面接官受け抜群、北村絵名に学ぶ「受容性」の強みと弱み | 『宇宙兄弟』公式サイト

面接官受け抜群、北村絵名に学ぶ「受容性」の強みと弱み

2022.02.04
text by:編集部コルク
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     マンガ『宇宙兄弟』の登場人物のなかで、面接官に最も好印象を与えそうなキャラクターといえば、誰でしょう?

     そりゃ、主人公・南波六太(「もし、『宇宙兄弟』の登場人物たちが就活生だったら?」~ムッタ、就活で「ESに何も書けない」と悩む)や、もう一人の主人公である弟、日々人(「就活で意外に苦戦する『ガクチカ華やか』な人材」~「拡散性」が高い『宇宙兄弟』のヒビトは就活でも無敵か?)でしょう? と言われるかもしれませんね。

     しかし、私たちは彼らの内面をマンガを通してよく知っていることを忘れてはいけません。

     質問の意味は、「ムッタやヒビトと“初めて”会った面接官が、資料と合わせて彼らをどう判断するか」なのです。この記事を読んでくださっている就活生の方も、「自分の内面がいきなり伝わるわけはない」ことを改めて理解しておくのがよいでしょう。

     言い方を換えれば、内面をよく伝えるために、「キャラ」の力を借りよう、というのが、『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析』でお伝えしたいテーマでもあります。自分と基本的に同じタイプの『宇宙兄弟』のキャラの振る舞いを見て、強みが伝わる振る舞いを学び、弱さと取られるところを抑える方法を学んでいこう、というのが、この本、そしてこの連載の意図なのです。

     前置きが長くなりました。問いに戻りましょう。

     『宇宙兄弟』の登場人物のなかで、私が考える、面接官に最も好印象を与えそうなキャラクターは、ムッタの同期である、JAXA宇宙飛行士・北村絵名です。

     彼女は、同じく同期の宇宙飛行士・伊東せりかと共にISS(国際宇宙ステーション)のミッションクルーに任命され、せりかと協力して難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の薬の研究を成功させるなど、マンガの重要シーンで活躍を見せています。

    16巻 #152「予習」

     彼女の振る舞いをFFS理論(開発者:小林惠智博士、詳しくはこちら)で分析し、同じタイプの就活生の方々が自分の個性を理解し、それを面接で魅力的に伝えるにはどうすればいいかを探っていきたいと思います。

     子どものころから、3人の弟と1人の妹の面倒をよく見てきたしっかりもののお姉ちゃんだった絵名。宇宙飛行士になってからも、仲間のことをよくサポートし、仲間からの信頼も厚い。相手の気持ちに寄り添い、相手の幸せのために動こうとするところから、FFS理論で絵名の個性を分析すると、「受容性」が高いタイプであると思われます。

    ※ご自身の個性をFFS理論で簡易診断したい方はこちら

    「受容性」の高い人は「採用したい人材」の筆頭株

     絵名に代表される「受容性」の高い人は、企業が「採用したい人材」の筆頭に挙げられます。その理由は、このタイプの人たちのエントリーシート(ES)を見れば納得するのではないでしょうか。彼ら彼女らのESには、次のような共通点があります。

    • 主将、リーダー経験が多い
    • 周囲から頼られている
    • ネットワークが広い
    • コミュニケーション能力が高い
    • 積極的に周囲を巻き込む力がある

     いかがでしょうか。「こんな人材が欲しい」と企業が考える要素が並んでいますよね。絵名が就活生だったら、彼女のエントリーシートもこんな感じになるのではないかと思われます。

     なお、絵名の振る舞いからは、「受容性」だけでなく、「保全性」の高さも読み取れます。絵名は、NASAでの訓練期間中、一人残ってロボットアームの操作を練習し、「繊細な作業も正確かつスピーディーにこなす腕前」と技術指導員から評価されるまでに腕を磨きましたが、地道にコツコツと努力できるのは「保全性」の強みです。

     今回は絵名の「受容性」の高さからくる特徴に注目して、説明をしていきます。

     「受容性」は、なぜリーダーやまとめ役を任されやすいのか、については後ほど詳しく触れますので、ここでは実例を挙げましょう。サービス業界でトップクラスのある企業で、毎年採用するおよそ300人の新人をFFS理論で個性診断したデータがあります。

     FFS理論で言う「第一因子(5つの因子のうちで最も数値の高い因子)」で見ると、「受容性」を第一因子に持つ人は採用者の約8割を占めていました。「欲しい人材を採用したら、結果的に『受容性』の高い人が多くなった」と、採用担当の責任者が言っていました。

     就活で有利な要素を持っている「受容性」の高い人ですが、このタイプの学生が皆、順調に内定を獲得できるかというと、そうでもありません。そして、就活で苦戦しているこのタイプの人には、共通の要素があります。

     それは、「受容性」の高い人の最大のアピールポイントであるはずの「リーダー」「まとめ役」の経験が、正しく自己理解できていない学生にとってはむしろ「失点」につながることがある、ということです。

    受容性の「リーダー体験」は、面接でボロが出やすい

     別の言い方をすると、「リーダー経験について面接でツッコまれると、ボロが出てしまって、自分の魅力をアピールするどころか、逆に墓穴を掘ってしまうことがある」のです。

     そうならないためには、まず、ご自身の特性や強みを正しく理解したうえで、なぜ自分がリーダーになれたのか、そしてどう振る舞ったのかを、面接官に正しく伝える必要があります。

     そもそも、なぜ、「受容性」の高い人には「リーダー経験」が多いのでしょうか。
     それは、「受容性」の特性である「面倒見の良さ」が大きく関係しています。

     「受容性」の高い人は、相手のことを思って、その人の望みをかなえてあげることに最大の喜びを感じる傾向があります。それゆえ、周りの人に対して細かく気配りしながら動くことができるので、周りから慕われます。いわゆる「優しくて、面倒見のいいリーダー」になれるのです。

    面倒見の良さは「受容性」の高い人の強み、だけど……

     絵名の魅力も、まず、そういうところに表れていると思います。

     彼女には、歳の離れた妹(ケイ)がいて、「(将来)何になりたいとか……よく分からないよ」と絵名に悩みを打ち明けます。すると、絵名は妹の言葉をしっかりと受け止めてから、「じゃぁ、『できるようになりたい事』……ならどうよ?」「時間も忘れて続けられるようなものが1コでも見つかればいいよね」と言葉をかけるのです。姉として妹を見守りながらも、妹の自主性を尊重して、そっと背中を押すようなサポートの仕方は、「受容性」の高いリーダーが得意とするところでしょう。

    23巻 #221「かがやく姉のヘアピンと」

     一方で、その優しさが裏目に出ると、「決められない」という事態を招いてしまいます。例えば、チームの方針を決める場面で、いろんな意見やアイデアが出た場合に、「受容性」の高いリーダーは一つに決めることが苦手です。

     なぜか?
     「皆のアイデアを実現してあげたい」という気持ちが強いために、誰かの意見を採用して、誰かの意見を却下することができないのです。

     もちろん、「受容性」の高い人も、頭では「選択」とはそういうこと(誰かの希望をかなえないこと)だと理解はしています。しかし、それを実行に移す(=絞り込む)ことは苦手です。「あれは良い」「これもいい」「彼のアイデアは活かしたい」となって、「選択できない」のです。

    “両方のいいとこ取り”の落とし穴

     結論を出さなければならないけれど、決められない。
     そんなリーダーがついやってしまいがちなのが、「宥和(大目に見ること)」です。

     どの意見やアイデアもすべて受け容れようとします。対立を避けて論点を明確にしないまま、あらゆる意見やアイデアが“いいとこ取り”されて、“テンコ盛り”になっていきます。

     リーダー本人は、「皆のアイデアを取り入れた、素晴らしい結論を導き出せた」と思っています。また、どのアイデアも無視されたり、否定されたりしないので、メンバーも満足かもしれません。

     ところが実際には、皆のアイデアを取り入れたことで、焦点のぼやけた丸まったモノができあがります。それで成果を出せるかというと、別の話です。見方を変えれば、これは「突っ込んだ議論を避けたために、実効性の低い結論しか導き出せなかった」という、リーダーとしての振る舞いや能力に大いに疑問符が付く状況です。

     「受容性」の高い人がガクチカで「リーダー経験」を語る際には、これと同じ状況が含まれていないか、注意せねばなりません。切り札として話したはずが、「宥和に逃げるタイプだな」と思われたら、目も当てられない。

     特に、部活やサークル、ゼミ、バイトなどある程度気心が知れたメンバー同士では、対立を嫌がって、宥和が起こりやすいのです。

     鋭い面接官は、必ずそこを突いてくるでしょう。
     「あなたがやっていたことは、ただの仲良しゲームだったのでは?」
     こう思われたら採用してもらうのはかなり厳しくなりそうです。

    面接官は知りたい。「過程はどうだったのか?」

     面接では、「事実」をベースに、結果よりも過程を詳しく聞かれます。

     私も、面接官向けに研修を行う際には、必ず「事実をベースに、結果に至った過程を聞くように」とアドバイスしています。「目の前の事実をどう分析したのか。それに基づいてどう動いたのか」を面接では深掘りする。これが鉄則です。面接を受ける側は「結果」だけを気にしがちですよね。実際は「過程」、プロセスが、面接を行う側が聞きたいことなのです。

     例えば、「メンバーの意見が対立した(事実)とき、どうやってチームをまとめたのか(過程)」「問題が生じた(事実)とき、どうやって解決したのか(過程)」という具合です。面接官はエントリーシートに並んだ「リーダーを務めました」という“輝かしい戦歴”に対して、厳しい質問を投げかけるでしょう。

     それらに対して、何と答えるか。
     また、エントリーシートには、どう書くのか。

     「リーダーとしてメンバーをどう導いたか」という過程にこそ、リーダーとしての真の能力が表れるのです。結果が仮に失敗であったとしても、それを恥じたり隠したりする必要はまったくありません。「失敗という事実を認め、そこからどういう学びを引き出したか」が語れればOKなのです(失敗した事実を以て採用しないというアホな会社は、落とされたほうがラッキーです)。

     さて、そこで問題になってくるのが「受容性」が高い人のリーダーシップです。

     他人の希望をかなえたいと強く願う「受容性」が高い人は、ついつい、みんなの希望を通したくて、対立を避ける方向に結論を持って行きがちです。企業側にとっては「和をもたらすのはいいとして、情に負けて合理性を枉(ま)げてしまうのは……」と、不安を感じることになります。

     誰も傷つけたくないあまり決められない「受容性」の高い人は、どうメンバーを導けばいいのでしょうか。

     無理に決める必要はありません。相手の気持ちに寄り添えるのが「受容性」の高い人の強みですから、それを活かして、一人ひとりと丁寧に話をし、合意形成を図るやり方が向いています。

     本来、それは「受容性」の高い人の得意なことですし、組織にとってもとても貴重な能力です。絵名が大家族で頼りにされてきたシーンを見ると、スキルだけでなくそのキャラクターが、ISSのミッションで期待されているのだろうと思えます。

    10巻 #89「食卓と旅立ち」

     今回の記事は「就活の面接、ES対策」ですので、具体的にどのように合意形成を図るかについては触れません。拙著『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたを引き出す自己分析』で詳しく書きましたので、ぜひ参考にしてみてください。

     「受容性」が高い人のリーダーシップのお話は、後編に続きます。

    © Chuya Koyama/Kodansha
    (構成:前田 はるみ

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    「日経ビジネス電子版」2021年2月1日掲載
    面接官受け抜群、北村絵名に学ぶ「受容性」の強みと弱み(著者:古野俊幸)
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00077/012800031/