面接官をがっくりさせた「拡散性」が高い就活生の言葉とは〜ヒビトが教えてくれる、拡散性の「会社の選び方」〜
「もし、マンガ『宇宙兄弟』の登場人物が就活生だったら?」と仮定して、彼ら彼女らの振る舞いをFFS理論(開発者:小林惠智博士、詳しくはこちら)に沿って分析することで、就活生の方々が自己理解を深め、ご自身の強みや魅力を面接等で伝える自己発信の際のヒントを得ていただこう、というこの企画。前回からの続きです。
「拡散性」が高い人が、自分では気づかずに見せてしまいがちな「ネガティブ状態」、これが、周りの人、就活の場合には面接官に、どのように映るのか、がテーマでした。
その学生は何をやってしまったのか
私が参加したある企業でのグループワークでの出来事です。
「拡散性」が高いS君。サークルを立ち上げたり、ベンチャー企業でのインターンシップ参加などから「行動力のある学生だ」と期待を集め、採用担当者のNさんもS君に注目していました。
5~6人のグループで1時間ほどのグループワークが行われました。ところがS君は、自己紹介以外ほぼ一言もしゃべらずに、この試験を終えてしまったのです。もちろん面接官には大不評。「一言も発しないので、何を考えているか分からない。非協力的に映った。うちの会社でやっていくには厳しいだろう」とコメントされてしまいます。
その結果をとても残念に思ったNさんは、後に機会を設けて、なぜ一言もしゃべらなかったのか、S君に直接尋ねたのです。
するとS君は……なんと言ったでしょうか。ここまでが前回でした。
答え合わせをしましょう。S君はこう言いました。
「最初、少し様子をうかがいながら『誰も言い出さないなら進行しようかなぁ』と思っていたのですが、K大学のTさんが進行役を買って出たので、『まぁ、いいか』と。でも、Tさんの進め方は単に順番に一人ずつ意見を聞いていくだけで、議論にもならない。僕は興ざめして、『もう黙っていよう』と思った。それだけですよ。彼の進行を邪魔しないで静かにしていることが協力だと思ったので、黙っていたのですが、何か問題ありましたか?」
「面白くない進行」なら、自分はもういいや、とその場をあっさり投げてしまう。
「拡散性」の高い人なら、思い当たるところがある話なのではないでしょうか。
「ああ、いるなあ、そういう困ったヤツ」と思った方も多いかもしれません。これでは、就活はなかなかうまくいかないでしょう。
周囲の目に無頓着すぎるのも、問題かもしれない
「拡散性」の高い人の強みは、「創造性が高く、活動的で、既存の枠組みを突破していく力がある」ことです。なのになぜ、こんなふうに物事をあからさまに投げ出すのでしょうか。
「拡散性」が高い人の強みには「興味が湧いたら」というやっかいな条件が付きます。
本人の興味が向くことに対して“だけ”、創造性や行動力、ゼロベース発想といった「拡散性」の強みが発揮されるのです。
前回はマンガ『宇宙兄弟』で、南波日々人(ヒビト)が会議で腐っている様子をご紹介しましたが、「自分がやる意味があるのか?」と思ったから、投げやりムードを醸し出していたわけですね。
興味が湧かなければ動きませんし、それで周囲からどう見られようと無頓着なのです。そのため、就活の選考プロセスにあるグループワークにおいても、興味があれば積極的に動くし、興味がなければ退屈そうにする。どんな場面でも、自分の意に反する振る舞いはしないのです。
「議論をつまらなくしたヤツを評価するような会社には、俺は興味がない」と本人は言うかもしれません。でも、きつい言い方ですが、それは負け惜しみです。
周りの目を気にしない“率直すぎる”振る舞いによって、「面白い会社と出合い、そこで働き、成長する機会」を失ってしまうのも、また事実だと思います。
そもそも、「一人で自由に動きたい」「拘束されるのは嫌」「団体行動は苦手」という側面も「拡散性」の高い人は持っています。もちろん、「企業に就職する」と決めた以上、組織の決まりの中で動くことは理解しているでしょう。しかし、上司が細かな指示を出すなど干渉しすぎると、「拡散性」の高い人は「窮屈さ」や「息苦しさ」を感じて、ディストレス状態になり、その反動で「攻撃的」「破壊的」な振る舞いになってしまうこともあるのです。
まずは、自分がどのような場面でネガティブな状態になり、好ましくない振る舞いをしてしまうのかを理解することが大切です。強みを理解するだけでなく、ネガティブ状態の自分の振る舞いがどのように周りの目に映っているかを知ることも、自己理解の重要な部分です。そのうえで、好ましい振る舞いを選択できるよう、処世術を覚えることも必要かもしれません。
他人を気にしない「拡散性」のための処世術
では、前出のS君は、あの場面でどう振る舞えばよかったのでしょうか。
実は私も「拡散性」の高いタイプなので、過去に同様の失敗をしています。グループワークで「一言もしゃべらなかった」こともあれば、「進行役を批判して、自分が強引に仕切って、結果的に独り舞台になってしまった」こともあります。
たくさんの失敗から私も学びました。それらの学びを基に、私ならあの場面でどう振る舞うか、を考えてみたいと思います。
Tさんが進行役になり、1人目、2人目くらいが話をしたら、こう提案します。
「Tさんの進行はありがたいですね。ただ、このグループワークは、ディスカッションが求められているんだと思います。今、Aさんが提起した課題について議論するのはどうでしょうか? 進行はTさんにお願いします。まず、Aさんに僕から質問していいですか?」
このように、Tさんの顔を立てつつも、「グループワークの目的」を再設定し、議論を広げる役割を「拡散性」の高い人が担います。議論を発散、発展させていくところで、「拡散性」の強みを発揮する、というわけです。
一般的に、この手の進行役は、面倒見の良い「受容性」の高い人が率先して引き受けます。ただし、「受容性」の高い人が進行を行うと、皆の顔を立てたいがために「満遍なく皆の話を引き出そう」とするので、議論が深まりにくいのです。
そして、「受容性」の高い人は、議論が活発になって、反対意見が入り乱れる状況をリードするのは苦手です。そこで、「拡散性」の高い人が、議論の盛り上げ役を買って出ることで、その場の救世主的な存在になれるのです。
まとめると、グループワークで「拡散性」の高い人が強みを発揮するためのポイントは、議論を「面白くする」役回りに徹すること。その際、自分一人で強引に進めずに「周りの貢献を認め、感謝する」、グループワークの目的が曖昧な場合は「目的を再設定する」、議論が停滞してメンバーが困っていたら、拡散性の出番。みんなが気がついていない角度からアイデアを出すことで「手を差し伸べる」。
これらを“処世術”として身に付ければ、周囲と協調しながら「オンリーワンの存在」として光り輝くことができるでしょう。
面接やエントリーシートでのご自身の強みの伝え方についても触れておきましょう。
華やかなガクチカを、「大風呂敷」と思われないために
「『拡散性』の高い人のガクチカは華やかに見える」と書きましたが、これが「大風呂敷を広げている」と受け取られることもあるので要注意です。
どうして大風呂敷に見えるか。「やりたい」と思った瞬間にパッと飛びつき、興味が失せれば「もう面白くないから止める」と放り出してしまう、ということを繰り返してきた場合にそうなります。「行き当たりばったり」でやってきた人は、「気分が変わりやすく」「衝動的に動く」人だ、と、面接官から思われてしまいます。
じゃ、行き当たりばったりじゃないってどういうことだ、となるわけですが、それは例えば、新しい体験のたびに「仮説・検証」を繰り返し、「あっ、なるほど、こういうことか」と、それらの体験に共通する普遍性や法則性に気づいていくこと、です。様々な体験をすることそのものではなく、体験を通してその人なりの「原理原則」に到達した人は、その、自分が見つけた原理原則を面接で語れば、強力なアピールポイントになるはずです。
行き当たりばったりでやってきてしまった人は、エントリーシートに「あれもやった」「これもやった」と、ただ数を並べてしまいがちです。これではいけません。
体験をきちんと棚卸しして、エントリーシートにまとめ、面接に備えましょう。原理原則に至らずとも大丈夫。それぞれの体験で「成功したこと」「失敗したこと」を明確にすること。これを心がけてまとめるのです。そして、面接で質問された時に、成功要因、失敗要因を答えられるように準備しておきましょう。
面接では、「失敗したこと」がマイナス評価になるわけではありません。その原因を「分析し、次に活かしたのか」が重要なのです。なぜならば、その分析力や課題解決の力が仕事では問われるからです。
採用担当者に魅力を感じなかったら?
「拡散性」の高い人にとって、その会社や仕事、そこで働く人に「興味が湧くかどうか」は、就活における重要なポイントになるでしょう。
ただし、採用プロセスや採用担当者に魅力を感じなくても、その会社に入れば面白い仕事、興味をそそるプロジェクトがあるかもしれません。現場の人に会わせてもらい、感覚的に「面白そうな匂い」を感じたら、採用面接を「突破できるよう」に、少しは強みを活かすような働きかけをしましょう。
一方で、矛盾したことを言いますが、採用担当者に魅力を感じないのであれば、その会社を候補から外すのも一つの選択ではあります。
採用チームは、「その会社全体を投影した縮図」です。新卒採用に本気で取り組んでいる会社は、採用担当者に現場のエースを抜擢します。または、新人のエース級を採用チームに引っ張ってきて、鍛え上げます。
私は、企業から採用に関する相談をされた場合には、「採用担当者はエースでなければならないし、採用の経験をした人が次世代経営者候補なのだ」とアドバイスしています。
採用担当者=エース級社員だと考えれば、「エース級なのに魅力ない会社」、もしくは「エース級を採用担当者にできない/しない会社」は、将来性がないので「入社はやめた方がいい」のです。早めにお断りすることです。
ヒビトが教えてくれる、拡散性の「会社の選び方」
乱暴なアドバイスだな、と思いましたか。でも、「断ったら、後がないかもしれない」と断ることを躊躇する人が多くいる中で、あっさり断れるのも「拡散性」の高い人の武器ですからね。
「拡散性」の高い人は、外に飛び出すことで解決しようとする傾向が強いため、「これがダメなら次」「あれがダメなら次」とサッと切り替えて、一つのことに執着せずに次に進んでいけるのです。
『宇宙兄弟』のヒビトにも、そんな身軽さがあります。
月ミッションでの大事故でパニック障害を発症した彼は、人知れず訓練をして、パニック障害をなんとか克服しました。しかし、NASAは、一度パニック障害を起こした宇宙飛行士を“リスク”と考えて、ヒビトを現場に戻すことはありませんでした。
このように、既存の枠組みから飛び出すことは「拡散性」の高い人の強みですが、かといって、私は企業への就職よりも起業を、と勧めているわけではありません。もちろん、起業する選択肢も、就職と同じくらいあると思います。
飛び散っていく強みを持つ「拡散性」の高い人がその会社に留まるには、求心力となるものが必要です。それはつまり、「企業理念」であり、「人事理念」、そして「人に対する経営者の考え方」です。ですから、「拡散性」の高い人が会社を選ぶ際には、企業理念や経営者の考え方をよく調べ、それらに共感できる会社を選ぶことも意識してみるとよいでしょう。
ヒビトの場合も、NASAを飛び出しても、「宇宙飛行士である」ことから離れたわけではありませんでした。NASAで宇宙飛行士を続けられないなら、ロシアで宇宙飛行士を続ける道を模索する。あくまで「宇宙飛行士である」ことが、ヒビトがヒビトらしい人生を全うするために必要な“求心力”、なんですね。
© Chuya Koyama/Kodansha
(構成:前田 はるみ)
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「日経ビジネス電子版」2021年12月24日掲載
面接官をがっくりさせた「拡散性」が高い就活生の言葉とは(著者:古野俊幸)
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00077/122100030/