医療の現場から、仕事の舞台を宇宙へと移した2人
無重力環境でのALS治療薬研究のため、ISS行きを希望した伊東せりか。
一方、海上自衛隊の潜水医官という経歴を持つ金井宣茂は、海から宇宙空間へと仕事の現場を変え、「誰しもが簡単に宇宙へ行き、利用できる時代に」という未来への目標を抱いて、今、ISSへ向かう。
【職業:宇宙飛行士】
各国の宇宙機関に所属し、宇宙空間で実験や作業を行う職種。アメリカではアストロノート、ロシアではコスモノートと呼ぶ。これまでJAXA(前NASDA)では11人(2017年現在、現役は7人)の宇宙飛行士を輩出しており、スペースシャトル計画、国際宇宙ステーション(ISS)の組み立て・運用計画に参加し、「きぼう」日本実験棟の組み立て・運用を通してISS計画に貢献している。宇宙飛行の経験を持つ宇宙飛行士は世界で545人を数えている。(2015年12月時点)
伊東せりか
「本番の宇宙で—150%の力が出せるよう
全ての力で挑んで来ます!」
【職業】 宇宙飛行士
【生年月日】 1999年2月26日
【出身地】 神奈川県横浜市
【略歴】
14歳の時に父・凛平をALSで亡くす。医療の道から宇宙飛行士になることを志し、26歳で宇宙飛行士選抜試験を受ける。二次、三次と順調に進み、宇宙飛行士候補生として合格。NASAでの訓練の後、ISSミッション・CTV-28クルーに任命され2029年初の宇宙へ。以後ISSでALS実験他ミッションに携わり、噂話から発生した世間のバッシングに合うも実験を成功させる。(宇宙兄弟official Webより)
金井宣茂
「初めての宇宙飛行には感慨はありません。
宇宙飛行士としてスタートを切るための最終ハードルと考えています」
【職業】 宇宙飛行士
【生年月日】 1976年
【出身地】 東京都生まれ、千葉県で育つ
【略歴】
2002年3月 防衛医科大学校医学科卒業。同年4月より防衛医科大学校病院等で外科医師・潜水医官として勤務
2009年9月 JAXAよりISSに搭乗する宇宙飛行士候補者として選抜
2009年9月 JAXA入社
2009年9月 ISS搭乗宇宙飛行士候補者基礎訓練に参加
2011年7月 同基礎訓練を修了
2011年7月 油井亀美也、大西卓哉と共にISS搭乗宇宙飛行士として認定
2015年8月 ISS第54次/第55次長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命
2017年12月 約6ヶ月間にわたりISS滞在予定
第54次/第55次ISS長期滞在クルーとして、2017年12月から6カ月間にわたって、ISSでの長期滞在ミッションに挑む金井宣茂宇宙飛行士。
医師から宇宙飛行士へ転身したのは、日本の宇宙飛行士では向井千秋と古川聡につぎ3人目。また油井亀美也につぎ2人目の自衛隊出身者となる。
当初は『補欠』として選考され、同期となる油井・大西の両宇宙飛行士に遅れて宇宙飛行士への道を歩み始めた金井宣茂。同期2人に続き宇宙飛行の切符を手にし宇宙へと向かうまで、彼を支え続けた『心』とは一体何か!?
「補欠です、合格ではありません」
●宇宙飛行士候補者の選抜試験が終わり、いよいよ結果発表の日と言うのはどんな心境だったんですか?
金井「振り返ってみれば選抜試験そのものは楽しいイベントでしたし、残った仲間の顔ぶれを見ると、まさかこの中で自分が選ばれるとは思っていませんでしたから、意外とリラックスしていました。ダメでもともとと感じてましたから、自分が選ばれなくても挫折感のような気持ちは起きないだろうと何となく感じていました。それよりもやっと一区切りつくというか、一連の試験を通して本当にいい経験をさせてもらったという達成感というか。あとはいい友達ができたし、宇宙飛行士の友達もできちゃうな、くらいの勢いでしたね」
●どのようにして結果がわかったんですか?
金井「あの日はJAXAの採用関係の方が候補者全員に一人ずつ電話をくれることになっていたんです。それで私が受け取った電話で言われたのは、『あなたは補欠です』と」
●補欠…。言葉の意味はわかりますけど、一体どうゆう事だって感じですよね
金井「私も一応、『補欠って何ですか?』とお聞きしました」
●当然聞きたいですよ!
金井「そしたら、『補欠は補欠です』と」
●ん〜、禅問答のようですね
金井「それで『どうゆう意味なんでしょうか。合格なんでしょうか?不合格なんでしょうか?』と聞きました。そしたら『不合格です。合格ではありません』と…」
●…モヤモヤした答えですよね
金井「それでモヤモヤしたまま(笑)、あのときはJAXAから連絡を受けたら、ある場所に集まろうと最終候補者のみんなで約束していたので、その場所に行ったんです。そしたらそこに油井さんと大西さんは来なかった(笑)」
●「あの2人かよ!!」という空気にはなりませんでしたか!?
金井「いえいえ(笑)、そりゃぁ悔しい思いの人はいたかもしれませんが、お2人が優秀なのは皆わかっていたので、あの2人なら納得という感じで祝福しました」
●でも金井さんだけモヤモヤしたままですよね?合格組か不合格組か、どっちのテンションに合わせたらいいものやら…
金井「…まぁ。それでもその後はすぐにもとの生活に戻りました。広島の江田島にある海上自衛隊の学校の医師として勤務を再開しました」
●モヤモヤしたまま日常生活へと?
金井「ただ一つ違ったのはJAXAから『補欠』という紙を一枚もらったことです(笑)」
●まさか『補欠』という2文字がでっかく書かれた紙ではないとは思いますが…。でもとにかく補欠という言葉の響きがイケないですよね。何か部活のようなその響きが。バックアップクルーとか、もっと洒落た感じに呼んでくれたらテンションも上がるんですが。それからどうなったんですか?
金井「半年間は何も音沙汰ありませんでした」
●半年間もモヤモヤが続くんですか!?
金井「そうですね。まぁ追加合格というのはよっぽどの事がない限り無いと思っていましたし、医官として目の前の仕事に全力で集中しなければなりません。ですからもう選抜試験の事はいい思い出にして、再び自衛官として人生を踏み出そうと、モヤモヤを振り切ろうと、そう思ったその時に—」
●その時に!?
金井「一本の電話がかかってきたんです」
●ついに来たんですね!でも電話だったんですか。個人的には半年間も待たせたんだから、漫画の中の星加さんみたいに会いに来て直接言ってくれればドラマチックだと思うんですが…
金井「あのとき私は昼休みに病棟近くのグランドで日課のランニングをしていたんです。そしたら携帯電話が鳴って。よく休憩中でも緊急で呼び出されることもあるので、また急患かと思って電話に出たらJAXAの方でした。それで『金井さん、まだ宇宙飛行士に興味あります?』と聞かれて」
●人生を左右する大事な質問をふんわり聞いてきましたね
金井「あまりに突然の電話だったんで、『今ですか!?』という感じだったんですけど(笑)。もちろん断る理由はありませんでしたから、二つ返事でよろしくお願いしますと。突然のことですぐには実感できなかったんですが、ふと我に返って思わず誰もいないグランドの片隅で両腕を突き上げてしまいました。叫びはしませんでしたが(笑)」
●宇宙飛行士誕生の劇的瞬間ですね
金井「私の人生の中でも指折りの名シーンです(笑)。あの時の気持ちを忘れないように、今度のミッションも頑張っていきたいと思います」
「宇宙という絆で結ばれて」
●正式に宇宙飛行士候補者として任命されてからは?
金井「目まぐるしかったです。すぐに海上自衛隊を退官、JAXAに入社。すでに油井さんと大西さんが渡米して受けているISS搭乗宇宙飛行士候補者基礎訓練に参加するべく、筑波宇宙センターで訓練開始の辞令を受けました。そのときJAXAのスタッフの皆さんが温かく送り出してくれたことがとても印象に残っています」
●自衛隊から宇宙機関へと組織が変わりましたが、そのへんの空気感は馴染めましたか?
金井「正直、私の場合は当初から自衛隊の仕事の延長のように感じて何の違和感もなかったんです。例えば自衛官時代も通常の勤務の合間に、半年間とか潜水医学過程などの集中コースに入って訓練する機会が設けられていました。体力トレーニングを含めて朝から晩まで講義を受けるといったことを繰り返しやっていたんです。ですから今もJAXAやNASAで宇宙飛行士コースに入って訓練や授業を受けている感覚です。組織が変わっても気持ちとしては違和感なく日々を過ごしています」
●一緒に働く人の雰囲気は違いますか?国防から宇宙開発へと仕事のテーマが変わりましたが?
金井「これも正直、ほとんど違和感ありません。私に言わせればJAXA、NASA、ロスコスモスなどの宇宙機関は自衛隊に意外と雰囲気が似ています。宇宙業界って結構スポ根なんですよ(笑)。たくさんの業務を抱えて、残業もたくさんして、それを宇宙への夢と元気と根性だけで乗り越えるみたいな。職人堅気というか、一定のクオリティが示されてもその基準を突き詰めて越えていこうとする。大きなプロジェクトをみんなで一致団結してワーッと推し進め、成果をみんなで喜び分かち合う。凄く自分にとって居心地がいいですし、気持ちがいいんです。印象として宇宙業界に携わる方々は、こっちやってたら、あっちまでやろうとしてしまう、自分でハードルをどんどん上げていくタイプの人が多いと思いますね」
●油井さんと大西さんの約半年遅れで訓練をスタートしましたが、焦りはありませんでしたか?
金井「焦っても仕方がないので、何とか自分のペースで付いていこうというだけで。ただビシバシしごかれましたけど(笑)。私が入ったのは、油井さんと大西さんと同じ2009年度NASA宇宙飛行士候補者クラスです。通称アスキャン(AStronaut CANdidate:ASCAN)と言いますが、みんな気のいい連中で、今度一緒に宇宙飛行するスコット・ティングル宇宙飛行士はクラスメイトでした。ずっと一緒にいろいろな訓練をしてきましたので非常に仲良しで、勝手知ったる仲間という感じで心強いです」
●クラスメイトからは『ニモ』って呼ばれているそうですが?
金井「ニモ(Nemo)というニックネームはクラスメイトが付けてくれたんです。もともと軍隊のパイロット出身の人はコールサイン(部隊内で個人の識別に使われるニックネーム)を持っていて、『カッコいいし、チームの結束を図るために僕らもコールサインを作ろう』ということになったんです。油井さんは元航空自衛隊のパイロットですから『サメ』みたいなカッコいいコールサインをもともと持っていましたが、コールサインが無い私などはプロフィールからクラスメイトが考えてくれたんです」
●勝手に決められちゃうんですか?
金井「一応、自分の要望は聞いてくれるんです。でも、それだと言いずらいとか、そんなイメージじゃない、あれがいい、これがいい、とかもう裁判みたいな感じで紛糾しましたね(笑)。でも私の『ニモ』というのは、海上自衛隊での潜水医官としての経歴が、『海底二万里』のネモ船長や映画『ファインディング・ニモ』に出てくる主人公のクマノミとつながってすんなり決まりましたね。もともと私の宣茂(のりしげ)という名前は外国人には少し言いずらいので、訓練で訪れるロシアやヨーロッパでも『ニモ』と名乗ってます(笑)。大西さんは『スター・ウォーズ』が大好きなので、『僕はスカイ・ウォーカーがいいな』と要望したんですけど、『え〜お前が!?』、『新人なのに生意気に聞こえる』と周りからたくさんツッコミが入って、それなら『ジャー・ジャー・ビンクス』がいいということになってしまって」
●訓練中にそんな名前で呼ばれたら即テンション落ちますけど
金井「でも結局、それだと長くて呼ぶの大変だから『ビンクス』にしようと。はい決定!みたいな流れで決まりました(笑)」
●『ジャー・ジャー』の方で省略されるよりはまだマシですね…
金井「アスキャン(ASCAN)の仲間もそうですし、JAXAの宇宙飛行士候補者選抜の仲間もそうなんですが、その絆は強いものがあるように感じます。日本ではとくに」
●どうゆうことでしょう?
金井「これは他国の状況を詳しく聞いたわけではないんですが、たとえば選抜試験の受験者同士の交流が試験が終わって何年経っても続いているというのは、日本におけるユニークな特徴だと思うんです。私も日本に帰国すると受験者仲間で集まり食事することが今でもあります。一番最初の一次試験でドキドキしながら筆記試験を受けたときの話、二次試験で病院で集中的な医学検査を受けたときの話、最終試験で閉鎖環境施設に閉じ込められ生活したときの話とか…。時間を忘れて盛り上がってしまいますね。もう何年も前のことなのに、不思議と当時の気持ちの高揚感や緊張感をありありと思い出すんです」
●金井さんの仲間が特別だったということは?
金井「それがこういう受験生同士の交流は、油井さんと大西さんと私の『2008年受験組』だけではないんです。日本人宇宙飛行士を初めて募集した第1回目の毛利・向井・土井飛行士の選抜時の受験生から始まって、第2回目の若田飛行士、第3回目の野口飛行士、第4回目の古川・星出・山崎飛行士の選抜時の受験生まで、世代ごとに選抜試験の経験者同士がいまだに交流を続けていると聞いています。それだけ選抜試験中の時間が濃密だったということだと思います」
●宇宙という特別な場所を目指すことで育まれた強い絆があるんですね。宇宙という場がそれだけ強い魅力を持っているということでしょうか。
「陸海空、大自然を股に掛けて訓練するなんて」
●約2年間に及んだ基礎訓練終了後、正式にISS搭乗宇宙飛行士として認定されますが、その後、ISS第54次/第55次長期滞在クルーのフライトエンジニアとしてミッションにアサイン(任命)されるまで約4年の期間がありました。その間、焦りや不安は?
金井「それは全く無かったんです。初めての宇宙飛行までずいぶん長い時間かかったんですね、というふうに言ってくださる方もいるんですけど、逆に私の場合は、その4年間という時間があったことで万全の準備ができたとポジティブに捉えています。例えば私が地上で担当していた業務は、ミッションのサポートの中でも、宇宙ステーションでやっているさまざまな科学実験の手順の検証がありました。宇宙飛行士の立ち場から実験をどういうふうに遂行するのが効率的なのかを考えるんです。そのため自分のミッションに向けてすごく良い準備が実際にできたんです。こうゆう考え方は僕の性格かもしれませんが、例えるとテレビゲームのロールプレイングみたいなものです。ゲームではよく弱い主人公が経験を重ねて強くなって敵を倒すというストーリーがありますよね。自分のレベルが低いときでもどんどん進んでいく人もいます。でも私は準備万端にして十分に武器や体力や技が身に付くまで戦いを避けるタイプなんです(笑)。強くなるまで待ってから相手を倒すのが好きなんです。だからミッションが決まるまでの時間は待ち時間ではなく、豊富な時間を与えられていて、万全の準備で臨むための時間だと考えていました」
●ミッションが決まるとどうなるんですか?
金井「相当忙しくなります。宇宙飛行の予定がない場合、基本的には平日の朝8時~夕方17時くらいまでの勤務時間内にスケジュールされています。業務の内容は例えば、手順書の点検、宇宙実験の開発、広報活動などです。土曜日・日曜日は普通にお休みで、わりあい規則正しい生活を送っていました。でもISSへの宇宙飛行が決まると、打ち上げの約2年ほど前から世界各地の宇宙機関に飛び回り、分刻みのスケジュールでISS滞在に特化した訓練や勉強に追われる毎日を送ることになります」
●どんな訓練があるんですか?
金井「一緒に飛ぶクルーたちと一緒に、ISSやソユーズ宇宙船の運用、宇宙実験、船外活動、ISSでの日常生活に関することなど、それはもう満載ですね。宇宙機関の訓練施設だけでなく、大自然の中に飛び出しての訓練も行います。変わったところでは、地球への帰還時にソユーズが予定した場所とは違う地点に不時着してしまったケースに備えて、救援隊が到着するまでの3日間を宇宙船内に装備されたサバイバル道具を使って雪原で生き延びるという訓練とか。これは寒いし非常にしんどいです。マイナス20度という極寒の中、木やパラシュートの生地でシェルター作って小枝集めて火を焚いて。サバイバルキットの中には非常食が無くなったときに備えて、釣りや狩の道具も装備されてます」
●訓練とは言え、そんな状況に放り込まれたら、人の本性がさらけ出されそうですね
金井「他には野外リーダーシップ訓練というのがあって、10人くらいのチームで夏山や冬山を登山をしたり、海上をシーカヤックを漕いで島々を転々と移動しながらキャンプをしたり、渓谷を20キロほどの荷物を背負い約10日間をかけて目的地まで移動したりといった訓練もあります。この訓練ではリーダーを交代制にすることで、リーダーシップとフォロワーシップの両方を養うのが目的です」
●リーダー任せに付いていく、という楽ができないわけですね
金井「6日間を洞窟の中で過ごして探査する訓練もあります。また海底20メートルほどに建設された研究施設で10日間ほど作業する訓練もあります。そのときはアストロノートじゃなくてアクアノートになるんですね(笑)。どちらも洞窟や海底施設といった逃げ場のない環境に身を置き集団行動することで、宇宙飛行と同じ極限の環境に慣れ、高い自己管理能力を養うのが目的です」
●チームで一緒に限られた空間に長期間滞在する、という意味では宇宙ステーションとまったく変わらないわけですね。それにしても、雪原、山、渓谷、洞窟、海底と、もう地球上の大自然を股にかけて、という感じですね
金井「そんな環境の中においても、心に余裕をもち、仲間と一緒に乗り越えることができるようになれば、宇宙で何か命の危険があるようなトラブルが起きても必ず訓練の成果を生かせるという自信が付きます」
ソユーズ宇宙船が雪原や森林地帯に不時着したことを想定。
「なかなかできないのが人間、でも何とかできるのも人間」
●宇宙飛行士の訓練ですが、話を聞くだけならバリエーションに富んでいて、探検隊のようなノリで楽しそうだなとも暢気に思ってしまうんですが、実際はかなり体力と気力がみなぎってないと付いていけないですよね
金井「半年間にわたり宇宙で働く上で必要な訓練とはいえ、確かに大変な面もありますね。それにそんな中で教官にダメ出しを受け続けると、やっぱりテンションは落ちて来るし、精神的に行き詰ってきます」
●僕も1日3回は行き詰ります。宇宙飛行士はそんなときどうするんですか?
金井「なるべく楽しむ気持ちを持続させるようにしています。辛い辛いと思っていると負のサイクルと言うか、どツボにハマっていくので。このしんどさの中であっぷあっぷしている自分は絶対成長しているんだと。このしんどさは自分の血肉に必ずなっているんだと思うんです。そして大変な時間はいつか終わるし、そのときは笑ってるんだと。これは宇宙に限る話でなく、仕事でも、学校でも、趣味でも、『面白い』と思いながらその時間を過ごせるかは、大切な要素だと思います」
●でもそれがなかなかできないのが人間ですよね
金井「でもそこを何とかできるのも人間です。つまらないとか辛いと感じるとき、『なぜ自分はそれをしているのか』、『それを達成することが、自分にとってどんな意義があるのか』に立ち返るようにしています。原点に立ち返ってみると、初心のときに持った力が湧いてくるように感じます。またとにかく地道な歩みを止めないことも大切かもしれません。江戸時代に徳川将軍の剣道師範をされていた柳生宗矩という先生の本には『剣道を始めたばかりの頃は何も考えずに素直に刀を振っているけれど、少し修行をすると色々と難しいテクニックのことを考えたりして、戦うことが難しく感じるようになる。さらに一生懸命稽古を続けていると、考えることなしに、初心の頃のように無心になって、自由自在に刀を使えるようになる』という話が載っています」
●行き詰まったときの解消法で具体的なテクニックはありますか?
金井「一緒に訓練をしていたある宇宙飛行士が、『これ絶対イライラするだろうな』という状況になると、作業しながら必ず小声で鼻歌を始める人がいるんです。煮詰まった頭を冷やし、気をそらすことで気持ちの切り替えをしているんですね。最近、自分も訓練中に鼻歌を始めていることがあります(笑)」
●僕の場合、鼻歌では効きそうにないんで本気で唄ってみます!
金井「またこれは自分の体験ですが、あるときISSと地上管制との交信シミュレーション訓練がありました。私はISS側だったんですが、なぜかそのときの私は超ノリノリでハイテンションだったんです。それで訓練が終わると、管制室のCAPCOM役だった先輩宇宙飛行士が来て、『今日はノリノリで良かったぞ』と褒めてくれたんです。そもそも私、日本人として仕事中にジョークを挟んだりフランクな喋り口調でリラックスして仕事するのってどうなの?と否定的に思っていたクチなんですけど、先輩は『ISS側がああゆうハッピーな感じで仕事してもらうと、地上側もすごく元気が出るしヤル気も出る。宇宙にいる自分たちだけが苦労しているといったような孤立感をISS側が抱いていないのがわかるし、宇宙と地上が一体となる気持ちで仕事ができるから、いつもああいうテンションでやってくれ』というんです」
●どんなノリだったんですか?
金井「ここで日本語でやるのはちょっと難しいんですけど(笑)。ただああゆうテンションを褒められたことが凄く記憶に残っている。今後はあえてノリノリで行くべきだなと。自分を上手くノセていき、それが回り回って周りもノセられるというか…。でももともと日本人のノリノリは向こうでは至ってノーマルか、ちょっと明るい人ってレベルでしかないので、超ノリノリにならないといけないんですが(笑)」
●ときには人間、メーター振り切ってみることが大事なんですね。それにしても宇宙での仕事は、自分一人のことだけ考えていればいいわけではなくて、チームの輪の中で自分の言動が周りにどう影響するかも考慮しなければならないとは…。気配り目配り心配りが大切なんですね。
金井「やはり仕事の現場が宇宙空間という極限環境の中ですから。最初は新しいチームメイトと仕事をするにあたって、どんな性格なのか、どんな仕事のやり方なのか、お互い手探り状態です。どうやったらこのチームの輪の中で、自分の能力を最大限発揮してチームに貢献できるか。また仲間がその能力を十分に発揮してもらえるか。そこの創意と工夫に頭を絞っています。チームのゴールは、1+1+1>3でなくてはなりません。3人集まったら、3人分以上の仕事ができないといけないと思ってます」
私の『宇宙兄弟』的、瞬間
〜金井宣茂 宇宙飛行士編〜
「マルチプレイヤーでなくていい。自分でいい」
私が宇宙飛行士になりたてのとき、自分の中で『マルチで完璧な宇宙飛行士像』があるが故に、あれもできない、これもできない、という自分のできない部分ばかりネガティブに目が行ってしまうことが多かった。自分でも気付かないうちに、求められるものすべてに応えられなければいけない、マルチプレイヤーでなければいけないと思っていた。また積極性とチェレンジ精神溢れる仲間と訓練していると、もしかしたら自分の性格が宇宙飛行士に向いていないのではないか、アグレッシブでないと宇宙ミッションでやっていけないんじゃないか、と悩んだ時期もあった。
でもある時、自分が得意な所でしっかり力を発揮できさえすれば、それでいいんだと、割り切ったときがある。自分が不得意な所は無理をせず得意な人に任せる。逆に相手が不得意な所で自分が得意な所があれば、その穴埋めができ、そんな連係プレーがチームとして大きな力になるのではと思ったのだ。結局、自分は自分でいいじゃないか、と改めて思えるようになった。
今はそのへんの悩みを乗り越えたのか諦めたのか、言い方にもよるが、自分は自分でしかないからと、訓練で教官に辛い点を付けられてもへっちゃらというか、よく言えば打たれ強くなった。今の自分にはできないことはできないし、でもそれで凹む必要はなく、自分の能力が足らなければ訓練をもう一度やらせてもらって技量を身につければそれでいいし、自分にはそれだけ伸びしろがあるんだと、よく受け取ってしまうことが多い。
性格に関しても冷静に自己分析できるようになった。「どんな性格ですか?」と聞かれることがあるが、そのときは「臆病で用心深い」と正直に答えるようにしている。または「海底や洞窟の訓練では他の飛行士はアグレッシブでどんどん行こうとするが、自分は『ちょっと待て』『準備してから行こう』と段取りをチェックし、引き留める役」とも言っている。慎重な人がチームにいることで、チーム全体を助けることがあるのではないかと思うからだ。
準備と言う点を私はとても重要視している。宇宙飛行士に必要なスキルとして、まず「セルフマネジメント(自己管理)」が最初に来て、次に「チームマネジメント」、「ミッションマネジメント」が続くのだが、私の性格として、特に自己管理に重きを置いている。私の場合、準備不足で自分が不安になったりする環境ではパフォーマンスが十分に出ないことを今までの経験で知ったからだ。精神的にも体力的にもしっかり自己管理をして、 また頑張り過ぎて燃え尽きないよう、常に心に余裕を持てるよう、十分な休養を取ることも心掛けている。 この仕事は、いつ何時、緊急事態が起こっても、きちんと対処できる余力を保つことが重要だと思う。
「どっぷり浸かる」
●金井さんが会得した勉強法や仕事術みたいなものはありますか?
金井「そうですね、実は私の場合とくに必勝法みたいなものはなくて…。強いて言えば、必要な環境に自分を持っていき、そこにどっぷり浸かることではないでしょうか。武道もそうですが、週に1回稽古してるだけではなかなか身に付くものではなくて、その環境に常に身を置くことが大切かと。何も四六時中稽古しろというわけではないんですが、日常生活でも事あるごとにその事を意識し、考え、生かして…、というようにどっぷりハマってみることが大切だと思います。語学習得などはとくにそうですね。最初はちんぷんかんぷんだったものが、ある程度の固まった期間、その言語の生活環境に集中的にどっぷり浸かることで、何となくこうかな、と理解できるようになってくる。どっぷりと浸かる、それに尽きるかと」
●もう英語はもちろんロシア語もペラペラなんですか?
金井「ロシア語に関してはまだまだです。ただ仕事上で使う分には決まった専門用語があるので、それをきちんと把握しておけば内容の理解という意味では問題ありません。ただロシア語での訓練中には念のため通訳を付けてすべて一語一句通訳してもらうときと、わからない事があったら聞くから隣にいて下さいと頼むときがあり、状況次第で選びます」
●3か国を使い分けて訓練や仕事をしていることになりますよね
金井「アメリカやロシアの宇宙飛行士から『英語、ロシア語、日本語と、3か国語を頭の中でどうやって処理してるんだ?』とよくネタにされます。ただ専門用語ばかりの授業などでは、無理に頭の中で日本語に翻訳するよりも、相手が英語なら英語、ロシア語ならロシア語のままの方が今は理解し易かったりします。すでに長い間、宇宙ステーションの専門的な訓練を英語やロシア語で続けてきているので、その言語で脳が理解する素地ができているからでしょう」
●人間慣れなんですかね。脳の言語中枢に英語野・ロシア語野みたいなのができて、訓練中にはその部位が活性化してたりして…
金井「でも言葉と同じくらいに苦労したのは内容ですね。ASCANの頃や宇宙飛行士になりたての頃は、もともと医者をしていた自分には畑違いの勉強内容に随分苦しめられたものでした。『各システムには冗長性が備わっており電力供給システムの片系が遮断された際には——』とか、『軌道力学に従い毎秒○○m/sの主エンジン噴射を2回行うことにより——」などという授業がいきなり英語やロシア語で容赦なく進められていくので(笑)」
●そのことについて、医師出身の宇宙飛行士である向井千秋さんは、「宇宙船の構造やメカニズムを人体の器官や機能に例えて考えてみると理解しやすい」とおっしゃってましたが、同じ医師出身の宇宙飛行士として「なるほど」と思うところはあるんじゃないですか?
金井「すいません。それ聞いたことあるんですが、僕の場合『何言ってるんだろ?』って感じで(笑)。私はそのまま覚えました」
●アチャ(苦笑)。すいません、聞いた僕が悪いんです
金井「いえいえ、単にそのまま覚える方が私に合ってたというだけです。結局、人間の考えるデザインなので、理由があってそういうデザインになっているわけで、その理由がわかればどんなに難しそうな事でも理解に辿り着けると思うんですね。我々の業界でよく言うんですが、ビッグピクチャーを掴むと。つまり大まかな枠組みを最初に捉えて理解しておけば、そこから派生する細かいことも理解し易いわけです。本質を掴むことができれば、細部はその応用であったりとか、論理的な考え方で理解を進めることができると思います。ビッグピクチャーを掴む大切さというのは、仕事上での問題解決や、何か行き詰ったときにも役に立ちます。細かいことが違っていても、枠組みが似たような問題であれば、あの問題はこうゆう理論だったからこの問題もこうではないかと類推できます。また何か壁にぶち当たって混乱してしまったとしても、そもそもこの作業の目標はなんだったけかなと一旦俯瞰してみることで、正しい判断行動がとれるわけです」
「日本人の資質と生かし方」
●ISSという国際的プロジェクトに宇宙飛行士として参加する中で、日本人としての資質で気付かされた面はありますか?
金井「多国籍の仲間と一緒に働いていると、自分が日本人であるが故に自覚しずらかった『日本人的な部分』を感じたり、欧米諸国とのギャップに戸惑うことは確かにあります。これは個々の性格にもよると思いますが、日本人は大概的にシャイだと言われます。発言の少なさが指摘され、思っていることをもっと素直に言った方がいいとアドバイスされましたね。『日本人の多くは謙遜なのか気遣いなのか何も言わない。でもそれはイコール、何を思っているかわからないと思われるぞ』と。でも私に言わせると、彼らは自己主張が強すぎて、『そんな周りの空気を乱すことをいとわないような言いっぷりはないだろう!』とか、『このタイミングでそうゆう要求を自分からよくするな!?』とかいろいろ言いたいことはあるんですけども(笑)。とはいえ相手が察してくれるだろうなんて思ってたら間違えで、こちらの要望や立場をきちんと表明しないと、割を食うことになります。例えば平等に作業を割り当てるべきところを、『俺はこれをやりたい』と素直に主張した宇宙飛行士が一番楽なおいしい作業を担当してしまって、みんながやりたがらない残った作業が私に回ってくるとか(笑)」
●何だか小学校の掃除の時間を思い出しますね
金井「でもそれをポジティブに捉えると、その場で自分の考えや気持ちを率直に相手に提起して問題を終わらせる、という後腐れ無いカラッとした方法ではあると思うんです。ですから国際的な共同作業の中では、日本人特有の他者を慮る心を持ちながらも、言うべきことはしっかりと発言しなくてはいけないとは思いましたね」
●他にザ・日本人的な事に気付かされたエピソードはありますか?
金井「私はミッションの訓練が始まる前は、ISSで行う実験の手順書(マニュアル)の検証などを担当していたんですが、『日本人の書く手順書は細かい』とアメリカの宇宙飛行士からよく言われました。例えば、『テープを10センチに切る』と手順書に書いてあったとしたら、『なぜ10センチじゃないとダメなんだ。9センチでもいいだろ?ちょっとくらい』と彼らからツッコミが入るわけです。でもそれはJAXA側で検討・検証した末に出された最善の結論なんだと、だから11センチでも9センチでもダメなんだと、こちらは説明するわけです」
●僕から言わせれば、手順書に書いてある通り素直にやればいいじゃんと。そこをわざわざツッコんでくるアナタの方が細かい!と思うんですが
金井「でも彼らに言わせれば、日本の手順書は不必要なくらい細かいと。その一方で『日本人の準備した手順書に沿って作業すると絶対にうまくいく』ともよく言われました」
●文句言いたいのか褒めたいのかどっちなんでしょう
金井「そこは表裏一体で、彼らにしたらその細かさに付いていくのは億劫かもしれないんですが、日本人のきめ細やかな正確な仕事っぷりというのは信頼されているわけです。例えば日本人宇宙飛行士がISSに乗ったら、長期間の滞在においても終始、作業はきちんとやるしミスも少ないし、使った道具もきちんと元に戻してくれるとか、そんな評価の声を聞いたりしました」
●整理整頓は日本人の基本ですよね
金井「我々にとっては基本的なことかもしれませんが、なかなかすべての国の宇宙飛行士ができるわけではないこともあります。今お話しした例は些細な事例ですが、国際的なプロジェクトの中では日本人が入ることで、その独特の資質と感性が国際チーム全体に新しい可能性や価値を加えることができるのではないかと考えています。ですから私も、日本の昔ながらの価値観や考え方を見つめ直すというのも、日本人宇宙飛行士として大切にしたいと思っているんでんす」
「マニュアルや訓練に滲み出るお国柄」
●さきほど手順書(マニュアル)の話がでましたが、やっぱり書いてあることって難しいんですか?
金井「簡潔に書いてありますね。だから書いてあることをその通りやればできるわけなんですが、やはり宇宙飛行士は完璧を目指して仕事をしているので、何でそういうふうに書いてあるか、きちんとそこまで理解できて、自分で納得しないと仕事が終わった気にならないんです。つまり行間を読みたくなるんです。ですから私の場合も、その手順書で作業した経験者にどこがポイントなのかを聞いたり、あるいは手順書を書いた人に直接会ってどういう意味か聞いたりします。その場でその手順を見せてもらって、自分がやらせてもらって、一つ一つ血肉にしていく感じです」
●アメリカ、ロシア、欧州、カナダが書く手順書もあるんですよね?
金井「ISSにおいては、その施設や宇宙機器を製造した国がきちんと手順書を作成します。面白いのは、アメリカはマニュアル主義なんですね。マニュアルに書いてあることをそのままやらなければならない。そこから外れることは許されない。だから我々ができるのは、簡潔に説明されている手順書の行間を読みながら、なぜそう書かれているか奥の奥まで勉強して、『なるほど、だからこういうふうに書いてあるのね』と理解する。許されるのはそこまでですね。一方ロシアは、マニュアルから外れてもいいんですね。『マニュアルとは違っていても、そこにお前なりの理論と根拠があればいい』と言われる」
●いいか悪いかは別にして、ロシアの方がカッコよく聞こえます
金井「ロシアでの訓練は大学の授業のようで、まず基礎理論から始まって、『なぜソユーズ宇宙船はこういうデザインなのか』とか、NASAでは後回しにプラスアルファで勉強するようなことを最初の冒頭できちんと教えてから、それから実地訓練に入ります。その訓練では一応マニュアル通りに作業するんですけれども、『ここはマニュアル通りにやればいいかもしれないけれども、理論と照らし合わせると、こうもできるんじゃないか』、『マニュアルから外れるけども、こうした方がいいんじゃないか』、そう思うときが出てきます。そんなときはマニュアルから外れてやってみても許されるので、やってみるんです。やってみるんですけど、我々が思い付くことは経験豊かな教官や頭のいいエンジニアたちはすでに思い付いているので、だいたいどこかに落とし穴があって、結果的にその方法では駄目だったね、となることが多いんですけども(笑)。でもマニュアルから外れて意見交換することは許されるんですね。ですからアメリカとロシアでは、ちょっと違う哲学があるんです」
●JAXAはどうなんですか?
金井「どちらかというとNASAから技術を継承していますので、そういう点ではNASA寄りで、マニュアルを大切にします。でもそれはなぜなら、マニュアルがそれだけいろんなケースを検証して厳密に作り上げたものだからなんです。NASAの上を行く厳格さと細かさですね。こうあるかもしれない、いやいや違うケースもあるかもしれないと、細かい所までカバーされている。その結果、JAXAでは精密で非常に分厚いマニュアルができるわけです(笑)」
●そうなると、また仲間からいろいろ言われませんか?
金井「NASAの宇宙飛行士には『JAXAのマニュアルは凄い細かく書き過ぎで面倒くさいから、ちょっと短くしてと言ってくれよ』と言われ、JAXAの担当者に聞くと『このパターンもあります。あんなパターンもあります、だから両方とも書いておかなくてはいけないんです』ということになって、私は板挟みになるんです(笑)。でもその中で、良い落とし所を見つけて、JAXAの手順書も改善されていき、逆にそれがアメリカやロシアなどに良い影響を与えることにもなっていく。とくNASAでは昔はザックリとしか書いてなかった箇所を、ちょっと日本ぽく細かく書くようになったりして。結果的にお互いにいい影響を与え合い非常に洗練されたマニュアルができるわけです。そのためより洗練されたオペレーションが可能になっていくという好循環も生まれます」
●訓練の雰囲気に違いはありますか?
金井「先ほどお話したように、ロシアではマニュアルから外れてもいいんですね。そんな雰囲気の中で、いまだにガーリンが活躍した時代を知る古株の名物教官も現役でいます。その方の指導を受けると人間味を感じますよね。日本で言うところの『師匠と弟子』の関係のような心の絆を感じさせられました。ロシア語も満足にできない自分にも、温かく親身に有人宇宙活動のイロハを手ほどきしてくれたのには、本当に感謝でいっぱいです。一方、アメリカの場合はインストラクターは若くて優秀なエンジニアが多く、効率的に短時間で必要な知識と技能が身に付くような訓練体系が練られています」
●金井さんにはどっちが合ってたんですか?
金井「実は私、典型的なマニュアル人間なんです。こと細かく『この場合はこうする、ああする』と教えてもらった方が夢中になって勉強が進みます。習ったことを状況に応じてきちんと実施すれば、テストでも良い評価をもらうことができるので、頑張れば頑張っただけの成果が得られるように感じられるからです。面白いのは先ほどお話したようにアメリカの場合、マニュアル主義ではあるんです。でも訓練はいい意味で放任主義という部分もあります。例えば、ロボットアームの操縦に関しては、まずカナダでその基本を学び、ロボットアーム・オペレーターの資格を取得します。カナダの訓練の場合、座学から始まり、基本知識を習得。その後、教官と一緒にシミュレーターで実際にアームを操作。慣れてきたところで、自分ひとりで操作を行うための練習を繰り返し、最後に試験。まるで自動車教習所のようなスタイルです」
●教習所ですか!?そうであれば自分もアーム操縦できそうな、勝手な予感が今してます
金井「一方、NASAに戻ってからの訓練は雰囲気が全然違いました。手順書を渡されて、『じゃ見ててあげるから一人でやってみて。基本はカナダでやってるんだからできるでしょ』と教官の一言があり、『時間は1時間以内ね。ほら、そんなゆっくりだと最後まで終わらないよ。もっと急いで、急いで』とプレッシャーを掛けてきます(笑)」
●いましたね、そうゆうイヤな教官が教習所にも
金井「とはいえ失敗するのは嫌ですし、安全を考えてなるべく宇宙ステーションにアームを近付けないように操作をします。するとアームの先に乗って船外活動している宇宙飛行士(を演じている教官)が、『もうちょっとアームを近づけてくれないと手が届かないよ』などと、わざと難しい状況に私を誘導しようとします。つまりNASAでの訓練では、あえて細かく説明をしなかったり、プレッシャーをかけたり、ときにはわざと悪い状況に誘導したりして、故意に生徒に失敗させ、その失敗から物事を学ぶというプロセスを大事にしているように思えます」
●『基本はマニュアルに厳格に。その応用は自分で見つけなさい』ということでしょうか
金井「そうですね。そして失敗を繰り返さないように、自分なりのスタイルを確立していかないといけないのですが、『普通はこうやる』という形がないので、そこが私には辛いところでもあり、また面白くもありました。ただ私には『アメリカ式』の訓練の場合、『カナダ式』に比べて個人の資質や創造性に左右されるような気がして、ちょっと難しく感じてしまいます。でも『アメリカ式』の根底には、訓練において失敗することは悪いことではなく、その中で次に失敗しないためにはどうすれば良いのか自分で考えることこそが重要、という強いポリシーがあるように思われます」
「先人に学ぶ、先人に想いを寄せる」
●マニュアル通りにやって行けば自然と宇宙飛行士としての技量が身に付くわけではないんですね
金井「先輩たちの背中を見て覚える部分も多分にありますね。私が自衛隊で医官として勉強を始めた頃も、『人のやり方を見て真似る』というところから始まりました。これは日本の職人の徒弟制度にも似たアプローチであるような気がします。『型より入って、型より出る』といいますが、先生や先輩の真似をしながら学び、だんだん自分のスタイルを確立するというものです。また武道に『見取り稽古』という言葉もあります。『手本を見ていい点を盗む』ということですが、先輩宇宙飛行士はもちろんですが、いつもお世話になっているインストラクターやエンジニア、管制官と一緒にいると、仕事に対する態度や周りへの配慮、意見や判断の鋭さなど、見ているだけで学ぶことが多いです」
●仕事において、先輩や師との出会いや影響は大きいですよね
金井「そうですね。またよく思うのですが、『こうのとり』や『H‐ⅡBロケット』、日本実験棟『きぼう』の運用チーム、その開発のために長年NASAと仕事を進めてきた多くの先輩エンジニアの方々、先輩日本人宇宙飛行士の方々、スペースシャトルの時代から宇宙実験に携わってきた研究者の皆さん、そういった人たちの実力と実績が絶対的な信頼を受けているお蔭で今の自分の立ち位置があります。でも私は何か実績を残したというわけでもなく、タダで居心地の良い環境を提供されて、好きなように勉強させてもらっているというのは、ちょっとバツの悪い思いがよぎることもあるんです。もちろんその恩に報いるためにも、今回のミッションでは信頼や期待にこたえるべく一生懸命仕事をするつもりですが、なんだか今は出世払いで借金を重ねているような気がしないでもありません」
●多くの方々の努力の歴史が今を支えているんですね
金井「戦前の居合道の先生の言葉ですが、『表の働きは、その裏の力。眼に見えるところの働きは、眼に見えぬものの力の現れである』というのがあります。世の中の注目を浴びることの多い宇宙飛行士という職業だけれど、実はエンジニア、管制官、インストラクター、マネージャーというたくさんの人たちの働きがあって、国際宇宙ステーションは安全に運航されていると読み解くこともできそうです。あるいは今もって続く数々のミッションの成功の陰には、人知れぬところでの先人たちの長年の努力がある、とも読めるかもしれません」
「宇宙では『残心』で」
●そんな日本の宇宙開発史の重みの中で、初の宇宙飛行、そしてISS長期滞在となりますが
金井「今回、私にとっては初めてのミッションになりますので、ある意味、右も左もわからない。だからベテランの先輩宇宙飛行士に指導を素直に仰ぎたいと思います。また自分がスーパープレーを連発してミッションをうまく遂行する、というイメージではなく、チームの一員として自分の力が少しでもチームの力になるように頑張りたいです。また私はもともと医師で、パイロットでもエンジニアでもない。宇宙船の操縦とか宇宙ステーションのメンテナンスとか、そういったところはその専門性のある宇宙飛行士に任せて、『宇宙兄弟』のセリカさんではないですが、いろいろな宇宙実験で自分の力を発揮していきたいと思っています。そのための準備は地上でしっかりしてきたつもりです」
●自分のバックグラウンドを最大限発揮するということですね
金井「はい、私のバックグラウンドがあるからこそ、より良い宇宙実験の成果を出したいですね。またISSでの作業においては、剣道や柔道などで教わる『残心(身)』という考え方を大切に、一つずつ確実にこなしていきたいと思っています。この言葉は、勝ちを制した後でも、油断せずに心と体の準備を残しておくという意味と理解していますが、例えば大切な宇宙実験において、複雑な手順を終えた後に『あ〜終わった、終わった』とすぐに緊張を解いてしまうのではなく、『よし、難しい仕事を終えた。けれど何かミスはしていないかな?』と一呼吸おいて振り返りを行う手間が、もしかしたら大失敗を防ぐことにつながるかもしれません。また半年間に渡るISS滞在中には予期せぬこともあるかと思いますが、『右手を使うときには左手に注意しなさい。前に進むときには、後ろに残る足に気をつけなさい』という言葉にもあるように、一点集中ではなく全方位的な注意力を持って過ごしたいです」
「宇宙飛行士として立つための最終ハードル」
●武道の教えは宇宙で役に立つことばかりですね。冗談ではなく、メンタル面の教科書として宇宙飛行士の必修科目にしてもいいのではと思います。ところで、金井さんの今後の夢は何ですか?今回の宇宙飛行で夢が叶ったとも言えなくもないですが
金井「宇宙飛行を夢の実現とは捉えてなくて、仕事なんですね、あくまでも。というか、自分がこれから宇宙飛行士として立つための最終ハードル、最終試験ではないでしょうか」
●金井さんにとって宇宙飛行士の仕事って何ですか?
金井「仕事は仕事です(笑)。期待されてるようなカッコいい言葉は出てこないんですけど…。もっと言うと、私の夢…、いや夢ではなく、目標というか、本当の仕事というのは、『誰しもが簡単に宇宙へ行き、利用できる社会』の実現に向けて、宇宙飛行士としていかに自分の知識と経験を生かし、培ってきた能力を出せるか、というところが仕事でしょうか。長くてすいません(笑)」
●そんな社会が来たら、僕も一度は宇宙に行ってみたいなとは思います。辛い訓練は無しにして頂いて
金井「その実現は10年後か20年後か50年後か…、そんな社会をなるべく早く実現できるように、いかに私が貢献できるかが、宇宙飛行士としての私の存在意義と勝負所だと思っています。いずれ宇宙飛行士という職は消え、単に仕事の場として宇宙を選んだというエンジニア、科学者、教育者、記者、アーティストなどが活躍する社会が来るのではないかと夢想します。ですから『宇宙飛行士になりたい』ではなく、『自分のスキルを使えば宇宙で◯◯できる』という発想が求められている気がします」
●仕事内容は変わらず、場所が宇宙空間に変わるだけ、ということですね
金井「これまでのキャリアを捨てるわけではなく、前職でのユニークな経験や知識を、宇宙開発という別の分野で活用することで、新しいイノベーションが起こせるのではないかと考えています」
●先ほど『夢ではなく目標』と、言葉を使い分けているように感じましたが?
金井「夢って、まだ漠然としている状態なんですね。こうなったらいいな、ああなったらいいな、とおぼろげな響きがある。でも目標というのは、もう少し具体的な響きになるという気がします。夢が目標に変わるときって、たぶん具体的な時間を設定したときです。例えば10年後に自分はこうなりたい、20年後にはああなりたいというような。そしてそれに向かって何をしたらいいのか自分なりに明確にするときだと思うんです。そのプランに沿って一歩踏み出してみたその瞬間から目標になるんです。昔、居合道の先生のところに入門をお願いしに行った際に、『いつかやってみたいですと言う人は多いけれど、実際に行動を起こさなければ、そのいつかという日はやって来ない。よく来ましたね』と、迎え入れてもらった覚えがあります。夢も、一歩行動を起こせば、それは目標になります」
●大切なのは、時間を切り、プランを立てることですね
金井「10年後にきぼうの管制官になりたいとして、管制室で働いている自分の姿を想像してみて下さい。 5年後の自分はそのためにどんな活動をしているのでしょうか? そのために3年後の自分は何をすべきか? そのために1年後の自分は? 私の場合、こうやって逆算して、今、何をする必要があるのか考えるようにしています」
●なるほど。一見壮大で大規模で何が起こるかわからなくて、先も読みにくい宇宙開発のプロジェクトにおいても、目標を定めてスケジュール切りますもんね。ケネディ大統領なんか『10年以内に月に人類を送り込む』なんて言い出したりして。 あれも実現の可能性は五分五分だったと思いますが、しっかり時間を切ってましたよね
金井「大きな話になりますけども、生命が誕生して、その生息領域を海から陸へと移し、やがて人類が文明を築き、大航海時代で大陸を行き来するようになった。そして人類の活動は、海から空へ、空から宇宙へと広がって行きました。そして今後、人類は生物としての生存圏を宇宙へと広げようとしている。生命の歴史を見ると、人類が宇宙へ目を向け、宇宙開発という事業に取り組むことは、生命が持つ本能的な性質であり自然な流れなのかなとも思っています。そしてその取っ掛かりがISSだと思います。政治の上では対立している国同士が、宇宙開発の現場では協力して仕事をしているのは、凄いことだと感心します。 出身や言葉が違っても、人類は一つの目的に向かって助け合うことができることを証明しているのが『国際宇宙ステーション』なんです」
●…あの最後に、地球外知的生命体って、いると思いますか?
金井「まず『地球生命体』である私たち人間の体って、不思議でよくできていて、厳しい環境にも適応できてしまうんですね。たとえば潜水実験から深度800メートル(80気圧)くらいまでなら、短時間であれば人体は耐え得ることがわかっています。またISSでは1年間滞在した宇宙飛行士もいます。ロシアの『ミール』という宇宙ステーションが飛んでいた時には379日間という宇宙連続滞在最長記録もあります。凄いなぁと思いますが、もしかしたら人間はもっと長期間宇宙に適用できるかもしれない。つまり生命が持つポテンシャルというのは、誰も『底』を見ていないんですね。ですから人類はもしかしたら今後、宇宙を舞台に生活したり、ジェネレーションを重ねて生存していくことができるんじゃないか、まだまだ生存圏を広げていけるんじゃないか、なんて思いますね。或いは、地球という環境で人類という生命は誕生して繁栄してきましたけれども、それはたまたま地球であったというだけで、別な惑星であっても生命は誕生できてたんじゃないか、子孫を残して繁栄できてたんじゃないかと。そうゆう生命のポテンシャルを考えたとき、我々以外の生命体が宇宙のどこかにいるという可能性は真面目な話、否定できないわけです」
●最後にこの件が聞けて心残りはございません。ありがとうございました!!
【宇宙飛行士、リアル】
柔剛一体
ミッションエンブレムを自分の訓練用ブルースーツに針と糸でチクチク縫っている、そんなご自身の姿が金井さんのツイッターに掲載されていた。元医師だけあって手先が器用なのだろうが、その姿はまるで『手芸部の部長』のようで微笑ましかった。
取材でお会いしたとき、「大きいなぁ」(JAXA宇宙飛行士の中で一番背が高い)というのが第一印象。取材中は終始、落ち着いた物腰と優し気な口調ながらも、時折垣間見せる茶目っ気やジョークに、ご自身が元来持つノリの良さを感じた。繊細と豪胆さ、柔軟性と一徹さが同居しているかのような人柄に『柔の中に剛、剛の中に柔』という武道の真髄のようなバランスを体現しているかのようにも見えた。
当時、宇宙飛行士候補者選抜試験では『2名程度を採用』と言う募集枠で『補欠』となり、後に追加採用された金井さん。候補者選抜で補欠という肩書を与えられた初めての人。その後、JAXAからは補欠になった理由を知らされることもなく、追加テストをするわけでもなく、半年後に正式採用の連絡を受けることになる。そんなことなら最初から気持ちよく金井さんを入れて3人揃って正式採用すれば良かったのにと、JAXAの事情を知らない僕なんかは思ってしまう。でもあるところで聞いた話では、当時の状況によっては、追加採用ありきの補欠だったわけではなく、本当に万年補欠のまま、そのままフェードアウト、という可能性もあったらしい。
そんなちゅうぶらりんの状況の中で、世間的には『宇宙飛行士、の候補の、そのまた補欠』というレッテルを貼られ、金井さんは海自の医師という元の仕事に一旦戻った。これが僕なら仕事には手が付かず、補欠の意味を問い続け、正式採用されなかった理由を考え続け、自分の力が及ばない、どうにもならない問題だとわかっていても、どうにかしようとしてJAXAにこちらから電話で問い合わせしていたかもしれない。「…あの、補欠の者ですか、いつまで補欠なんでしょうか?」と。
一方、金井さんの場合、当時の話を聞けば意外なほどサバサバしていたらしい。もちろん少なからずモヤモヤ感はもっていたというが、過去はいいも悪いも、いい思い出にして、『今この目の前に集中』しようとしていたという。ん〜、武道家っぽい。
これもまた金井さんがご自身のツイッターに、印象的な言葉を載せている。
「未来は無限の可能性。 これまでの過去は変えられなくても、この先の行動次第で過去の意味は変えられるような気がします」
あのちゅうぶらりんの半年間、金井さんの胸にはきっとこの言葉があったに違いない。それは悔しい想いをしたASCANの頃も、宇宙飛行が決まるまでの地道な訓練の頃も、そして宇宙にいる今も…。
金井さんとお会いして、あのときああすれば良かった、こうすれば今はこうなっていたかも、などと日々後悔ばかりで今に集中できない自分が、「小っちゃい!!」と思った。自分で自分に溜息でそうだった。「…あっ、でもだからこそ目の前を見なきゃ」とハッとして、取材を終えて部屋を出ていく金井さんの背中を見送った。
【宇宙兄弟リアル】が書籍になりました!
『宇宙兄弟』に登場する個性溢れるキャラクターたちのモデルともなったリアル(実在)な人々を、『JAXA』の中で探し出し、リアルな話を聞いているこの連載が書籍化!大幅加筆で、よりリアルな宇宙開発の最前線の現場の空気感をお届けいたします。
〈宇宙兄弟リアル〉金井宣茂/宇宙飛行士 〜宇宙飛行前夜 それは最初の一歩〜(前半)はこちら!
『宇宙兄弟リアル』次回登場のリアルは!?
宇宙飛行士マネージャー・中山美佳、のリアル!
次回登場する『宇宙兄弟リアル』は、宇宙飛行士マネージャーの中山美佳さんです!宇宙飛行士のスケジュール管理や出張時の航空券手配、家族のサポートに至るまで、宇宙飛行士の縁の下の力持ちとして活躍。そんな中山さんは武蔵野音楽大学卒業という異色の経歴を持つ、自称『永遠の28歳』。まだお会いしてませんが、筆者の頭の中では、漫画に登場する小町ミチコ(初登場♯88〜)のイメージしか湧いてきません。
金井「ミッションロゴのデザインで私がリクエストしたことは、日の丸の赤白カラーです。そしたらリクエストに応えて頂いただけでなく、金井の『金』ということで金色もふんだんに使って下さり、また円相図という禅の教えをモチーフにもしてもらって、凄いこと考えたなと感動しました。それに加えて円相の先端には日本地図があるんですが、最初は種子島がなかったんですね。それでやっぱり種子島は外せないでしょとなって、種子島も入りました。私の名前の両横には将来の探査目標となる月と火星も描かれています。至れり尽くせりのカッコいいロゴです。私が軌道上にいるときには、ちょうど冬季オリンピックが開催されますので、私の名前の『金』とロゴの金色で、おそらくオリンピックに出場する選手にこのロゴをお守り代わりに持っていて頂ければ金メダルが取れる、とは言わないですけども、少しは取れる確率が上がるんじゃないかなと思ってます(笑)。或いは『金井(かない)』という名字ですので、夢や目標が『かない』ます、という語呂合わせで、受験なんかにも効果がある、かもと考えております」
<筆者紹介> 岡田茂(オカダ シゲル)
東京生まれ、神奈川育ち。東京農業大学卒業後、農業とは無関係のIT関連の業界新聞社の記者・編集者を経て、現在も農業とは無関係の映像業界の仕事に従事。いつか何らかの形で農業に貢献したいと願っている。宇宙開発に関連した仕事では、児童書「宇宙がきみをまっている 若田光一」(汐文社)、インタビュー写真集「宇宙飛行 〜行ってみてわかってこと、伝えたいこと〜 若田光一」(日本実業出版社)、図鑑「大解明!!宇宙飛行士」全3巻(汐文社)、ビジネス書「一瞬で判断する力 若田光一」(日本実業出版社)、TV番組「情熱大陸 宇宙飛行士・若田光一」(MBS)、TV番組「宇宙世紀の日本人」(ヒストリーチャンネル)、TV番組「月面着陸40周年スペシャル〜アポロ計画、偉大なる1歩〜」(ヒストリーチャンネル)等がある。
<連載ロゴ制作> 栗原智幸
デザイナー兼野菜農家。千葉で野菜を作りながら、Tシャツ、Webバナー広告、各種ロゴ、コンサート・演劇等の公演チラシのデザイン、また映像制作に従事している。『宇宙兄弟』の愛読者。好きなキャラは宇宙飛行士を舞台役者に例えた紫三世。自身も劇団(タッタタ探検組合)に所属する役者の顔も持っている。