《第24回》宇宙人生ーセンター・オブ・ジ・アイシー・ムーンズ (Journey to the Center of Icy Moons) | 『宇宙兄弟』公式サイト

《第24回》宇宙人生ーセンター・オブ・ジ・アイシー・ムーンズ (Journey to the Center of Icy Moons)

2016.08.23
text by:編集部コルク
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2016年8月24日の11時45分より、NIAC(NASA Innovative Advanced Concept)に提案して採択されたプロジェクトのプレゼン大会が開催されます!
SFのような、ぶっ飛んだアイディアの実現可能性を探るこのNIACプログラム。今回は、小野さんが提案しているプロジェクト『センター・オブ・ジ・アイシー・ムーンズ』についての概要を紹介!
なお、当日8月24日は、Live Streamでプレゼン大会の様子を視聴することが出来ます!わくわくするプレゼンを、ぜひ生中継で見てみて下さいね☆

原文:https://www.nasa.gov/feature/journey-to-the-center-of-icy-moons

ジュールベルヌの古典的SF『地底旅行』(センター・オブ・ジ・アース)といえば、活字を読まない人でも、東京ディズニーシーのアトラクションで馴染みがあるだろう。この小説では、オットー・リンデンブロック教授と仲間たちが科学的調査のためにアイスランドの火山の火口の中へと勇敢に入り、広大な地底の海など様々な驚くべき発見をし、絶体絶命の危機を乗り越えて地上に帰還した。まさにこれは、我々が木星の衛星エウロパや、土星の衛星エンセラドスでしたいと思っていることである。既にドローン潜水艦を用いてこれらの衛星に存在する地底の海を探査するコンセプトは提案されている。しかし、いかにして分厚い氷の層の下に隠された地底の海に到達するかは、まだ未解決の問題である。僕のチームはICE (Icy-moon Cryovolcano Explorer、氷衛星の氷火山探査)と呼ばれるコンセプトを提案し、NASA Innovative Advanced Conceptプログラムに採択され、10万ドル(約1000万円)の研究費を獲得した。これは、まず氷衛星の表面に着陸し、氷火山の火口まで移動したのち、その噴出口の中への入り、科学的調査をし、そして究極的にはドローン潜水艦を放出して地底の海を探査するというコンセプトである。

cotim1Credit: NASA/JPL

ICEは3つのモジュールからなる。DM (Descent Module, 下降モジュール)、SM (Surface Module、表面モジュール)、そしてAUV (autonomous underwater vehicle,ドローン潜水艦)である。DMはAUVを持って噴出口の中を下降する。その際、熟練した登山家のように、壁面のクライミング、ケーブルによるぶら下がり、跳躍など、様々な技術を組み合わせる。噴出する超音速の水蒸気のジェットは、密度が非常に低いため、動的圧力(楽観的な見積もりでは1 Pa程度)は下降の妨げにはならない。SMは表面に残り、RTGまたは太陽電池により発電し、また地球への通信を担う。DMはケーブルを介して電力供給と電力と通信をSMに頼ることで、サイズと重量を軽減する。DMは高度な人工知能を搭載し、周期的な噴出などダイナミックに変化する環境に柔軟に適応したり、予期せぬ異常に対処したりする。DMが地底の海に到達すると、AUVを放出し、生命を育んでいる可能性のある地底の海を探検する。

ICEは3つのユニークな利益をもたらす。1点目は、氷火山の噴出口の中での科学的調査を可能にすることである。オービターでも噴出するガスの中を飛行することで科学的調査はできるが、比較的大きな粒子 (最大で 1 μm) は軌道高度に届くことは難しい。しかし、そのような比較的大きなミネラルの粒子こそが、地底の海における生命の居住可能性(はビタビリティー)についての多くの情報を持っている。2点目は、地底の海へのアクセスを可能にする点である。そして3点目は、地底の海におけるドローン潜水艦の運用を可能にするために3つの機能を提供することである。通信、ナビゲーション、そして電力である。水は電波を通さないため、通信とナビゲーションはドローン潜水艦にとって大きな問題である。ICEのDMは音波を用いた通信で一つ目の問題を解決する。DMは光ファイバーを通して信号をSMへとリレーし、地球へと転送する。またDMは音波による位置信号を送り、バッテリーの充電ステーションとしても機能する。

提案したコンセプト・スタディー(概念研究)では、(1) ミッション・コンセプトを考案し、(2) ミッション遂行のための主要なリスクとその軽減法を特定し、(3) フィージビリティー・スタディー(実現可能性の調査)を行う。フィージビリティー・スタディーにおいては、いかなるハードウェアの機能(クライミング、ぶら下がり、etc)が最適か、また、いかなる人工知能の機能が必要かについて、トレードオフを行う。この研究を行うことで、科学的目標、電源など要求されるリソース、ロバスト性、など、システムに対する要求が特定される。この研究が成功すれば、この興味深いコンセプトを、これから盛んになる氷惑星探査のポートフォリオに加えることが可能になるだろう。

以上は、僕がNIAC (NASA Innovative Advanced Concept)に提案し、採択された研究の概要です。NIACとは、SFのようなぶっ飛んだアイデアの実現可能性を調査するための研究費を出すプログラムです。

日本時間で今週水曜日の11時45分より、この研究のNASAへのプレゼンがLive Streamされます。これは3日間にわたって開催されるNIACシンポジウムの一部で、シンポジウムではNIACから研究資金を受ける全てのプロジェクトがプレゼンを行います。月の南極のシャクルトン・クレーターを探査するための「トランスフォーマー」と呼ばれる形を変えられるロボットや、灼熱の金星を探査するための、電子機器を一切使わない、全て機械仕掛けの探査機など、ICEに負けず劣らずぶっ飛んだ面白いコンセプトが多くあります。ぜひご覧ください!


コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!

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〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。

本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。

■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
《号外》史上初!ついに冥王星に到着!!NASA技術者が語る探査機ニューホライズンズへの期待
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第11回<後編>:宇宙でエッチ
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第12回<中編>:宇宙人はいるのか? ヒマワリ型衛星で地球外生命の証拠を探せ!
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第15回:NASA技術者が読む『下町ロケット』~技術へのこだわりは賢か愚か?
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