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《第11回》宇宙人生ーーNASAで働く日本人技術者の挑戦(後編)

2015.07.28
text by:編集部コルク
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《第11回》
宇宙でエッチ《後編》
「宇宙でしたカップルって、今までにいるのかなあ。」宇宙を飛んだ人は500人以上いるけれど、宇宙で生まれた人は、ただの一人もいません。人類史上初の宇宙での生殖の試みを、誰がやるのか。NASA技術者の小野雅裕が想像する未来ではある国が偉業を成し遂げるのではないかと考えていて…。

 

《前編》はこちらから

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子供のころの僕の興味は宇宙や電車のことばかりで、普通の子が当然知っているような知識がスッポリと抜け落ちていました。性についても、僕は小学校の高学年になっても肝心な部分、、、、、を全く知りませんでした。だから、性教育の時間に「ハイ」と手を挙げ、大きな声で元気よく質問をしたのでした。

「先生、どうやって精子は女の人の体に入るのですか?」

かわいそうに、若い女性だった保健の先生は赤面して何も答えられず、クラスの友人たちは一斉に大笑いしたのですが、僕はどうしてなのかさっぱり分かりませんでした。その後の休み時間に馬鹿な友人が廊下でドデカい声で講釈を垂れてくれて、はじめて僕は肝心な部分を知ったのでした。

そんなことはどうでもよいとして、前回お話したとおり、その肝心な部分を宇宙でするなどNASAもJAXAも試みていないのですが、将来人類が宇宙で子孫繁栄するためには決して避けて通れない。では誰がどうやって実験するのか。もうちょっとストレートに申し上げますと、宇宙にカップルを打ち上げ、エッチから出産まで、人類史上初の宇宙での生殖の試みを、誰がやるのか。

アメリカは全土で同性婚が合法化されるくらい性にオープンなのだから、NASAならばやれるに違いない、と思われる方もいるかもしれません。実はその間逆です。アメリカに住んでみて思ったのですが、ある面においては日本の方がよほど性にオープンです。

たとえば、JPLでは職場でエッチな動画をみていることが見つかったら問答無用で即解雇です。日本では駅を降りて一本路地を入ればピンク色の看板が並んでいますし、電車の中吊りに誰それのヌードの袋とじなどという広告があり、高速道路から見えるところに堂々とラブホテルの看板が掲げられています。あれはアメリカでは社会的に決して許容されない光景です。アメリカは性に非常に厳格な一面を持っています。

宇宙でポルノビデオを撮るなんていう話が出ることと一見矛盾するように聞こえるかもしれません。私見ですが、アメリカでは「概念としての性」と「行為としての性」が明確に分離されているように思います。精神的な愛と肉体的な愛の分離ともいえます。つまり、「愛とは何か」というJ-POPの歌詞みたいなテーマや、同性愛者の権利といった、概念としての性については恥ずかしがらず真面目に議論します。でも具体的な行為に関する事は、日常生活で目に付く場所からは完全に隔離されています。ポルノや性産業はもちろん存在しますが、お日様の当たる健康的な世界からは目に見えない線で隔たれています。国の威信を肩に担ぎ、少年少女に夢を与えるのが仕事の宇宙開発はお日様の当たる世界の事業の典型です。線の向こうの世界と混じることは決して許されないのです。

反対に、良いか悪いかという価値判断は脇に置いておいて、日本、あるいは東洋では、概念としての性と行為としての性がゆるく混じりあっているように思います。だから愛について語ることに一抹の恥ずかしさを覚える一方、ピンクの看板を街中に堂々と掲げることは社会的に許容されるわけです。

これには文化的な理由があるのでしょう。たとえば日本神話では、イザナギとイザナミの兄妹がエッチしてできた八人の子供が日本列島の島々になったとされていて、その行為に当たる部分もなかなか赤裸々に書かれている。現代でも、川崎に男性器が堂々と祭られている神社があったりします。性器を汚猥ではなく神聖とする信仰は日本に限った話ではなく、インドの街角ではシヴァ神が男女の性器の形に模されて祭られていて、お参りするときはそれにミルクをぶっかけます。ギリシャ神話もなかなかのもので、夜空の星の名前は最高神ゼウスの愛人や子供だらけです。

むしろ、愛の精神性を肉体性から分離させるキリスト教のほうが特異だと言えましょう。イエスさんは一言も「エッチは不浄だ」なんて言っていませんが、おそらく処女のまま子を産んだ聖母マリアへの強い信仰から、純潔を美徳とする思想が後世になって生まれたんだと思います。反対に、東洋では元来、行為としての性も、汚いものでも、隠すものでも、恥ずかしがるものでもなかったのだと思います。

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話を宇宙に戻しますと、そんな風にエッチに対する文化的許容度が高い日本やインドこそ、もしかしたら人類初の偉業をやってくれるのではないかと、ほのかに期待するわけです。(そういえばインドは独力の有人宇宙開発計画を進めています。)

そしてはじめて地球の外で生まれた子の名は、ガガーリンやアームストロングと同じく、もしかしたら以上に、人類の歴史に永遠に刻まれることになるでしょう。

JAXAは先月にフォボスからのサンプルリターン計画を発表するなど、「世界初」を狙っていく姿勢を明確化させており、これはとても好ましいことだと僕は思っています。だから、ニッチばかりではなく、そんな大胆で根源的な「人類初」も狙ってみてもいいんじゃないかと、半分冗談だけれども、半分真面目に思うわけです。

僕はアメリカに住んで合計で10年近くになりますが、未だに日本が故郷だと思う気持ちは変わりませんし、一生変わらないでしょう。同じように、宇宙を故郷だと思う宇宙飛行士はいないでしょうし、将来の火星への移民たちも夕空に浮かぶ地球を見上げながら故郷を懐かしむことでしょう。しかし、火星で生まれ育った子にとっては火星が故郷になります。そんな子が旅で地球を訪れる機会があったら、その美しさに感嘆しつつも、重力が強くて体が重いし太陽も眩しいし、やっぱり火星の方がいいや、なんて思うのかもしれません。

そんな日はいつか必ずやってきます。そうして、宇宙を故郷と思う人間が誕生した瞬間こそ、人類が真に宇宙的存在となる時なのです。

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コラム『一千億分の八』が加筆修正され、書籍になりました!!

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〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。

本連載はこの作品の続きとなるJPLでの宇宙開発の日常が描かれています。

さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。

■「宇宙人生」バックナンバー
第1回:待ちに待った夢の舞台
第2回:JPL内でのプチ失業
第3回:宇宙でヒッチハイク?
第4回:研究費獲得コンテスト
第5回:祖父と祖母と僕
第6回:狭いオフィスと宇宙を繋ぐアルゴリズム
第7回:歴史的偉人との遭遇
第8回<エリコ編1>:銀河最大の謎 妻エリコ
第9回<エリコ編2>:僕の妄想と嬉しき誤算
第10回<エリコ編3>:僕はずっと待っていた。妄想が完結するその時まで…
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