せりか基金通信

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宇宙兄弟はALSを決して、忘れません。せりか基金の活動レポートなどをお届けします!

せりか基金通信インタビュー「私が30年来、ALSに取り組み続けている理由」東北大学大学院教授 青木正志先生

せりか基金通信インタビュー「私が30年来、ALSに取り組み続けている理由」東北大学大学院教授 青木正志先生
宇宙兄弟は「せりか基金」を立ち上げます。
シャロンが患って闘っているALS、せりかのお父さんが患って亡くなった病気であるALS。未だに原因も治療法も解明されず、徐々に体の運動機能を失っていく恐怖や、知力、痛み、かゆみ、寒さなどの体の感覚が保たれたまま意志を伝えることができなくなる恐怖、自分の命の意味と闘うALS患者の方の、希望を叶える支援をしたいという想いがあります。せりかの夢の実現を現実のものに。

ようやく「完全犯罪」から脱したALS研究

日々ALS患者の治療に従事しながら、根本的治療法の開発へ向けての研究も続けているのが、東北大学大学院医学系研究科・神経内科教授の青木正志先生です。

医大の大学院生時代にALSを専門にしようと志して以来およそ25年。ずっとALS研究をリードしてきました。

「私が研究を始めたころなんて、ALSは『完全犯罪』だなどと言われていたものですけどね」

完全犯罪、というのは?

「痕跡を残さない病気だからです。
ALSの症例は19世紀から知られていたのですが、長らく原因も治療法もまったく見当たらない状態が続きました。1980年代までの100年以上、ずっと手がかりすらつかめぬままでした。

他の筋肉や神経はそのままなのに、運動ニューロンだけが痩せていき、いつしか跡形もなく消失してしまうのがALSの症状です。

通常、体内で細胞が死んでいくときには何かしら痕跡が残るもので、そこから原因や治療法を考えていけたりするのに、ALSの場合はそれがない。『完全犯罪』と呼ばれたのは、そんなところからです」

それでも、あきらめない人たちはいつの時代にもいるもの。なんとかとっかかりだけでもつかみたいと、研究は脈々と続けられていきました。

努力が身を結んだのでしょうか。1990年代になると、青木先生も参画しはじめたALS研究には、少しずつですが進展が見られるようになります。

SOD1遺伝子という最初の光

「1993年に、原因となる遺伝子のひとつが初めて突き止められたのです。全体の10%以下の割合ではありますが、どうやら親子や兄弟などALSを発症しやすい家系が存在すると判明しまして、
その家系の人たちの協力を得て調べてみると、SOD1と呼ばれる遺伝子があるとわかりました。ALS発症にかかわる遺伝子です。小さいかもしれないがたしかな手がかりが、とうとう得られたのです」

この発見によって、ALSの研究に一筋の光が見えたのです。

「SOD1遺伝子の突然変異を実験用のマウスやラットに導入すると、人のALSの病態をよく再現することがわかりました。つまり、ALSの動物モデルをつくることが可能になったのです。これを使って研究を進めればいい。私もALSのラットをつくって実験・研究を繰り返しました。

ALSのモデル動物を治療できれば、そのまま人間の治療にも使えるだろうと期待が高まりました。ですが実際のところ、マウスに効果があっても人には効かなかったというケースも出てきたりして、なかなか思い通りには進まないというのが現状です。それでも少なくとも、ALSが完全犯罪であると言われた時代は終わらせることができました。医学の進歩はすごいものだと、やっている私たちも思ったりしますよ」

たしかに1993年以降ALS研究は前進し、現在はALSの進行を遅らせる薬として「リルゾール」「ラジカット」の2つが存在します。原因遺伝子もSOD1にはじまって、これまで約20種の存在が明らかになりました。

この調子でいくと、根本的な治療につながる薬や療法が見つかるのも近いのではと思ってしまうけれど、そうそうすべてがうまくいくわけではありません。

「すぐに治るようになりますよ、とは言えないところがもどかしいですね。解明されたことが増えてきたとはいえ、残念ながら私たちはALSの患者さんを、いまもなおひとりも治せていないのは事実です。

医療を山登りにたとえるとしたら、ALSを治すというのは、エベレスト登頂を目指すくらい難しいことといえるでしょう。これだけ医学が進歩してもなお、わからないことはまだまだたくさんあります。ALSという病気はパズルのピースが多すぎて、いくつかピースが見つかったといっても、まだまだ全体像が見えてこない。現状はそんなところなのです。パズルのピースの絶対数が足りていないので、これを増やしていくのが当面取り組むべきことです。

進んでいる道が科学的に正しいのかどうかも、やってみないとわからないところがあります。それでも、私たち研究者の身としては、やり続けるしかありません。患者さんに1日でも早く希望を感じてもらいたい、症状をよくしてあげたいと思えば、研究に励むしかないんです」

選択肢のあることが、ALS患者を悩ませている

ALSは希少疾患で原因もはっきりとわからないので、発症した人からすれば、「なんで私がこの病気に?」と不思議に思ってしまい、納得のいかない気持ちにとらわれる人も多いのでは? 多くの患者の方々と接する中で、青木先生はどんな声をかけているのでしょうか。

「たしかにそういう思いは、ALSにはどうしてもついて回りますね。なぜ私がALSに? という問いへのひとつの答え方としては、長生きしたからでしょうという言い方ができます。ALSは、一定以上の年齢になってから発症するケースが大半ですから。

それから、あなただけが稀で特殊というわけではないということも、私はよくお話します。たしかにALSは希少疾患ですが、同じように希少疾患と呼ばれる病気は本当にたくさんある。ということはそれらを合計すれば、希少疾患にかかっている全体数は決して小さくない。病気を細かく分けているから、数字が小さくなるだけなんですね。

まあそんなことを言われても、患者さんとしては腑に落ちない気持ちが残るのは当然なのですけれど。
 
病気の受け入れがたさというのは、本来、どんな病気だって等しくあるものなんですけどね。たとえばガンですと言われたとして、ガンになるのはよくあるリスクですから一瞬はあきらめがつくかもしれないけれど、たいていだれでも『そうは言っても、なんで私が……』と思ってしまう。ガンの多い家系じゃないのにとか、人一倍健康には気を使っていたのにとかいろいろ考えることになるんじゃないでしょうか」
 
ALSとつきあう難しさは、またちょっと別のところにもあると青木先生の目には映るそうです。希少疾患に「自分だけ」かかってしまった事実を受け入れることよりも、ある選択を迫られる点のほうが、患者の身に重くのしかかっているようだと。

「ALSが進行してある段階に達したとき、必ず起こるのは呼吸不全。そこで患者さんは、人工呼吸器をつけるかどうかという選択を迫られることになります。つければ10年単位で生きていけるけれど、だれもが呼吸器をつける選択ができるわけじゃありません。環境の面でも生きる意欲の面からいっても、『どんなことをしても生きていくんだ』と決意できればいいのですが、『自分はそんな状態で生きていくのはいやだ』『周りのことを考えると、わがままは言えない』と考える人もいるわけです。

宇宙兄弟(24)#232より

簡単に割り切ってできるようなことじゃありませんよね。すべての患者さんにとって、この選択は酷なものだと思います。重症の脳梗塞や認知症の人よりも、ALSの患者さんは本人の意識がしっかりしていますから、私たち医師の側としても、そうした将来の話をご本人と密にしていく必要があります。

基本的には自宅で家族または支援者と生活していくことが人工呼吸器をつける前提となります。そのためにどう態勢を整えたらいいだろうと相談をします。周りに頼っていろいろやってもらおうですとか、病院に入院させてもらえないかと真っ先に考えるようだと、なかなかうまくいかなかったりします。

人工呼吸器装着するしないに関わらず、その人らしく生きていく為に、多くの支援を受けながらもどのように生活をしていけるかを相談します。本人家族が出来る限り幸せに生きていく為のお手伝いです。
いずれにしても、患者さんに個別の事情を一つひとつ考えながら、話をしていくしかありませんね」

前に進むエネルギーは、患者さんからもらっている

先述の通り、青木先生は大学院生のころにALSと関わっていくことを決めました。どんなきっかけがあったのでしょうか。

「研修医だったときにALS患者さんの話を聞く機会があり、勉強してみるとこの病気はたいへんそうだと思いました。当時は原因もわからず治療法もない状態でしたから。ならば治療への道を一歩でも進められたらいいと、専門にすることとしました。

医者は大きくふたつに分けられます。外科など目の前にいる患者さんをどんどん治す医者ももちろん必要ですし、いっぽうで、今はまだ治せない患者さんの治療法をなんとか見つけ出そうとする医者もまた必要です。そうであってこそ医学は進歩していきます。

私は後者を選んだわけですが、当時は他の分野の医者から『治療できた患者さんがいないなんて、そんなのは医者じゃない』と言われたりして、落ち込んだこともありました。

でも、難病を抱えて、治療を求めている患者さんが現実に存在するんですよ。向き合うことを避けていては、患者さんに怒られてしまいますし、医者として顔を上げられない。たいへんな思いをしている人たちにこそ、医療をなんとか届けたいと、これまで続けてきました」

そうはいっても、治療のいとぐちすらなかなか見つからない日々だと、気が滅入ることはないのでしょうか。そんなとき、自分を奮い立たせるエネルギーになるのはいったい何なのでしょう。

「外来に通ってくださる患者さんにひと月に一度お会いしたりしていると、だんだん症状が進行していくのがわかります。それを止められないことに泣きたくなったりもしますが、患者さんと接すればこそ、『僕がどんなことしてでも治しますから』と気持ちを新たにさせられます。ずっとその繰り返しですよ。

だから、僕が前に進むエネルギーは患者さんからもらっているんですよ。こちらが患者さんに励ましてもらっているんだといつも感じていますね」

 

ライター:山内宏泰(@reading_photo)

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