一千億分の八

一千億分の八

銀河系には約1000億個もの惑星が存在すると言われています。そのうち人類が歩いた惑星は地球のただひとつ。無人探査機が近くを通り過ぎただけのものを含めても、8個しかありません。人類の宇宙への旅は、まだ始まったばかりなのです…。

《号外》土星の衛星エンセラドスの居住可能性に関する新たな証拠

《号外》土星の衛星エンセラドスの居住可能性に関する新たな証拠

(Image: NASA/JPL)

本日、NASAより「重大発表」がありました。

【土星の衛星エンセラドスにある地底の海から水素分子が見つかった】

どうしてこれが発見されたのか、この発見はなぜ重要なのか。人気連載『一千億分の八』の著者でNASAで働く日本人技術者・小野雅裕さんによる解説をお送りいたします!

エンセラドスの南極から噴出する地底の海の水。Image: NASA/JPL

【NASA重大発表解説】土星の衛星エンセラドスの居住可能性に関する新たな証拠

本日、NASAより「重大発表」がありました。その肝はこれ:

  • 土星の衛星エンセラドスにある地底の海から水素分子が見つかった

どうしてこれが発見されたのか、この発見はなぜ重要なのかを、簡単に解説しましょう。

(原文はこちら)

いかにして発見されたか

土星の衛星エンセラドスは、表面が全て氷に覆われた、直径約500kmの小さな星で、その全表面積は日本の2倍程度です。この小さな星が今、太陽系でもっとも大きな注目を集めています。なぜかというと、NASAの土星探査機カッシーニの観測により、厚さ数十kmの氷の層の下に海があることがほぼ確実となったからです。

さらにカッシーニは、エンセラドスの南極付近の「タイガー・ストライプ」(虎の縞)という氷の割れ目から、海水が高さ数百キロにわたって吹き出しているのを発見しています。(上の写真)

カッシーニは数回にわたって、エンセラドスの地表すれすれを飛び、この海水のジェットの中を突っ切りました。その際に「質量分析器」という機器を使って、海水にどのような物質が含まれているかを観測しました。質量分析器とは宇宙探査機の「嗅覚」のようなもので、ガスなどにどのような物質が含まれるのかを知ることができます。

この質量分析器からのデータを解析した結果、ジェットの中に水素分子が含まれていることがわかった、というのが今回の発見です。

なぜこの発見が重要か

この水素はどこからきたのでしょうか?科学者たちは、エンセラドスの海底に熱水噴出孔があり、そこから水素が発生している、と考えています。熱水噴出孔とは、平たく言えば海底にある温泉で、地球にも同様のものがあります。地下から湧き上がった、様々なミネラルを含む温泉が、海にブクブクと湧き出しているのです。

地球の熱水噴出孔。Image: NOAA

 

地球の熱水噴出孔付近には、特殊な生命が住んでいることが知られています。酸素を呼吸せず、熱水噴出孔から吹き出してくる物質をエネルギー源にしてい生きる古細菌などです。熱水噴出孔こそが地球で生命が最初に誕生した場所だと考える学者もいます。今回見つかった水素も、生命にとって必要不可欠なエネルギー源になります。

ですから、エンセラドスの海底に本当に熱水噴出孔があれば、そこで地球外生命体が見つかる可能性が非常に高いと考えらています。熱水噴出孔の存在を示唆する証拠が見つかった。今回の発見が重要な理由です。

地球外生命を求めて・・・

実は、今回はもう一つの発見がアナウンスされています。ハッブル宇宙望遠鏡の観測で、木星の衛星エウロパからも水のジェットが吹き出している、という発見です。実はエウロパのジェットの発見は以前にもされていて、今回は2度目の観測になります。

さて、NASAの「重大発表」は、次のミッションへの期待値をあげる意図があるのがお約束。「次のミッション」とは、2020年代初頭に打ち上げが予定されている、エウロパ・クリッパーです。エウロパ・クリッパーにはカッシーニよりも格段に性能の良い質量分析器が積まれています。ジェットの中を突っ切って飛ぶことにより、今回のような生命の居住可能性に関する発見が期待できるぞ、というのが、この「重大発表」のメッセージです。

現在のNASAの最重要目的の一つが、地球外生命探査です。37億年前に海が存在した火星でも、生命の痕跡を求めて探査が行われています。

連載『一千億分の八』の最新号では、火星の生命探査について書きました。第20回あたりでエウロパ・エンセラドスの生命探査についても書く予定です。

エウロパ・クリッパー. Image:NASA/JPL

 


コラム『一千億分の八』は毎月第二・第四火曜日更新予定!

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〈著者プロフィール〉
小野 雅裕
大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進所に研究者として勤務。

2014年に、MIT留学からNASA JPL転職までの経験を綴った著書『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を刊行。


さらに詳しくは、小野雅裕さん公式HPまたは公式Twitterから。