第9回 宇宙飛行士・若田光一から、小山宙哉さんと『宇宙兄弟』への謝辞 | 『宇宙兄弟』公式サイト

第9回 宇宙飛行士・若田光一から、小山宙哉さんと『宇宙兄弟』への謝辞

2020.10.26
text by:編集部コルク
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この本には、ホーキング博士とともに「宇宙」というテーマによる、もう一つのつながりがあります。素敵なイラストを描いてくださった小山宙哉さんに心から感謝の気持ちを表したいと思います。

小山さんの作品『宇宙兄弟』の中では、国際宇宙ステーション(ISS)や月探査ミッションを含む様々な地上や宇宙での有人宇宙活動の現場が、リアリティ豊かに、かつウィットたっぷりに描かれています。

宇宙飛行士選考試験は、まさに六太たちのようにみんながライバルでしたが、最後は自分が選ばれずに誰が選ばれても納得できると感じられるような素晴らしい経験でした。

T-38ジェット練習機の訓練飛行のシーンは、私が宇宙飛行士候補者時代に本当に苦労しながらもやりがいを強く感じながら過ごした時間を彷彿させてくれますし、海底研究施設でのNEEMO訓練が宇宙での「本番」に最も近い訓練であることなど、実際にNASAでの訓練で経験した以上に強烈な描写です。

小山さんの作品制作のための徹底した調査に脱帽します。宇宙を探究することへの夢を育み、その魅力を読者のみなさんに与え続けてくれている作品だと思います。

『宇宙兄弟』の魅力は世界各国にも広がっています。海外でのシンポジウムや学生さんを対象にした講演でお話しさせていただく機会がしばしばありますが、タイでの講演会で、『宇宙兄弟』を読んで宇宙をめざすことを決意したと、きらきら目を輝かせながら話してくれた若い技術者に出会えたことも印象的でした。

2018年には東京で、文部科学大臣の主催により、40を超える国・機関から閣僚や政府高官が参加して、第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が開催されました。月、火星、その先の太陽系の探査活動が広く共有された目標であり、持続可能な形での探査の実施が重要であることが確認されました。

ISEF2のポスターにも小山さんのご協力で『宇宙兄弟』の主人公である月面探査に臨む六太と日々人が描かれています。新たなフロンティアを探究し、宇宙空間における人間の活動領域を拡大する重要な挑戦として、国際宇宙探査の取り組みが進められていくことになりますが、『宇宙兄弟』という作品は世界の多くの方々に挑戦していくことの素晴らしさを伝えてくれていると思います。

そして作品の中では、主人公の六太と日々人に大きな影響を与えた金子シャロンと、六太の同期の伊東せりかの父の二人がALS(筋萎縮性側索硬化症)患者として描かれています。

ALS患者である二人が登場人物の宇宙飛行士たちを励まし、いかに大きな精神的な影響を与えているかという点についても、ALSと闘ってきたホーキング博士とのISSでの対談をきっかけに、博士の宇宙への強い想いが有人宇宙活動の現場に携わる私にも大きな励みになっていることに何かのご縁を感じています。

「人はね。誰かに〝生きる勇気〞を与えるために生きてるのよ。誰かに―勇気をもらいながら」というシャロンの言葉はいつも大切にしたいと思っています。

『宇宙兄弟』を通して、さらに多くの方々が宇宙を探究することの素晴らしさに触れ、一緒に人類のフロンティアを切り拓き、応援してくれる仲間が増えてくれること、そして小山さんのますますのご活躍を心からお祈りいたします。


※この連載記事は若田光一著『宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する』からの抜粋です。完全版は、ぜひこちらからお買い物求めいただけると幸いです。

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