『宇宙学生』 とりあえず手を動かすことから始めよう | 『宇宙兄弟』公式サイト

『宇宙学生』 とりあえず手を動かすことから始めよう

2017.07.13
text by:編集部コルク
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宇宙学生
とりあえず手を動かすことから始めよう

「宇宙学生」はいろんな方面から「宇宙にまっすぐ」な学生を現役大学生の宇宙フリーマガジンTELSTAR編集部が取材して、宇宙の魅力を伝えます。

『宇宙兄弟』の登場人物「福田直人」は小学生のころからの夢であった自分のつくったロケットに乗って宇宙へ行くという夢を追いかけ、ムッタとともに宇宙飛行士選抜試験へ挑戦しました。今回の『宇宙学生』はそんな福田直人と同じく、とにかくロケットに夢中なある学生にインタビュー。

現在は大学を休学し、IST(インターステラテクノロジズ株式会社)でロケットエンジンの設計を行いながら、燃焼実験の準備や実験本番、そして実験から出たデータの解析などを行っているんだそうです。そんな『宇宙学生』阿部匡延さんに興味深いお話を聞いてきました。

インタビューを行った阿部さん

十人十色の宇宙開発とその魅力

―高校生の頃から燃焼実験を行ったりロケットエンジンを自作していたとお聞きしました。阿部さんにとって、宇宙開発にはどんな魅力があるのでしょうか?

阿部さん:いま自分がISTにいる理由でもあるのですが、“自分で設計したり、考えたり、 作ったりしたものが実際に宇宙に行く”のはすごく面白くて、そこが魅力的だと思っています。

―では、もともと宇宙が好きだったのですか?

阿部さん:そうですね、もともと宇宙は好きでした。ただ一口に“宇宙”といっても色々な分野があり、天文とかよりも宇宙開発の方が好きでしたね。あと、もともとモノを作ったり、手を動かしたりするのが好きだったので、それが組み合わさって宇宙開発をやっているのだと思います。

大学生と社会人の二足のワラジ

―サークルや個人でロケットを作ることも可能かと思うのですが、なぜ大学を休学してまでロケット開発をしているのか教えてください。

阿部さん:とにかく、大きなロケットを造りたかったんです。アメリカのベンチャー企業では、推力が50t級とか100t級とかのロケットエンジンを造っているんですけど、僕が大学で造ったのは20kgのものを持ち上げるのが精一杯なくらいの推力でした。サークルにいた時の仲間と2人で造っても100kgの推力のものが限界でした。でも、宇宙に行くためには推力が大きくないとダメで、大きなエンジンを造るためには、燃焼試験をする場所とお金、打ち上げの経験、その分野に精通するような人材などが必要になってくるのです。そこで、どこかの企業で大きな推力の出るロケットエンジンを造ろうと思ったんです。でも、日本でそういうのをやっている企業は限られているので、色々考えた結果、 今のISTにいます。

 

―それは、大学を卒業してからでは遅かったのでしょうか?また、ベンチャー企業に飛び込むのは勇気がいりませんでしたか?

阿部さん:そうですね…。でも、欲望に勝てなかったんですよね。会社に行く前は、自分が参加しても大丈夫かな、と不安もありました。何回も打ち上げをやっていて、その道のプロが集まっているような場に飛び込むのは…と。しかし、やはり欲望の方が勝ってしまって。でも参加して正解でしたね。今では1tの推力のエンジンが造れるようになったんです。

ロケットエンジンの燃焼試験の様子

自分の意思、そして家族の理解

―やりたいことをやり通す、そんな姿勢の阿部さんは、『宇宙兄弟』に出てくるキャラクター・福田直人の姿と重なる部分があると思います。しかし福田はやりたいことを突き詰めすぎたあまり、家族の理解を得られなかったこともありました。阿部さんはいかがでしょうか?

阿部さん:うちは「自分の好きなようにやりなさい」という感じなので、家族の理解が得られないみたいなことはなかったですね。会社に入るときも「いいんじゃない」としか言われませんでした。

 

高校生の時に自作エンジンの燃焼実験をしていたとお聞きしました。家族に何か言われたことはありますか?

阿部さん:高校生の時って自分だけの世界ってありませんでしたか?結局最後は自分で決めなきゃいけないので、あまり家族に相談はしなかったですね。だからもちろん、何も言われませんでした。

特に仕事の分野のことは、相談しても重要な返事ってあんまりなくて、抽象的なことしか返ってこないと思います。そもそも、そんなに悩んだこともないんです。自分のやりたいことでは悩まずにとりあえずやってしまいますね。

 

これからの宇宙時代を担うみなさんに一言

―読者の人に一言いただけますか?

阿部さん:「まだ自分には早い」と思うかもしれませんが、何事にもタイミングがあります。自分が今いる環境で勉強するのもいいですが、自分ひとりでやっていても理想には近づけないと思います。「自分は技術を持っていない」と思ったとしても、技量はその環境に飛び込んだら後からついてくるものです。とりあえず、まずは飛び込んでみるというのもありだと思います。

だからもし“ロケットをやりたい、造りたい”と思っているのであれば、「まずは来てみれば?その環境に身を置いてみれば?」と思います。僕も大切にしていることでもありますが、とりあえず気になったらやってみるということ、考えるよりもとりあえず手を動かしてやってみるということが大事だと思っています。頑張ってください。

―貴重なお時間とお話をありがとうございました。

 

今回は、ロケット開発をしている企業、ISTで働く学生、阿部さんへのインタビューでした。目指すものに取り組める環境にまずは身を置いてみる。阿部さんのような行動には、とても勇気がいるものです。人とは違う道を行くということは、真っ暗の中を進んで行くようなもの。しかし、一歩を踏み出すことによって世界は広がっていくのです。あなたも、まずは一歩踏み出してみませんか?

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About TELSTAR
私たちは大学生を中心とした団体で星空や宇宙開発の内容を取り上げたフリーマガジンを 発行する活動をしています。年4回、主に高校や科学館などに配布しており、2013年2月の 設立から累計約11万部を発行しています。 詳しくはこちら!→http://spacemgz-telstar.com/

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「宇宙学生」前回の記事はこちら
『宇宙学生』 小さな人工衛星に詰まっている宇宙開発の本質

 

「宇宙学生」昨年の連載記事はこちら☆

第一回 宇宙を「広報する」って?
第二回 宇宙開発は理系のモノ?
第三回 宇宙科学研究所の学生ってどんな人?
第四回 大学生がロケットに関わるには?
第五回 宇宙建築って何だ?
第六回 HAKUTOメンバ 川﨑 吾 「一歩踏み出すこと」の大切さ