世界最高峰のデザイナー作品の数々を抱え、世界をリードするデザインミュージアムであるVitra Design Museum。現在開催中の、人の暮らしとロボットのこれからの繋がりをデザインの視点で考える企画展に、フラワー・ロボティクスのPatin(パタン)も出展中!
現地を訪れた村上さんが、展覧会のレセプションの様子とともに、ミュージアムのあるVitra Campus内の有名建築もあわせてご紹介してくれます。
ここ数年のロボットブームの中で、国内外、大小さまざまなロボット展示会やイベントが開催されている。
私たちフラワー・ロボティクスが開発している台車型ロボット“Patin”も年に数回出展をおこなってきたが、今回ほかの展示会とは趣の異なる企画展に出展することになった。
ドイツにあるVitra Design Museumで2017年2月からはじまった、“Hello, Robot”と題されたロボット展覧会である。
今回は“Hello, Robot”展のレセプションの様子をお伝えしながら、この企画展が投げかけるメッセージを考えてみたいと思う。
ロボットと人の関係をデザインする必要
私たちはPatinや、過去に開発したロボットを展示会やイベントで披露してきた。
商業イベント、国や大学が主催する研究発表に近いものなどさまざまであったが、今回のVitra Design Museumでの展覧会が異色である理由は、ロボットをテクノロジーではなく、デザインを軸としてまとめ上げているところだ。
ロボットは、二足歩行や人とのコミュニケーション、人間にはできない作業をするなど、「機能」の部分に注目されることが多い。
展示会でも研究発表でも、機能の部分にフォーカスした展示がおこなわれる。
昨年私たちが出展した「CES2016」も、家電の他、IoTやドローン、自動運転車など最新のテクノロジーを活用したプロダクトが並ぶ世界有数の新製品展示会である。
CESの日本版とも言えるCEATECや、ロボットに特化した展示会も国内外で開かれているが、どれもロボットの「目新しい技術」に着目したものだ。
出展者は、最新のテクノロジーを活用した、これまでにないロボットを展示する。
来場者も新しい技術に期待してやって来る。
対して、Vitra Design Museumは名前の通り、デザインをベースとした展覧会をおこなうミュージアムだ。
Vitra社はドイツの家具メーカーで、著名なデザイナーがVitra社の製品デザインを手がけている。
そのVitra社がキュレーションをおこなった展示作品には、ルンバやAmazon Echoなど、最新のロボットやIoTも並んでいるが、技術的に優れているかどうかの基準で選ばれているわけではない。
“Hello, Robot”展には、Design between Human and Machineという副題がついている。
人と機械、これからのテクノロジーの間をなめらかに繋ぐデザインとはどのようなものか、考える一例としてロボットが取り上げられたのだ。
デザインの価値と可能性を感じる空間
“Hello, Robot”展についてレポートする前に、Vitra Design Museumのある”Vitra Campus“について紹介したい。
Vitra社のオフィスや工場、そしてVitra Design Museumの建つ”Vitra Campus”は、ドイツの南端、スイスとの国境沿いにある小さな町にある。
時計で有名なスイスの都市、バーゼルに隣接しており、フランスとの国境もほど近い。
Campus内の“Vitra Haus”という建物は、ドイツ、スイス、フランスに向いて窓が開かれるデザインだ。
Campus内には複数の建物があり、どれも世界的な建築家が手掛けたものだ。
Vitra Design Museumとオフィスは、フェイスブック社の新オフィスも手掛けたフランク・ゲーリー氏の設計である。
オリンピックの国立競技場問題で注目を集めたザハ・ハディド氏の消防署では、レセプションのアフターパーティーが行われた。
日本からは、安藤忠雄氏のセミナールーム、SANAAの工場が名を連ねている。
Vitra Campus自体が世界最高峰の“作品”を抱える空間なのだ。
過去から現在の“ロボット”を通して見えてくる私たちの未来とは
“Hello, Robot”展には、世界中から120点以上のプロダクトが選ばれている。
映画やアニメなど、フィクションの世界のロボットから、最新の産業用・家庭用のロボットまで、年代や国を超えて集められたプロダクトが展示されている。
日本からはAIBOや、セラピー用ロボットのPALOのほか、アトムやガンダムなど、フィクションの世界のロボットもが出展されている。
ロボットと冠した展示ではあるが、展示されているのは“ロボット製品”やキャラクターだけではない。
ロボットで活用される技術を使ったプロダクトも展示されている。
3Dプリンターで作った服、模型、アニメーション、ゲームなどだ。また、AR、VR、音声認識を使った作品もあった。
“ロボット”という言葉からイメージするものとは異なる展示作品にも、ロボットに共通する技術が活用されているのを目にすると、ロボットとはあらゆる技術を統合したプロダクトなのだと改めて実感する。
デザインの役割を改めて考える
“Hello, Robot“展では、ロボットというキーワードを軸にして、人とテクノロジーの関係を示している。
特に、これから人はどのようにロボットをはじめとするテクノロジーと共存していくべきか、そこでデザインがどのような役割を果たすべきかを投げかけている。
展示に選ばれた作品は、使用シーン、技術レベル、知名度など多種多様だ。
だが、「人」とどのようにつながりを持つのか考えが広がるプロダクトである、という点が共通している。
展示物を眺めていると、人とテクノロジーをスムーズに繋ぐためのデザインの役割について考えさせられた。
また、テクノロジーの発展によって、人対機械だけでなく、人と人の繋がり方も変化する。それはパソコンやスマートフォンの登場で私たちのコミュニケーションがどう変わったのか考えれば、今後もっと劇的に変わるであろうことは想像に容易い。
人と人の繋がりという部分でも、デザインは大きな役割を担うだろう。
ロボットを使う側である私たちも、どのように生活にロボットを取り入れていきたいのかを考えるきっかけとなる展示であった。
今後、“Hello, Robot”展は今後、オーストリアやベルギーのミュージアムに場所を移して開催される。
3年ほどヨーロッパ各地のミュージアムを巡回する計画があるそうだ。
物珍しい存在、単なるテクノロジーの入れ物としてではなく、ロボットが私たちの未来の日常にどのように存在するのか、考えるきっかけになるのではないだろうか。
(つづく)
〈著者プロフィール〉
村上美里
熊本県出身。2009年慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業。市場調査会社(リサーチャー)、広告代理店(マーケティング/プロモーション)、ベンチャーキャピタル(アクセラレーター)を経て2015年1月よりフラワー・ロボティクス株式会社に入社。