Spotify独占配信中の人気Podcast「佐々木亮の #宇宙ばなし 」と、宇宙兄弟がコラボ!2022年12月に、佐々木さんと担当編集ユヒコの対談が実現しました。
公式サイトでは、2回に渡ってその対談内容をスペシャル記事として公開!今回は前編をお届けします。
どうやってユヒコが『宇宙兄弟』の担当編集になったのか、佐々木さんの研究分野である太陽フレアが作中に登場してくるところについてなど、専門家にしか分からない独自の視点で深堀りしています。
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宇宙の専門家で熱心な『宇宙兄弟』ファンである佐々木さんの熱量をより感じられます!(笑)
『宇宙兄弟』のリサーチ方法の秘密
佐々木:ゲストのユヒコさんに来ていただいて、今日は『宇宙兄弟』のアレコレを、ぼくのファン目線とユヒコさんの制作側の目線から話せていけたら嬉しいなと思ってるんですけど……。
ユヒコ:めちゃくちゃ怖いファンです(笑)。
佐々木:いやいや。どうやって作ってんのかなとか、本当に読みながら気になってて。いろいろ凄いリアルに描かれているし、逆に漫画だからこそできる描写とかもきっとあるよなとか思いながらも、リアルにするための裏取りが多分めっちゃすごいんだろうなと思うんですけど。
ユヒコ:両方ありますね。確かにそういう(リアルな)情報を渡したりするのにも時間は要します。ただ、ドラマに関する情報をお渡しするほうがやっぱり時間がかかる。メインは人間ドラマというか、キャラクターが何をどう感じ、どう動いたかの部分なので、そこが小山さんの中で創作に時間がかかるんですね。
佐々木:なるほど。
ユヒコ:巻数を重ねるほど、過去にやったことがもうできなくなるので。同じようなキャラクターの展開は、小山さんは描く人じゃないですし、つねに今しか描けないものを描こうとすると、巻数が増えるほど大変になっていくというのがあって。
佐々木:絵面がなくなってくるんですね。
ユヒコ:そういうことですね。今だから描けること、やったことはもうやらないというので、創作時間がかかっているような状態です。
佐々木:確かに読んでて新鮮味はありますね。「同じ展開だなぁ」は、絶対ない気がする。
ユヒコ:そう言っていただけたら嬉しいですね。
佐々木:担当になって、「びっくりしたな」みたいなのってあるんですか? 「イメージと全然違う」みたいな。
ユヒコ:本当にびっくりしましたよ。はじめて現場に行った時にムッタが打ち上がった25巻のシーンを描いていて「あれ? 最近読んでた場所からほとんど変わらへんやん」みたいな感じで、あんまり進んでないと思って、本当に今の今、原稿を描いてるんだみたいな。
佐々木:ああ、「そんなにストックないんだ」っていう。
ユヒコ:その時に「次の話ってどうするんですか?」って聞いたら、「決まってないです」って答えが返ってきて。
佐々木:えーっ!?
ユヒコ:怖くないんだみたいな。『宇宙兄弟』って、自分が読者のときは(先の先まで考えながら)凄く精巧につくられてるっていう印象があったんです。
佐々木:まだそう思ってます(笑)。
ユヒコ:取材もすごくていねいにされてるし、宇宙のことを本当にくまなく、誰が見ても「あ、そうなんだ」って思わせてしまうような力があったので、ずいぶんと先まで逆に決まってないと描けないのかなと思ってたんですけど、来週の話のことさえもはっきりと決まってないことに衝撃を受けましたね。だいぶ慣れました、それに。
佐々木:最初はやっぱ衝撃強めですよね。
ユヒコ:そうなんですよ。で、その時も「来週はこういうことを描こうと思っているので、こういうことを調べたいです」って言われたことも、「今!?」みたいな。
佐々木:確かに確かに(笑)。
ユヒコ:「今から、これ調べるんですか?」っていうのがびっくりしました。(笑)
大ピンチ「太陽フレア」が作中に登場するまで
佐々木:僕、太陽の研究や、星の表面で起こる爆発の研究とかをいろいろとやっていたんですけど、作中でもフレアが起こったりするじゃないですか。
ユヒコ:はい、起こりました。
佐々木:あれって、「フレアを起こしたい」って、いきなり来週フレアが起こるみたいな、そんな感じになることもあるってことですか?
ユヒコ:太陽フレアは、まだ少し調べる時間があった記憶があって。でも太陽フレアにたどり着いたときも、太陽フレアのことを小山さんも私も全く知らなかったんですよ。
ユヒコ:「シャロン月面天文台を月でつくる」となったときに、すんなりはやっぱり作れない。いくつか外部要因があって、ムッタたちが苦戦をする。それだけが決まってました。ムッタたちが苦戦をしていく際に何が起こり得るかを、JAXAの方々とお話ししたんです。
そしたら、
「(ユヒコ)電波障害とかって、どうやったら起きるんですか、月では」
「(JAXAさん)太陽フレアが起きた時に起きたりしますよ」
「(ユヒコ)一体、それは何ですか?」
みたいな感じで進んでいきました。
佐々木:そういうことか! 「こういう物語にしたいんだけど、危機的状況、JAXAさんどうですか、なんか作れないですか?」みたいな(笑)。
ユヒコ:そうですね。太陽フレアっていうのがあるらしくて、それはどういうものかっていうのを、小山さんと情報を元にちょっと整理すると、「あ、そういうのがあると面白そうですね」ってなって。黒点の移動とかタイミングとかも、それから調べますね。
佐々木:そういうことか。へぇーっ、面白い!
佐々木:(話は少し変わりますが、)『宇宙兄弟』のお陰でというか『宇宙兄弟』せいでというか、宇宙の世界に引っ張られてしまった人たちは、多分結構いると思ってて。
ユヒコ:最初はいつ読まれたんですか?
佐々木:最初は、高校生の頃ぐらいかな。高校生とか大学入る前とかなんで、2011・12年?とかに読んでて。その頃は普通に、面白い漫画のひとつぐらいの感じで読んでたんですけど、自分が大学に入って研究するってなった時に、「やっぱ『宇宙兄弟』で宇宙に興味あるしな」みたいになりまして。
ユヒコ:へぇー、そうなんですか。
佐々木:響きもかっこいいなと思ってたんですよ。「宇宙の研究してるって、ちょっとカッコイイよな」みたいな。
ユヒコ:響き、かっこいいですね(笑)。
佐々木:本当にそれぐらい(笑)。宇宙の研究とか宇宙の仕事してる人とか知らないし、『宇宙兄弟』の中で描写されているものが全てぐらいの感じで、僕の研究生活はスタートしてるんです。
ユヒコ:知ってる全部の知識が『宇宙兄弟』から(笑)。でも、すごい分かりますね、その状況。高校・大学ぐらいで面白い漫画読んで、それが宇宙で、宇宙のイメージがなんとなくあって。
佐々木:いやー、本当に。だから今こうやって『宇宙兄弟』とコラボしているのは、僕的には結構信じられない状況というか。
ユヒコ:学生の時に読んでた漫画ぐらいの年数が、ちょうど経ちましたしね、15年って。私も大学生の時に読んだので、同じような気持ちですね。
佐々木:入った時とか、多分本当にそんな感じですよね。
ユヒコ:きっと一緒の感じだと思います、佐々木さんと。
佐々木:で、編集をし始めたら、ちょっと作品見る見方が変わるみたいな。
ユヒコ:はい。実際にちょっとずつ詳しくなっていったりとか、調べたことがこういうふうに漫画になるんだっていう面白さはあります。
佐々木:そうですよね。
ユヒコ:佐々木さんも宇宙のこと、めちゃくちゃ詳しくなっていったから変わりそうですよね。
佐々木:読み始めた時と全然違う状況になってるんですけども。専門的なことに興味持ってもらうとか、そこって結構ムズいじゃないですか。僕、今、宇宙系の発信している中で、それが一番難しいなあと思ってて。
その点で、興味持ってもらう術として、漫画っていう形ってすごく素敵な状態じゃないですか。素敵な状態というか、一番分かりやすく。
ユヒコ:いい入り口になりますよね。
佐々木:ハードルをぐっと下げて、他人にものを伝えられるみたいなところ、めっちゃいいなと思って。けど、(『宇宙兄弟』って)現実味は絶対に持たせるじゃないですか。漫画の、完全に異世界の話じゃない。あの現実味を持たせるために、本当にJAXAに聞きにいくとか、そういう地道な作業を繰り返していたりするんですか?
ユヒコ:そうですね。現実味を持たせているというより、本当にキャラクターがどう動くかを考えていくと、現実味を持っちゃう、っていうほうが正しくて。言ってること、ちょっと訳が分からなくなってきてますかね? 例えば、ムッタが宇宙に行きます、月に行きますっていう行動をする時に、じゃあどのロケットに乗って、いつ打ち上げをしてとかを本当に詰めていくと、現実のことを知らないと描けないんですよね。だから、「ムッタのために必要なことを取材をしていく」っていう感じなんですよ。
すると結果、めちゃくちゃリアルな描写が描けていることになった、みたいな感じですね。
専門家から見る『宇宙兄弟』の専門性の高さ
佐々木:いま、聞きながらすごい思ったんですけど、あの科学的な描写が正確に描かれているところが、僕的にはすごい現実味があるなと思って途中から読んでたんですけど、普通の人からしたら、むしろあそこすごいファンタジーに見えてるのかなってふと思った。
ユヒコ:そうですよね。実際にそこが本当に合っているかどうかは専門家の方しかわからないので。
佐々木:今、めっちゃ思いました、それ。
ユヒコ:高校生の佐々木さんは『宇宙兄弟』を読んでたいた時に、多分そこを深く気づいてなかったですよね。
佐々木:確かに。
ユヒコ:あの頃の佐々木亮は、きっと……。
佐々木:もういないですね(笑)。いないな。いや、伝えたいなぁ、それは。もう本当にすごくて……。。
ユヒコ:逆に、そこがすごいって。専門家の方に言ってもらえると、「『宇宙兄弟』ってそこも本当のことを描いてるんだっていう驚きになる」ので、佐々木さんにはぜひどんどん言っていただいて“『宇宙兄弟』ちゃんと描けてるよアンバサダー”になってほしいです(笑)。
佐々木:マジでそうなんですよ。好きなエピソードの話にもつながるんですけど、太陽フレアの話が出てきた時、ぼくめっちゃワクワクして。読み始めた時はその研究してなくて、研究し始めたのがどのぐらいだ? 2016年とか2015年かぐらいってなって、その時は多分まだムッタは『宇宙兄弟』のストーリーの中で、太陽フレアの危機に面してないんですよ。
ユヒコ:そうですね。2017〜2018年ぐらいだった気がします。
佐々木:日本って結構、太陽フレアの研究者の人めちゃめちゃすごくて、世界の太陽の研究を牽引しているぐらいの感じなんです。けどその一方で、僕がやってたのって太陽以外の星。太陽以外の、自分で光っている恒星で起こるフレアを研究してたんですね。その分野は、もう世界中で見てもめちゃめちゃマイナー分野みたいな感じになるんです。だから業界の隅で、なんかこちょこちょやってる感覚も若干あって、面白いなと思ってやってはいるんですけど、メジャー分野じゃないよなと思いながら、友達に話すにしても、太陽フレアを例に出そうとしても全然伝わらないしな、みたいな。
っていう気持ちで2年ぐらい研究してた時に、太陽フレアの描写がいきなりドンって現れて、もう研究モチベ爆上がりみたいな。
ユヒコ:もしかして、太陽がアップになって燃えてるような雰囲気で、「あ、これフレアだ」って気づいた人ですか?
佐々木:そうですそうです。
ユヒコ:いきなりの状況だったじゃないですか。あそこで気づいていらっしゃったんですね。
佐々木:そうですそうです。あ、たしかにそっか。
ユヒコ:暗号のような会話してますけど。
佐々木:何巻だったっけな? ちょっと手元で開きますね。これだ。29巻の最初のエピソードだから、269話か。
ユヒコ:269話で、シャロン月面天文台のアンテナの話してて、宇宙天気予測センター……。「これどうした、これ出てるよな」の出てるよなが何か普通わかんないじゃないですか。「何のことや?」って思うけど、この太陽の描写で「なんか出てる」で分かってた人ですね。
佐々木:で、このエピソードの最後で太陽の黒点のドアップになった時に、「あっ、来るな」みたいな。
ユヒコ:え、すごい! 研究者は分かるんだ、やっぱり。これ読者は、「なんか太陽アップになったぞ」って思うと思うんですよ。
佐々木:ああーっ!
太陽フレアの専門家にたどり着いた奇跡のタイミング
ユヒコ:実は私もこの時はまだ、太陽フレアのこと調べだした時で、小山さんと「黒点で爆発が起こるんですよ」っていうぐらいの知識しか持ってない時。「これから太陽フレアを描いていくことになる」というその段階で小山さんがこういう描写を描いたので、私は結構ドキドキしてました。まだ全然知識がないのに始まってしまう…って思ってましたね。
佐々木:ああ、そうなんだ。もう全然何の違和感もなく「あ、フレア」と思いながら読んでました。
ユヒコ:しかもまだ、今、太陽フレアを監修してくださったのが国立極地研究所の片岡龍峰さんという方なんですけど、その片岡さんにもたどり着いてなかった時ですね。
佐々木:すごい! その場でよく踏み切りましたね(笑)。
ユヒコ:いつもなんですよ。踏み切って……ますよね。
佐々木:「作家の直感」みたいなのがあるんですかね。
ユヒコ:そうかもしれないですね。この太陽フレアというテーマが面白いと思ったんでしょうね。私も焦りとともに、この後も太陽フレアが爆発することを描いていくって思ったので、取材をし始めて。JAXAの普段監修してくださっている方が「太陽フレアのことは詳しくない」というのは聞いてたので、国立天文台の平松(正顕)さんにシャロン月面天文台の建設の相談した時に「太陽フレアに詳しい方、周りにいらっしゃいませんか?」って聞いたんです。そしたら、片岡さんの名前を上げてくださって、メールで繋いでくださったんですよ。
佐々木:なるほど。すごっ……そうやって繋がっていくんだ。
ユヒコ:実は片岡さんにたどり着くまでもすごい苦労してて、偶然、会社の合宿で『宇宙兄弟』のことを考える合宿を4人ぐらいでしてて、それが野辺山天文台の近くだったんですね、偶然。野辺山天文台の近くのホテルで考え事してたら、小山さんから電話かかってきて「太陽フレアのこういうことを知りたい」って言われて。たまたま「野辺山天文台、近くにあるから聞いてみようか」ってなって「こういうことを『宇宙兄弟』っていう漫画で調べてるんですけど、太陽フレアに詳しい人いらっしゃらないですか?」って聞いてみたんです。
ユヒコ:そしたら職員さんが急遽出てきてくださって、磁気嵐とか起きた時のグラフを描きたいけど、どういうふうな波になるのか全くわからず、そのグラフを「この場でどういう動きになるか教えてくれませんか?」って言ったら、何か見たことない、私たちが考えてたグラフじゃない曲線のグラフが出してもらいました。
佐々木:(笑)。足で裏取りしに行く。面白ーっ。
ユヒコ:偶然だったんですけど。でも、そういうことはやっぱり天文台の人は知ってるんだってなって、またそれも平松さんに聞いて、片岡さんにたどり着いたって感じでした。ドラクエみたいですよね、住民に話聞いてたどり着くみたいな。。
佐々木:確かに確かに(笑)。ヒントかき集めて。
ユヒコ:佐々木さんにたどり着いてたかったですよ、その時に。
佐々木:いやもうその時なん大学院でちゃんと研究し始めたぐらいの時なんで、もうなんにもしゃべれないですよ。(笑)
後編では、ユヒコのお気に入りのエピソードや、佐々木さんが読み返した時に、ケンジのあるところに気づいてしまった、などの貴重なエピソードが展開します!お楽しみに!!
今回の内容を音声で聞いてみたい人はこちらから!(この記事・前編は、ラジオ2回分の内容です)