せりか基金通信インタビュー「助けを求めることで、だれもがハッピーになれた」ドキュメンタリー映画『ギフト』より、ALS患者の夫と生きる妻・ミシェル編 | 『宇宙兄弟』公式サイト

せりか基金通信インタビュー「助けを求めることで、だれもがハッピーになれた」ドキュメンタリー映画『ギフト』より、ALS患者の夫と生きる妻・ミシェル編

2017.09.07
text by:編集部コルク
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観た人からの反響が声が止まらず話題のドキュメンタリー映画、8月から公開が始まった『ギフト 僕がきみに残せるもの』

 

アメリカンフットボール・元NFLのスター選手スティーヴ・グリーソンは2011年、ALSだと宣告された。時期を同じくして、パートナーのミシェル・ヴァリスコが妊娠していることも判明。
生まれてくる息子のために、今できるのは何か……。

ふたりが考え、実践すると決めたのは、ビデオレターをつくること。まだ見ぬ息子に宛ててメッセージを語り、病状が進むありのままの姿を残す試みを始めたのだ。
彼らの活動は広く知られるようになり、やがて米国内で大きなうねりとなって、ALSを取り巻く環境を変化させていく……。

先に米国で公開され、大きな反響を呼んだこの映画。日本でもぜひ多くの人の目に触れてもらいたいところです。6月には、日本で最初の試写会が開かれました。その際に来日したスティーヴのパートナー、映画内でも主要なキャストとして存在感を発揮しているミシェル・ヴァリスコさんに、話を伺うことができました!

 

米国からの飛行機が遅れて、ミシェルさんは東京・中野の試写会会場に空港から直行。到着したのは、イベントが始まる直前となってしまいました。
そんな慌ただしいスケジュールのなかでも、ミシェルさんに動じる気配は微塵もなし。むしろ、初めて訪れた東京を目いっぱい楽しもうという気持ちに満ちている様子。

「東京はニューヨークに似てるよって人から聞いたんだけど、たしかにその通り。街の混雑ぶりなんて、そっくり! でも、東京のほうが人はやさしくて、にこやかかもね、お寿司を食べるのが楽しみなの!」

イベント登壇前の短い時間を縫うように話を聞きました。

 

「通訳を介してのインタビューは初めてでちょっと緊張する!あ、私が緊張する側じゃないわね!あなたが緊張する側よ!笑」

最初から冗談で場を和ませてくれます。意志の強さと底抜けの明るさをを持った表情で一つひとつ丁寧にお答えいただきました。

映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』はすでに米国で大きな話題になっていますね。しかもミシェルさんたちは、ALS患者と家族がよりよい環境を得られるよう「チーム・グリーソン」と題した活動も、大々的に展開しています。
こんな大きなムーブメントを生み出せた要因はどこにあるのでしょう。

「作品のなかには、私たちの生活がかなり生々しいかたちで映し出されていて、人間としての弱さや脆さもそのまま出ている。そこがよかったんだと思います。観た人には、ほかの映画では得られない、かなりユニークな感覚を味わってもらえたんじゃないかな。
それと、米国で映画がヒットした要因は、まずスティーヴの知名度がやっぱり大きかったんじゃないかな。彼は元NFLのスター選手ですからね。」

たしかに、スティーヴ一家がすべてをさらけ出しているところは、ひとつの見どころですね。

「そのおかげで、私たち家族はひじょうにプライベートな部分まで、たくさんの人に知られてしまうことになってしまったんですけどね。これ、とまどいがなかったと言えばウソになりますよ。
そもそもビデオダイアリーを撮影しはじめたときは、生まれてくる子どもへ向けたプライベートなものにするつもりだった。こんなに大きなことになるとは、私たちだって思ってもいなかったんですよ。これほど世界中で観られるとわかっていたら、もっと服を着替えたり、髪もちゃんと整えたのにねって、スティーヴともよく話してます(笑)――あなた通訳上手ね!いい感じ!なんて言ってるのかさっぱりわからないけど!笑」
日本語に通訳している最中にも冗談を交えて周囲を笑わせてくれます。

作中、おふたりがかなり激しく言い合う場面もあって、ハラハラしてしまいます。

「私たちが『ベッドルーム・シーン』と呼んでいるところですね。夫婦の寝室で、スティーヴと私が互いに相手を冷たく扱って、ケンカしているシーン。人に見せるのはちょっとためらうものだし、私は病気の相手に対して、かなり無神経なふるまいをしているように見える。
だからじつは、映画としてはこのシーンがないバージョンもつくってみたんです。でも、世の中に私たちのことを公開するのなら、できるだけ正直でなければいけないと思い直して、ベッドルーム・シーンは盛り込まれることになりました。
ALSという病気がどういうものなのか。どんな影響を周りの人たちに与えるのか。どんな生活が待っているのか。見目麗しいことばかりじゃなく、すべてをありのままに出して、リアルなところを知ってもらいたかったので、このシーンはやはり必要でした。こういう朝も確かにありますから。」

ALS患者の家族として、同じ境遇にいる人へ何かアドバイスをいただけますか。

「ひとつ言いたいのは、介護する人は自分のケアもしっかりしてくださいということ。私は最初、介護も生活上の家事も、何でもかんでも自分でやろうとしていたんですね。しばらくして、それはどうあっても無理だとわかって、他の人にヘルプを頼むようになった。それでようやく、ちゃんと眠ることができるようになったし、赤ん坊だった息子リバースの面倒も見られるようになった。スティーヴとの関係も、明らかによくなりましたよ。
助けを求めることで、だれもがハッピーになれたんです。もちろん頼める人が近くにいなかったり、経済的な余裕がなかったりと、皆がヘルプを求められる環境にいるわけじゃないのはよくわかります。それでも、介護する人が自分の時間をちゃんと持つことが大切なのは、かわりません」

日本にはALS患者さんの支援団体がありますが、アメリカにも患者に対する社会的な支援や理解の輪がじゅうぶんありますか?

「はい、私が住むニューオーリンズにも、組織的なサポートの輪があって、固い絆で結ばれているのは心強いですよ。私たちは社会に支えられて生きているのだから、社会全体がALSのことをよく知って、理解を深めてくれるよう働きかけていくことは、どれほど強調しても足りないほど大切です」

米国では95%のALS患者が人工呼吸器をつけない選択をすると聞きました。これは思想上の問題なのでしょうか、それとも保険など社会体制の影響が大きいのでしょうか。

「実際のところは、高額すぎて人工呼吸器をつける選択ができないということもかなり多いと思います。本人も家族も人工呼吸器をつけて生活していくお金を持っていないのです。日本ではそのあたりの保険適用範囲がかなり広いんですね? 米国は、ほとんど個人の負担になるのでそれをまかなう経済力をもっているということは稀で、多くの人は二の足を踏みます。
もう一つは、人工呼吸器をつけたあとの生活の質を疑問視する人も米国には多い。話したり食べたりすることができなくなるわけだから、それではこれまでと同じ生活は維持できない、だから呼吸器は拒否するというわけです。このあたりは一人ひとりの考え方次第ですね。
この問題は、ケースバイケースとしかいえませんね。安く呼吸器をつけられるならぜひ使おうという人もいるだろうし、それでも生活の質という観点から考えて、やっぱりつけない選択をする人もきっとたくさんいる。双方の気持ちと言い分が、私にはわかる気がします」
日本でも、ALSへの理解と支援の態勢は徐々に広まっています。この映画がさらに弾みをつけてくれるような気がします。

「日本でも映画をたくさんの人が観てくれて、ALSへの理解を深めるきっかけになってくれたら、私たちにとっても何よりですよ」

ライター:山内宏泰(@reading_photo)

 

映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』については過去のせりか基金通信でも紹介しています。

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ライター:山内宏泰(@reading_photo)

せりか基金通信インタビューシリーズはこちら

 

 

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★小山宙哉とALS患者の方との対談をこちらに掲載してます。
★私の名前は酒井ひとみです ーALSと生きるー