最終的に縁があってJAXAに入社しました」

Credit:JAXA/NASA
1992年、STS-47で宇宙飛行する前に、TCDT(ターミナル・カウントダウン・デモンストレーション・テスト)でスペースシャトルの発射台に立つ若き日の毛利衛さん(当時44歳)。

 

●宇宙飛行士やフライトディレクタを意識したことはなかったんですか?!

佐孝「そこを一直線に目指す意識はなかったんです。ただ有人宇宙の分野で仕事をしたいとは思っていました。金井宇宙飛行士などが選抜された宇宙飛行士候補者募集の頃は、私はまだJAXAに入社したてであり、応募資格も満たしてなくて。JAXAに入社後は10年間くらい『きぼう』の実験装置の開発運用の仕事を長くやってましたね。それから人事異動で運用管制官の流れに乗って。まぁ言ってしまえば流れに乗ってここまで来たんですね(笑)。でも有人宇宙の仕事に携わるという想いは抱き続けていました」

中村「私の場合、ヒーローは若田光一さんです。私は生まれは東京ですけど、育ちは埼玉なんです。小学生の時に同じ埼玉県人が宇宙に行ってるということを知り、とても感銘を受けて、子供心に宇宙に興味を持ち始めました。大学では航空宇宙工学を勉強して、今に至るという感じです」

●若田さんがヒーローですか!僕もです!

中村「覚えてるのは、小学校の時に廊下に貼り出されていた防災のポスターです。火の用心のモデルに若田さんがイメージキャラクターで載っていたんです」

佐孝「あったあった、そうゆうポスター」

中村「若田さんがスペースシャトルのオレンジスーツ(船内与圧服)を着て、何かカッコイイ感じで『火の用心』と。それを見て私が『宇宙が好きだ』と言い始めたのを担任の先生が知って、そのポスターをくれたんです。それからずっと部屋にそのポスター貼ってました(笑)」

●アイドルやスポーツ選手ではなく、若田さんのポスターを

佐孝「それも火の用心のポスターを」

●友達の家に遊びに行って、部屋に火の用心のポスターが貼ってあるのを見たら、僕はかなりテンション上がりますね。でも親御さんは息子が消防士の道へ進みたいのかなと思ってたりして

佐孝「まだ実家にあるんじゃないの」

中村「どうですかね」

佐孝「捨ててたら悲しむよ、若田さん」

中村「以前ポスターのことを若田さんに話したら、笑ってました」

●時は巡り、今は宇宙開発の最前線の現場で若田さんと一緒に仕事をしているという状況ですが

中村「そうですね。これは何と言うか、何とも言えない感慨が…。実際、若田さんがISSのプロジェクトマネージャー(※現在は現役の宇宙飛行士兼JAXA理事・有人宇宙技術部門長)になられた時に一緒に働くことになったんですが…」

Credit:JAXA
金井宇宙飛行士のISS入室後に囲み取材に応える若田光一ISSプログラムマネージャー(当時)。右は大西宇宙飛行士。(ロシア連邦宇宙局宇宙飛行管制センター)

 

佐孝「もともと宇宙飛行士はヒューストンにいることが多かったので。ここ最近ですね、結構、筑波にいるようになったのは。でも私の場合はまず違和感しかなかったですよね、慣れるまで。同じ部屋で同じ空気吸ってることが変な気持ちで。仕事場で後向いたら若田さんが座っているという状況に、結構最初は戸惑いましたね、同じJAXA職員なのに」

中村「かなり遠い存在だった憧れの人が急に身近にいる存在になるわけです。若田さんと同じ部屋で自分が普通に働いていたり、お昼ご飯を一緒に食べてたりすると、ふと不思議な感覚に陥りました。もちろん慣れてきますし、仕事なんで慣れなきゃいけないんですけど」

佐孝「私も埼玉出身ですから、やっぱり特別な人なんですね、僕らにとって。そうだよね」

中村「そうですね。ただ今となっては我々は同じ目線に立って現場で働かないといけないですし、逆に若田さんが僕らにいろいろと尋ねてこられる場面もあるので、そこは憧れだけの浮ついた気分ではなく、しっかり気を引き締めて仕事をさせてもらってます」

【宇宙兄弟リアル】が書籍になりました!
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。

<筆者紹介> 岡田茂(オカダ シゲル)

NASAジョンソン宇宙センターのプレスルームで、宇宙飛行士が座る壇上に着席。
気持ちだけ宇宙飛行士になれました。

 

東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。

 

<連載ロゴ制作> 栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。

 

過去の「宇宙兄弟リアル」はこちらから!