隣のロボット

隣のロボット

ロボットづくりとその仕事について紹介する、ロボット開発の会社で働く村上さんのコラム。

第11回 理想のデザインと機能を目指して 今日もコツコツロボット開発の日々

第11回 理想のデザインと機能を目指して 今日もコツコツロボット開発の日々
今年15周年を迎えたロボット開発会社フラワー・ロボティクスの村上美里さんがお届けする「隣のロボット」。
第11回は、開発中の家庭用ロボットPatin(パタン)の2年間の成長をご紹介します♪
「家庭のなかで必要とされるロボットはどんな形や機能をもっているかーー?」というディスカッションの中から構想が生まれたPatin。デザインひとつとってみても、『宇宙兄弟』にでてくるブギーや、『スターウォーズ』のR2-D2にくらべると、小柄でまるみをおびた柔らかい印象のデザインに。
その開発裏では、ロボットとして「できる」かどうかではなく、つねにユーザーにとって「実際に使える」かどうかをポイントに、日々さまざまな機能の開発がすすめられていました。ものづくりの現場のストーリー、ぜひお楽しみください。

2016年9月にフラワー・ロボティクスは15周年を迎えたが、現在開発中のPatin(パタン)も発表から2年を迎えた。
想定通りに進んだこともあれば、思わぬ問題に頭を抱えることも多い。まだ開発中なので問題は山積みだが、この2年間で起こった紆余曲折をご紹介したい。

−イメージをデザインと機能に落とす:完成までの地図をつくる

過去の回でも触れたが、Patinの構想は、「家庭の中で活用されるロボットはどんな形や機能を持っているか」、を考えるディスカッションの中から生まれた。

フランス語で「スケート」を意味するPatinという名前の通り、機能を持つ物体に車輪が付いて動き回るロボット、というのが最初の発想で、今もPatinをもっともシンプルに表す特徴である。

家庭内で動き回るロボットにはどんな機能が必要かを考え、構造や、大きさ、重さなどのサイズ感やデザインを検討していく。

開発手法は会社やプロジェクトによって異なるだろうが、フラワー・ロボティクスは代表の松井がデザイナーだということもあり、まずはアイデアを形にすることからスタートする。
デザインは機能に大きく左右される。
たとえばカメラをつけるなら、そのためのスペースを確保し、レンズを覆わないデザインにしなくてはならない。

搭載したい機能の数が増えるほど、デザインに与える影響は増える。
これは開発が進む中でも付き合い続けなくてはいけない問題で、Patinは当初のモデルから複数回デザインが変更されている。

1コンセプト段階のデザイン(左)と2015年に変更となったデザイン(右)

Patinの外観のデザインと機能をメカ設計の担当者が図面に落とす。
図面ができれば、実際にタイヤやフレーム、カバーなどを用意し組み上げてみる。
実際にモノを空間に置いてみると、CG画像とは印象が異なるのが面白い。
まだ体の外側だけが出来上がったPatinを発表したのは2014年の9月。ちょうど2年前である。

−機能を開発する:ロボットの体と神経をつくる

デザイン、ハードウェアの設計と、必要な機能がまとまった。

だが、これは料理で言えばメニューが決まった段階でしかない。材料を集め、調理してみなくては、それが美味しいのか、料理として成立するのかもわからないのだ。

様々な専門スキルと経験を持つエンジニアが集まり、機能を作っていく。
私が開発室(といってもマンションの一室のような場所だが)に入ったとき最初に感じたのは、
「webサイトの開発と変わらないんだな」
ということである。
基本的にみんなパソコンに向かいプログラミングをしているからだ。
たまにハンダゴテを使ったり部品を作ったりしていると、
「なんだかロボットを作っている感じがする」
とワクワクするのだが、基本的には「ロボット開発中」という絵にはならない。

2人海戦術で配線部品を一気につくる日。膨大な部品が必要となる。

Patinにはいくつもの機能が搭載されているが、それはすべてプログラムされたものだ。
犬の躾のようにお手を教え込めばロボットは自然に動くわけではなく、
「お手」と聞こえたら右前足を15センチ上げる
というように、すべてをプログラムしなくてはいけない。
命令を聞くための集音マイクや足を上げる動作をさせるモーターも必要となる。

機能を実現するために必要なセンサーや部品を選び、プログラミングし、実行する。
ひたすらこの繰り返しを2年間やってきた。

−「できる」ことと実用的なことは違う

搭載する機能を決めるとき、実用性・必要性はもちろん、ロボットとして面白いかなど様々な確度から検討する。

だが、実際に機能をつくってみると、思っていたものとは違う使用感になることがある。

Patinは家庭用ロボットだから、
私達が日頃おこなっているちょっとしたことを、先回りしてやってくれると嬉しいのでは
と考えた。
そこから
「ロボットがテレビを操作する」
という機能になった。
この原理はとても単純で、Patinから赤外線をテレビに向けて照射するだけでいい。リモコンがくっついたのと同じだ。
難しい技術を使っていないので、開発自体は比較的かんたんだった。
Patinが部屋の中を動いてテレビに近づき、赤外線を出して消す、という実験もうまくいった。

だが、その速度がとても遅かった。
「消す」ことなら、消している様子を観察することも少ないだろうから問題ないだろうが、
「テレビをつけて」
と命令して何十秒も待っていられない。確実にリモコンへ手を伸ばすだろう。
今もPatinはテレビをつけたり消したりすることができるが、「できる」ことと「実際に使える」ことの違いを考えると、機能としては評価が難しいところである。


テレビを消す実験の様子

このような問題は、他の機能にも出て来る。
「できない」ならばできるようにするか、諦めるが、「できるけどイマイチ」というものは非常に扱いが難しい。
改善するのも時間と人手が掛かる。その間に他の開発をした方がいいのではないか、と考えてしまう。
「せっかくだから」とモリモリにして、全体の機能が低下してしまうこともある。

また、声や顔を認識する技術の場合は、「機能するけど成功率が5割」とか、「雑音のない環境なら動く」というようなこともよくある。
声で命令して動くロボットは便利だけど、何回も言わないと動かないのは逆にストレスになるのではないか?
頻繁にお母さんと娘を見間違えるなら、いっそ顔認識はいらないのではないか?
開発チームは常にこの問題と付き合う必要がある。
ユーザーにとって必要かどうか、という考え方が重要になるだろう。

−耐久性をあげていく

開発が進むに連れ、webサービズでは起こらないハードウェアについての課題もどんどん出てくる。

バッテリーが持たないとか、部品が取れやすいとか、問題が起こるたびに部品を交換したり、機構を変えたりする。

家電などでもおこなわれることだが、製品として販売するためにはテストが必須だ。
何千、何万時間も動かしたり、何万回とボタンを押したり、高い場所から落としたりする。
Patinはまだそのレベルに達していないのだが、
CES2016での展示や、外苑前にあるTEPIA先端技術館での展示などで、長時間動かすという試みをしている。
CESでは14時間ほど動かし、タイヤの軸が折れてしまった。
これは後日対策を取ることができたが、連続稼動を1週間、1か月、半年と続ける中で発生する問題もある。
動かし続けることでネジが緩んだり、誤作動が多くなる不具合は、やってみなければわからない。

Patinに不具合が起きる度にエンジニアは渋い顔をしているが、
人が乗ったり高いところから落とされたりする近い将来のことを考えると、今のうちから強い体を作ってあげることが必要だと思える。

3TEPIA先端技術館での展示風景。スタッフが側につかずに展示を続けている

<<次回予告>>
Patinの発表から2年。構想が生まれたときからは4年近くが経った。
当初2016年の冬に発売する予定だったが、もう少し時間が掛かりそうである。

この2年でロボットやIoT界隈はとても賑やかになった。
しかし、Kickstarterなどクラウドファンディングで話題を集めた製品が出荷されなかったり、不良品が出ているなど悪いニュースを耳にすることも増えてきた。

質が高く安全な製品を、手頃な価格できちんと届ける。
私たちがやろうとしているのはメーカーとして当たり前のことだが、それがいかに地道で忍耐の必要なことかが身にしみる。

それに事業として考えると、開発が遅れたら発売も遅れ、売上が出るのが遅れてしまう。また開発期間が長くなるほどにコストが嵩む。
ロボットなんて夢のある事業をやっていても、その言葉の響き以外すべて現実的だ。

次回はそんなお金の問題についてお話したいと思う。

 

〈著者プロフィール〉
村上美里
熊本県出身。2009年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。市場調査会社(リサーチャー)、広告代理店(マーケティング/プロモーション)、ベンチャーキャピタル(アクセラレーター)を経て2015年1月よりフラワー・ロボティクス株式会社に入社。